26 / 74
第二章 留学生
8 攻略キャラが責めるの
しおりを挟む
「やっぱり、わたしが疑われているのですか?」
わたしはディディエくんの婚約者。
アメリちゃんがディディエルートや逆ハーレム成立を目指しているなら、悪役令嬢に昇格するシナリオが発動するかもしれない。
「君には、細工する機会がなかった」
リュシアンが、格好良すぎて怖い。
「ところで、私は辺境伯と親しくしている」
知っているわ。明るく元気なお嬢様、フロランス=ポワチエと婚約しているのよね。
一年上の先輩は、無事に卒業して領地の辺境へ戻っている筈。彼女の名前を出さないのは、公私の区別をつけているつもりかしら。
「辺境伯は、周辺国の状況を偵察する仕事も請け負っているのだよ」
いや、知らないです。ここで言っちゃっていいの? この世界の常識とか?
「聞くところによると、ロタリンギアの王族に繋がるラインフェルデン家の末娘は、他の世界からの生まれ変わりで、当ノブリージュ学園に、大層思い入れがあるとか」
「サンドリーヌ様が喋っ」
思わず立ち上がった。背後で音がした。ディディエくんの顔色が変わっている。しまった。やらかした。
「ほう。サンドリーヌ嬢は、君から話を聞いたんだね。ディディエ、仕事を続けたまえ」
ええええっ? リュシアンこわっ、怖いんだけれどっ! キャラ変している?
だって、幼馴染のサンドリーヌを疑っている感じだよね。
ディディエくんをこの場に呼んだのは、姉の疑惑と、わたしの転生話を知らせるため?
婚約者なのに、他人から初めて聞かされてショックを受けたかも。ごめん、ディディエくん。
まさか、お父様のファンということも、バラされる? そうしたら、流石に婚約破棄されるよね。まだ一年経っていないのに、ここで退場ですか?
「実は、彼女もここに呼んでいる。そろそろ来るだろう。その前に、告白したいことがあれば、どうぞ」
パニックになるわたしに、リュシアンが皮肉っぽく笑いかける。
わたしは口を利けなかった。喋ったら、立場が悪くなるだけだ。落ち着け、わたし。
リュシアンは、わたしの実家から転生者の話を聞き込んできた、ということよね。
サンドリーヌは裏切っていない。自分の生死に関わるんだから、言う訳ない。
それに、実家では、侍女やら何やら、召使がうじゃうじゃいたから、その誰かが外の人間にわたしの転生話を漏らしたって、不思議じゃない。
向こうじゃ妄想扱いされていたから、口止めもしていなかったわ。
どこまで聞いたかともかく、リュシアンが本気にしていることが問題なんだわ。どうすべき?
サンドリーヌと違って、彼は攻略対象者だ。うっかり、転生者のアメリちゃんに話すかもしれない。
ヒロインの立場からすれば、ディディエくんの婚約者は敵だ。
知られたら、彼女の断罪リストに名前が載るのは、確実だわ。ヒロインキャラのアメリちゃんは良い子でも、中身の転生者は違うかもしれないもの。
ノックの音がした。ディディエくんが、机をがたつかせながら、扉へ駆け寄った。
「姉様っ」
「あらディディエ」
サンドリーヌが縦ロールを揺らしながら入ってきた。続いてシャルル王子まで。
「殿下は、お呼びしておりません」
「婚約者に嫌疑がかかっているのを、見過ごせなくてね」
後ろ手に扉を閉め、涼しい顔で王子が言う。ついでにサンドリーヌの腰に手を回している。
リュシアンの赤い瞳に影が差す。流石に笑みも消えている。
こんな時だけれど、隠しキャラのクレマン先生以外の攻略対象が揃い踏みよ。眼福だわ。
でも、雰囲気は悪い。
「では、そちらへおかけください」
ディディエが間を開けて用意した椅子を、王子がピッタリくっつけ、婚約者同士二人並んで腰掛けた。
サンドリーヌの表情は、悪役令嬢っぽい。王子が側にいるのは当然、みたいな。ある意味、無感動な佇まい。
乙女ゲーでアメリちゃんとのツーショットを見慣れた目には、王子の隣に彼女がいると、違和感を覚えてしまうのよね。
「今、ちょうどサンドリーヌ嬢のお名前が出たところです」
リュシアンが丁寧な言葉遣いになった。シャルル王子が同席しているせいだわ。やりにくいだろうな。
「アメリ嬢に危害を加える動きがあるかもしれない、という警告をサンドリーヌ嬢が発してくださったお陰で、被害を最小限に抑えることができました。感謝します。ですが、その情報を一体どこから得たのか。今しがた、ロザモンド嬢からお話があった、と判明しました」
サンドリーヌは、じっとリュシアンを見つめている。シャルル王子は婚約者の腰に手を回し、空いた手で彼女の濃い金髪を弄んでいる。
アメリちゃんとも仲良くしているだろうに、悪役令嬢からも手を引かないなんて、いかにも俺様キャラっぽい。
そうっとディディエくんの様子を窺うと、わたしではなく姉の方を心配そうに見ていた。ちょっと寂しいけれど、この際仕方がないか。
リュシアンが続ける。
「ロザモンド嬢はディディエ君の婚約者であり、サンドリーヌ嬢の義理の妹になる立場です。また、彼女は幼少の頃からノブリージュ学園への入学を希望し、入学前から学園生活における様々な局面を見てきたかのように語っていたとか」
「すなわち、今回の件は、ロザモンド嬢の想像から着想を得たサンドリーヌ嬢が、どなたかに手を回して計画を実行したものの、土壇場になって被害が大き過ぎることに恐れをなし、警告という形で被害を縮小し、同時に自らの潔白の担保としたのではないか、というのが私の考えです」
「姉様は、卑怯な真似はしない。委員長は幼馴染なのだから、ご存知でしょう? そんなややこしいこと」
真っ先に反論したのは、ディディエくんだった。途中で切った言葉の続きを、わたしは簡単に補うことができた。
『そんなややこしいこと、この(お馬鹿な)サンドリーヌができる訳ない』
たとえ続きを口走っても、この通りの言葉じゃないだろうけど、意味するところは同じ筈だ。
この世界のディディエくんはサンドリーヌを慕っているみたいだけれど、評価は客観的なところが、何か笑える。
笑っていられるのも、わたしが疑惑の圏外にいる余裕からだ。ラッキーなことに、リュシアンは転生とか乙女ゲーの話の真偽は問題にしていないことがわかった。
彼が幼馴染のサンドリーヌを犯人と名指すなんて、やっぱりアメリちゃんが攻略しているせいかしら。自分がヒロインじゃない立場から見たら、切ないなあ。
「それに動機もないぞ」
シャルル王子が偉そうに言う。お前が言うか、と多分全員が内心で突っ込んだんじゃないかな。
しばし間が開いた。
「動機は‥‥あります。敢えて申しませんが」
だよね。今はリュシアン攻略を進めているとしても、去年は、王子やディディエくんとのイベントが多かった筈。
悪役令嬢が別クラスで邪魔が入らなかったのなら、ヒロインが逆ハーレムを狙ってみようと思っても不思議じゃない。
転生者だもの。前に、攻略キャラの皆と食堂で並んで座っていたし。
そんな様子を見せつけられたら、婚約者のサンドリーヌが、ヒロインを目障りに思うのは当然でしょっ‥‥て、実際には、嫉妬で怒り狂う彼女を見たことないんだよね。
「風紀委員長リュシアン=アルトワ」
犯人呼ばわりされても、サンドリーヌは落ち着いていた。犯人ぽく高笑いしたり、逆に取り乱したりしない。でも最上級生にして委員長のリュシアンを呼び捨てにするところは、悪役令嬢だわ。
「あなたはその有能さを以て、関係者全員から事情聴取を行い、証言を突き合わせた。その上で、実行犯が誰か特定できなかったため、周辺の利害関係から私の犯人説を組み立てた、といったところでしょう。だから証拠もない」
もしもしサンドリーヌ様、証拠の話を持ち出すのは、犯人フラグですよ。
「犯行を認めるのか。サンドリーヌ=ヴェルマンドワ」
リュシアンも同じ考えみたい。王子の存在を無視して悪役令嬢に向き合う。
「私は犯人ではないわ。ちなみに、いつでも婚約解消を受け入れる旨、シャルル様に何度か申し入れている故、動機もない」
「婚約は解消しない、と言っているだろう」
シャルル王子がサンドリーヌの顔に手をかけて自分の方へ向かせた。そのまま顔を近付けようとする前へ、手が挟まれた。
「人前ではお控えください」
王子は素直に引っ込んだ。見ているこっちが赤面するわ。てか、サンドリーヌの冷静さが際立つ。
「あなたの仮説に対抗して、私も一つ仮説を出すわ」
リュシアンが気を惹かれたようだ。赤い瞳が光る。
「工作を仕掛ける機会がある間、動機のありそうな人物も関係者以外の人物も、誰一人として剣や鎧に近付かなかったにもかかわらず、細工がなされたということは、それを行った人物は」
一旦言葉を切った。不穏な予感がする。
「不可能なことを差し引いていくと、どんなにありえなくても、残ったことが真実なの」
何かどっかで聞いたようなセリフだわ。でも、乙女ゲームじゃない気がする。
「つまり、試合に出るために、鎧や剣に触った人物が、細工したのよ」
「オレーグの王太子が?」
「機会があったのは確かに二人ね。でも、他人の武具に触れば目立つ。互いに、そのような証言がないのなら、細工された武具の着用者が自ら行った、と考えるしかない。動機は、事故を婚約者の嫉妬のせいにして、婚約を破棄させるため」
「馬鹿な!」
リュシアンが席から立ち上がった。仄暗くなった室内で、彼の赤い瞳が燃えていた。
怖い。この様子だと、結構アメリちゃんにのめり込んでいるっぽい。
心なしか、見つめるサンドリーヌの視線にも痛ましさを感じる。
攻略対象だと知っているんだよね。わたしが話したもの。
「こっちも証拠はない。信じるも信じないも、あなたの自由よ」
サンドリーヌは、そっと立ち上がった。シャルル王子も一緒だ。さすがにこの状況では空気を読んで、余計な口を叩かなかった。
結局あの事件で、誰も処分は受けなかった。単なる手違いによる事故、みたいな処理になったらしい。と、ディディエくんが教えてくれた。
わたしはディディエくんの婚約者。
アメリちゃんがディディエルートや逆ハーレム成立を目指しているなら、悪役令嬢に昇格するシナリオが発動するかもしれない。
「君には、細工する機会がなかった」
リュシアンが、格好良すぎて怖い。
「ところで、私は辺境伯と親しくしている」
知っているわ。明るく元気なお嬢様、フロランス=ポワチエと婚約しているのよね。
一年上の先輩は、無事に卒業して領地の辺境へ戻っている筈。彼女の名前を出さないのは、公私の区別をつけているつもりかしら。
「辺境伯は、周辺国の状況を偵察する仕事も請け負っているのだよ」
いや、知らないです。ここで言っちゃっていいの? この世界の常識とか?
「聞くところによると、ロタリンギアの王族に繋がるラインフェルデン家の末娘は、他の世界からの生まれ変わりで、当ノブリージュ学園に、大層思い入れがあるとか」
「サンドリーヌ様が喋っ」
思わず立ち上がった。背後で音がした。ディディエくんの顔色が変わっている。しまった。やらかした。
「ほう。サンドリーヌ嬢は、君から話を聞いたんだね。ディディエ、仕事を続けたまえ」
ええええっ? リュシアンこわっ、怖いんだけれどっ! キャラ変している?
だって、幼馴染のサンドリーヌを疑っている感じだよね。
ディディエくんをこの場に呼んだのは、姉の疑惑と、わたしの転生話を知らせるため?
婚約者なのに、他人から初めて聞かされてショックを受けたかも。ごめん、ディディエくん。
まさか、お父様のファンということも、バラされる? そうしたら、流石に婚約破棄されるよね。まだ一年経っていないのに、ここで退場ですか?
「実は、彼女もここに呼んでいる。そろそろ来るだろう。その前に、告白したいことがあれば、どうぞ」
パニックになるわたしに、リュシアンが皮肉っぽく笑いかける。
わたしは口を利けなかった。喋ったら、立場が悪くなるだけだ。落ち着け、わたし。
リュシアンは、わたしの実家から転生者の話を聞き込んできた、ということよね。
サンドリーヌは裏切っていない。自分の生死に関わるんだから、言う訳ない。
それに、実家では、侍女やら何やら、召使がうじゃうじゃいたから、その誰かが外の人間にわたしの転生話を漏らしたって、不思議じゃない。
向こうじゃ妄想扱いされていたから、口止めもしていなかったわ。
どこまで聞いたかともかく、リュシアンが本気にしていることが問題なんだわ。どうすべき?
サンドリーヌと違って、彼は攻略対象者だ。うっかり、転生者のアメリちゃんに話すかもしれない。
ヒロインの立場からすれば、ディディエくんの婚約者は敵だ。
知られたら、彼女の断罪リストに名前が載るのは、確実だわ。ヒロインキャラのアメリちゃんは良い子でも、中身の転生者は違うかもしれないもの。
ノックの音がした。ディディエくんが、机をがたつかせながら、扉へ駆け寄った。
「姉様っ」
「あらディディエ」
サンドリーヌが縦ロールを揺らしながら入ってきた。続いてシャルル王子まで。
「殿下は、お呼びしておりません」
「婚約者に嫌疑がかかっているのを、見過ごせなくてね」
後ろ手に扉を閉め、涼しい顔で王子が言う。ついでにサンドリーヌの腰に手を回している。
リュシアンの赤い瞳に影が差す。流石に笑みも消えている。
こんな時だけれど、隠しキャラのクレマン先生以外の攻略対象が揃い踏みよ。眼福だわ。
でも、雰囲気は悪い。
「では、そちらへおかけください」
ディディエが間を開けて用意した椅子を、王子がピッタリくっつけ、婚約者同士二人並んで腰掛けた。
サンドリーヌの表情は、悪役令嬢っぽい。王子が側にいるのは当然、みたいな。ある意味、無感動な佇まい。
乙女ゲーでアメリちゃんとのツーショットを見慣れた目には、王子の隣に彼女がいると、違和感を覚えてしまうのよね。
「今、ちょうどサンドリーヌ嬢のお名前が出たところです」
リュシアンが丁寧な言葉遣いになった。シャルル王子が同席しているせいだわ。やりにくいだろうな。
「アメリ嬢に危害を加える動きがあるかもしれない、という警告をサンドリーヌ嬢が発してくださったお陰で、被害を最小限に抑えることができました。感謝します。ですが、その情報を一体どこから得たのか。今しがた、ロザモンド嬢からお話があった、と判明しました」
サンドリーヌは、じっとリュシアンを見つめている。シャルル王子は婚約者の腰に手を回し、空いた手で彼女の濃い金髪を弄んでいる。
アメリちゃんとも仲良くしているだろうに、悪役令嬢からも手を引かないなんて、いかにも俺様キャラっぽい。
そうっとディディエくんの様子を窺うと、わたしではなく姉の方を心配そうに見ていた。ちょっと寂しいけれど、この際仕方がないか。
リュシアンが続ける。
「ロザモンド嬢はディディエ君の婚約者であり、サンドリーヌ嬢の義理の妹になる立場です。また、彼女は幼少の頃からノブリージュ学園への入学を希望し、入学前から学園生活における様々な局面を見てきたかのように語っていたとか」
「すなわち、今回の件は、ロザモンド嬢の想像から着想を得たサンドリーヌ嬢が、どなたかに手を回して計画を実行したものの、土壇場になって被害が大き過ぎることに恐れをなし、警告という形で被害を縮小し、同時に自らの潔白の担保としたのではないか、というのが私の考えです」
「姉様は、卑怯な真似はしない。委員長は幼馴染なのだから、ご存知でしょう? そんなややこしいこと」
真っ先に反論したのは、ディディエくんだった。途中で切った言葉の続きを、わたしは簡単に補うことができた。
『そんなややこしいこと、この(お馬鹿な)サンドリーヌができる訳ない』
たとえ続きを口走っても、この通りの言葉じゃないだろうけど、意味するところは同じ筈だ。
