SURVIVE‼︎ 〜その攻撃は自衛できません〜

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(番外編)幸せな朝

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後編の翌朝です。

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 胸にかすかな衝撃を感じて目が覚めた。ん?

 もうすぐ夜が明けるくらいの薄暗い部屋で、自分の腕の中に収まった恋人に嬉しくなる。頭を撫でようかと手を動かそうとした瞬間、リュウジくんが顔を上げて俺の方を見た。その瞳に涙が浮かんでいることにドキりとする。だから、「トイレ」と唇が動いたのを、一瞬理解できなかった。

「と、といれ、行きたくて……でも、その、動けなくて……」

俺は勢いよく立ち上がると、リュウジくんを横抱きにしてトイレへと向かった。そっと下ろして、外に出て扉を閉める。声枯れてたな、それに、そうだよな……。申し訳なさに恐縮する。ドアがノックされる。扉を開けてこちらに両手を伸ばすリュウジくんにときめきつつ、また横抱きにしてベッドへ戻る。移動中、俺の首筋に顔を埋め、鎖骨をはむはむと甘噛みしてくるリュウジくんに内心「ん゛っ!」となりつつ、されるがままにしておく。


 リュウジくんを抱いたままベッドに腰掛ける。寝かせようとしたら首筋に抱きついたまま離れてくれなかったからだ。

「えっと……その、申し訳ない!」

言うタイミングがわからなくなって、とりあえず謝罪する。リュウジくんはキョトンとしている。

「何がです?」

ひどく掠れたその声を聞いて、慌てて枕元に置いてあった水を手渡す。リュウジくんは大人しく受け取ってごくごくと飲み干すと、もう一度口を開いた。

「なんで謝るんですか?」
「だっ、て……その、動けなく、なるくらい……その、シちゃって……」
「オレ、ちゃんと言いましたよね?『オレでもっと気持ちよくなってください』って」

しどろもどろに、明後日の方向を見ながら言っていると、リュウジくんの口からとんでもない殺し文句が出てきた。ばっとリュウジくんの方を見ると、そっぽ向いている。耳が赤い。つまり?

「えっと……その、嫌じゃ、なかった、って、こと?」
「……す。」

小声すぎて聞き取れなかったけど、「そうです」って言ったよね!!

「ヤマトさん……オレ、変、なんですかね?」
「な、なにが?」
「……自分のカラダ好き勝手されて、苦しかったしつらかったし、今も身動き取れないくらい痛くてダルいんですけど……あの時も今も幸せなんですよね……」
「ぐぅっ!」

俺の胸元に頭を擦り付けながら言われる言葉に、思わず喉の奥からうめき声が漏れた。なにこれ、ガス訓練よりつらい。

「ヤマトさん、大丈夫です?」
「う、うん。俺も幸せだよ。ほんっ、とに。」
「?そうですか?それなら嬉しいです。……っ、くしゅ!」

ふわっと笑ったあと、リュウジくんは小さくくしゃみをした。あ、ちょっと照れてる。かわいい。でも確かに浴衣一枚じゃ、朝は少し冷える。

「そうだ、昨日はゆっくり入れなかったし、温泉、入ろうか。」
「いいですね。まぁ、ゆっくり入れなかったのはヤマトさんのせいですけどね。」
「っ!あ、れはリュウジくんが煽ってくるから……」

にこにこ笑うリュウジくんに、どこまで言っていいものかと頭を悩ませる。いや、待てよ。そう言えば――。風呂へ移動しながら意地悪く聞いてみる。

「ところでリュウジくん、昨日温泉につかる前に『準備したから』って言ってたよね?もしかして……期待、してた?」
「しちゃ、だめですか?そんなこと考えてたのかってあきれます?」
「いや!そんなことはないよ!アレはヤバかった。思わず理性がね……」
「オレ、自覚なかったんですけど……結構、その、性欲強いみたいで。だから……まぁ。」
あぁ、もう、目眩がしそうだ。


 脱衣所で浴衣を脱ぐ。朝の日差しに照らされたリュウジくんの肌はやっぱり真っ白で、そこに黒いタトゥーが映える。

「きれいだね。」
「え?」
「いや、肌が白くて、あとこのタトゥー?これ朝顔だよね?こんなのもあるんだね。」
「そうですね。これ入れてからは服、脱げなくなって全然焼けないんですよ。」
「なるほどね。」

