18 / 36
第二章 便利屋として
018 ヒーローは何人いてもいい
しおりを挟む
電話越しの訴えに、ウィルは短めに返事をした。
リックは「僕は無事だ」と言った。それはすなわち、『僕』以外の人間が無事ではないということ。逃げ遅れた人や店員が残っていると、泣きついてきたリサから聞いていた。
『ついでに酒も用意してもらおうか』
「酒も……? 車しか聞いていなかったから時間はかかるぞ」
『十分で用意しろ』
「十分は難しい。行き来だけでも一時間はかかる」
『なら三十分以内だ』
「善処する」
一度切り、相棒のシン・オーズリーと目配せをした。
「モリス以外は死んでいる可能性が高い。ギリギリでもう一度電話をかける」
アルコール類だけではなく、ジュースや食べ物、お菓子など、要求されてもいいように実はすでに用意されていた。
背後にいるリサの頬には、涙の跡がある。
「嬢ちゃんは大丈夫だ。怪我一つしていない」
「ふふ……あなたにとっては可愛いお嬢さん扱いなのね」
ウィルは罰が悪そうに顔を背ける。
「綺麗な女性は笑顔が似合う」
「ありがとう」
「本当はリックに言われたいだろうがな」
「そんなことはないわ。あなたに言われても嬉しいのよ。ねえ、私にできることはある?」
「祈っていてくれ。美人の祈りは神に届くって聞いたことはないか?」
「そんなことあるの?」
「学校の授業でそう習ったんだがな」
軽口を叩きつつ、ウィルは腕時計を見やる。残りはあと二五分。
「リサ、男の人数は五人で間違いないんだな?」
「ええ。そうよ。確かに五人だったわ」
「黒いマスクをしたアジア人風の男たちが、ワゴン車で逃走する瞬間を見ている人がいた。襲われたのは、時計店と宝石店」
オーズリーはメモを確認し、横で相づちを打つ。
「宝石店では二人の男が強盗。おそらく、狭い店内なのを知っていて大所帯は避けたんだろうな。時計店は五人。ワゴン車に乗る男は五人だった。まだ中には、少なくとも二人の強盗犯がいる。仲間割れがあったのか……とにかく気が立っているのは間違いない。人も迷いなく発砲している。慎重に行こう」
「明暗ですがギルバート刑事、あなたの行動を見ていると慎重とはほど遠いように思いますが。何度時計を見れば気が済みますか? 頭に上った血をなんとかして下さい。酸素は足りていますか?」
「俺とお前の回りの空気は同じだ」
「充分ですね。では本題に戻ります」
初めて会ったときは、あまり自己主張しないタイプかと思っていた。確かにアメリカ人のわりには主張は強くはない。が、いかんせん言葉がきつい。涼しい顔して言ってのける。
「私が代わりに交渉人を引き受けましょう。あなたは救出に向かって下さい」
「何か考えがあるんだな」
「現場での経験はあなたの方が慣れている。あなたが指揮を取るべきです。顔見知りがいる現場に、あまり行かせたくはありませんがね。冷静な交渉術なら、成績はそこそこでした」
「そこそこの交渉術は、点数をつけるとしたら何点くらいだ?」
「……七十点くらいかと」
「お前に任せる。俺より高い」
本当はもっと高いだろうが、彼の性格を考えるとあえて低めに言ったのだろう。七十点でもウィルの自己成績よりかは高い。得意分野は彼に任せ、ウィルは制服の上から拳銃にそっと触れた。
「そろそろ三十分だな」
強盗犯の独り言の後、タイミングよく電話がかかってきた。
スピーカーにし、男は電話を取る。
「用意できたか?」
『ええ、できましたよ。アルコールはビールとワインを』
この声はシン・オーズリーだ。彼も刑事だからいてもおかしくないが、ウィルは外されたのだろうか。
『お酒は車の後部座席に積んであります』
「分かった。人質は一緒に車に乗ってもらう。解放はしてやるが、それはお前たちがついて来ないと判断出来次第だ。どこかで車を駐めて、外に出す」
