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タイムスリップ編
「公園はみんなのもの」と公園に住み着いたやつが言っているようだ
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「それはないわー」「正直そんなにおっきいのに一文無しなのはどうかと思う」「うまい棒を買うお金はあるのに?」「もっと計画性を持たないとこれからの人生……」
と、なぜかおよそ僕の半分ほどしか生きていないはずの小学生ズに人生の厳しさを説かれるハメになった。
この時ばかりは僕も本気で自分が生きる価値のないゴミなのかもしれないと急に京都に旅行に行き清水寺から飛び降りたくなった。
「世の中金が全てじゃないぞ。そう落ち込むなよ」
藤崎瑠璃子がまるで部下を気遣う上司かのような超上から目線で、ベンチに座る僕の肩を叩いてきてぶっ殺そうかと思った。けどそうだよな。何もお金以外でも誠意を示すことはできるよな。ほら、例えば指を詰めるとか? うわ難易度たっか。
「…とりあえず後でまた謝りに行くことにするよ。プレゼントはそこの誰が忘れたかもわからないサッカーボールでも持ってくことにしようかな」
「あの、そ、それどろぼーじゃ」
気弱そうな小学生は気弱そうなくせしてしっかりと犯罪者予備軍の僕を咎めてきた。
「んー、じゃあ僕のストレス発散に借りることにするよ。元の場所に戻せばバレないだろうし」
「それなら……まぁ、いぃ、いいんじゃ、ないです……かね」
バレなきゃいい。いつの時代も通じる素晴らしき世の真理である。
「じゃあドッチボールしようぜ」
藤崎瑠璃子が地面に転がったサッカーボールを拾い上げた。……さしあたって、彼女にサッカーボールというのはサッカーに使う為にあるからサッカーボールと呼ぶのだということを教える必要がありそうだ。
なぁなぁとその場のノリに流されて、小学生3人と2対2のドッチボールに励むことになった。現実逃避には持ってこいかもしれない。
こういう時、普通なら年の離れた僕がバランスブレイカーになってしまうのだろうけど、ノーコン×小学生達と僕とでは当たり判定の大きさがだいぶ違うこともあってか、全力を出しているにも関わらず、ドッチボールは良い勝負になっていた。
始める前は寒かったはずが、今ではみんな息を弾ませている。
肝心の液体窒素さんとは喧嘩別れをしておいて、小学生との距離ばかりが縮んでいく現状に思うところがないわけではないが、正直言って今非常に楽しいんだから仕方ない。
人一人の未来を台無しにしておいて、無責任極まり無いが仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。
ジャンケンによるペア替えを繰り返し、ヘトヘトになった僕は元気底なしの小学生達の格好の餌食となり、今しがたボールをぶつけられた回数は6回になった。そして試合の回数も共に6回である。
ところで、ドッチボールというのはボールに当たると外野に出て、外野でボールを当てられれば内野に戻れる。つまりどういうことかといえば、僕は毎試合外野に追い出され、一度たりとも内野に戻っていないということである。
穴があったら入りたい。疲れて膝をつく僕の視界前方に、見覚えのある御一行がやってきた。その御一行、なんと全員液体窒素さんが先生になるきっかけになる候補の高校生たちだったのだ。
うん、間違いない。勢揃いしてるな。さて、どう接触したものかな……と考えていたら、なんと高校生御一行はこちらに向かってきた。
よくわからないけど手間が省けたな。
「あのさぁ、いつもここ使ってるんだけど、退いてもらってもいい?」
と声をかけられた。よく見ればみんなラケットを持っている。声を掛けてきた男子が持っているボールから軟式テニスでもしたいっぽい。
