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2章 異世界オタクと人形達の街
24話 襲来
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―カンダラ市営鉱山―
「大変申し訳ありませんでした」
獄中を歩いていたら松明様と偶然遭遇した。俺は全身全霊の気持ちを込めて土下座して命乞いをする。
ブンブン?
うん? この反応は、もしかして……俺のビジネスをまだ知らないのか!?
くくくっ、なんだよ、おい。最近の俺、ついてるじゃねえか。
だがバレたら殺されそうなので、俺はちょっとお手洗いに、とその場を離れて、少し離れて護衛しているアンドレ―君に金貸し業の全てを破棄するように言った。
「いいの? 多分まだ、搾れると思うけど」
馬鹿っ。頃合いっていうのはギリギリを攻めるもんじゃ無いんだ。程々のところでやれば失敗なんて無いんだよ。
それにこれまで稼いだ金もある。十分やっていけるだろう。
だから、早く。早く証拠を消すんだ。
「わかった」
よし、行ったな。これで大丈夫だろう。
俺はすぐに松明様の元に向かった。
「いや、すみませんね。遅くなっちゃいましたか? さ、行きましょう、行きましょう。俺に話があるんですよね。立ち話じゃなんですし俺の休憩室にでも行きませんか?」
俺には一つ危惧があった。刺客だ。不特定多数から恨みを買う仕事なのでよく殺し屋を雇われて襲撃に遭うことが多い。
普段はアンドレ―君に処理してもらっているが、今彼はいない。さすがに彼以外の護衛がいないわけではないが、正直俺は信用していない。
俺はきっと目に力を入れて路地裏に潜む俺の護衛を見た。
「ふっ」
彼は気障ったく笑うと、分かっていると伝えたいのかウィンクをしようとして失敗した。
俺の胸は不安で満たされた。
「きょ、今日は天気がいいですね!」
俺は松明様と空を見上げた。つるりとした岩肌が見えた。
そういえばここ地下だったな。
「松明様はいままでどこにいらっしゃったんですか?」
ブンブン、ボフッ。
ふむふむ。翻訳するとヘベノの方へ現状報告をしに行ったらしい。この前話した計画をこっちで始めるのだとか。
計画ってなんだろう。まあ想像はできる。俺が眠すぎてろくに聞いてない時に話したことだろう。内容はなにもわからないけど。
だが俺は松明様の第一の使徒だ。不甲斐ないところを見せるわけにはいかない。
「ああ、あの計画ですね。こっちでも既にいろいろ始めてますよ。いわれた通りにやってます。順調順調」
ブンブン?
松明様は不思議な様子でこちらを見た。俺の言葉がトンチンカンだったらしい。
俺は急いで言い繕った。
「な、なんて、嘘ですよ。ジョーク、ジョーク。もう嫌だなぁ、こんなの真面目に受け取らないでくださいよぉ」
俺は何かの気配を感じて後ろを向いた。一見誰もいないように見えるが、それはない。俺は建物の屋上に口元を布で隠した男を発見した。手にはスナイパーライフルを持っている。
ち、刺客か。しかも重火器を持ってるってことは結構な手練れのようだな。
商業だけでのし上がったって可能性もあるが、だったら暗殺者なんて仕事しないだろう。あの暗殺者は今まで数多のターゲットを仕留めてきたに違いない。
俺は護衛のウィンク男に視線を送った。
「?」
ウィンク男は護衛のくせに刺客に気づいていなかった。
口には出せないのでなんとかジェスチャーで伝える。
あの建物の屋上に! 刺客が! いる!
