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第26話 詳らかになる過ち
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第2側近から上がる日常的な報告は、通常なら書記官によって処理をされる。イヴァシグスに7名の妃の様子が伝わるのは、そこで選り分けられた特別な報告か、イヴァシグス自体に第2側近が直接、伺いを立てにきた時ぐらいだった。
だからイヴァシグスが多忙であった期間の事を、その役割の臣下へ確認した事は、いたって普通の事だった。
「ディファラート様から最終的な報告は上がってきていないようですが、途中までの報告からすれば、すでに埋葬まで済んでいるはずでございます」
「は……?」
だが、そこで聞こえた言葉が信じられずに、イヴァシグスは目を見開いた。
「申し訳ございません! 国に残っていた者が、報告を受けていたかもしれません。すぐに確認致します」
驚愕に満ちた表情を、目の前の臣下が、どういった意味で捉えたのかは分からない。しかし、慌ててそう言った様子から、報告が無かった事への怒りと捉えている事が見て取れた。
「そうではない。あの娘は私へ嫁いだ妃だ。その妃を埋葬とはどういう事だ!?」
「それは……」
「今すぐディファラートという男を呼べ!」
かつて戦場で聞いていた、地を這うような、イヴァシグスの怒声が部屋の中に響き渡る。ついさっきまで、ガラス越しに見える空のように、ようやく得た平穏そのものだった室内の空気は、もうどこにもその気配は残っていなかった。
「かしこまりました」
頭を下げた第1側近であるリバァングスが、慌ただしく扉を開けて、外にいた者を呼びつける。今すぐ本人を探し出し、ここへ来るように指示をする声が聞こえていた。
ここから一気にイヴァシグスの命令が広がり、大した時間が経たない内に、聞きつけたディファラートが駆け込んでくるだろう。
イヴァシグスは力による統治を望まない。でもそれは、力によって排除される事がない、という事とイコールではない。寛容な王であるからといって、甘い王ではないのだ。
誰よりもそんな王を知っている第1側近の者達は、怒りを露わにしたイヴァシグスの前で、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。ディファラートが表れるのを待ち続ける面々は、誰1人として口を開かず、部屋はおかしな程に静まっている。
「なぜ、このような状況になった。途中まで報告を受けていたのならば、おかしいとは思わなかったのか!?」
報告を受けた段階で、なぜ自分へ伝えて来なかったのだ、と怒りを向けるイヴァシグスに、その書記官は顔をますます青くする。
「イ、イヴァシグス様より……捨て置くように、指示があったと……」
「ディファラートがそう言ったのか?」
「はい……」
「どういう事だ? 私はそんな指示などしていない」
行き過ぎた怒りなのか、焦りなのか。イヴァシグスの胃の辺りが、ヒヤリと冷えていく。それに伴い、声は怒声というよりは、静かで、ただひどく冷たい音になっていた。
「…………」
「いつの話だ?」
「第7妃との婚儀の翌日の事です」
1年程前の記憶を呼び起こす。
確かに、突如迎えた人間の妃の為に、第2側近に取り立てられたその男と直接会話をしたのは、あの時だけだった。その時の会話など、ほとんどイヴァシグスは覚えていなかった。
だが、後朝にあたるリュシェラをどうするか、と聞かれて、そのまま休ませておけ、と言ったような覚えはあった。
─── なぜ、その言葉だけで、捨て置く事となる!!
イヴァシグスはいまだに理解が追いつかない。それでも、ここで得られた情報だけでも、あの日から、あの幼かった妃は見放され、誰の庇護も得る事ができなかった事だけは、ハッキリと分かった。
だからイヴァシグスが多忙であった期間の事を、その役割の臣下へ確認した事は、いたって普通の事だった。
「ディファラート様から最終的な報告は上がってきていないようですが、途中までの報告からすれば、すでに埋葬まで済んでいるはずでございます」
「は……?」
だが、そこで聞こえた言葉が信じられずに、イヴァシグスは目を見開いた。
「申し訳ございません! 国に残っていた者が、報告を受けていたかもしれません。すぐに確認致します」
驚愕に満ちた表情を、目の前の臣下が、どういった意味で捉えたのかは分からない。しかし、慌ててそう言った様子から、報告が無かった事への怒りと捉えている事が見て取れた。
「そうではない。あの娘は私へ嫁いだ妃だ。その妃を埋葬とはどういう事だ!?」
「それは……」
「今すぐディファラートという男を呼べ!」
かつて戦場で聞いていた、地を這うような、イヴァシグスの怒声が部屋の中に響き渡る。ついさっきまで、ガラス越しに見える空のように、ようやく得た平穏そのものだった室内の空気は、もうどこにもその気配は残っていなかった。
「かしこまりました」
頭を下げた第1側近であるリバァングスが、慌ただしく扉を開けて、外にいた者を呼びつける。今すぐ本人を探し出し、ここへ来るように指示をする声が聞こえていた。
ここから一気にイヴァシグスの命令が広がり、大した時間が経たない内に、聞きつけたディファラートが駆け込んでくるだろう。
イヴァシグスは力による統治を望まない。でもそれは、力によって排除される事がない、という事とイコールではない。寛容な王であるからといって、甘い王ではないのだ。
誰よりもそんな王を知っている第1側近の者達は、怒りを露わにしたイヴァシグスの前で、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。ディファラートが表れるのを待ち続ける面々は、誰1人として口を開かず、部屋はおかしな程に静まっている。
「なぜ、このような状況になった。途中まで報告を受けていたのならば、おかしいとは思わなかったのか!?」
報告を受けた段階で、なぜ自分へ伝えて来なかったのだ、と怒りを向けるイヴァシグスに、その書記官は顔をますます青くする。
「イ、イヴァシグス様より……捨て置くように、指示があったと……」
「ディファラートがそう言ったのか?」
「はい……」
「どういう事だ? 私はそんな指示などしていない」
行き過ぎた怒りなのか、焦りなのか。イヴァシグスの胃の辺りが、ヒヤリと冷えていく。それに伴い、声は怒声というよりは、静かで、ただひどく冷たい音になっていた。
「…………」
「いつの話だ?」
「第7妃との婚儀の翌日の事です」
1年程前の記憶を呼び起こす。
確かに、突如迎えた人間の妃の為に、第2側近に取り立てられたその男と直接会話をしたのは、あの時だけだった。その時の会話など、ほとんどイヴァシグスは覚えていなかった。
だが、後朝にあたるリュシェラをどうするか、と聞かれて、そのまま休ませておけ、と言ったような覚えはあった。
─── なぜ、その言葉だけで、捨て置く事となる!!
イヴァシグスはいまだに理解が追いつかない。それでも、ここで得られた情報だけでも、あの日から、あの幼かった妃は見放され、誰の庇護も得る事ができなかった事だけは、ハッキリと分かった。
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