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第一章:神術学園
第七話:支配と流水
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「な……な……な……!」
俺の〝臭う〟という言葉に〝な〟しか言えなくなる操々璃……その隣では水望という女子が怒りに震えていた。
「貴様ァ!言うに事欠いて操々璃様を〝臭う〟だと?!」
「いや、本当に臭うんだよ。香水か、これ?だとしても付けすぎじゃね?せっかくお洒落の為、体臭を消す為の香水だってのに、これじゃあ体臭の方がまだマシってレベルだぞ?」
隣では天鞠が俺の服を掴みしきりに首を横へと振っているが、流石にウ○コみたいな臭いがしてきたら誰だってキツいと思うんだが?
つーか、いったい何の香水なんだこれは?
「わ、私の香水が、た、体臭よりも、お、劣る、と?」
怒りからなのか天鞠のような口調になる操々璃。
周囲では笑いを堪えているのか肩を震わせる奴や、堪えきれずに吹き出す奴、そしてクスクスと小さく笑う奴もいた。
操々璃はそんな奴らを睨み付けたが流石はSクラスといったところか……誰もそれに臆することも無く、逆にそんな操々璃の姿が更に滑稽に見えたのか更に笑みを浮かべていた。
「これだから躾のなっていない庶民は嫌ですわ。まぁ庶民故に、この高貴な香りというのが分からないのでしょうけれど」
「なるほど、つまり高貴な奴らってのは皆、そんなウ○コみてぇな臭いなんだな────あ」
ついうっかり口を滑らしてしまった。
まぁ後悔も反省もしてはいないが、お陰で操々璃の表情が憤怒に染まってしまった。
しかし教室内は笑いが起こり、操々璃の怒りの表情に恥ずかしさが追加される。
「今なら私に土下座をすれば、その失礼な言動に関しては不問に致しますわよ?」
「先に失礼な事を言ってきたのはお前らだろ?お前らが先に天鞠に土下座したなら俺も土下座するわ」
「そう……なら、今すぐ立って、そしてそこで土下座をしなさい」
「はぁ?」
その瞬間、いきなり天鞠が立ち上がったかと思えば、少しズレてその場で操々璃に向かって土下座をし始めた。
「天鞠?いきなりどうしたんだ?」
そう訊ねても天鞠から返事はなく、彼女はただただ操々璃に土下座をしている。
しかし俺がその事に驚いているのと同時に、操々璃もまた俺を見ながら驚いていた。
「な、何故通じないんですの?」
「あん?あぁ、もしかしてそれがお前の神威か?」
操々璃の言葉に俺は直ぐに天鞠の行動が操々璃の神威によるものだと理解する。
「なるほど……精神操作系の神威所有者は初めて見たわ。随分とエグい能力じゃねぇか?」
「操々璃様の〝支配〟が効かないなんて……」
水望も驚いたのか思わずそんな言葉を零していた。
言っておくが初対面の奴の前で主の神威の情報を与えるのは致命的だぞ?
まぁ別に、どんな神威だろうと俺に対しては意味も無いが……。
俺は席から立つと、土下座をしている天鞠の背にそっと触れる。
すると彼女は我に返ったかのように顔を上げて、そして周囲を見ながら自身の状況を確認し始めた。
「あ、あれ……わ、私……?」
「お前は今、こいつの神威で操られてたんだよ」
「私の神威の能力を打ち消したですって?!あ、貴方はいったい……」
天鞠にかけられた神威の効果を無効化した事に驚く操々璃。
俺はそんな彼女に顔を向けながら自身の神威について説明してやった。
「そこの馬鹿がお前の神威を教えてくれたんで、お返しに俺も教えてやるよ。俺の神威は〝虚空〟……まぁ〝虚無〟とも言うが、その神威の能力の一つに〝無効化〟っつーのがあるんだよ。つまり相手の神威を無効化するって事だな」
「なんだと?!」
「そんな能力があるのか?」
「なら、私達神威所有者にとって天敵じゃない……」
「ま、待て……確かこの学園の入学試験の実技で大穴空けた奴がいるって聞いたことがあるぞ?」
「ま、まさかそれがアイツなのか?」
周囲からそんな声が聞こえてくる。
別に隠すつもりは無いが、こうして言葉にされると、どうにも気恥しいものがある。
操々璃は教室内のそんな声に俺を凝視しており、その隣にいた水望もまた〝信じられない〟といった表情を浮かべていた。
「まぁ、そうは言ってもこの手で触れなきゃ無効化出来ねぇんだけどよ」
「ならば、これなら無効化出来ないだろう!」
水望が不意にそう言ったかと思えば、彼女は何処からか取り出した数本のボールペンをクナイのように俺へと投擲する。
ちなみに全てキャップが外されており、また速度も速いことから受ければ刺さってしまうだろう。
まったく……そうなった場合、れっきとした〝傷害罪〟に該当するのだが……。
しかし俺は持ち前の動体視力と運動神経で全てのボールペンを難なくキャッチした。
だが、どうやらそれは囮だったようで、水望は手で拳銃の形を作りその指先を俺へと向けてこう言った。
「馬鹿め、こちらが本命だ!」
そう話す水望の指先には水の球が作られており、彼女はそれを勢いよく放った。
放たれた水球は途中で形を変え、まるで針のように鋭く尖る。
水望はそれを一発だけでなく何発も放ってきた。
「私の神威は〝流水〟!そしてこれはそれを用いた神術〝流水飛針連弾〟だ!流石の貴様と言えど暴雨のように襲い来るコレを防ぎ切るなど無理だろう!」
「なるほどね……なら、避けずに消しちまえば良いだろ?」
「は?」
俺のその言葉に驚く水望の前で俺は両手で水の針を次々と消していった。
まぁ、消す必要が無いと判断した水の針についてはそのまま通過して窓ガラスを割っていったがな。
幸いにも水望は俺の上半身を狙っていたため腕を振り回す事で回避出来たが、これが全身に向けてだったならば何処かへ隠れただろう。
しかしそれだけでも水望には衝撃的な光景だったようで、彼女は酷く表情を青ざめさせていた。
「ば、馬鹿な……」
「言ったろ?俺の神威は〝虚空〟だって。無効化なんてもんはオマケみてぇなもんで、本題は対象を〝消す〟能力なんだよ」
そうして俺は一歩踏み出した。
それにより水望は〝ひっ〟と小さな悲鳴を漏らし後ずさる。
だが俺はそのまま進まず、一瞬にして水望の背後に回ると片腕を取って後ろへと捻り上げた。
「────っ!」
「これで勝負あったな。言っておくが指一本でも動かせばその瞬間に外すぞ?あとこれは忠告だが、無理に外そうとすれば最悪折れるからな」
「くっ……!」
「水望、そこまでになさい」
なおも睨み付けてくる水望に操々璃がそう告げる。
水望は不服そうではあったが、主の命令だからという事で渋々抵抗を止めた。
それを確認した俺は手を離し彼女を解放する。
「はぁ……認めざるを得ませんわね」
「操々璃様……」
「私の支配も効かず、水望の流水までも打ち消しただけでなく一瞬で無力化……これでもまだ〝勝てる〟と勘違いする程、私は馬鹿ではありませんわ」
ようやく負けを認めた操々璃……そして彼女は天鞠へと身体を向けると、彼女に向けて深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたわ……」
「やけに素直に謝るんだな?」
「この学園は完全実力主義ですもの。私達は貴方に挑んだ、そして貴方に負けた……これは紛れもなく貴方の方が実力が上という他ならないですわ。ならば貴方の要求に従うのが筋ではございませんこと?」
「まぁ確かにな」
生粋のお嬢様のようだが、意外にもそこはしっかりとしていた操々璃。
まったく……今朝のあの風華っつー女子にも見習って欲しいもんだ。
────っと……操々璃が謝ったんだから、こちらも失言について詫びなきゃならねぇな。
「俺の方こそ、さっきはウ○コみてぇな臭いっつって悪かったよ」
「本当ですわよ!それは思ってても言わない方が宜しくてよ。貴方、デリカシーが無いとよく言われますでしょう?」
「言われたことねぇなぁ……でもまぁ、今後気を付けるよ」
確かにあれは言わんでも良い事だったな。
しかしウ○コみてぇな臭いな事には間違いねぇが……いや、それでも気をつけなきゃならんな、うん。
「それと……」
「ん?」
俺が自身の失言について心の中で反省していると、不意に操々璃が口を開いた。
「彼女がSクラスに入ったのは相応の実力があるからこそ……ならばそれも認めねばならないと判断したまでですわ」
「そうか……しかし良かったよ。あんたが話が分かるお嬢様で」
「あら?綾津里家の令嬢として、自分の非を認めるのは当然のことですわ。将来、当主になる身として、部下の話をしっかりと聞いて差し上げなければ、当主に相応しくないですもの」
