貴方の杖、直します。ただし、有料です。

椎茸

文字の大きさ
48 / 69
第6章 おでかけ

48

しおりを挟む
ユミルは先ほどから口が開きっぱなしだ。

第一に、オズモンド家の邸宅は大きすぎた。レインの邸宅はまだ、オズモンド家が所有していたものの中でもこぢんまりとしたものだったらしい。

第二に、お出迎えも豪華だった。フットマンと侍女が何人も並んでいた。
ユミルよりもずっと出自の良いであろう使用人たちに頭を下げられながら歩くのは、ユミルを大変疲弊させた。

最後に、レインの祖父が待っているという部屋の扉が開いた瞬間、ついにユミルの口は閉まらなくなった。

(え?え??え~~~~~!?
なんか、人、多くない~~~~~!?)

今日は、レインの祖父と、もしかしたらオフィリアもいるかもしれない、そんな考えでユミルはこの邸宅の敷居を跨いだ。
しかし、この部屋には男性が4人、女性が3人もいるではないか。

綺麗な服を着て、既にテーブルについているところを見ると、この家の人のようだ。
女性のうち1人はオフィリアであることがわかるが、それ以外の人がユミルには全く分からなかった。辛うじて、男性の1人が、現当主のような気がしなくもない。

ユミルは新聞に頻繁に載るような貴族でなければ、貴族の顔を知らなかった。

(先に!言ってよ!!)

ユミルは少し前にある、平然とユミルを紹介しているレインの背中をどつきたい気持ちでいっぱいになったが、何とか堪えて礼を取った。

「初めまして、ユミル・アッシャーでございます。卑賎の身ながら、本日お招きいただきましたこと、心から御礼申し上げます。」

テーブルについていた面々は口々に「よろしく。」「ようこそ。」とユミルに返すと、着席を促した。

「ようこそ、オズモンド家へ。ガイウス・オズモンド、貴女を招いたのは私です。杖の修復をありがとう。」

高齢の男性が顔を皺くちゃにして、笑顔を浮かべてくれると、ユミルは「この人があの杖の使用者か。」と納得する一方で、既視感を覚えて「あれ?」と思う。

「祖父は、アビウス局長の兄だ。」
「ああ、そうか。貴女は先ほどアビウスに会ったんだったね。彼は婿入りしたから姓が異なるんだ。」

レインとガイウスが補足を入れてくれたので、ユミルはなるほど、と頷く。

(どおりで、笑顔がそっくりなわけだわ)

「そうだったのですね。杖の修復について、満足いただけていると、良いのですが。」
「仕上がりにはとても満足しているよ。」

ガイウスのこの言葉に、レインが言っていたとおり、悪い意味で呼ばれたわけではなさそうだと、ユミルは強張らせていた肩を少し和らげる。

「俺たちのことも紹介してもらえないか。」

現当主と思しき男性が声をかけると、レインはひとりずつ、手で指し示しながら紹介をしてくれた。

「まず、こちらが現当主のオリバー・オズモンド。次に兄のオルド、弟のカイン。
祖母のフリージア、母のソーラ、姉のオフィリアだ。」

(…一家大集合じゃないの!!!)

ユミルは何とか笑顔を保ったが、口元が引き攣る。

「お爺様がユミルを呼ぶといったら、みんな集まってしまったのよ。大勢で驚いたでしょう?どうせ、レインは貴女に伝えていなかったでしょうし。」
「…大変、恐縮です。」

ユミルはオフィリアの言葉に強く頷きたい気持ちになったが、オズモンド家に囲まれながら、はっきりとレインに文句を言うことなどできるはずもない。

「まぁ!レインったら、ユミルさんに伝えていなかったの?」

ユミルの反応で察したのか、母ソーラが驚いたように声を上げると、レインは少しだけ顔を歪めた。

「今日、ここへ連れてくることは言いました。」
「いつ言ったのかしら?それに、誰と、というのは伝えたのかしら?」
「…昨日。」

レインが小さく答えるのを見て、ユミルは意外に思った。

(レイン様でも、母親には頭が上がらないのね。)

「あらあら!まぁまぁ!ユミルさん、本当にごめんなさいね。」
「いえ!とんでもございません。…いつものことですから。」
「レイン!貴方って子は…。」
「伝える時期も、メンバーも、来ることに変わりがないのだから、意味がありません。」
「「「そういうところよ!!」」」

オズモンド家の女性陣が一斉に声を上げた。

「この家の男の人は、これだから嫌なの。」
「必要あるとか、必要ないとか、効率がどうこうとかではなくて、思いやりの問題でしょう?」

ソーラとオフィリアが口々に文句を言うと、オズモンド家の男性陣が縮こまった。

「いや、俺はレインほどでは…。」

オルドが控えめに口を挟むと、矛先がオルドへと移った。

「お嫁さんが領地に帰ってしまった甲斐性無しが、何を言うのかしら。」

ソーラはじとり、とオルドを睨みつける。

「いや、出産のために一時的に帰っているだけじゃないか…。」
「そうね、出産はとてもストレスがかかるもの。ストレスをかける貴方と一緒に居ては、さらに苦しいだけだわ。」
「…。」

黙ってしまったオルド。他の男性陣も何かを口に出せば藪蛇だと思ったのか口を閉ざしている。
ユミルは想像もしなかった始まり方に、最初はぽかんとしていたものの、あの高名なオズモンド家の内情を見て大きく口を開けて笑いたくなった。
貴族だと身構えていたが、家庭内の小さな言い合いは平民と変わらないところもあるらしい。

「ゴホン、ゴホン。…いやはや、お恥ずかしいところをお見せしました。
でも、実際、レインの性格には悩まされているのではないか?」

ガイウスが咳ばらいをしながら話を変えると、オルドはあからさまにほっとした様子を見せた。どうやら、弟のレインよりも兄のオルドの方が、感情表現が豊かなようだ。

「とても良く話を聞いてくださるので、とても助かっています。」

困っていることもあるが、ユミルは本心からそう思っていた。
真っ直ぐにガイウスを見て伝えると、ガイウスは少し驚いたように目を見開いた後、最初よりも柔らかい表情で笑った。

「そうか、そうか。レインは兄弟の中でも一等口下手だからね。そう言ってくれる人がいることは、良いことだ。」

そこからは給仕が食事を運んできて、想像以上に和やかに食事は進んだ。
レインが嘘をつかず、周りの意地悪い貴族と違って真っ直ぐなのは、この家族があったからなのだろう、とユミルは心が温かくなった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

処理中です...