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第6章 おでかけ
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ユミルは先ほどから口が開きっぱなしだ。
第一に、オズモンド家の邸宅は大きすぎた。レインの邸宅はまだ、オズモンド家が所有していたものの中でもこぢんまりとしたものだったらしい。
第二に、お出迎えも豪華だった。フットマンと侍女が何人も並んでいた。
ユミルよりもずっと出自の良いであろう使用人たちに頭を下げられながら歩くのは、ユミルを大変疲弊させた。
最後に、レインの祖父が待っているという部屋の扉が開いた瞬間、ついにユミルの口は閉まらなくなった。
(え?え??え~~~~~!?
なんか、人、多くない~~~~~!?)
今日は、レインの祖父と、もしかしたらオフィリアもいるかもしれない、そんな考えでユミルはこの邸宅の敷居を跨いだ。
しかし、この部屋には男性が4人、女性が3人もいるではないか。
綺麗な服を着て、既にテーブルについているところを見ると、この家の人のようだ。
女性のうち1人はオフィリアであることがわかるが、それ以外の人がユミルには全く分からなかった。辛うじて、男性の1人が、現当主のような気がしなくもない。
ユミルは新聞に頻繁に載るような貴族でなければ、貴族の顔を知らなかった。
(先に!言ってよ!!)
ユミルは少し前にある、平然とユミルを紹介しているレインの背中をどつきたい気持ちでいっぱいになったが、何とか堪えて礼を取った。
「初めまして、ユミル・アッシャーでございます。卑賎の身ながら、本日お招きいただきましたこと、心から御礼申し上げます。」
テーブルについていた面々は口々に「よろしく。」「ようこそ。」とユミルに返すと、着席を促した。
「ようこそ、オズモンド家へ。ガイウス・オズモンド、貴女を招いたのは私です。杖の修復をありがとう。」
高齢の男性が顔を皺くちゃにして、笑顔を浮かべてくれると、ユミルは「この人があの杖の使用者か。」と納得する一方で、既視感を覚えて「あれ?」と思う。
「祖父は、アビウス局長の兄だ。」
「ああ、そうか。貴女は先ほどアビウスに会ったんだったね。彼は婿入りしたから姓が異なるんだ。」
レインとガイウスが補足を入れてくれたので、ユミルはなるほど、と頷く。
(どおりで、笑顔がそっくりなわけだわ)
「そうだったのですね。杖の修復について、満足いただけていると、良いのですが。」
「仕上がりにはとても満足しているよ。」
ガイウスのこの言葉に、レインが言っていたとおり、悪い意味で呼ばれたわけではなさそうだと、ユミルは強張らせていた肩を少し和らげる。
「俺たちのことも紹介してもらえないか。」
現当主と思しき男性が声をかけると、レインはひとりずつ、手で指し示しながら紹介をしてくれた。
「まず、こちらが現当主のオリバー・オズモンド。次に兄のオルド、弟のカイン。
祖母のフリージア、母のソーラ、姉のオフィリアだ。」
(…一家大集合じゃないの!!!)