ウィンク男は、砂色のテンガロンハットに触れて、そうならそうと言ってくださいよ的な顔をしてから、駆け出した。
よかった、伝わったみたいだ。
そして、近くの串焼き屋に向かうと、
「牛串、2本ください」
「まいどありー」
ウィンク男は俺に牛串を一本差し出した。
「どうぞ」
俺は受け取ると金を払って、牛串を食い始めた。
醤油風味の甘じょっぱい味付けがジューシーな牛肉によく合う。
「ありがとうね。やっぱ串焼きだったら牛串だよな。豚がいいとか、鶏がいいとかわめいている奴もいるが、俺が思うにあれはカッコつけだね。周りと違う俺かっこいいみたいな感じを味わうためにわざわざ好みじゃないものを金出して頼んでるんだ。ばかばかしい。あ、でも鶏は別だな。焼き鳥は美味い。こう、抗えない雰囲気があるんだよなぁ。でも、それとこれとは違うんだよ。そういう話じゃなくて、素直になれって話さ」
ウィンク男は牛串を頬張りながら、うんうんと頷いた。
持論を肯定してくれたこのウィンク男に少し好感度が沸いた。
俺は得意になって話を続ける。
「でもさ、あいつらの気持ちも分らんでもないのよ。人間だれしも自分が特別だと思いたいしな。それは当然の欲求だ。俺はこの欲求こそが進化を促していると踏んでるね。みんなとは違うことがしたいってバカやるやつが偶然上手くいって、他のやつもそれになるっていうのが進化だ。つまり、この欲求は人間がここまで進化するのに必要だったってわけだ」
彼は牛串を食べ終わると、意見を述べた。
「俺、進化論者じゃないんすけど、確かにそう思いますわ」
俺は食べ終わった串でウィンク男を指しながら、話を続ける。
「ほう、この世界だと進化論はそんなに強くないのか。ほかの論も聞いてみたい気がするが、まあここは一つ俺の話を聞いてくれよ」
「なんです?」
ウィンク男は興味ありげに耳を傾けた。
俺は松明様に聞かれないように、彼の耳元でささやきかけた。
「なんで牛串買ってきてるんだよ。あまりに自然な流れだったからうっかり持論をだらだらと言っちゃったじゃねえか」
「ノリノリでしたね」
ウィンク男は反省していないようだった。
「あのなぁ、お前自覚ないの? 君、俺の護衛だからね。俺のジェスチャー伝わらなかったのは、まあいいよ。仕方ないさ。わかりづらかった俺も悪い。でも、あそこに刺客がいるんだぞ。なんで護衛対象の俺が先に気づくんだよ。もっと常に気を張ってろよ」
ウィンク男はは後ろ頭を掻きながら、照れ笑いした。
「いや、すみません。昨日徹夜だったもんで。新作のソシャゲが結構、出来が良かったんすよ。知ってます? 『燃える枯れ木』っていうんですけど」
「いや、知らねえよ。っていうか『燃える枯れ木』ってただの焚火じゃねえか。なんだよ、それ。キャンプシミュレーションか?」
ウィンク男は反論した。
「いや、マジで面白いんですって。やってみてくださいよ。無料ですし」
俺は手のひらを見せて呆れながら言った。
「どうせ廃課金ゲーなんだろ? 俺は感情に囚われると抑えが効かなくなるからな。やめとくわ」
ウィンク男は手をぶんぶん振った。
「社長さん、俺らの間ではこういう言葉あります。曰く、『健全な課金は、課金ではない』と」
「それ完璧に廃課金者たちの理論だよな。っていうか、また話が逸れたわ。お前、早く刺客を討って来いよ。社長死ぬぞ」
そうこう言っているうちに、銃弾が飛んできた。間一髪で俺は避ける。
「ほらぁ、もう撃ってきてるじゃん。ほら、早くいけよ」
ウィンク男は少し考えて、真面目な顔をして言った。
「俺、そんなに足が速くないんで、暗殺者のところに行くまでに社長死ぬと思うんですよ。で、放っておいても社長は死ぬじゃないですか。ってことは成功報酬は絶対支払われないですよね。前金は貰ってるし、走るのダルいし、これ、行かない方がいいと思うんですよ。社長はどう思います?」
「どう思いますじゃねえよ。それ相談する相手間違ってるよ。なんで見殺しにしようとしている相手に見殺しの許可を貰おうとしてるの? 阿呆なの?」
俺はウィンク男を叱っている間にも襲撃は続く。この世界の住人にとって対物でもない限り銃は一撃必殺の武器ではない。どんなに打ちどころが悪くても普通の弾なら青タンくらいで済むのだ。地球で言う対物レベルじゃなければ血を流させるのは難しい。
だが、俺は死ぬ。腐ったトマトみたいに脳髄をぶちまけて派手に死ねる。
その認識の差が常に命取りである。
今回の銃撃は暗殺を目的にしていない。おそらく嫌がらせの類であろう。
色々自由とはいえここは牢獄だからな。殺しをやる奴は少ない。
このウィンク男には俺の戦闘能力の無さを予め話してあるが、それは身内以外では公開していない情報である。わざわざ弱点を晒す必要がないと考えたからだ。
つまり周りは俺に嫌がらせをしているつもりなのに俺はそれで死にそうなのだ。やってらんねぇ。
「じゃあ、とりあえずお前は飛んでくる銃弾を防いどけ。できるんだろ」
ウィンク男は、うい、とやる気なさそうに頷くと、彼の武器であるスタンガンを取り出した。こいつはいかにも西部劇に出てくる早撃ちの名人っぽい見た目をしているくせに、電撃遣いなのである。
さて俺は松明様のフォローに向かわねばならん。
ブンブンブン??