『分かりました。信じています。最後に、人質の無事を確認させて下さい』
「いいぜ」
やけにあっさりとしている。どうせ殺す人間だから、どうでもいいとさえ聞こえた。
「今のところ怪我はしていない。こちらは大丈夫だ」
『ご無事で何よりです。ご友人の方も心配されてますよ。必ず助けますので。くれぐれもおとなしくしているように、とのことです』
「…………分かった」
おそらくウィルだ。「くれぐれも」なんて、いかにもウィルらしい言い回しだ。
「車はどこに駐めてある?」
『出入り口に一番近いところです。黒いワゴン車で、キーはすでに車の中にあります。ご不満でしたら、場所を変えましょうか?』
「…………いや、いい」
上手い言い方だ。冷静な声と相手に寄り添う言葉を選べる判断力に、彼は交渉術に長けている。喘息の薬を服用したわけでもないのに、息が段々落ち着いてきた。
まだ今日の分の薬を飲んでいない。死ぬか生きるかの瀬戸際なのに、意外と私生活のことが気になるものだ。鍋に残っているミルクスープはどうなるのか。早く食べないと腐ってしまう。
「ほら、立て。お前が先にワゴン車に乗り込むんだ。逃げようとしたら撃つからな」
リックはゆっくりと椅子から立ち上がると、男たちの歩幅に合わせて歩き始めた。
警察の企みが分からない以上、彼らに従うしかない。先ほどの短い電話にも、隠れたメッセージらしいものはおとなしくしていろくらいだ。
エレベーターを降りると、微かに硝煙の臭いがする。リックは顔をしかめた。
自動ドアが開く直前、男はリックの背中に銃口を突きつけた。その位置で引き金を引かれたら、命はない。
駐車場には人がいる気配はなかった。静まり返っていて、強盗殺人が起きたなんて考えられないほどだ。閉店後のショッピングモールだった。
オーズリーが言っていた通り、目の前に黒のワゴン車がある。何の変哲もない、よくある車だ。気配を押し殺しているが、タイヤの陰には黒い靴が見えたがリックは知らないふりをした。
「乗れ」
リックは頷き、ワゴン車のドアに手をかけた。
後部座席には紙袋が置いてある。中にはビール瓶とワインボトルが入っていた。アルコールを犯人に渡すなどあっていいのかと疑問視する。
リックは乗る直前、あることが頭をよぎる。チャンスは一度きりしかない。何か合図さえあれば。
車に両足を乗せたとき、乾いた音が二発鳴った。背後ではくぐもった声が聞こえ、リックはとっさにワゴン車へ身体を押し込んだ。
背後を振り返ると、男が足を押さえて中国語で何か叫んでいる。
「ぐっ…………!」
拳銃を所持している男はリックの腕を掴むと、車内から無理やり引きずり下ろす。
リックは頭を天井にぶつけたが、掴まれる腕の痛みが勝っていた。
「くそったれ! どこだ!」
首が締まり、リックは小さなうめき声を上げる。
「動くな」
小言の申し子であるウィルは、怒りのこもった声で拳銃を向けた。
男はリックの頭に銃を突きつけ、大声で叫んだ。
「お前か! さっきの電話の男だな!」
ウィルは質問に答えず、銃を下げもしない。
男はリックを盾に、後ずさった。
「許されないものがある。お前は触れてはならないものに触れてしまった。忠告だ。そいつを離せ」
死ぬか生きるかの直前。ふたつの扉を目の前にした瞬間。
リックは過去の記憶が鮮明に蘇ってくる。
──いいか、リック。腕に蛇と天使、蝶のある奴らには……近寄る……な……。
腕の中で息絶えていく父と、鼻につく硝煙と血の臭い。
──パズルは整った。犯人も分かった。そして必ず君のパパも元気になってくれるさ。
真っ先に側へやってきた警察官は、父に似ているとずっと思っていたが、どちらかというとウィルに似ている。人間は声から忘れていくというが、低めの声もまだ耳に木霊している。
残念ながら元気になることはなかったが、力強い言葉に一種の憧れを抱いた。
あのとき、父は確かに蛇、天使、蝶と三つのワードを言っていた。十五歳から怪しげな集団に導かれていたのかもしれない。探偵になったのも、便利屋になったのも、すべては見えない何かに誘われていた。
「もう一度言う。離せ」
ウィルは一歩も引かない。鍛え上げられた腕と自信は、拳銃をまっすぐに犯人へ向けている。
リック自身も危ない状況なのに、ウィルには全信頼をおいていた。
「こいつがいて、お前に撃てるのか?」
震えた声で、男は強気な発言をする。
先に動いたのは、リックの頭に銃口を押し当てている犯人でもウィルでもない。
発砲音と共に犯人は声にならない声を上げて、前のめりに倒れる。
リックは隙をついて横に転がる。
間を塞ぐように、ウィルがリックの前に踊り出た。
もう一発、発砲音が聞こえた。
「がっ…………!」
犯人の声ではない。最悪な事態が起こってしまった。
「ウィル!」
リックは渾身の力で叫ぶ。
犯人の撃った弾は、ウィルの肩を貫いた。
真っ赤な血が雨のようにリックの身体に降り注ぐ。
大きな身体が地面に伏した後、後押しの弾は犯人の心臓付近を濡らした。
人の気配はなかったはずなのに、次々と警察官がやってきて、倒れた二人の犯人に群がった。車の隙間からウィルに足を撃たれた男は、抵抗する気はすでにない。
「ウィル…………」
「怪我はないか?」
リックは小さく頷くと、吐息混じりの声でお礼を口にする。
「死ぬなよ」
「お前もそんな顔をするんだな」
「このまま死なれちゃ、後味が悪すぎる」
「撃たれたのは肩だ。死にはしない」
自信満々に断言するも、血の海は現実を見せてくる。
「おい……リック…………?」
リックは大きく息をする。喉からひゅう、と嫌な音を出して地面に横たわった。
覚えのある苦しさに、どうすることもできない。重傷者なのに助けを求め、ウィルの腕にすがりつく。
ウィルは怪我をしていない手でリックの背中に手を回した。
繊細な手つきに、リックは安堵して瞼を閉じた。
リックは「僕は無事だ」と言った。それはすなわち、『僕』以外の人間が無事ではないということ。逃げ遅れた人や店員が残っていると、泣きついてきたリサから聞いていた。
『ついでに酒も用意してもらおうか』
「酒も……? 車しか聞いていなかったから時間はかかるぞ」
『十分で用意しろ』
「十分は難しい。行き来だけでも一時間はかかる」
『なら三十分以内だ』
「善処する」
一度切り、相棒のシン・オーズリーと目配せをした。
「モリス以外は死んでいる可能性が高い。ギリギリでもう一度電話をかける」
アルコール類だけではなく、ジュースや食べ物、お菓子など、要求されてもいいように実はすでに用意されていた。
背後にいるリサの頬には、涙の跡がある。
「嬢ちゃんは大丈夫だ。怪我一つしていない」
「ふふ……あなたにとっては可愛いお嬢さん扱いなのね」
ウィルは罰が悪そうに顔を背ける。
「綺麗な女性は笑顔が似合う」
「ありがとう」
「本当はリックに言われたいだろうがな」
「そんなことはないわ。あなたに言われても嬉しいのよ。ねえ、私にできることはある?」
「祈っていてくれ。美人の祈りは神に届くって聞いたことはないか?」
「そんなことあるの?」
「学校の授業でそう習ったんだがな」
軽口を叩きつつ、ウィルは腕時計を見やる。残りはあと二五分。
「リサ、男の人数は五人で間違いないんだな?」
「ええ。そうよ。確かに五人だったわ」
「黒いマスクをしたアジア人風の男たちが、ワゴン車で逃走する瞬間を見ている人がいた。襲われたのは、時計店と宝石店」
オーズリーはメモを確認し、横で相づちを打つ。
「宝石店では二人の男が強盗。おそらく、狭い店内なのを知っていて大所帯は避けたんだろうな。時計店は五人。ワゴン車に乗る男は五人だった。まだ中には、少なくとも二人の強盗犯がいる。仲間割れがあったのか……とにかく気が立っているのは間違いない。人も迷いなく発砲している。慎重に行こう」
