上 下
51 / 69
第7章 レインの不可思議な行動

51

しおりを挟む
あれからというもの、ユミルの宝物は増えるばかり。
要するに、レインがどんどん物を贈ってくるのだ。

まず、毎晩高級なお菓子をくれる。フクの太ってしまうのも時間の問題だ。

(フクだけに、“ふく”よかってね。…実際は全然笑えないけど。そんなつもりでつけた名前じゃないけど。)

次に、身の回りのものを、ことあるごとにくれる。
例えば、ユミルが杖を持ち運ぶときに使っている鞄だとか、万年筆だとか、綺麗なキラキラがたくさん付いたコンパクトミラーだとか、実際に使いそうなものを贈ってくれるのだ。

気づけば、身の回りにあるものはレインが選んでくれたもので溢れている。
とてもセンスが良いので、ユミルはどれも喜んで使っている。

もちろん、ユミルはそれを断ろうとした。
しかし、レインは「この前の修復の臨時の代わりだ」とか「君が貰わなければゴミ箱行きだ」とか言うので、ユミルは最終的にいつもそれを貰ってしまう。

確かに、最近はユミルの杖修復の際の“強化”について検証するために、レイン以外の杖をメンテナンスしたり修復したりすることがある。
しかし、それもレインが量を考えて持ってくるので、丁度いい暇つぶしになる程度だ。

ユミルは贈り物をされることについて、満更でもないと思っている自分が怖かった。

(この生活に慣れてしまっては…ダメ!!)

心の底から自分を叱咤するものの、毎晩レインと顔を合わせてしまうと、ついついそのことを忘れてしまうのだ。

「ユミル、少し良いか?」
「はい、何でしょう?」

毎晩のメンテナンスの後、ユミルはレインに声をかけられると、2人で応接用のソファに腰をかけた。

「先日言っていた、君の杖の修復についてだが、やはり、杖が強化されていた。」
「そうだったんですね!でも、どうやってわかってのですか?」
「魔法道具を使って、修復前と後の杖の強度を数値化したんだ。
修復前の杖の状態にもよるが、1回の修復で、高い場合で2倍、少なくとも1.5倍の強度になる。
私のように毎晩メンテナンスをしている場合はその効果が薄まるが、毎回徐々に強度を増しているらしい。」

以前オズモンド家で話しを聞いたときは、強化されてもおまけ程度の効果だと思っていたので、ユミルは想像以上の数値に目を丸くする。

「そんな…びっくりしました。」
「私も、最初は君の修復は残痕が残らないことが良いと思っていたが、予想外の効果だ。
そこで、魔法局の研究員が、君の修復魔法をかけている様子を見たいと言っているのだが、良いだろうか?」
「学園で習ったこと以上のことはしていないつもりなのですが…、お役に立てるのなら喜んで。」
「ありがとう。それでは、明後日にこちらに来るから、」
「え?私が行くんじゃないんですか?」

ユミルは先日の証人喚問と同じく、当然ユミルの方が行くのだと思っていたので、驚いて思わず途中で口を挟んでしまう。

「今回は大した役職も付いていない研究員が相手だ。あちらに来させる。」
「いやいやいやいや…。」

(大した役職もついていないって…貴方から見たら、大したことある役職の方が少ないでしょうが…!そもそも、魔法局に勤めているだけで、エリート魔法使いでしょ!)

「私が行きます。私は時間を持て余していますし、研究員さんもお忙しいでしょう。」
「危険だからダメだ。」
「…首都内でしかも魔法局までの道は特に安全です。エイディーもいます。」
「…君は随分とエイドリアンを信用しているんだな。」

レインがつまらなそうに言うので、ユミルは目を瞬いてしまう。

「だって、レイン様が連れて来たのだから、当然ではありませんか。」

ユミルは本心からきょとんとした表情のままそう言うと、レインは顔を覆って俯いた。

「君、本当に、そういうとこだぞ。」
「…え?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...