俺は慌ててウィンク男の紹介をした。
「こ、こいつは最近できた飲み仲間でして、忠兵衛って言うんです。廃課金者で怠け者で馬鹿ですが、腕はたちますし、なかなか筋が通った奴っすよ。ほら、忠兵衛、挨拶しろ」
変な偽名を付けられたウィンク男は気にすることもなく挨拶した。
「チューベエっす」
どうやら松明様から溢れだす強者のオーラを感じ取ったようだな。雑魚キャラじゃないってことだ。
ボフッ。
おっと松明様が怪しがっておられるな。どうしたことか。
いや、ノリで押し切ろう。それしかない。
俺は忠兵衛(偽名)と顔を見合わせた。コクリと二人でうなずく。
話をあやふやにするにはあれしかない。そう、アルコールだ。
「松明様、喉が渇きません?」
「社長の驕りっすか?」
お前に聞いてねえし、なんでたかろうとしてんだよ。
松明様が無反応だ。まあ反対というわけでもないのだろう。
というわけでそういうことになった。
―大衆酒場 木枠の鷲亭―
牢獄内には町としての機能が一通りそろっている。病院もあれば、映画館もある。その中の一つであるここ、木枠の鷲亭はいつでも人が絶えない騒がしい場所だ。
この場所に来れば誰しも陽気に騒ぎ出す。
もちろん俺もだ。
「ぷはぁっあー、くぅう、やっぱこれのために生きてるって感じがするわ」
俺はヒロペノ酒をゴッゴッと飲み干すと、開口一番にそういった。俺は二十歳ではないので酒は飲まないがヒロペノ酒は別だ。アルコールが入ってないからな。なのに酔える。
素晴らしい飲み物だ。アムリタとでもルビ振りたいくらいだぜ。
「社長って未成年だったんですか? いつも酒場にいるからてっきり過ぎてるのかと思ってました」
ウィンク男が発泡酒の入ったジョッキを片手にそんなことを言った。俺は気分がいいので懇切丁寧にそのわけを教えてやる。
「俺は確かにヒロペノ酒が好きだが、そのためだけにここにきてるわけじゃねえんだよ。情報収集だ。情報と言ったら酒場と決まってるだろ。だから俺はここにきてるんだよ。……あ、そこの姉ちゃん、酒追加ね」
「はぁーい」
俺はつまみのサラミをチビチビかじりながら松明様の方を向いた。
「どうです。俺もちょっとは成長したでしょ? 俺はたぶんマナトタイプだと思うんすよ。ああ、グリムガルね。パーティメンバーが呑気に眠っている時間、一人で酒場に行って情報収集を欠かさず、表からも裏からもみんなを支えるリーダーってやつだとね。まあだからと言って殺されたいわけじゃないんです。しかもゴブリン相手にですよ。思うにマナトはひとつ失敗をしていたんだ。そう、誰かのために頑張ってたからな。俺は違う。自分一人のために自分のすべてを費やせる。浮気はないわけですよ。どうです、完璧でしょう? おっと、なんでみんな静まり返ったんだ? いつもみたく騒ぎ出せよ。女の尻を追っかけて痛い目にあったり、酒をあおり過ぎて看板娘じゃなくて、モノホンの看板とイチャイチャしたりよ」
ひそひそ声が聞こえる。
「もしかして、あれが双六か」
「ええ、関わったら呪われるとかなんとか……」
「やめろ、聞こえるぞ」
聞こえてるわ。っていうか俺の評判ってそんなに悪くなってたの? 確かに最近新規加入者が少なくなってきたなぁとは思ってたんだけど、そこまで悪評が進んでいたとは。
まあいい。もともと長続きするとは考えていないからな。それより松明様の処置が最優先だ。
「松明様は何頼みます?」
松明様は魔精石を所望した。残念ながらメニューにはない。俺は懐からとっておきのひと粒を取り出すと松明様の前に差し出した。
松明様は満足気に頷いた。納得して頂けたようだ。
魔精石は光の粒となって分解され、松明様の炎に吸い込まれて溶け込む。
俺は店の大将を呼ぶ。そして耳を傾けさせると小声で、
「この店が惜しかったらゴミ共を追い出せ」
と恐喝した。この店の大将とは知り合いで具体的に言うと金を貸している。多少の無茶ならねじ伏せられるのだ。
今、店内にいるゴミ共に俺の悪行を喋られれば松明様は俺を見限るだろう。勇者を圧倒できる武力。敵になるとすればこれほど恐ろしいものはない。
「わ、分かった。追い出そう。だが、こっちも商売だ、だから……」
俺は言葉を手で遮った。
「言いたいことは分かる。だが心配しなくていい。お前の借金はチャラだ。俺はこの仕事から足を洗う」
大将は口をあんぐりと開けてしばらく驚いていたが、すぐに口角が上がり頬が赤くなった。
「そいつはありがたいっ。だが、いいのか?」
俺は好青年のような爽やかな笑みを湛えて言った。
「俺はこんなところで終わる人間じゃないんでね」
俺は地上を懐かしそうに仰いだ。
「大変申し訳ありませんでした」
獄中を歩いていたら松明様と偶然遭遇した。俺は全身全霊の気持ちを込めて土下座して命乞いをする。
ブンブン?
うん? この反応は、もしかして……俺のビジネスをまだ知らないのか!?
くくくっ、なんだよ、おい。最近の俺、ついてるじゃねえか。
だがバレたら殺されそうなので、俺はちょっとお手洗いに、とその場を離れて、少し離れて護衛しているアンドレ―君に金貸し業の全てを破棄するように言った。
「いいの? 多分まだ、搾れると思うけど」
馬鹿っ。頃合いっていうのはギリギリを攻めるもんじゃ無いんだ。程々のところでやれば失敗なんて無いんだよ。
それにこれまで稼いだ金もある。十分やっていけるだろう。
だから、早く。早く証拠を消すんだ。
「わかった」
よし、行ったな。これで大丈夫だろう。
俺はすぐに松明様の元に向かった。
「いや、すみませんね。遅くなっちゃいましたか? さ、行きましょう、行きましょう。俺に話があるんですよね。立ち話じゃなんですし俺の休憩室にでも行きませんか?」
俺には一つ危惧があった。刺客だ。不特定多数から恨みを買う仕事なのでよく殺し屋を雇われて襲撃に遭うことが多い。
普段はアンドレ―君に処理してもらっているが、今彼はいない。さすがに彼以外の護衛がいないわけではないが、正直俺は信用していない。
俺はきっと目に力を入れて路地裏に潜む俺の護衛を見た。
「ふっ」
彼は気障ったく笑うと、分かっていると伝えたいのかウィンクをしようとして失敗した。
俺の胸は不安で満たされた。
「きょ、今日は天気がいいですね!」
俺は松明様と空を見上げた。つるりとした岩肌が見えた。
そういえばここ地下だったな。
「松明様はいままでどこにいらっしゃったんですか?」
ブンブン、ボフッ。
ふむふむ。翻訳するとヘベノの方へ現状報告をしに行ったらしい。この前話した計画をこっちで始めるのだとか。
計画ってなんだろう。まあ想像はできる。俺が眠すぎてろくに聞いてない時に話したことだろう。内容はなにもわからないけど。
だが俺は松明様の第一の使徒だ。不甲斐ないところを見せるわけにはいかない。
「ああ、あの計画ですね。こっちでも既にいろいろ始めてますよ。いわれた通りにやってます。順調順調」
ブンブン?
松明様は不思議な様子でこちらを見た。俺の言葉がトンチンカンだったらしい。
俺は急いで言い繕った。
「な、なんて、嘘ですよ。ジョーク、ジョーク。もう嫌だなぁ、こんなの真面目に受け取らないでくださいよぉ」
俺は何かの気配を感じて後ろを向いた。一見誰もいないように見えるが、それはない。俺は建物の屋上に口元を布で隠した男を発見した。手にはスナイパーライフルを持っている。
ち、刺客か。しかも重火器を持ってるってことは結構な手練れのようだな。
商業だけでのし上がったって可能性もあるが、だったら暗殺者なんて仕事しないだろう。あの暗殺者は今まで数多のターゲットを仕留めてきたに違いない。
俺は護衛のウィンク男に視線を送った。
「?」
ウィンク男は護衛のくせに刺客に気づいていなかった。
口には出せないのでなんとかジェスチャーで伝える。
あの建物の屋上に! 刺客が! いる!
ウィンク男は、砂色のテンガロンハットに触れて、そうならそうと言ってくださいよ的な顔をしてから、駆け出した。
よかった、伝わったみたいだ。
そして、近くの串焼き屋に向かうと、
「牛串、2本ください」
「まいどありー」
ウィンク男は俺に牛串を一本差し出した。
「どうぞ」
俺は受け取ると金を払って、牛串を食い始めた。
醤油風味の甘じょっぱい味付けがジューシーな牛肉によく合う。
「ありがとうね。やっぱ串焼きだったら牛串だよな。豚がいいとか、鶏がいいとかわめいている奴もいるが、俺が思うにあれはカッコつけだね。周りと違う俺かっこいいみたいな感じを味わうためにわざわざ好みじゃないものを金出して頼んでるんだ。ばかばかしい。あ、でも鶏は別だな。焼き鳥は美味い。こう、抗えない雰囲気があるんだよなぁ。でも、それとこれとは違うんだよ。そういう話じゃなくて、素直になれって話さ」
ウィンク男は牛串を頬張りながら、うんうんと頷いた。
持論を肯定してくれたこのウィンク男に少し好感度が沸いた。
俺は得意になって話を続ける。
「でもさ、あいつらの気持ちも分らんでもないのよ。人間だれしも自分が特別だと思いたいしな。それは当然の欲求だ。俺はこの欲求こそが進化を促していると踏んでるね。みんなとは違うことがしたいってバカやるやつが偶然上手くいって、他のやつもそれになるっていうのが進化だ。つまり、この欲求は人間がここまで進化するのに必要だったってわけだ」
彼は牛串を食べ終わると、意見を述べた。
「俺、進化論者じゃないんすけど、確かにそう思いますわ」
俺は食べ終わった串でウィンク男を指しながら、話を続ける。
「ほう、この世界だと進化論はそんなに強くないのか。ほかの論も聞いてみたい気がするが、まあここは一つ俺の話を聞いてくれよ」
「なんです?」
ウィンク男は興味ありげに耳を傾けた。
俺は松明様に聞かれないように、彼の耳元でささやきかけた。
「なんで牛串買ってきてるんだよ。あまりに自然な流れだったからうっかり持論をだらだらと言っちゃったじゃねえか」
「ノリノリでしたね」
ウィンク男は反省していないようだった。
「あのなぁ、お前自覚ないの? 君、俺の護衛だからね。俺のジェスチャー伝わらなかったのは、まあいいよ。仕方ないさ。わかりづらかった俺も悪い。でも、あそこに刺客がいるんだぞ。なんで護衛対象の俺が先に気づくんだよ。もっと常に気を張ってろよ」
ウィンク男はは後ろ頭を掻きながら、照れ笑いした。
「いや、すみません。昨日徹夜だったもんで。新作のソシャゲが結構、出来が良かったんすよ。知ってます? 『燃える枯れ木』っていうんですけど」
「いや、知らねえよ。っていうか『燃える枯れ木』ってただの焚火じゃねえか。なんだよ、それ。キャンプシミュレーションか?」
ウィンク男は反論した。
「いや、マジで面白いんですって。やってみてくださいよ。無料ですし」
俺は手のひらを見せて呆れながら言った。
「どうせ廃課金ゲーなんだろ? 俺は感情に囚われると抑えが効かなくなるからな。やめとくわ」
ウィンク男は手をぶんぶん振った。
「社長さん、俺らの間ではこういう言葉あります。曰く、『健全な課金は、課金ではない』と」
「それ完璧に廃課金者たちの理論だよな。っていうか、また話が逸れたわ。お前、早く刺客を討って来いよ。社長死ぬぞ」
そうこう言っているうちに、銃弾が飛んできた。間一髪で俺は避ける。
「ほらぁ、もう撃ってきてるじゃん。ほら、早くいけよ」
ウィンク男は少し考えて、真面目な顔をして言った。
「俺、そんなに足が速くないんで、暗殺者のところに行くまでに社長死ぬと思うんですよ。で、放っておいても社長は死ぬじゃないですか。ってことは成功報酬は絶対支払われないですよね。前金は貰ってるし、走るのダルいし、これ、行かない方がいいと思うんですよ。社長はどう思います?」
「どう思いますじゃねえよ。それ相談する相手間違ってるよ。なんで見殺しにしようとしている相手に見殺しの許可を貰おうとしてるの? 阿呆なの?」
俺はウィンク男を叱っている間にも襲撃は続く。この世界の住人にとって対物でもない限り銃は一撃必殺の武器ではない。どんなに打ちどころが悪くても普通の弾なら青タンくらいで済むのだ。地球で言う対物レベルじゃなければ血を流させるのは難しい。
だが、俺は死ぬ。腐ったトマトみたいに脳髄をぶちまけて派手に死ねる。
その認識の差が常に命取りである。
今回の銃撃は暗殺を目的にしていない。おそらく嫌がらせの類であろう。
色々自由とはいえここは牢獄だからな。殺しをやる奴は少ない。
このウィンク男には俺の戦闘能力の無さを予め話してあるが、それは身内以外では公開していない情報である。わざわざ弱点を晒す必要がないと考えたからだ。
つまり周りは俺に嫌がらせをしているつもりなのに俺はそれで死にそうなのだ。やってらんねぇ。
「じゃあ、とりあえずお前は飛んでくる銃弾を防いどけ。できるんだろ」
ウィンク男は、うい、とやる気なさそうに頷くと、彼の武器であるスタンガンを取り出した。こいつはいかにも西部劇に出てくる早撃ちの名人っぽい見た目をしているくせに、電撃遣いなのである。
さて俺は松明様のフォローに向かわねばならん。
ブンブンブン??