「明暗ですがギルバート刑事、あなたの行動を見ていると慎重とはほど遠いように思いますが。何度時計を見れば気が済みますか? 頭に上った血をなんとかして下さい。酸素は足りていますか?」
「俺とお前の回りの空気は同じだ」
「充分ですね。では本題に戻ります」
初めて会ったときは、あまり自己主張しないタイプかと思っていた。確かにアメリカ人のわりには主張は強くはない。が、いかんせん言葉がきつい。涼しい顔して言ってのける。
「私が代わりに交渉人を引き受けましょう。あなたは救出に向かって下さい」
「何か考えがあるんだな」
「現場での経験はあなたの方が慣れている。あなたが指揮を取るべきです。顔見知りがいる現場に、あまり行かせたくはありませんがね。冷静な交渉術なら、成績はそこそこでした」
「そこそこの交渉術は、点数をつけるとしたら何点くらいだ?」
「……七十点くらいかと」
「お前に任せる。俺より高い」
本当はもっと高いだろうが、彼の性格を考えるとあえて低めに言ったのだろう。七十点でもウィルの自己成績よりかは高い。得意分野は彼に任せ、ウィルは制服の上から拳銃にそっと触れた。
「そろそろ三十分だな」
強盗犯の独り言の後、タイミングよく電話がかかってきた。
スピーカーにし、男は電話を取る。
「用意できたか?」
『ええ、できましたよ。アルコールはビールとワインを』
この声はシン・オーズリーだ。彼も刑事だからいてもおかしくないが、ウィルは外されたのだろうか。
『お酒は車の後部座席に積んであります』
「分かった。人質は一緒に車に乗ってもらう。解放はしてやるが、それはお前たちがついて来ないと判断出来次第だ。どこかで車を駐めて、外に出す」
『分かりました。信じています。最後に、人質の無事を確認させて下さい』
「いいぜ」
やけにあっさりとしている。どうせ殺す人間だから、どうでもいいとさえ聞こえた。
「今のところ怪我はしていない。こちらは大丈夫だ」
『ご無事で何よりです。ご友人の方も心配されてますよ。必ず助けますので。くれぐれもおとなしくしているように、とのことです』
「…………分かった」
おそらくウィルだ。「くれぐれも」なんて、いかにもウィルらしい言い回しだ。
「車はどこに駐めてある?」
『出入り口に一番近いところです。黒いワゴン車で、キーはすでに車の中にあります。ご不満でしたら、場所を変えましょうか?』
「…………いや、いい」
上手い言い方だ。冷静な声と相手に寄り添う言葉を選べる判断力に、彼は交渉術に長けている。喘息の薬を服用したわけでもないのに、息が段々落ち着いてきた。
まだ今日の分の薬を飲んでいない。死ぬか生きるかの瀬戸際なのに、意外と私生活のことが気になるものだ。鍋に残っているミルクスープはどうなるのか。早く食べないと腐ってしまう。
「ほら、立て。お前が先にワゴン車に乗り込むんだ。逃げようとしたら撃つからな」
リックはゆっくりと椅子から立ち上がると、男たちの歩幅に合わせて歩き始めた。
警察の企みが分からない以上、彼らに従うしかない。先ほどの短い電話にも、隠れたメッセージらしいものはおとなしくしていろくらいだ。
エレベーターを降りると、微かに硝煙の臭いがする。リックは顔をしかめた。
自動ドアが開く直前、男はリックの背中に銃口を突きつけた。その位置で引き金を引かれたら、命はない。
駐車場には人がいる気配はなかった。静まり返っていて、強盗殺人が起きたなんて考えられないほどだ。閉店後のショッピングモールだった。
オーズリーが言っていた通り、目の前に黒のワゴン車がある。何の変哲もない、よくある車だ。気配を押し殺しているが、タイヤの陰には黒い靴が見えたがリックは知らないふりをした。
「乗れ」
リックは頷き、ワゴン車のドアに手をかけた。