ユミルは何とか笑顔を保ったが、口元が引き攣る。
「お爺様がユミルを呼ぶといったら、みんな集まってしまったのよ。大勢で驚いたでしょう?どうせ、レインは貴女に伝えていなかったでしょうし。」
「…大変、恐縮です。」
ユミルはオフィリアの言葉に強く頷きたい気持ちになったが、オズモンド家に囲まれながら、はっきりとレインに文句を言うことなどできるはずもない。
「まぁ!レインったら、ユミルさんに伝えていなかったの?」
ユミルの反応で察したのか、母ソーラが驚いたように声を上げると、レインは少しだけ顔を歪めた。
「今日、ここへ連れてくることは言いました。」
「いつ言ったのかしら?それに、誰と、というのは伝えたのかしら?」
「…昨日。」
レインが小さく答えるのを見て、ユミルは意外に思った。
(レイン様でも、母親には頭が上がらないのね。)
「あらあら!まぁまぁ!ユミルさん、本当にごめんなさいね。」
「いえ!とんでもございません。…いつものことですから。」
「レイン!貴方って子は…。」
「伝える時期も、メンバーも、来ることに変わりがないのだから、意味がありません。」
「「「そういうところよ!!」」」
オズモンド家の女性陣が一斉に声を上げた。
「この家の男の人は、これだから嫌なの。」
「必要あるとか、必要ないとか、効率がどうこうとかではなくて、思いやりの問題でしょう?」
ソーラとオフィリアが口々に文句を言うと、オズモンド家の男性陣が縮こまった。
「いや、俺はレインほどでは…。」
オルドが控えめに口を挟むと、矛先がオルドへと移った。
「お嫁さんが領地に帰ってしまった甲斐性無しが、何を言うのかしら。」
ソーラはじとり、とオルドを睨みつける。
「いや、出産のために一時的に帰っているだけじゃないか…。」
「そうね、出産はとてもストレスがかかるもの。ストレスをかける貴方と一緒に居ては、さらに苦しいだけだわ。」
「…。」
黙ってしまったオルド。他の男性陣も何かを口に出せば藪蛇だと思ったのか口を閉ざしている。
ユミルは想像もしなかった始まり方に、最初はぽかんとしていたものの、あの高名なオズモンド家の内情を見て大きく口を開けて笑いたくなった。
貴族だと身構えていたが、家庭内の小さな言い合いは平民と変わらないところもあるらしい。
「ゴホン、ゴホン。…いやはや、お恥ずかしいところをお見せしました。
でも、実際、レインの性格には悩まされているのではないか?」
ガイウスが咳ばらいをしながら話を変えると、オルドはあからさまにほっとした様子を見せた。どうやら、弟のレインよりも兄のオルドの方が、感情表現が豊かなようだ。
「とても良く話を聞いてくださるので、とても助かっています。」
困っていることもあるが、ユミルは本心からそう思っていた。
真っ直ぐにガイウスを見て伝えると、ガイウスは少し驚いたように目を見開いた後、最初よりも柔らかい表情で笑った。
「そうか、そうか。レインは兄弟の中でも一等口下手だからね。そう言ってくれる人がいることは、良いことだ。」
そこからは給仕が食事を運んできて、想像以上に和やかに食事は進んだ。
レインが嘘をつかず、周りの意地悪い貴族と違って真っ直ぐなのは、この家族があったからなのだろう、とユミルは心が温かくなった。
第一に、オズモンド家の邸宅は大きすぎた。レインの邸宅はまだ、オズモンド家が所有していたものの中でもこぢんまりとしたものだったらしい。
第二に、お出迎えも豪華だった。フットマンと侍女が何人も並んでいた。
ユミルよりもずっと出自の良いであろう使用人たちに頭を下げられながら歩くのは、ユミルを大変疲弊させた。
最後に、レインの祖父が待っているという部屋の扉が開いた瞬間、ついにユミルの口は閉まらなくなった。
(え?え??え~~~~~!?
なんか、人、多くない~~~~~!?)
今日は、レインの祖父と、もしかしたらオフィリアもいるかもしれない、そんな考えでユミルはこの邸宅の敷居を跨いだ。
しかし、この部屋には男性が4人、女性が3人もいるではないか。
綺麗な服を着て、既にテーブルについているところを見ると、この家の人のようだ。
女性のうち1人はオフィリアであることがわかるが、それ以外の人がユミルには全く分からなかった。辛うじて、男性の1人が、現当主のような気がしなくもない。
ユミルは新聞に頻繁に載るような貴族でなければ、貴族の顔を知らなかった。
(先に!言ってよ!!)
ユミルは少し前にある、平然とユミルを紹介しているレインの背中をどつきたい気持ちでいっぱいになったが、何とか堪えて礼を取った。
「初めまして、ユミル・アッシャーでございます。卑賎の身ながら、本日お招きいただきましたこと、心から御礼申し上げます。」
テーブルについていた面々は口々に「よろしく。」「ようこそ。」とユミルに返すと、着席を促した。
「ようこそ、オズモンド家へ。ガイウス・オズモンド、貴女を招いたのは私です。杖の修復をありがとう。」
高齢の男性が顔を皺くちゃにして、笑顔を浮かべてくれると、ユミルは「この人があの杖の使用者か。」と納得する一方で、既視感を覚えて「あれ?」と思う。
「祖父は、アビウス局長の兄だ。」
「ああ、そうか。貴女は先ほどアビウスに会ったんだったね。彼は婿入りしたから姓が異なるんだ。」
レインとガイウスが補足を入れてくれたので、ユミルはなるほど、と頷く。
(どおりで、笑顔がそっくりなわけだわ)
「そうだったのですね。杖の修復について、満足いただけていると、良いのですが。」
「仕上がりにはとても満足しているよ。」
ガイウスのこの言葉に、レインが言っていたとおり、悪い意味で呼ばれたわけではなさそうだと、ユミルは強張らせていた肩を少し和らげる。
「俺たちのことも紹介してもらえないか。」
現当主と思しき男性が声をかけると、レインはひとりずつ、手で指し示しながら紹介をしてくれた。
「まず、こちらが現当主のオリバー・オズモンド。次に兄のオルド、弟のカイン。
祖母のフリージア、母のソーラ、姉のオフィリアだ。」
(…一家大集合じゃないの!!!)