「うわぁ……中学の頃の金持ち連中に言って聞かせてやりてぇ言葉だな」
「そう思わせる方がおりましたの?」
「いたんだよ。金持ちの子供だからってそれを鼻にかけて威張り散らしてた奴らが。まぁ、そいつら全員お灸を据えてやったけどな」
「まさか暴力を奮ったんですの?」
「まぁ、ビンタはしたな」
「何をやっているんですの貴方は……」
「仕方ねぇだろ、言っても聞かねぇんだからよ。まぁ、その後に親呼びやがって、その親にも説教したっけ」
「貴方って、かなり常識外な方なんですのね……」
いつの間にやら先程の険悪さは無くなり、あたかも仲の良い友人同士のようにお喋りを始める俺と操々璃。
その横では天鞠と水望がポカンとした表情を浮かべていた。
「貴方って面白い方ですわね」
「あ、それ……学園長からも言われたわ」
「学園長先生にお会い致しましたの?」
「あぁ、今朝にな……最初は何処の女の子かと思ってたけどな」
「まぁ、確かに……学園長先生はあのような見た目なので、ある意味そう思うのも無理は無いですわね」
やはり学園長が見た目で勘違いされやすいという認識は正解だったか。
「思わず〝小学生か〟と言いそうになったもんな。まぁ、言わずにいて正解だったけども」
「残念ながら私は言ってしまいましたわ……本当に初等部の子かと思って、〝貴方、ここは中等部で初等部はあちらですわよ〟と」
「マジか……」
「〝すまぬのぅ、子供のような見た目で〟と言った時のあの笑顔……軽くトラウマですわ」
「あらら……」
あの時、俺もそう言っていたら同じことを言われただろうな。
口は災いの元……操々璃に対しての失言もあるし、余計な事は言わないよう気を付けるとしよう。
「それにしても貴方との話は楽しいですわね。水望、私の荷物をこちらに持ってきなさい。あぁ、もちろん貴方のもですよ」
「えっ?」
「〝えっ?〟ではありません。早く持ってきなさいな」
「は、はい!」
〝何故荷物を?〟と思ったが、その理由は直ぐに分かることになった。
何故なら操々璃が天鞠に向かってこう言ったからである。
「姫神天鞠さんでしたわよね?貴方のお隣に座らせて頂いても宜しかったかしら?」
「へぅ?!」
その言葉に素っ頓狂な声をあげる天鞠。
無理もない……先程まで自分を卑下していた相手からそのようなお願いをされたのだ、困惑するのも無理は無い話だろう。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうもこうもありませんわ。もっと貴方とお話したいと思ったまでですの。宜しければ天鞠さんともお話がしたいところですわね」
「わ、わた、わたし、と……???」
「あら?駄目でしたか?」
「いいいい、いえ、こ、光栄、です……けど、わ、私、あ、あまり、人と、お話、す、する、のが、苦手、で……あぅ……」
「なんですの?この可愛らしい生き物……」
「へ?」
「なんでもありませんわよ」
操々璃はそう誤魔化したが、俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
戸惑う天鞠の姿を見た時の操々璃の表情は、お袋や妹がテレビで子猫を見た時の表情と同じだった。
つまり操々璃は天鞠の可愛らしさに心を奪われたのだろうな。
まぁ、否定はせんけど。
「まぁいいじゃねぇか。綾津里だってこう言ってるし」
「あら、私の事は〝操々璃〟で結構ですわよ?」
「そうか?なら俺のことは〝空洞〟と呼んでくれ」
俺はそう言って手を差し出す。
操々璃もその行動を察したようで、彼女もまた俺の手を取り握手を交わした。
「楽しくなりそうですわね」
「お?ちょうど俺もそう思っていたところだ」
そうして固く握手を交わす俺と操々璃……その後、彼女は未だ戸惑う天鞠とも握手を交し、水望にも俺達と握手を交わすよう指示していた。
まぁ、水望は俺に対しては敵意を剥き出したままだったけどな。
まぁ別に良いけどね……いつでも挑戦は受けるし。
そうして俺は学園生活初日にして三人(一人は微妙なところではあるが)の友人が出来たのだった。
───────────────────
《次回予告》
姫神天鞠、綾津里操々璃、そしてその従者である水望と友人同士になった空洞
そんな彼の前に新たに二人の生徒が姿を現す
果たして二人は空洞の敵か否か?
次回、〝暴風と雷電〟
俺の〝臭う〟という言葉に〝な〟しか言えなくなる操々璃……その隣では水望という女子が怒りに震えていた。
「貴様ァ!言うに事欠いて操々璃様を〝臭う〟だと?!」
「いや、本当に臭うんだよ。香水か、これ?だとしても付けすぎじゃね?せっかくお洒落の為、体臭を消す為の香水だってのに、これじゃあ体臭の方がまだマシってレベルだぞ?」
隣では天鞠が俺の服を掴みしきりに首を横へと振っているが、流石にウ○コみたいな臭いがしてきたら誰だってキツいと思うんだが?
つーか、いったい何の香水なんだこれは?
「わ、私の香水が、た、体臭よりも、お、劣る、と?」
怒りからなのか天鞠のような口調になる操々璃。
周囲では笑いを堪えているのか肩を震わせる奴や、堪えきれずに吹き出す奴、そしてクスクスと小さく笑う奴もいた。
操々璃はそんな奴らを睨み付けたが流石はSクラスといったところか……誰もそれに臆することも無く、逆にそんな操々璃の姿が更に滑稽に見えたのか更に笑みを浮かべていた。
「これだから躾のなっていない庶民は嫌ですわ。まぁ庶民故に、この高貴な香りというのが分からないのでしょうけれど」
「なるほど、つまり高貴な奴らってのは皆、そんなウ○コみてぇな臭いなんだな────あ」
ついうっかり口を滑らしてしまった。
まぁ後悔も反省もしてはいないが、お陰で操々璃の表情が憤怒に染まってしまった。
しかし教室内は笑いが起こり、操々璃の怒りの表情に恥ずかしさが追加される。
「今なら私に土下座をすれば、その失礼な言動に関しては不問に致しますわよ?」
「先に失礼な事を言ってきたのはお前らだろ?お前らが先に天鞠に土下座したなら俺も土下座するわ」
「そう……なら、今すぐ立って、そしてそこで土下座をしなさい」
「はぁ?」
その瞬間、いきなり天鞠が立ち上がったかと思えば、少しズレてその場で操々璃に向かって土下座をし始めた。
「天鞠?いきなりどうしたんだ?」
そう訊ねても天鞠から返事はなく、彼女はただただ操々璃に土下座をしている。
しかし俺がその事に驚いているのと同時に、操々璃もまた俺を見ながら驚いていた。
「な、何故通じないんですの?」
「あん?あぁ、もしかしてそれがお前の神威か?」
操々璃の言葉に俺は直ぐに天鞠の行動が操々璃の神威によるものだと理解する。
「なるほど……精神操作系の神威所有者は初めて見たわ。随分とエグい能力じゃねぇか?」
「操々璃様の〝支配〟が効かないなんて……」
水望も驚いたのか思わずそんな言葉を零していた。
言っておくが初対面の奴の前で主の神威の情報を与えるのは致命的だぞ?
まぁ別に、どんな神威だろうと俺に対しては意味も無いが……。
俺は席から立つと、土下座をしている天鞠の背にそっと触れる。
すると彼女は我に返ったかのように顔を上げて、そして周囲を見ながら自身の状況を確認し始めた。
「あ、あれ……わ、私……?」
「お前は今、こいつの神威で操られてたんだよ」
「私の神威の能力を打ち消したですって?!あ、貴方はいったい……」
天鞠にかけられた神威の効果を無効化した事に驚く操々璃。
俺はそんな彼女に顔を向けながら自身の神威について説明してやった。
「そこの馬鹿がお前の神威を教えてくれたんで、お返しに俺も教えてやるよ。俺の神威は〝虚空〟……まぁ〝虚無〟とも言うが、その神威の能力の一つに〝無効化〟っつーのがあるんだよ。つまり相手の神威を無効化するって事だな」
「なんだと?!」
「そんな能力があるのか?」
「なら、私達神威所有者にとって天敵じゃない……」
「ま、待て……確かこの学園の入学試験の実技で大穴空けた奴がいるって聞いたことがあるぞ?」
「ま、まさかそれがアイツなのか?」
周囲からそんな声が聞こえてくる。
別に隠すつもりは無いが、こうして言葉にされると、どうにも気恥しいものがある。
操々璃は教室内のそんな声に俺を凝視しており、その隣にいた水望もまた〝信じられない〟といった表情を浮かべていた。
「まぁ、そうは言ってもこの手で触れなきゃ無効化出来ねぇんだけどよ」
「ならば、これなら無効化出来ないだろう!」
水望が不意にそう言ったかと思えば、彼女は何処からか取り出した数本のボールペンをクナイのように俺へと投擲する。
ちなみに全てキャップが外されており、また速度も速いことから受ければ刺さってしまうだろう。
まったく……そうなった場合、れっきとした〝傷害罪〟に該当するのだが……。
しかし俺は持ち前の動体視力と運動神経で全てのボールペンを難なくキャッチした。
だが、どうやらそれは囮だったようで、水望は手で拳銃の形を作りその指先を俺へと向けてこう言った。
「馬鹿め、こちらが本命だ!」
そう話す水望の指先には水の球が作られており、彼女はそれを勢いよく放った。
放たれた水球は途中で形を変え、まるで針のように鋭く尖る。
水望はそれを一発だけでなく何発も放ってきた。
「私の神威は〝流水〟!そしてこれはそれを用いた神術〝流水飛針連弾〟だ!流石の貴様と言えど暴雨のように襲い来るコレを防ぎ切るなど無理だろう!」
「なるほどね……なら、避けずに消しちまえば良いだろ?」
「は?」
俺のその言葉に驚く水望の前で俺は両手で水の針を次々と消していった。
まぁ、消す必要が無いと判断した水の針についてはそのまま通過して窓ガラスを割っていったがな。
幸いにも水望は俺の上半身を狙っていたため腕を振り回す事で回避出来たが、これが全身に向けてだったならば何処かへ隠れただろう。
しかしそれだけでも水望には衝撃的な光景だったようで、彼女は酷く表情を青ざめさせていた。
「ば、馬鹿な……」
「言ったろ?俺の神威は〝虚空〟だって。無効化なんてもんはオマケみてぇなもんで、本題は対象を〝消す〟能力なんだよ」
そうして俺は一歩踏み出した。
それにより水望は〝ひっ〟と小さな悲鳴を漏らし後ずさる。
だが俺はそのまま進まず、一瞬にして水望の背後に回ると片腕を取って後ろへと捻り上げた。
「────っ!」
「これで勝負あったな。言っておくが指一本でも動かせばその瞬間に外すぞ?あとこれは忠告だが、無理に外そうとすれば最悪折れるからな」
「くっ……!」
「水望、そこまでになさい」
なおも睨み付けてくる水望に操々璃がそう告げる。
水望は不服そうではあったが、主の命令だからという事で渋々抵抗を止めた。
それを確認した俺は手を離し彼女を解放する。
「はぁ……認めざるを得ませんわね」
「操々璃様……」
「私の支配も効かず、水望の流水までも打ち消しただけでなく一瞬で無力化……これでもまだ〝勝てる〟と勘違いする程、私は馬鹿ではありませんわ」
ようやく負けを認めた操々璃……そして彼女は天鞠へと身体を向けると、彼女に向けて深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたわ……」
「やけに素直に謝るんだな?」
「この学園は完全実力主義ですもの。私達は貴方に挑んだ、そして貴方に負けた……これは紛れもなく貴方の方が実力が上という他ならないですわ。ならば貴方の要求に従うのが筋ではございませんこと?」
「まぁ確かにな」
生粋のお嬢様のようだが、意外にもそこはしっかりとしていた操々璃。
まったく……今朝のあの風華っつー女子にも見習って欲しいもんだ。
────っと……操々璃が謝ったんだから、こちらも失言について詫びなきゃならねぇな。
「俺の方こそ、さっきはウ○コみてぇな臭いっつって悪かったよ」
「本当ですわよ!それは思ってても言わない方が宜しくてよ。貴方、デリカシーが無いとよく言われますでしょう?」
「言われたことねぇなぁ……でもまぁ、今後気を付けるよ」
確かにあれは言わんでも良い事だったな。
しかしウ○コみてぇな臭いな事には間違いねぇが……いや、それでも気をつけなきゃならんな、うん。
「それと……」
「ん?」
俺が自身の失言について心の中で反省していると、不意に操々璃が口を開いた。
「彼女がSクラスに入ったのは相応の実力があるからこそ……ならばそれも認めねばならないと判断したまでですわ」
「そうか……しかし良かったよ。あんたが話が分かるお嬢様で」
「あら?綾津里家の令嬢として、自分の非を認めるのは当然のことですわ。将来、当主になる身として、部下の話をしっかりと聞いて差し上げなければ、当主に相応しくないですもの」
「うわぁ……中学の頃の金持ち連中に言って聞かせてやりてぇ言葉だな」
「そう思わせる方がおりましたの?」
「いたんだよ。金持ちの子供だからってそれを鼻にかけて威張り散らしてた奴らが。まぁ、そいつら全員お灸を据えてやったけどな」
「まさか暴力を奮ったんですの?」
「まぁ、ビンタはしたな」
「何をやっているんですの貴方は……」
「仕方ねぇだろ、言っても聞かねぇんだからよ。まぁ、その後に親呼びやがって、その親にも説教したっけ」
「貴方って、かなり常識外な方なんですのね……」
いつの間にやら先程の険悪さは無くなり、あたかも仲の良い友人同士のようにお喋りを始める俺と操々璃。
その横では天鞠と水望がポカンとした表情を浮かべていた。
「貴方って面白い方ですわね」
「あ、それ……学園長からも言われたわ」
「学園長先生にお会い致しましたの?」
「あぁ、今朝にな……最初は何処の女の子かと思ってたけどな」
「まぁ、確かに……学園長先生はあのような見た目なので、ある意味そう思うのも無理は無いですわね」
やはり学園長が見た目で勘違いされやすいという認識は正解だったか。
「思わず〝小学生か〟と言いそうになったもんな。まぁ、言わずにいて正解だったけども」
「残念ながら私は言ってしまいましたわ……本当に初等部の子かと思って、〝貴方、ここは中等部で初等部はあちらですわよ〟と」
「マジか……」
「〝すまぬのぅ、子供のような見た目で〟と言った時のあの笑顔……軽くトラウマですわ」
「あらら……」
あの時、俺もそう言っていたら同じことを言われただろうな。
口は災いの元……操々璃に対しての失言もあるし、余計な事は言わないよう気を付けるとしよう。
「それにしても貴方との話は楽しいですわね。水望、私の荷物をこちらに持ってきなさい。あぁ、もちろん貴方のもですよ」
「えっ?」
「〝えっ?〟ではありません。早く持ってきなさいな」
「は、はい!」
〝何故荷物を?〟と思ったが、その理由は直ぐに分かることになった。
何故なら操々璃が天鞠に向かってこう言ったからである。
「姫神天鞠さんでしたわよね?貴方のお隣に座らせて頂いても宜しかったかしら?」
「へぅ?!」
その言葉に素っ頓狂な声をあげる天鞠。
無理もない……先程まで自分を卑下していた相手からそのようなお願いをされたのだ、困惑するのも無理は無い話だろう。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうもこうもありませんわ。もっと貴方とお話したいと思ったまでですの。宜しければ天鞠さんともお話がしたいところですわね」
「わ、わた、わたし、と……???」
「あら?駄目でしたか?」
「いいいい、いえ、こ、光栄、です……けど、わ、私、あ、あまり、人と、お話、す、する、のが、苦手、で……あぅ……」
「なんですの?この可愛らしい生き物……」
「へ?」
「なんでもありませんわよ」
操々璃はそう誤魔化したが、俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
戸惑う天鞠の姿を見た時の操々璃の表情は、お袋や妹がテレビで子猫を見た時の表情と同じだった。
つまり操々璃は天鞠の可愛らしさに心を奪われたのだろうな。
まぁ、否定はせんけど。
「まぁいいじゃねぇか。綾津里だってこう言ってるし」
「あら、私の事は〝操々璃〟で結構ですわよ?」
「そうか?なら俺のことは〝空洞〟と呼んでくれ」
俺はそう言って手を差し出す。
操々璃もその行動を察したようで、彼女もまた俺の手を取り握手を交わした。
「楽しくなりそうですわね」
「お?ちょうど俺もそう思っていたところだ」
そうして固く握手を交わす俺と操々璃……その後、彼女は未だ戸惑う天鞠とも握手を交し、水望にも俺達と握手を交わすよう指示していた。
まぁ、水望は俺に対しては敵意を剥き出したままだったけどな。
まぁ別に良いけどね……いつでも挑戦は受けるし。
そうして俺は学園生活初日にして三人(一人は微妙なところではあるが)の友人が出来たのだった。
───────────────────
《次回予告》
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エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
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