26 / 33
第26話 詳らかになる過ち
しおりを挟む
第2側近から上がる日常的な報告は、通常なら書記官によって処理をされる。イヴァシグスに7名の妃の様子が伝わるのは、そこで選り分けられた特別な報告か、イヴァシグス自体に第2側近が直接、伺いを立てにきた時ぐらいだった。
だからイヴァシグスが多忙であった期間の事を、その役割の臣下へ確認した事は、いたって普通の事だった。
「ディファラート様から最終的な報告は上がってきていないようですが、途中までの報告からすれば、すでに埋葬まで済んでいるはずでございます」
「は……?」
だが、そこで聞こえた言葉が信じられずに、イヴァシグスは目を見開いた。
「申し訳ございません! 国に残っていた者が、報告を受けていたかもしれません。すぐに確認致します」
驚愕に満ちた表情を、目の前の臣下が、どういった意味で捉えたのかは分からない。しかし、慌ててそう言った様子から、報告が無かった事への怒りと捉えている事が見て取れた。
「そうではない。あの娘は私へ嫁いだ妃だ。その妃を埋葬とはどういう事だ!?」
「それは……」
「今すぐディファラートという男を呼べ!」
かつて戦場で聞いていた、地を這うような、イヴァシグスの怒声が部屋の中に響き渡る。ついさっきまで、ガラス越しに見える空のように、ようやく得た平穏そのものだった室内の空気は、もうどこにもその気配は残っていなかった。
「かしこまりました」
頭を下げた第1側近であるリバァングスが、慌ただしく扉を開けて、外にいた者を呼びつける。今すぐ本人を探し出し、ここへ来るように指示をする声が聞こえていた。
ここから一気にイヴァシグスの命令が広がり、大した時間が経たない内に、聞きつけたディファラートが駆け込んでくるだろう。
イヴァシグスは力による統治を望まない。でもそれは、力によって排除される事がない、という事とイコールではない。寛容な王であるからといって、甘い王ではないのだ。
誰よりもそんな王を知っている第1側近の者達は、怒りを露わにしたイヴァシグスの前で、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。ディファラートが表れるのを待ち続ける面々は、誰1人として口を開かず、部屋はおかしな程に静まっている。
「なぜ、このような状況になった。途中まで報告を受けていたのならば、おかしいとは思わなかったのか!?」
報告を受けた段階で、なぜ自分へ伝えて来なかったのだ、と怒りを向けるイヴァシグスに、その書記官は顔をますます青くする。
「イ、イヴァシグス様より……捨て置くように、指示があったと……」
「ディファラートがそう言ったのか?」
「はい……」
「どういう事だ? 私はそんな指示などしていない」
行き過ぎた怒りなのか、焦りなのか。イヴァシグスの胃の辺りが、ヒヤリと冷えていく。それに伴い、声は怒声というよりは、静かで、ただひどく冷たい音になっていた。
「…………」
「いつの話だ?」
「第7妃との婚儀の翌日の事です」
1年程前の記憶を呼び起こす。
確かに、突如迎えた人間の妃の為に、第2側近に取り立てられたその男と直接会話をしたのは、あの時だけだった。その時の会話など、ほとんどイヴァシグスは覚えていなかった。
だが、後朝にあたるリュシェラをどうするか、と聞かれて、そのまま休ませておけ、と言ったような覚えはあった。
─── なぜ、その言葉だけで、捨て置く事となる!!
イヴァシグスはいまだに理解が追いつかない。それでも、ここで得られた情報だけでも、あの日から、あの幼かった妃は見放され、誰の庇護も得る事ができなかった事だけは、ハッキリと分かった。
だからイヴァシグスが多忙であった期間の事を、その役割の臣下へ確認した事は、いたって普通の事だった。
「ディファラート様から最終的な報告は上がってきていないようですが、途中までの報告からすれば、すでに埋葬まで済んでいるはずでございます」
「は……?」
だが、そこで聞こえた言葉が信じられずに、イヴァシグスは目を見開いた。
「申し訳ございません! 国に残っていた者が、報告を受けていたかもしれません。すぐに確認致します」
驚愕に満ちた表情を、目の前の臣下が、どういった意味で捉えたのかは分からない。しかし、慌ててそう言った様子から、報告が無かった事への怒りと捉えている事が見て取れた。
「そうではない。あの娘は私へ嫁いだ妃だ。その妃を埋葬とはどういう事だ!?」
「それは……」
「今すぐディファラートという男を呼べ!」
かつて戦場で聞いていた、地を這うような、イヴァシグスの怒声が部屋の中に響き渡る。ついさっきまで、ガラス越しに見える空のように、ようやく得た平穏そのものだった室内の空気は、もうどこにもその気配は残っていなかった。
「かしこまりました」
頭を下げた第1側近であるリバァングスが、慌ただしく扉を開けて、外にいた者を呼びつける。今すぐ本人を探し出し、ここへ来るように指示をする声が聞こえていた。
ここから一気にイヴァシグスの命令が広がり、大した時間が経たない内に、聞きつけたディファラートが駆け込んでくるだろう。
イヴァシグスは力による統治を望まない。でもそれは、力によって排除される事がない、という事とイコールではない。寛容な王であるからといって、甘い王ではないのだ。
誰よりもそんな王を知っている第1側近の者達は、怒りを露わにしたイヴァシグスの前で、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。ディファラートが表れるのを待ち続ける面々は、誰1人として口を開かず、部屋はおかしな程に静まっている。
「なぜ、このような状況になった。途中まで報告を受けていたのならば、おかしいとは思わなかったのか!?」
報告を受けた段階で、なぜ自分へ伝えて来なかったのだ、と怒りを向けるイヴァシグスに、その書記官は顔をますます青くする。
「イ、イヴァシグス様より……捨て置くように、指示があったと……」
「ディファラートがそう言ったのか?」
「はい……」
「どういう事だ? 私はそんな指示などしていない」
行き過ぎた怒りなのか、焦りなのか。イヴァシグスの胃の辺りが、ヒヤリと冷えていく。それに伴い、声は怒声というよりは、静かで、ただひどく冷たい音になっていた。
「…………」
「いつの話だ?」
「第7妃との婚儀の翌日の事です」
1年程前の記憶を呼び起こす。
確かに、突如迎えた人間の妃の為に、第2側近に取り立てられたその男と直接会話をしたのは、あの時だけだった。その時の会話など、ほとんどイヴァシグスは覚えていなかった。
だが、後朝にあたるリュシェラをどうするか、と聞かれて、そのまま休ませておけ、と言ったような覚えはあった。
─── なぜ、その言葉だけで、捨て置く事となる!!
イヴァシグスはいまだに理解が追いつかない。それでも、ここで得られた情報だけでも、あの日から、あの幼かった妃は見放され、誰の庇護も得る事ができなかった事だけは、ハッキリと分かった。
103
あなたにおすすめの小説
【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。
西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。
それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。
大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。
だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。
・・・なのに。
貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。
貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって?
愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。
そう、申し上げたら貴方様は―――
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる