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第5章 ユミルの恋
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遠征先での後処理が粗方終わると、ユミルとレインは首都の邸宅へ戻った。
そのころには、ユミルの怪我もすっかり回復していた。
ユミルは自分の部屋に戻ると、いの一番にフクに抱き着いて大きく息を吸い込む。
フクの香りは「本当に帰ってきた」とユミルをとても安心させてくれた。
「フク、ちょっと太った?」
ユミルはフクを抱き上げて、少しの違和感を覚える。
フクの顔を覗き込むと、フクはあからさまに目を逸らす。ユミルが「おや」と思い、何となく、荷物を運んでくれたジャスパーに視線を移すと、ジャスパーも目を逸らす。
(…なるほど、ジャスパーさんがフクに強請られるがまま、あげすぎちゃったのね。暫くダイエットさせないと。)
そうは思うものの、レインを始め、この邸宅の人はフクにとことん甘い。ケットシーが好きではないと、雇われないのか、と思うほどだ。
さて、ユミルはレインの邸宅へ戻るまでの期間、レインから体調を気遣われ、杖のメンテナンスを行っていなかったが、邸宅に戻ってから業務を再開した。
先日の戦いで、折れるまではいかなかったものの、随分と杖が消耗しており、修復に1日半ほど要した。大きな修復作業後にぐったりしてしまうのは相変わらずである。
その他にも、遠征先でのケルベロス襲撃に係る魔法局からの証人喚問などもあり、ユミルは数日間バタバタと過ごしていた。どうやらお偉い方々の一部は今回の件を必要以上に大きく取り上げたいようだ。
要するに、レインが部隊長を務めていることが気に食わない連中が、レインを部隊長の座から引きずり降ろそうとしているのだ。誰が指揮をしても、魔法犯罪者の根城である山麓に人員を割くことは当然だったにもかかわらず、町中の人員の配置が不適切であったために、一般人であるユミルが怪我をするに至った、としたいらしい。
(痛い思いをした当人が、もう良いって言ってるんだから、もう良いでしょうが!あんたらなんて、椅子に座っているだけのくせに!!)
ユミルはこう思うものの、政治というものはどうもスッキリとは収まらないらしい。
なんやかんやで、少しずつ遠征前の生活に戻っていく中で、ユミルは重要な問題にぶち当たっていた。
最近、レインを見ているとドキドキして仕方がないのだ。
助けてもらったときのつり橋効果なのか、それよりも前から気になっていたのか。
つまるところ、ユミルはレインを好きになってしまった。
帰ってきてから暫くはバタバタしていて別のことを考えていられたが、漸く日常が戻ってきたところで、ふと自覚してしまったのだ。
あんなに心で詰っていた相手に恋心を抱くなど、あのときには想像もできなかったことだ。
(オズモンド様に気づかれたら、職場を追い出されちゃいそうだけど…、オズモンド様は絶対に気づかないだろうな。)
オズモンドは証人喚問の度にユミルに謝って申し訳なさそうにしていたが、あの日にユミルが泣いたことや、抱き着いたことについては何も言わなかった。
首都に帰ってきてからも、相変わらずの仏頂面である。
(まぁ、生きている世界が違すぎるし、分不相応な想いよね。)
折角久しぶりに芽生えた恋心だが、放置せざるを得ない、とユミルはため息を吐いた。
そのころには、ユミルの怪我もすっかり回復していた。
ユミルは自分の部屋に戻ると、いの一番にフクに抱き着いて大きく息を吸い込む。
フクの香りは「本当に帰ってきた」とユミルをとても安心させてくれた。
「フク、ちょっと太った?」
ユミルはフクを抱き上げて、少しの違和感を覚える。
フクの顔を覗き込むと、フクはあからさまに目を逸らす。ユミルが「おや」と思い、何となく、荷物を運んでくれたジャスパーに視線を移すと、ジャスパーも目を逸らす。
(…なるほど、ジャスパーさんがフクに強請られるがまま、あげすぎちゃったのね。暫くダイエットさせないと。)
そうは思うものの、レインを始め、この邸宅の人はフクにとことん甘い。ケットシーが好きではないと、雇われないのか、と思うほどだ。
さて、ユミルはレインの邸宅へ戻るまでの期間、レインから体調を気遣われ、杖のメンテナンスを行っていなかったが、邸宅に戻ってから業務を再開した。
先日の戦いで、折れるまではいかなかったものの、随分と杖が消耗しており、修復に1日半ほど要した。大きな修復作業後にぐったりしてしまうのは相変わらずである。
その他にも、遠征先でのケルベロス襲撃に係る魔法局からの証人喚問などもあり、ユミルは数日間バタバタと過ごしていた。どうやらお偉い方々の一部は今回の件を必要以上に大きく取り上げたいようだ。
要するに、レインが部隊長を務めていることが気に食わない連中が、レインを部隊長の座から引きずり降ろそうとしているのだ。誰が指揮をしても、魔法犯罪者の根城である山麓に人員を割くことは当然だったにもかかわらず、町中の人員の配置が不適切であったために、一般人であるユミルが怪我をするに至った、としたいらしい。
(痛い思いをした当人が、もう良いって言ってるんだから、もう良いでしょうが!あんたらなんて、椅子に座っているだけのくせに!!)
ユミルはこう思うものの、政治というものはどうもスッキリとは収まらないらしい。
なんやかんやで、少しずつ遠征前の生活に戻っていく中で、ユミルは重要な問題にぶち当たっていた。
最近、レインを見ているとドキドキして仕方がないのだ。
助けてもらったときのつり橋効果なのか、それよりも前から気になっていたのか。
つまるところ、ユミルはレインを好きになってしまった。
帰ってきてから暫くはバタバタしていて別のことを考えていられたが、漸く日常が戻ってきたところで、ふと自覚してしまったのだ。
あんなに心で詰っていた相手に恋心を抱くなど、あのときには想像もできなかったことだ。
(オズモンド様に気づかれたら、職場を追い出されちゃいそうだけど…、オズモンド様は絶対に気づかないだろうな。)
オズモンドは証人喚問の度にユミルに謝って申し訳なさそうにしていたが、あの日にユミルが泣いたことや、抱き着いたことについては何も言わなかった。
首都に帰ってきてからも、相変わらずの仏頂面である。
(まぁ、生きている世界が違すぎるし、分不相応な想いよね。)
折角久しぶりに芽生えた恋心だが、放置せざるを得ない、とユミルはため息を吐いた。
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