この世界のディディエくんはサンドリーヌを慕っているみたいだけれど、評価は客観的なところが、何か笑える。
笑っていられるのも、わたしが疑惑の圏外にいる余裕からだ。ラッキーなことに、リュシアンは転生とか乙女ゲーの話の真偽は問題にしていないことがわかった。
彼が幼馴染のサンドリーヌを犯人と名指すなんて、やっぱりアメリちゃんが攻略しているせいかしら。自分がヒロインじゃない立場から見たら、切ないなあ。
「それに動機もないぞ」
シャルル王子が偉そうに言う。お前が言うか、と多分全員が内心で突っ込んだんじゃないかな。
しばし間が開いた。
「動機は‥‥あります。敢えて申しませんが」
だよね。今はリュシアン攻略を進めているとしても、去年は、王子やディディエくんとのイベントが多かった筈。
悪役令嬢が別クラスで邪魔が入らなかったのなら、ヒロインが逆ハーレムを狙ってみようと思っても不思議じゃない。
転生者だもの。前に、攻略キャラの皆と食堂で並んで座っていたし。
そんな様子を見せつけられたら、婚約者のサンドリーヌが、ヒロインを目障りに思うのは当然でしょっ‥‥て、実際には、嫉妬で怒り狂う彼女を見たことないんだよね。
「風紀委員長リュシアン=アルトワ」
犯人呼ばわりされても、サンドリーヌは落ち着いていた。犯人ぽく高笑いしたり、逆に取り乱したりしない。でも最上級生にして委員長のリュシアンを呼び捨てにするところは、悪役令嬢だわ。
「あなたはその有能さを以て、関係者全員から事情聴取を行い、証言を突き合わせた。その上で、実行犯が誰か特定できなかったため、周辺の利害関係から私の犯人説を組み立てた、といったところでしょう。だから証拠もない」
もしもしサンドリーヌ様、証拠の話を持ち出すのは、犯人フラグですよ。
「犯行を認めるのか。サンドリーヌ=ヴェルマンドワ」
リュシアンも同じ考えみたい。王子の存在を無視して悪役令嬢に向き合う。
「私は犯人ではないわ。ちなみに、いつでも婚約解消を受け入れる旨、シャルル様に何度か申し入れている故、動機もない」
「婚約は解消しない、と言っているだろう」
シャルル王子がサンドリーヌの顔に手をかけて自分の方へ向かせた。そのまま顔を近付けようとする前へ、手が挟まれた。
「人前ではお控えください」
王子は素直に引っ込んだ。見ているこっちが赤面するわ。てか、サンドリーヌの冷静さが際立つ。
「あなたの仮説に対抗して、私も一つ仮説を出すわ」
リュシアンが気を惹かれたようだ。赤い瞳が光る。
「工作を仕掛ける機会がある間、動機のありそうな人物も関係者以外の人物も、誰一人として剣や鎧に近付かなかったにもかかわらず、細工がなされたということは、それを行った人物は」
一旦言葉を切った。不穏な予感がする。
「不可能なことを差し引いていくと、どんなにありえなくても、残ったことが真実なの」
何かどっかで聞いたようなセリフだわ。でも、乙女ゲームじゃない気がする。
「つまり、試合に出るために、鎧や剣に触った人物が、細工したのよ」
「オレーグの王太子が?」
「機会があったのは確かに二人ね。でも、他人の武具に触れば目立つ。互いに、そのような証言がないのなら、細工された武具の着用者が自ら行った、と考えるしかない。動機は、事故を婚約者の嫉妬のせいにして、婚約を破棄させるため」
「馬鹿な!」
リュシアンが席から立ち上がった。仄暗くなった室内で、彼の赤い瞳が燃えていた。
怖い。この様子だと、結構アメリちゃんにのめり込んでいるっぽい。
心なしか、見つめるサンドリーヌの視線にも痛ましさを感じる。
攻略対象だと知っているんだよね。わたしが話したもの。
「こっちも証拠はない。信じるも信じないも、あなたの自由よ」
サンドリーヌは、そっと立ち上がった。シャルル王子も一緒だ。さすがにこの状況では空気を読んで、余計な口を叩かなかった。
結局あの事件で、誰も処分は受けなかった。単なる手違いによる事故、みたいな処理になったらしい。と、ディディエくんが教えてくれた。
21
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる