虚空の神術師

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第一章:神術学園

第六話:姫神天鞠

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「あ"~~~長かったなぁ~」


 凝り固まった首をパキポキと鳴らしながら、この俺〝天城空洞〟は校舎内の長い廊下を一人歩いていた。

 本日この学園に入学したわけだが、入学式……いや、〝新入生歓迎式〟というのは、どの学校でも長くなるものらしい。

 何故この学園では〝入学式〟ではなく〝新入生歓迎式〟と呼称しているのか?

 それはこの学園ならではの特性と言っても良いだろう。

 神威所有者を育成するために作られたこの国立菊花神術学園は初等部から入った奴はエスカレーター式に大学院まで進学することが出来る。

 それ故に〝新入生歓迎式〟への出席に該当するのはその初等部への入学者なのだ。

 しかし中には俺のように途中まで一般の学校に通っていた奴らも入学するので、そういった奴らも出席者に含まれるのだ。

 こういう時に初等部から入っとけば良かったと思うが……まぁ、今更の話だろう。

 それよりも学園長挨拶の時は実に清々しいものだった。

 なにせ学園長の挨拶は非常に短いものだったからである。


 ──新入生諸君、入学おめでとう!この学園で頑張って学ぶと良い。以上!──


 それが学園長からの挨拶であった。

 他の学校の校長にも見習って欲しいくらいの短さである。

 しかし、その短い文書ながらも心から俺達を歓迎し、そして激励を贈ろうとする気持ちが受け取れたので実に良い挨拶だった。

 その際に教師の一人が〝もう少し何か……〟と更に言葉を続けるよう促そうとした時に〝何か文句でもあるのか?〟とひと睨みしたのは爽快だった。

 見た目は俺よりも年下だが、纏うオーラは年長者そのもの……あの学園長が学園長で本当に良かったなと素直に思う。

 しかし俺以外の奴らはAからEクラスのそれぞれに向かって行ってしまい、残されたのは俺だけ……つまり一般校からの入学者でSクラス入りをしたのは俺だけということになる。

 実に寂しい。

 いや、Sクラス入りを果たしたのは嬉しい事ではあるが、俺の同級生となる奴らは皆、初等部から進学してきた奴らばかりだろう。

 そうなるとやはり一人くらいは俺と同じく一般校からの入学者が欲しいものだ。

 そんな寂しさを感じながら歩いていると、ようやく〝1ーS〟と書かれた表札が見えてきた。

 本当に随分と歩かされたものだ。

 何故にSクラスだけ他のクラスの教室よりも離れているのか疑問に思いながらもドアを開けると、中は俺がよく知る教室というより、大学の講義室と言っても過言ではあり無いような造りになっていた。


(広いなぁ)


 斯くもこの学園の教室はなんというか流石という他ならない。

 しかし中にいたのはたったの数人で、ただでさえ広い教室が更に広く感じた。


(ひぃ、ふぅ、みぃ……俺を含めて全員で10人か)


 教室内にいた奴らを目で追いながら数えてみれば、このクラスの生徒は俺を含めて10人だけであった。

 ちなみに教室内は30人くらいは入れるのではないかというくらいに広い。

 黒板には〝席は自由〟とだけ書かれており、察するに席順などは決められていないのだろう。

 なので俺は後ろの席にでも座ろうと思い、特に窓際の席へと座ることにした。

 中学でも窓際の席だった。

 なんか知らんが席替えの度に必ず窓際の席になっていたのだ。

 本気でクラス全体、担任ぐるみで何か仕組んだのではと本気で思ったくらいだ。

 お陰で窓際の席ではないと落ち着かないようになってしまったのはここだけの話である。

 なのでここでも俺は窓際の席に着いたのだ。


「あ、あの……と、隣、良い、かな?」

「え?あぁ、どうぞ────って……あれ?」


 不意に〝隣に座って良いか〟と聞かれたので快く受け入れる。

 その際にそちらへと顔を向けたのだが、そこにいたのは今朝俺が助けたあの女子生徒だった。

 その女子生徒はとにかく長い白銀の髪が特徴で、左目を覆うように前髪を片側だけ長くしている。

 それと何故か言葉が詰まるような話し方をしており、他の奴なら聞き取れないだろう。

 しかし俺は別に気にしてないので、あえてそれを指摘しようとはしなかった。

 そしてその女子生徒が俺の隣へと座ったので、俺はその女子生徒に話しかけた。


「今朝、階段から転落した奴だよな?怪我とかはしなかったか?」

「え?あ……う、うん……大丈夫、だった、よ」

「そうか、それなら良かった」

「あ、ありが、とぅ……」


 恥ずかしがり屋なのか、それとも人と話をする事が苦手なのか分からないが、女子生徒はお礼を言うとそのまま俯いて何も言わなくなってしまった。

 まぁ人間は三者三葉、十人十色と言うし、お礼を聞けただけでも良しとするか。

 そう思って俺は顔を前へと向けるが、そのタイミングで女子生徒から呼び止められる。


「あ、あの……」

「ん?どうした?」

「も、もしか、して……私を、助けて、くれた、人?」

「〝はい〟か〝YES〟で言ったら……YESだな」

「それ……どっちも、一緒、だよ、ぅ」


 俺の回答に困ったように笑みを浮かべる女子生徒。

 〝困ったように〟と付くが、その笑顔は実に可愛らしいものであった。

 左側を隠しているのが実に勿体無い。


「しかしよく分かったな?誰かから聞いたのか?」

「あ、の……学園長、先生、に……」

「あ~、なるほど……」

「だ、から、その時、の、お礼も、した、くて」

「別に良いって。礼を言われる程の事ではねぇからよ」

「で、も……助けて、くれ、た、お陰、で、怪我、しなかった、から」

「まぁ確かにそうだな。それじゃあ、その礼はありがたく受け取っておくよ」


 俺はそう言うと女子生徒にそっと手を差し伸べた。


「俺は天城空洞……〝空洞くうどう〟と書いて〝空洞うつろ〟って読むんだ。これから宜しくな」

「あ……〝姫神ひめがみ〟、〝天鞠てまり〟、です。よろしく、ね?」

「おう、よろしく」


 女子生徒……〝姫神天鞠〟はそう名乗って俺と握手を交わした。

 するとその時、どこからかこんな声が聞こえてきた。


「あ~、嫌ですわぁ……せっかく優れた者達が集まるSクラスなのに、庶民と疫病神の酷い臭いがしますわぁ」


 その声を聞いてビクリと肩を震わせる天鞠。

 俺は声が聞こえてきた方へと顔を向けると、そこにはいかにも〝お嬢様〟といったような出で立ちの女子生徒がこちらを見て心底嫌そうな表情を浮かべていた。


「本当ですね〝操々璃くぐり〟様」


 その隣では従者のように控えるもう一人の女子生徒が〝操々璃〟という名の女子生徒の言葉に同意するような言動をしている。

 少々癪に障ったが、ここで直ぐにカッとなるのはあまり宜しくない。

 しかし関係無いとばかりに操々璃はこちらへと近付いてくると、学園長のように扇子で口元を隠しながら俺達を見下ろしてきた。


「姫神家の疫病神というだけでも忌々しいのに、更には余所者の庶民までSクラスにいるなんて……試験官は耄碌していたのかしら?」

「どうせ不正でも行ったのでしょう。でも直ぐに居なくなるでしょうから安心しても宜しいかと」

「流石は〝水望みなも〟……良いことを言いますわね」

「操々璃様の従者ですから」


 口々にそう言ってはニヤニヤと笑みを向けてくる操々璃と〝水望〟の二人。

 俺の隣では天鞠が俯いたままカタカタと震えていた。


「まぁ、別に何で良いが、一つだけ言っても良いか?」

「貴様!操々璃様に無礼な……!」

「良いんですのよ水望。それで……言いたい事とはなんですの?」


 詰め寄ろうとした水望を制止し、操々璃は嫌そうな表情でそう問いかけてきた。

 なので俺は遠慮なく彼女にこう言ってやったのだった。


「お前、〝臭う〟ぞ?」

「は?」


 俺の言葉に眉間に皺を寄せる操々璃……その手には力が入ったのか扇子が軋むような音が鳴る。

 そして隣にいた天鞠はギョッとした表情をこちらへ向けるのだった。


───────────────────
《次回予告》
   〝操々璃〟という名の女子生徒に絡まれた空洞は、彼女に対し驚きの一言を放った
    それにより操々璃とその従者である水望は憤り、空洞へと敵意を向けるのだった

次回、〝支配と流水〟
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