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第6章 おでかけ
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「感謝状の授与は午前ですぐに終わるが、その後、私の生家へ連れて行く。」
「え?」
「私の生家へ行く。」
「え??」
「…だから、私の、」
「聞こえていますよ!…でも、どうしてそのような話になるのですか!?」
(もしかして、オフィリア様が杖の修復を気に入らなかったのかな…。)
ユミルは緊張のあまり膝の上でぎゅっと手を強く握りしめる。
まさか、魔法局からの感謝状と同じくらいの衝撃が待っているとは。
「先日、姉上から杖の修復を依頼されただろう。」
「はい。」
「あれは、私の祖父のものだった。材木を聞いた時点で概ね予想はついていたが。」
「え?」
(オズモンド様のお爺様、ということは、オズモンド家の前当主!?)
ユミルは驚きの連続で息を吐く間もない。
レインは、驚くユミルに対していちいち言い直していたら、話が進まないと思ったのか、ユミルの様子を意に介さず、話を続けた。
「祖父は地方の領地で隠居していたが、明日は首都に来ているらしい。だから、君を呼ぶように言われた。」
「…よっぽど、修復が気に入らなかったのでしょうか…?」
「君は随分とマイナス思考だな。良くも悪くも、祖父と私は性格が似ている。怒るためだけに人を呼び出すこともなければ、いらない人間に割く時間もない。」
「要するに、悪い話ではない、ということで良いんですよね?」
「そうだ。」
ユミルは握りしめていた手を少しだけ緩める。
しかし、まだ納得できないことがあった。
レインならば、祖父のお願いだとしても、面倒なことは断ってしまいそうだと思ったからだ。
「でも、どうしてその話を引き受けたのですか?」
「…私にとって、都合が良いからだ。」
「都合が、良い?」
(前当主に恩を売りたいってこと…?私程度じゃあ、大した恩にならないと思うけど。)
ユミルは未だに首を傾げていたが、レインはこの点についてそれ以上話すつもりはないのか唇を固く引き結んだ。
「…オズモンド様のご命令であれば、従いますが…。」
「それから、その呼び方も止めろ。」
「え?」
「明日は私の生家に行くのだから、周りもオズモンドだ。」
「確かに、そうですね。では、明日はレイン様とお呼びします。」
ユミルが声に出してレインの名前を呼ぶと、レインは少し視線をずらしておもむろに頷いた。
「それから、明日はエイドリアンを置いていく。」
「えっ…。」
「私がいるのに、不満があるのか?」
「…アリマセン。」
ユミルが驚くと、レインは少し不機嫌な声音を出すので、ユミルは反射的に答えてしまう。
(緊張の中で、エイディーだけが心の拠り所だったのに…。)
ユミルは思わず扉の近くに控えていたエイドリアンの方を縋るような目で見てしまうが、困ったような顔で微笑み返される。
その様子を見ていたレインが、「エイドリアン。」と少し低い声で名前を呼ぶと、エイドリアンはしゃんと背を伸ばして、何度も大きく頷いた。
わかっていたことだが、エイドリアンはレインの味方らしい。
「それでは、今日は早く休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
ユミルはレインの部屋から出て、エイドリアンに部屋まで送ってもらう。
漸く室内でひとり(と一匹)になれると、ユミルは大きくため息を吐いた。
あまりにも短時間に詰め込まれた情報が多すぎる。
(しかも、明日なんて。)
いくら何でも急すぎやしないか、予定は既に決まっていただろう、と言いたい気持ちもあるが、前に言われても、緊張で眠れない夜が増えるだけのような気もする。
これがレインの気遣いなのか、ただ単に言う必要がないと思ったのか、その真意はユミルにはまだ判断がつかなかった。
『家族への挨拶だね。』
「何だか、その言い方は、大変に語弊がある気がする。」
フクがケットシーらしく瞳を弓なりにたゆませるので、ユミルはじとりとフクを見つめた。
『だって、レインの生家に行くんでしょ?』
「お爺様に会うだけよ。」
『ふぅん。それだけなら、良いけどね。』
フクは急に興味を無くしたようにユミルに背を向けると、さっさと寝床に入ってしまった。
(私も着替えて、早く寝ないと。)
ユミルは頭の仲がぐちゃぐちゃで全く眠気はなかったが、その日は早めに床についた。
「え?」
「私の生家へ行く。」
「え??」
「…だから、私の、」
「聞こえていますよ!…でも、どうしてそのような話になるのですか!?」
(もしかして、オフィリア様が杖の修復を気に入らなかったのかな…。)
ユミルは緊張のあまり膝の上でぎゅっと手を強く握りしめる。
まさか、魔法局からの感謝状と同じくらいの衝撃が待っているとは。
「先日、姉上から杖の修復を依頼されただろう。」
「はい。」
「あれは、私の祖父のものだった。材木を聞いた時点で概ね予想はついていたが。」
「え?」
(オズモンド様のお爺様、ということは、オズモンド家の前当主!?)