「あー、わかった。じゃ、向こうの方で続きやろうか」
僕は逆側のスペースを指差して言うと、「はーい」と小学生達も素直に頷いた。
いや、そっちの方空いてるのにわざわざ僕たちを退かしてやらなくてもとは思うが、気に入ってる場所とかあるし、まだスペースもあるんだから、ささっと移動してあげるとしよう。
「ちょっと待って、勘違いさせちゃったみたいで悪いんだけど、ここって、この公園って意味なんだけど」
そそくさと即席で引いていたラインを消して移動しようとした僕らに、そんな声がかけられた。ボールを持った男子高校生の発言の意味がよく分からなかったが、少し考えて発言の意図に気づいた、なるほど。つまりあれだ。
「公園から出てけってことか」
「そうそう。」
「こ」「公園を私物化するのはどうかと思うけども」
橘恵美の口を塞いで、彼女が言おうとしただろう言葉を代弁した。彼女が要らぬヘイトを買ってしまうのは避けたい。僕はこれから居なくなるかもしれないけど、彼女たちはずっとこの高校生達と同じ町で暮らすわけだし。
ということをここで説明するわけにもいかないため、口を抑えられた橘恵美は絶賛僕のことを睨み中である。
口を抑えつけたというのに彼女はもごもごと何かを喋った。単語の数と状況から予想するに、「自分ことを棚にあげないでください」とでも言ってるのかな、多分。
まぁ、その意見にはぐうの音も出ないわけなんだけど。
「はぁ? いや、私物化も何も、急になのはそっちのほうじゃん」
「私たちいっつもここ使ってたんだけど」
若干苛立ちを含んだようにそう言われる。多分早い者勝ち理論的には僕らの大勝利なんだろうけど、どうも彼らに引く気は無いようにみえる。
面倒にならないうちに退散した方が良さそう「そっちが高校生のくせして私たちより子供みたいにワガママなこと言ってるって、小学生でもわかります!」
僕の手を口からひっぺがした橘恵美は彼らを指差してそんなことを口走った。はい、さっき代弁した僕の気遣いはたった今無駄になりました。
あれだ。子供って生意気だから仕方ないよ。
「言ってることは本当に正論だと思うけどここは黙ってた方が穏便に済むからどうか口を噤んでくださいお願いします」
僕は橘恵美の耳に手を添えて、早口に懇願した。が、どうも焦りでボリュームが上がりすぎていたようで、高校生集団にも聞こえてしまっていたらしい。
どうしてわかるかと言うと、彼らの眉がつり上がったり、顔がトマトみたいに赤くなったりしたからだ。
つまりどういうことかというとヤバい。とにかくヤバい。ヤバいしか出てこない僕の語彙力よりヤバい。
「あのさぁ、君たち小学生でしょ? 年上に譲っても良いと思うんだけど」
はい! ふじさきじん、 16ちゃい、こうこうせいです!……彼らの視界に僕は入ってないんだろうか。
「まぁ年上なら年上らしく子供達に場所を譲るくらいの寛大な心を見せてくれても良いと思うけどね」
自分の存在感が不安になってきたので、存在証明と、橘恵美に向けられたヘイトの分散も兼ねてそんなことを言ってみた。
反応を確かめると、先頭の男子高生がこめかみに血管を浮き出させてラケットを振りかぶっていた。
「いってぇぇっ」
次の瞬間襲ってきた顔面への痛みで僕は地面に手をつく。背後で小学生達の甲高い悲鳴が耳を刺した。
目線の先には、地面に転るラケットと、振り抜いたポーズを取った男子高校生が一人。その手にはあったはずのラケットがない。
どうやらラケットを顔面目掛けてぶん投げられたという事実を、鈍い痛みによって遅れながらに認識した。
背後を確認すると、小学生達は全員涙目になってるものの、どこにも怪我は見られず、少しホッとした。 狙われたのが僕であったことと、全員分のラケットが飛んでこなかっただけ良かったと思うべきなのかもしれない。
……痛みの中、「こいつらじゃないな。」と、僕はそう思っていた。
自分の思い通りにならないからと他人を平気で傷つけるような奴と、それを笑って見ている奴らが。そしてなによりも、そんな暴力を子供達の前で振るうなんて奴らが、液体窒素さんの、星野先生の大切な人のなわけがない。そう強く確信した。
しかし、彼らがどうでも良い存在だと分かったところでどうしたものか。
ここで格好良くこの高校生を無力化すれば小学生からは賞賛の眼差しを受け、恨みも晴らせそうだが、冷静に考えて相手は高校生5人だ。
対してこちらは小学生女子3人に、地面に這いつくばっている男子高校生一人。どうも勝算が欠片も見受けられない。
とりあえず立ち上がって、彼らに一言アドバイスをすることにした。
「こういことをするから、年下に尊敬してもらえないんだと思うよ。ただ年を取ってるってことに意味なんてないんだからさ。年を取ってるだけでえらいって思ってるって言いふらすのって、イコールで自分たちは愚かですって言いふらしてるようなもんだから。」
手を出しても勝てそうになかったので口を出して精神ダメージを狙うことにした。
「おいお前」
「ああ、あとこうして暴力に訴えるのは自分たちの言語能力が著しく低いですって証明することにもなるから控えた方が良いと思うよ」
反論を許さずに畳みかけてずっと俺のターンにしてやった。
どうやらラケットを投げてきた茶髪の男子高校生が一番血の気が多いらしく、彼は拳を固めて今にも殴りかかってきそうだが、他のメンバーは殴りかかってくる様子も、ラケットを振りかぶる様子もない。
「おまえ調子乗ってんじゃねぇぞ!」と、茶髪はついにダッシュで殴りかかってきた。それに対して僕は右手を振りかぶり、
「すなかけ!」
さっき地面に這いつくばった時に調達した砂を相手の顔にかけた。茶髪の男子は顔を顰めて、しかし普通に殴ってきた。
「いててててっ。お、おかしいな、すなかけには相手の命中率を下げる効果があるはずなんだけど……。ていうか、また顔かよ……」
「ポケモンやってる場合じゃないぞこのゲーム脳!」
「まじめにやってください!」
「あ、ふざけてないでま、前を見ないと、け、蹴りがっ」
と味方であるはずの背後の小学生達からの熱い真面目にやれコールが飛んできた。と思ったら蹴りも飛んできた。
蹴りはみぞおちにヒットして、僕は息ができなくなって、また地面に崩れ落ちた。そんな僕に蹴りの追撃はやまない。
また背後で悲鳴があがる。
「クソがぁ!ふざけやがって。おまえもう絶対許さねぇからなぁ!」
多分ラケットを投げてきた時点で許す気は無かったと思う。
茶髪はぺっぺっと口に入ったらしい砂を吐いて目を擦っている。ちゃんとすなかけは効いていたらしい。けどこの状況っていわゆる詰みってやつかもしれない。
なまじ喧嘩で勝てたとしても、子供に見せられるようなものにはならないと思うので、僕は後ろの小学生達に、
「頑張って逃げてくれ」
と伝えて、前を向き――目を見開いた。そこに、彼女が立っていたから。
ああ、そういえばこの公園は彼女のアパートから丸見えなんだったなと僕は思い出した。
「アツシ後ろ!」
傍観していた男子の一人が叫んだ。しかし茶髪がそれに気づいて後ろを振り向くより早く、彼の後ろに迫っていた液体窒素さんが彼の股間を蹴り上げた。
彼女はそのまま流れるように後ろで見ていた男達の股間も蹴り抜いた。実に手慣れた足さばきと、あまりの容赦ない蹴りの勢いに僕はタマヒュンした。
彼女は残った女子達に、
「女にはついてないけど、多分結構痛いと思うよ」
と、教科書通りの模範的な脅しを吐くと、女子達は薄情にも男子達を置いて逃げていった。
まあ、あんな惨劇を見せられた後じゃあそりゃ逃げて当然かもしれないけど。
「君たち、逃げよっか」
彼女はしゃがんで、微笑みながら小学生達に語りかけた。当然のように僕は無視である。こうして悶絶してる男子を尻目に、僕たちはその場を立ち去ることにした。