ユミルは何とか笑顔を保ったが、口元が引き攣る。
「お爺様がユミルを呼ぶといったら、みんな集まってしまったのよ。大勢で驚いたでしょう?どうせ、レインは貴女に伝えていなかったでしょうし。」
「…大変、恐縮です。」
ユミルはオフィリアの言葉に強く頷きたい気持ちになったが、オズモンド家に囲まれながら、はっきりとレインに文句を言うことなどできるはずもない。
「まぁ!レインったら、ユミルさんに伝えていなかったの?」
ユミルの反応で察したのか、母ソーラが驚いたように声を上げると、レインは少しだけ顔を歪めた。
「今日、ここへ連れてくることは言いました。」
「いつ言ったのかしら?それに、誰と、というのは伝えたのかしら?」
「…昨日。」
レインが小さく答えるのを見て、ユミルは意外に思った。
(レイン様でも、母親には頭が上がらないのね。)
「あらあら!まぁまぁ!ユミルさん、本当にごめんなさいね。」
「いえ!とんでもございません。…いつものことですから。」
「レイン!貴方って子は…。」
「伝える時期も、メンバーも、来ることに変わりがないのだから、意味がありません。」
「「「そういうところよ!!」」」
オズモンド家の女性陣が一斉に声を上げた。
「この家の男の人は、これだから嫌なの。」
「必要あるとか、必要ないとか、効率がどうこうとかではなくて、思いやりの問題でしょう?」
ソーラとオフィリアが口々に文句を言うと、オズモンド家の男性陣が縮こまった。
「いや、俺はレインほどでは…。」
オルドが控えめに口を挟むと、矛先がオルドへと移った。
「お嫁さんが領地に帰ってしまった甲斐性無しが、何を言うのかしら。」
ソーラはじとり、とオルドを睨みつける。
「いや、出産のために一時的に帰っているだけじゃないか…。」
「そうね、出産はとてもストレスがかかるもの。ストレスをかける貴方と一緒に居ては、さらに苦しいだけだわ。」
「…。」
黙ってしまったオルド。他の男性陣も何かを口に出せば藪蛇だと思ったのか口を閉ざしている。
ユミルは想像もしなかった始まり方に、最初はぽかんとしていたものの、あの高名なオズモンド家の内情を見て大きく口を開けて笑いたくなった。
貴族だと身構えていたが、家庭内の小さな言い合いは平民と変わらないところもあるらしい。
「ゴホン、ゴホン。…いやはや、お恥ずかしいところをお見せしました。
でも、実際、レインの性格には悩まされているのではないか?」
ガイウスが咳ばらいをしながら話を変えると、オルドはあからさまにほっとした様子を見せた。どうやら、弟のレインよりも兄のオルドの方が、感情表現が豊かなようだ。
「とても良く話を聞いてくださるので、とても助かっています。」
困っていることもあるが、ユミルは本心からそう思っていた。
真っ直ぐにガイウスを見て伝えると、ガイウスは少し驚いたように目を見開いた後、最初よりも柔らかい表情で笑った。
「そうか、そうか。レインは兄弟の中でも一等口下手だからね。そう言ってくれる人がいることは、良いことだ。」
そこからは給仕が食事を運んできて、想像以上に和やかに食事は進んだ。
レインが嘘をつかず、周りの意地悪い貴族と違って真っ直ぐなのは、この家族があったからなのだろう、とユミルは心が温かくなった。
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