ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

文字の大きさ
14 / 23

こうしてわたしに友達ができた

しおりを挟む
girlside
 

「そこまで悪い点数じゃないと思うけど」

 相浦の家で、この前実施されたテスト結果を見せてもらったわたしは、予想外に良い点数に困惑した。
 多分、合計点はクラスでも上半分には入るんじゃないだろうか。

「わたしは大学、特待生枠狙ってるから」
「それは……」

 どこの大学かはわからないが正直厳しいだろうとそう思ってしまった。彼女の成績は、悪くもなければ良くもないというのが正直なところだろう。とは言い難かった。

「言われなくてもわかってるよ。だから頼んでんだし」

 言葉を選ぼうと言いあぐねているわたしを見て、なんとなくなにを考えているか伝わってしまったらしい。しかし彼女は気にする様子もなく、あっけからんにそう答えた。

 しかし、特待生枠か……。

「家計が厳しかったりするの?」

 つまり貧乏なの?という疑問をいくらかマイルドにして伝えたわけだが、そのことについて相浦が怒る様子はない。ただ厳しい視線で自分のテスト結果を眺めている。

「別に大学のお金は、出してくれると思うよ」
「じゃあ浮いたお金でお小遣いアップを狙ってるとか?」
「誰がそんなコスいこと考えるかよ!」

 これには怒るらしい。よくわからない沸点だ。

「お金は出してくれると思うけど、ただ、わたしが勝手にそれを嫌って思ってるだけ」

 ムスッと口を尖らせたまま彼女は答える。

 家庭の事情というやつなのだろう。そこに深く切り込んでいいものかと頭を悩ませた自分に、わたしは驚いた。深く切り込むリスクなんて、以前なら取ろうとすらしなかっただろう。

「今、一日どれくらい勉強してる?」

 わたしは結局、尻込みしてそれ以上家庭の事情について突っ込まなかった。

「4時間くらい。本当はもっとしなきゃって思ってるけど、バイトとかもあるとどうにも時間がさ……」

 四時間は十分に思える。しかし、まるで罪を告白するかのごとく後ろめたそうにしている様子から、彼女にとっては足りない自覚があるらしい。

「ならバイト減らしなよ……」
「あー。うち、両親が事故で死んじゃってさ。それからは、兄ちゃんが家計を支えてくれてるんだ。だからさ、少しでも……負担、減らしたいんだよ」

 ああ、それでお金を出してもらうのが嫌と言っていたのか。わたしが聞こうか聞くまいか迷っていた事情を、彼女はあっさりと語った。

「よく、そういうこと話せるね。わたし、はっきり言って全然仲良くないのに」
「そりゃ普通は絶対言えないけどさ、おまえは話してくれただろ。普通は言えないような、自分の秘密。おまえが自分の弱みを見せてくれたから、わたしも見せられるんだよ。なんていうか、秘密ってさ、やっぱり誰かと共有すると、気は楽になるんだよ。だからさ、話せる相手ができて正直嬉しかった」

 彼女の言葉に、なんだか鼻がむず痒くなった。

 わたしが彼女に秘密を打ち明けてしまったのは何故だろうか。別に話したことを後悔しているわけじゃない。むしろ、気持ちは晴れやかだ。ただ、自分で自分の行動が疑問に思ったのだ。彼女の言う通り、気が楽になりたかったから?どうにもしっくりこない。

 ああ、そうか。わたしは友達が欲しかったのもしれない。彼女と秘密を共有することで、その関係を特別なものにしたかったのかもしれない。

 なんだ。わたしは相浦と友達になりたかったのか。自分のことながら、今更気づいた。

「とにかく、バイトは減らさないし、特待生も狙う」
「現実、そんなに甘くないよ。二兎を追うものは一兎も得られないって、意外と真理だから」

 そうなんだ。すごい、きっとできるよ。がんばって。

 もしこれを言ってきたのがクラスメイトだったなら、わたしはそんな言葉をかけてあげただろう。もめたくないし、適当に気持ちよくさせてやればいいやって。けれど、わたしの口から出たのは本心だった。彼女には嘘をつきたくなかった。

「それでもわたしは二兎を追って、二兎仕留めるよ」

 言い争いになるかもしれないと思っていた私に彼女が向けたのは、いつもの仏頂面が嘘のような笑顔だった。

 自分の目標が簡単じゃないことなんて、私に言われなくても彼女が一番わかっているんだろう。知ったような口を利いてしまった自分が恥ずかしくてたまらなくなった。

「この間も兄ちゃんがさ、ボーナス入ったからなにか欲しい物ないかって聴いてきてさ。あいつ、自分のために全然お金使わないんだよ。だから焼き肉に連れてけって言って、たらふく肉食わせたけどさ」

 相浦は自分へのご褒美を口実に兄に贅沢をさせているらしい。なんともまあ健気というかなんというか。将来は良いお嫁さんになりそうだ。

「だから、彼方。わたしが特待生枠狙えるように、勉強教えてくれ。いや、教えてください」

「この通り」と、頭を下げた相浦の額が、ローテーブルにコツンと当たる。

 ……その姿を見て、わたしが約二年ちょっと彼女に抱いていたイメージはまったくの見当外れだったことを思い知らされた。彼女は全然孤高じゃなかった。人のことを思いやれる優しい人間だった。

「うん、いいよ」

 一片の迷いもなくそう答えた。でもそれは別に嫌われないためではなくて、わたしがそうしたいって思ったからだ。そう思えることがたまらなく嬉しかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...