しかし、これから逃げようと言う時に、藤崎瑠璃子が唐突にまだ地面で悶絶している茶髪に近づいていく。そして、僕が止める間もなく、その茶色の頭目掛けてサッカーボールをぶん投げて、「良し!」とガッツポーズを取った。いや良くないから。
と、なぜかおよそ僕の半分ほどしか生きていないはずの小学生ズに人生の厳しさを説かれるハメになった。
この時ばかりは僕も本気で自分が生きる価値のないゴミなのかもしれないと急に京都に旅行に行き清水寺から飛び降りたくなった。
「世の中金が全てじゃないぞ。そう落ち込むなよ」
藤崎瑠璃子がまるで部下を気遣う上司かのような超上から目線で、ベンチに座る僕の肩を叩いてきてぶっ殺そうかと思った。けどそうだよな。何もお金以外でも誠意を示すことはできるよな。ほら、例えば指を詰めるとか? うわ難易度たっか。
「…とりあえず後でまた謝りに行くことにするよ。プレゼントはそこの誰が忘れたかもわからないサッカーボールでも持ってくことにしようかな」
「あの、そ、それどろぼーじゃ」
気弱そうな小学生は気弱そうなくせしてしっかりと犯罪者予備軍の僕を咎めてきた。
「んー、じゃあ僕のストレス発散に借りることにするよ。元の場所に戻せばバレないだろうし」
「それなら……まぁ、いぃ、いいんじゃ、ないです……かね」
バレなきゃいい。いつの時代も通じる素晴らしき世の真理である。
「じゃあドッチボールしようぜ」
藤崎瑠璃子が地面に転がったサッカーボールを拾い上げた。……さしあたって、彼女にサッカーボールというのはサッカーに使う為にあるからサッカーボールと呼ぶのだということを教える必要がありそうだ。
なぁなぁとその場のノリに流されて、小学生3人と2対2のドッチボールに励むことになった。現実逃避には持ってこいかもしれない。
こういう時、普通なら年の離れた僕がバランスブレイカーになってしまうのだろうけど、ノーコン×小学生達と僕とでは当たり判定の大きさがだいぶ違うこともあってか、全力を出しているにも関わらず、ドッチボールは良い勝負になっていた。
始める前は寒かったはずが、今ではみんな息を弾ませている。
肝心の液体窒素さんとは喧嘩別れをしておいて、小学生との距離ばかりが縮んでいく現状に思うところがないわけではないが、正直言って今非常に楽しいんだから仕方ない。
人一人の未来を台無しにしておいて、無責任極まり無いが仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。
ジャンケンによるペア替えを繰り返し、ヘトヘトになった僕は元気底なしの小学生達の格好の餌食となり、今しがたボールをぶつけられた回数は6回になった。そして試合の回数も共に6回である。
ところで、ドッチボールというのはボールに当たると外野に出て、外野でボールを当てられれば内野に戻れる。つまりどういうことかといえば、僕は毎試合外野に追い出され、一度たりとも内野に戻っていないということである。
穴があったら入りたい。疲れて膝をつく僕の視界前方に、見覚えのある御一行がやってきた。その御一行、なんと全員液体窒素さんが先生になるきっかけになる候補の高校生たちだったのだ。
うん、間違いない。勢揃いしてるな。さて、どう接触したものかな……と考えていたら、なんと高校生御一行はこちらに向かってきた。
よくわからないけど手間が省けたな。
「あのさぁ、いつもここ使ってるんだけど、退いてもらってもいい?」
と声をかけられた。よく見ればみんなラケットを持っている。声を掛けてきた男子が持っているボールから軟式テニスでもしたいっぽい。
「あー、わかった。じゃ、向こうの方で続きやろうか」
僕は逆側のスペースを指差して言うと、「はーい」と小学生達も素直に頷いた。
いや、そっちの方空いてるのにわざわざ僕たちを退かしてやらなくてもとは思うが、気に入ってる場所とかあるし、まだスペースもあるんだから、ささっと移動してあげるとしよう。
「ちょっと待って、勘違いさせちゃったみたいで悪いんだけど、ここって、この公園って意味なんだけど」
そそくさと即席で引いていたラインを消して移動しようとした僕らに、そんな声がかけられた。ボールを持った男子高校生の発言の意味がよく分からなかったが、少し考えて発言の意図に気づいた、なるほど。つまりあれだ。
「公園から出てけってことか」
「そうそう。」
「こ」「公園を私物化するのはどうかと思うけども」
橘恵美の口を塞いで、彼女が言おうとしただろう言葉を代弁した。彼女が要らぬヘイトを買ってしまうのは避けたい。僕はこれから居なくなるかもしれないけど、彼女たちはずっとこの高校生達と同じ町で暮らすわけだし。
ということをここで説明するわけにもいかないため、口を抑えられた橘恵美は絶賛僕のことを睨み中である。
口を抑えつけたというのに彼女はもごもごと何かを喋った。単語の数と状況から予想するに、「自分ことを棚にあげないでください」とでも言ってるのかな、多分。
まぁ、その意見にはぐうの音も出ないわけなんだけど。
「はぁ? いや、私物化も何も、急になのはそっちのほうじゃん」
「私たちいっつもここ使ってたんだけど」
若干苛立ちを含んだようにそう言われる。多分早い者勝ち理論的には僕らの大勝利なんだろうけど、どうも彼らに引く気は無いようにみえる。
面倒にならないうちに退散した方が良さそう「そっちが高校生のくせして私たちより子供みたいにワガママなこと言ってるって、小学生でもわかります!」
僕の手を口からひっぺがした橘恵美は彼らを指差してそんなことを口走った。はい、さっき代弁した僕の気遣いはたった今無駄になりました。
あれだ。子供って生意気だから仕方ないよ。
「言ってることは本当に正論だと思うけどここは黙ってた方が穏便に済むからどうか口を噤んでくださいお願いします」
僕は橘恵美の耳に手を添えて、早口に懇願した。が、どうも焦りでボリュームが上がりすぎていたようで、高校生集団にも聞こえてしまっていたらしい。
どうしてわかるかと言うと、彼らの眉がつり上がったり、顔がトマトみたいに赤くなったりしたからだ。
つまりどういうことかというとヤバい。とにかくヤバい。ヤバいしか出てこない僕の語彙力よりヤバい。
「あのさぁ、君たち小学生でしょ? 年上に譲っても良いと思うんだけど」
はい! ふじさきじん、 16ちゃい、こうこうせいです!……彼らの視界に僕は入ってないんだろうか。
「まぁ年上なら年上らしく子供達に場所を譲るくらいの寛大な心を見せてくれても良いと思うけどね」
自分の存在感が不安になってきたので、存在証明と、橘恵美に向けられたヘイトの分散も兼ねてそんなことを言ってみた。
反応を確かめると、先頭の男子高生がこめかみに血管を浮き出させてラケットを振りかぶっていた。
「いってぇぇっ」
次の瞬間襲ってきた顔面への痛みで僕は地面に手をつく。背後で小学生達の甲高い悲鳴が耳を刺した。
目線の先には、地面に転るラケットと、振り抜いたポーズを取った男子高校生が一人。その手にはあったはずのラケットがない。
どうやらラケットを顔面目掛けてぶん投げられたという事実を、鈍い痛みによって遅れながらに認識した。
背後を確認すると、小学生達は全員涙目になってるものの、どこにも怪我は見られず、少しホッとした。 狙われたのが僕であったことと、全員分のラケットが飛んでこなかっただけ良かったと思うべきなのかもしれない。
……痛みの中、「こいつらじゃないな。」と、僕はそう思っていた。
自分の思い通りにならないからと他人を平気で傷つけるような奴と、それを笑って見ている奴らが。そしてなによりも、そんな暴力を子供達の前で振るうなんて奴らが、液体窒素さんの、星野先生の大切な人のなわけがない。そう強く確信した。
しかし、彼らがどうでも良い存在だと分かったところでどうしたものか。
ここで格好良くこの高校生を無力化すれば小学生からは賞賛の眼差しを受け、恨みも晴らせそうだが、冷静に考えて相手は高校生5人だ。
対してこちらは小学生女子3人に、地面に這いつくばっている男子高校生一人。どうも勝算が欠片も見受けられない。
とりあえず立ち上がって、彼らに一言アドバイスをすることにした。
「こういことをするから、年下に尊敬してもらえないんだと思うよ。ただ年を取ってるってことに意味なんてないんだからさ。年を取ってるだけでえらいって思ってるって言いふらすのって、イコールで自分たちは愚かですって言いふらしてるようなもんだから。」
手を出しても勝てそうになかったので口を出して精神ダメージを狙うことにした。
「おいお前」
「ああ、あとこうして暴力に訴えるのは自分たちの言語能力が著しく低いですって証明することにもなるから控えた方が良いと思うよ」
反論を許さずに畳みかけてずっと俺のターンにしてやった。
どうやらラケットを投げてきた茶髪の男子高校生が一番血の気が多いらしく、彼は拳を固めて今にも殴りかかってきそうだが、他のメンバーは殴りかかってくる様子も、ラケットを振りかぶる様子もない。
「おまえ調子乗ってんじゃねぇぞ!」と、茶髪はついにダッシュで殴りかかってきた。それに対して僕は右手を振りかぶり、
「すなかけ!」
さっき地面に這いつくばった時に調達した砂を相手の顔にかけた。茶髪の男子は顔を顰めて、しかし普通に殴ってきた。
「いててててっ。お、おかしいな、すなかけには相手の命中率を下げる効果があるはずなんだけど……。ていうか、また顔かよ……」
「ポケモンやってる場合じゃないぞこのゲーム脳!」
「まじめにやってください!」
「あ、ふざけてないでま、前を見ないと、け、蹴りがっ」
と味方であるはずの背後の小学生達からの熱い真面目にやれコールが飛んできた。と思ったら蹴りも飛んできた。
蹴りはみぞおちにヒットして、僕は息ができなくなって、また地面に崩れ落ちた。そんな僕に蹴りの追撃はやまない。
また背後で悲鳴があがる。
「クソがぁ!ふざけやがって。おまえもう絶対許さねぇからなぁ!」
多分ラケットを投げてきた時点で許す気は無かったと思う。
茶髪はぺっぺっと口に入ったらしい砂を吐いて目を擦っている。ちゃんとすなかけは効いていたらしい。けどこの状況っていわゆる詰みってやつかもしれない。
なまじ喧嘩で勝てたとしても、子供に見せられるようなものにはならないと思うので、僕は後ろの小学生達に、
「頑張って逃げてくれ」
と伝えて、前を向き――目を見開いた。そこに、彼女が立っていたから。
ああ、そういえばこの公園は彼女のアパートから丸見えなんだったなと僕は思い出した。
「アツシ後ろ!」
傍観していた男子の一人が叫んだ。しかし茶髪がそれに気づいて後ろを振り向くより早く、彼の後ろに迫っていた液体窒素さんが彼の股間を蹴り上げた。
彼女はそのまま流れるように後ろで見ていた男達の股間も蹴り抜いた。実に手慣れた足さばきと、あまりの容赦ない蹴りの勢いに僕はタマヒュンした。
彼女は残った女子達に、
「女にはついてないけど、多分結構痛いと思うよ」
と、教科書通りの模範的な脅しを吐くと、女子達は薄情にも男子達を置いて逃げていった。
まあ、あんな惨劇を見せられた後じゃあそりゃ逃げて当然かもしれないけど。
「君たち、逃げよっか」
彼女はしゃがんで、微笑みながら小学生達に語りかけた。当然のように僕は無視である。こうして悶絶してる男子を尻目に、僕たちはその場を立ち去ることにした。
しかし、これから逃げようと言う時に、藤崎瑠璃子が唐突にまだ地面で悶絶している茶髪に近づいていく。そして、僕が止める間もなく、その茶色の頭目掛けてサッカーボールをぶん投げて、「良し!」とガッツポーズを取った。いや良くないから。
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