ユミルは驚きの連続で息を吐く間もない。
レインは、驚くユミルに対していちいち言い直していたら、話が進まないと思ったのか、ユミルの様子を意に介さず、話を続けた。
「祖父は地方の領地で隠居していたが、明日は首都に来ているらしい。だから、君を呼ぶように言われた。」
「…よっぽど、修復が気に入らなかったのでしょうか…?」
「君は随分とマイナス思考だな。良くも悪くも、祖父と私は性格が似ている。怒るためだけに人を呼び出すこともなければ、いらない人間に割く時間もない。」
「要するに、悪い話ではない、ということで良いんですよね?」
「そうだ。」
ユミルは握りしめていた手を少しだけ緩める。
しかし、まだ納得できないことがあった。
レインならば、祖父のお願いだとしても、面倒なことは断ってしまいそうだと思ったからだ。
「でも、どうしてその話を引き受けたのですか?」
「…私にとって、都合が良いからだ。」
「都合が、良い?」
(前当主に恩を売りたいってこと…?私程度じゃあ、大した恩にならないと思うけど。)
ユミルは未だに首を傾げていたが、レインはこの点についてそれ以上話すつもりはないのか唇を固く引き結んだ。
「…オズモンド様のご命令であれば、従いますが…。」
「それから、その呼び方も止めろ。」
「え?」
「明日は私の生家に行くのだから、周りもオズモンドだ。」
「確かに、そうですね。では、明日はレイン様とお呼びします。」
ユミルが声に出してレインの名前を呼ぶと、レインは少し視線をずらしておもむろに頷いた。
「それから、明日はエイドリアンを置いていく。」
「えっ…。」
「私がいるのに、不満があるのか?」
「…アリマセン。」
ユミルが驚くと、レインは少し不機嫌な声音を出すので、ユミルは反射的に答えてしまう。
(緊張の中で、エイディーだけが心の拠り所だったのに…。)
ユミルは思わず扉の近くに控えていたエイドリアンの方を縋るような目で見てしまうが、困ったような顔で微笑み返される。
その様子を見ていたレインが、「エイドリアン。」と少し低い声で名前を呼ぶと、エイドリアンはしゃんと背を伸ばして、何度も大きく頷いた。
わかっていたことだが、エイドリアンはレインの味方らしい。
「それでは、今日は早く休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
ユミルはレインの部屋から出て、エイドリアンに部屋まで送ってもらう。
漸く室内でひとり(と一匹)になれると、ユミルは大きくため息を吐いた。
あまりにも短時間に詰め込まれた情報が多すぎる。
(しかも、明日なんて。)
いくら何でも急すぎやしないか、予定は既に決まっていただろう、と言いたい気持ちもあるが、前に言われても、緊張で眠れない夜が増えるだけのような気もする。
これがレインの気遣いなのか、ただ単に言う必要がないと思ったのか、その真意はユミルにはまだ判断がつかなかった。
『家族への挨拶だね。』
「何だか、その言い方は、大変に語弊がある気がする。」
フクがケットシーらしく瞳を弓なりにたゆませるので、ユミルはじとりとフクを見つめた。
『だって、レインの生家に行くんでしょ?』
「お爺様に会うだけよ。」
『ふぅん。それだけなら、良いけどね。』
フクは急に興味を無くしたようにユミルに背を向けると、さっさと寝床に入ってしまった。
(私も着替えて、早く寝ないと。)
ユミルは頭の仲がぐちゃぐちゃで全く眠気はなかったが、その日は早めに床についた。
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