後部座席には紙袋が置いてある。中にはビール瓶とワインボトルが入っていた。アルコールを犯人に渡すなどあっていいのかと疑問視する。
リックは乗る直前、あることが頭をよぎる。チャンスは一度きりしかない。何か合図さえあれば。
車に両足を乗せたとき、乾いた音が二発鳴った。背後ではくぐもった声が聞こえ、リックはとっさにワゴン車へ身体を押し込んだ。
背後を振り返ると、男が足を押さえて中国語で何か叫んでいる。
「ぐっ…………!」
拳銃を所持している男はリックの腕を掴むと、車内から無理やり引きずり下ろす。
リックは頭を天井にぶつけたが、掴まれる腕の痛みが勝っていた。
「くそったれ! どこだ!」
首が締まり、リックは小さなうめき声を上げる。
「動くな」
小言の申し子であるウィルは、怒りのこもった声で拳銃を向けた。
男はリックの頭に銃を突きつけ、大声で叫んだ。
「お前か! さっきの電話の男だな!」
ウィルは質問に答えず、銃を下げもしない。
男はリックを盾に、後ずさった。
「許されないものがある。お前は触れてはならないものに触れてしまった。忠告だ。そいつを離せ」
死ぬか生きるかの直前。ふたつの扉を目の前にした瞬間。
リックは過去の記憶が鮮明に蘇ってくる。
──いいか、リック。腕に蛇と天使、蝶のある奴らには……近寄る……な……。
腕の中で息絶えていく父と、鼻につく硝煙と血の臭い。
──パズルは整った。犯人も分かった。そして必ず君のパパも元気になってくれるさ。
真っ先に側へやってきた警察官は、父に似ているとずっと思っていたが、どちらかというとウィルに似ている。人間は声から忘れていくというが、低めの声もまだ耳に木霊している。
残念ながら元気になることはなかったが、力強い言葉に一種の憧れを抱いた。
あのとき、父は確かに蛇、天使、蝶と三つのワードを言っていた。十五歳から怪しげな集団に導かれていたのかもしれない。探偵になったのも、便利屋になったのも、すべては見えない何かに誘われていた。
「もう一度言う。離せ」
ウィルは一歩も引かない。鍛え上げられた腕と自信は、拳銃をまっすぐに犯人へ向けている。
リック自身も危ない状況なのに、ウィルには全信頼をおいていた。
「こいつがいて、お前に撃てるのか?」
震えた声で、男は強気な発言をする。
先に動いたのは、リックの頭に銃口を押し当てている犯人でもウィルでもない。
発砲音と共に犯人は声にならない声を上げて、前のめりに倒れる。
リックは隙をついて横に転がる。
間を塞ぐように、ウィルがリックの前に踊り出た。
もう一発、発砲音が聞こえた。
「がっ…………!」
犯人の声ではない。最悪な事態が起こってしまった。
「ウィル!」
リックは渾身の力で叫ぶ。
犯人の撃った弾は、ウィルの肩を貫いた。
真っ赤な血が雨のようにリックの身体に降り注ぐ。
大きな身体が地面に伏した後、後押しの弾は犯人の心臓付近を濡らした。
人の気配はなかったはずなのに、次々と警察官がやってきて、倒れた二人の犯人に群がった。車の隙間からウィルに足を撃たれた男は、抵抗する気はすでにない。
「ウィル…………」
「怪我はないか?」
リックは小さく頷くと、吐息混じりの声でお礼を口にする。
「死ぬなよ」
「お前もそんな顔をするんだな」
「このまま死なれちゃ、後味が悪すぎる」
「撃たれたのは肩だ。死にはしない」
自信満々に断言するも、血の海は現実を見せてくる。
「おい……リック…………?」
リックは大きく息をする。喉からひゅう、と嫌な音を出して地面に横たわった。
覚えのある苦しさに、どうすることもできない。重傷者なのに助けを求め、ウィルの腕にすがりつく。
ウィルは怪我をしていない手でリックの背中に手を回した。
繊細な手つきに、リックは安堵して瞼を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる