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35 アリンの決意

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フェアンが殴ったマイトの傷は全治2週間だったけど、アリンも縛られたり切られて怪我をした事もありフェアンはお咎めはなしだった。それでもフェアンは殴ってしまった事を後悔して謝罪したいと申し入れたけどマイトの家族から『謝らないでください』と断られてしまった。
逆にアリンの心や体を傷つけた事に胸を痛めて警察に連絡してくださいと言われたけど彼の気持ちを考えると一方的に加害者とは思えなくて何も罪には問えなかった。その代わりに村長にお願いして、暫くマイトは村長の監視の下で働いてもらうことになった。



「アリン、本当に良かったのか…?」

しばらく仕事を休むことになったアリンと共にリビングのソファで寛ぐ中、フェアンが尋ねた。

「うん、友達だって言われてすぐ信用しちゃった僕の責任もあるし…」

「そうだな。アリンはもっと人を警戒した方がいい。……ところで…マイトと何しに行ったんだ?俺には言えないことか?」

するとアリンは目を見開き猫耳をピンッと立て、ちょっと待ってて!とカバンをガサゴソしだした。
そして「良かった、捨てられてなくて」とカバンから出してきたのは茶色の紙袋だった。

「これ、フェアンにプレゼントしたくて…」

紙袋を開けると綺麗なネイビーの髪紐がラッピングされていた。

「アリンこれ…」

「僕とお揃いだよ?僕のはストライプの色がフェアンの髪と瞳の色。フェアンの方のストライプの色は僕の髪と瞳の色にしたんだ!」

フェアンの好きな蕩けるような笑顔で答えるアリン。

「ずっとそばにいるよって気持ちを込めて。」


そうか、アリンはこれを俺に贈りたくて…。

ネイビーの髪紐を見つめ、壊れないようにぎゅっと握りしめた。

「アリン…アリン、俺も君とずっと一緒にいたい。ずっとそばにいたい。」


ーー俺は君に隠し事をしているのに…本当にごめん。

アリンの気持ちが嬉しい。だからこそ嘘をつき続けている自分が苦しい。

ーーそろそろ本当のことを切り出した方がいいんだろうな。アリンならわかってくれるだろうか?

「フェアン…?どうしたの?」

髪紐を握りしめたまま動かない俺を心配して覗き込むアリン。

「いや、大丈夫。髪紐、ありがとう。本当に嬉しい…とても素敵なプレゼントだ。…今つけてくれないか?」

「もちろん!」

目を輝かせながら一番最初にしてくれたように俺の後ろに周りその白く細い指が俺の髪を梳かす。柔らかい感触とアリンが喋るたびに耳元にかかる吐息に身を委ねる。

「はい、出来た!」
アリンは髪紐をキュッと締めるとそのまま俺の背中にピッタリ寄り添った。

「ねぇフェアン。マイトの言ってたことなんだけど……僕もマイトのこと言えないんだ。……僕のお父さんとお母さんは人間にも良い人いるって言ってたけど…だけど、人間のせいで死んじゃって、その人を責める事も出来なくてっ…!」

「アリン……」

「正直、人間は憎い、怖いって思ってた…。でも…でもね、フェアンに出会って、この人ならって思えて…フェアンの優しさに助けられて…もう大丈夫。僕もお父さんとお母さんの気持ちと一緒だって思えるんだ。」

背中がしっとりと濡れた感覚がしてアリンが泣いているのに気付いた。
振り返るとアリンはポロポロと零れる涙を見せないようにと俺の胸へとしがみついた。

「アリン、顔を見せて?」

「恥ずかしいから…このまま聞いて…?あのね、来週お父さんとお母さんの命日なんだ。それでね、お墓はノスティアにあるけど…事故があった場所にはまだ行けてないんだ。」

「事故があった場所…デリアか…。」

「うん…だから……フェアン一緒に来て欲しい。フェアンとならもう行けると思うんだ!」

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