俺は慌ててウィンク男の紹介をした。
「こ、こいつは最近できた飲み仲間でして、忠兵衛って言うんです。廃課金者で怠け者で馬鹿ですが、腕はたちますし、なかなか筋が通った奴っすよ。ほら、忠兵衛、挨拶しろ」
変な偽名を付けられたウィンク男は気にすることもなく挨拶した。
「チューベエっす」
どうやら松明様から溢れだす強者のオーラを感じ取ったようだな。雑魚キャラじゃないってことだ。
ボフッ。
おっと松明様が怪しがっておられるな。どうしたことか。
いや、ノリで押し切ろう。それしかない。
俺は忠兵衛(偽名)と顔を見合わせた。コクリと二人でうなずく。
話をあやふやにするにはあれしかない。そう、アルコールだ。
「松明様、喉が渇きません?」
「社長の驕りっすか?」
お前に聞いてねえし、なんでたかろうとしてんだよ。
松明様が無反応だ。まあ反対というわけでもないのだろう。
というわけでそういうことになった。
―大衆酒場 木枠の鷲亭―
牢獄内には町としての機能が一通りそろっている。病院もあれば、映画館もある。その中の一つであるここ、木枠の鷲亭はいつでも人が絶えない騒がしい場所だ。
この場所に来れば誰しも陽気に騒ぎ出す。
もちろん俺もだ。
「ぷはぁっあー、くぅう、やっぱこれのために生きてるって感じがするわ」
俺はヒロペノ酒をゴッゴッと飲み干すと、開口一番にそういった。俺は二十歳ではないので酒は飲まないがヒロペノ酒は別だ。アルコールが入ってないからな。なのに酔える。
素晴らしい飲み物だ。アムリタとでもルビ振りたいくらいだぜ。
「社長って未成年だったんですか? いつも酒場にいるからてっきり過ぎてるのかと思ってました」
ウィンク男が発泡酒の入ったジョッキを片手にそんなことを言った。俺は気分がいいので懇切丁寧にそのわけを教えてやる。
「俺は確かにヒロペノ酒が好きだが、そのためだけにここにきてるわけじゃねえんだよ。情報収集だ。情報と言ったら酒場と決まってるだろ。だから俺はここにきてるんだよ。……あ、そこの姉ちゃん、酒追加ね」
「はぁーい」
俺はつまみのサラミをチビチビかじりながら松明様の方を向いた。
「どうです。俺もちょっとは成長したでしょ? 俺はたぶんマナトタイプだと思うんすよ。ああ、グリムガルね。パーティメンバーが呑気に眠っている時間、一人で酒場に行って情報収集を欠かさず、表からも裏からもみんなを支えるリーダーってやつだとね。まあだからと言って殺されたいわけじゃないんです。しかもゴブリン相手にですよ。思うにマナトはひとつ失敗をしていたんだ。そう、誰かのために頑張ってたからな。俺は違う。自分一人のために自分のすべてを費やせる。浮気はないわけですよ。どうです、完璧でしょう? おっと、なんでみんな静まり返ったんだ? いつもみたく騒ぎ出せよ。女の尻を追っかけて痛い目にあったり、酒をあおり過ぎて看板娘じゃなくて、モノホンの看板とイチャイチャしたりよ」
ひそひそ声が聞こえる。
「もしかして、あれが双六か」
「ええ、関わったら呪われるとかなんとか……」
「やめろ、聞こえるぞ」
聞こえてるわ。っていうか俺の評判ってそんなに悪くなってたの? 確かに最近新規加入者が少なくなってきたなぁとは思ってたんだけど、そこまで悪評が進んでいたとは。
まあいい。もともと長続きするとは考えていないからな。それより松明様の処置が最優先だ。
「松明様は何頼みます?」
松明様は魔精石を所望した。残念ながらメニューにはない。俺は懐からとっておきのひと粒を取り出すと松明様の前に差し出した。
松明様は満足気に頷いた。納得して頂けたようだ。
魔精石は光の粒となって分解され、松明様の炎に吸い込まれて溶け込む。
俺は店の大将を呼ぶ。そして耳を傾けさせると小声で、
「この店が惜しかったらゴミ共を追い出せ」
と恐喝した。この店の大将とは知り合いで具体的に言うと金を貸している。多少の無茶ならねじ伏せられるのだ。
今、店内にいるゴミ共に俺の悪行を喋られれば松明様は俺を見限るだろう。勇者を圧倒できる武力。敵になるとすればこれほど恐ろしいものはない。
「わ、分かった。追い出そう。だが、こっちも商売だ、だから……」
俺は言葉を手で遮った。
「言いたいことは分かる。だが心配しなくていい。お前の借金はチャラだ。俺はこの仕事から足を洗う」
大将は口をあんぐりと開けてしばらく驚いていたが、すぐに口角が上がり頬が赤くなった。
「そいつはありがたいっ。だが、いいのか?」
俺は好青年のような爽やかな笑みを湛えて言った。
「俺はこんなところで終わる人間じゃないんでね」
俺は地上を懐かしそうに仰いだ。
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