湯に浸かりながら、リュウジくんはぽつぽつと話をした。

「朝顔は……刺青があったら大人の男?男臭くなれるんじゃないかって、何も考えずに彫りに行ったんですけど……まじで何も考えてなくて、ってどうかしました?」
「いや……何というか、意外?」
リュウジくんってもしかして、実はおばかさんなのか?
「意外?なにが?」
「いや、なんでもないよ、で、なんで朝顔なの?」
「んー、で、彫り師にどんな図案にします?って言われて、なんかこう、抽象的な模様っていうんですかね? それはなんかこうそういう部族みたいになるんじゃなかなって思って。あと、竜とか鯉とか鳥とかはなんか違うなーって、そしたら、植物とかは?って言われて、あ、じゃあそれで。って。」
「な、なるほど。でも植物っていってもいろいろあるでしょ?なんで朝顔?」
「んー、小学生の時、朝顔育てて観察しませんでした?」
「ん?あぁ!したね!夏休みの宿題で観察日記つけたよ。」
「なんか、あの時は楽しかったなーって。花に関する思い出なんてそれくらいしかないし、花の名前も知らないし、これでいっか。って思って。」
「確かに言われて見れば、花の名前なんて覚えてないや。バラとかヒマワリくらいかな。」
「オレもそうです。」

湯船でグゥーっと背伸びをしたリュウジくんは、続けて言う。

「でも知ってました?朝顔の花言葉には『私はあなたに絡みつく』って意味があるんですよ?」
「え。」
「タトゥー入れた後に気になって調べたんですよね。花言葉とか考えたことも無かったし、微妙なやつ入れちゃったかなって思ってたんですけど、意外とオレに合ってたのかもって思います。」

俺にもたれてくるリュウジくんは、なんだかスッキリした顔をしている。

「それは――」
「あ、もちろん絡む相手はヤマトさんですから。覚悟してくださいね?」

その言葉に、俺は思わず、
「一緒に暮らさない?」
と言っていた。

「え?」
「あ、えっと……その、結婚とか、まぁ、パートナーシップとかでもそうなんだけどさ、ある程度の年齢になったら寮を出ていいんだよね!で、その、」
「いいの?」
「ん?」
「だってヤマトさんオレのこと、よく知らないでしょ?」
「うぐ…」
「オレは、ヤマトさんのこと結構知ってるけど、いや、知らないこともたぶん多いけど、ヤマトさんがたとえ関白宣言とかしてきても許すし、」
「え?」
「ヤマトさんがボケて粗相するようになっても介護する気だけど、」
「ん?」
「ヤマトさんは、もっとちゃんとした家のお嬢さんじゃなくていいの?」

なぜ、そう言うことをいうのだろうか?なぜ、この子はいつも俺の心をこんなに乱すのだろうか?思わず怒鳴りつけそうになった心を鎮める。ただ、俺の体が強張ったことは伝わったのだろう。

「オレよく、黙ってればカッコいいとか、きれいとか言われるんですよ。だから、あんまり喋らないようにしてるんです。でも、ヤマトさんと話すのは楽しくて、余計なことまでいっちゃうんですけど、さっきのは本当ですよ?オレはヤマトさんを看取るところまでちゃんと考えました。オレ、親にも職場にもカミングアウトしてるんです。でも、ヤマトさんは?」


***


 「――ヤマトさんはちゃんとした家のお嬢さんじゃなくていいの?」

という言葉は、オレの中にずっとあった。ヤマトさんは普通の異性愛者だと思うから、これは一時の気の迷いかもしれない。

黙っていたヤマトさんが、ふぅ~と長く息を吐いた。

「リュウジくんこそ、本当に想像できてる?俺は自衛官だよ?この国は非戦ではないし、海外に派遣されることもある。災害の時だって、自宅ではなく被災地へ行くことになる。どこか遠くで銃に撃たれて死ぬことだってあるかもしれない。それに、君は俺を、なんの覚悟もなくこう言うことをする男だと思ってるのか?」

その最後の言葉が、じわりと胸に染みていく。そうだ。オレの知ってるヤマトさんは、初体験をわざわざこんな場所でしたがる人だ。オレの話だって嫌な顔ひとつせず聞いてくれる人だ。オレ、何言ってたんだろう。

「で、も……オレ、ヤマトさんのシモの世話、したいです……。」
「泣きながらそんなこと言われると、何だかなぁ……。あぁほら、泣き止んで?」

向かい合ってキスをする。唇同士の、深くないキス。こんなに幸せでいいのかな、と不安になるくらい、幸せなキス。


◇◇◇


「――あの、ところでオレの尻、ちゃんと閉じてますよね?」
「へっ!?」
「なんかずっと違和感あって……触った感じもなんか、ちょっと、違うような……」
「だ、大丈夫!ちょっとふっくらしてるけど、閉じてるよ!」
「……なんで見てないのにわかるんですか?」
「う゛ぇ!?あ、あはは――」

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