54 / 67
第二章 フィアンセとバーテンダー
054 麗しき女性
しおりを挟む
空港は、国の香りがすると言われている。日本であれば醤油や魚、アメリカは甘いスイーツ、インドはスパイス。食生活の特色が鼻でも楽しめるなんて、世界中の空港を回りたくなる。
人生二度目のフランスのシャルル・ド・ゴール国際空港は、香水の香りがした。フランス人は香水好きで、俺もフランス人からプレゼントをもらったことがある。空港の香りからも、フランス人はいかに香水文化を大切にしているのか伺える。
スーツにサングラスという男性たちがいて、俺を見つけるなりまっすぐに向かってきた。どう見ても怪しい。
「花岡さんですね」
「はい、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「お迎えに上がりました。ディミトリ様がお待ちです」
「ありがとうございます」
いつぞやの会話を彷彿させるような、淡々とした会話である。必要のある台詞だけを選び、余計なものは省く。けれど答えはしてくれるので、マンドリュー・ラ・ナプールまでの数時間も退屈しなそうだ。
縦に長い車に乗ると、料理やワインが用意されていた。モニターでテレビも観られる。退屈しないで済みそうだ。
時間の感覚がおかしくなっているが、今は昼だ。甘めのクロワッサンとバゲットにハムとチーズを挟んだサンドイッチを食べたが、お酒は遠慮した。
黙って座っていただけなのに疲労が溜まっていたのか、しばらく車の中で眠ってしまった。ほどよい揺れも眠気を誘う原因だった。
「着きましたよ」
車から降りると、満開ではなくてもミモザの香りがしっかりと残っている。
優しい香りに向かえられて、お城とも呼べる大きな建築物の中に入った。
「ディミトリさんはいますか?」
「今は仕事で外出しております。夕食の時間帯には戻られますので、それまでは部屋でおくつろぎ下さい」
「なら、外に探検しに行ってもいいですか?」
「構いません。十九時までにはお戻り下さい」
「はーい」
てっきりついてくるかと思ったが、彼らは部屋を案内するだけでいなくなってしまった。
日本のアパートは小さめにできているというが、差がありすぎてため息しか出てこない。客室だろうが、ホテルのスイートルームを思わせるような、至れり尽くせりの部屋だ。テレビ、大きなベッド、テーブル。隣の部屋は風呂場とトイレ。トイレなんて、大人数名入れるんじゃないかという広さだ。十条のアパートと比べると差があるが、こんなに広いと落ち着かない。
荷物を置いて廊下に出ると、メイドとはち合わせた。決して愛想が良いわけではないが、歓迎されていないわけではないらしい。必要なものはあるか、夕食は午後七時、ベルを鳴らせば部屋まで行くと、彼女は必要事項を述べる。
ご親切にありがとうと、メルシーよりも最上級のフランス語を口にすると、彼女はとても驚いて笑顔を見せた。
探検したいのは、ルイの住んでいた塔の近くだ。あそこならば、土地勘はあるし、迷わないだろう。多分。
上着を持ってきて良かった。東京よりも肌寒く、気温は二十度を下回っている。天気が良いのは幸いで、寒くても外でじっとしていられないほどではない。
ルイの住んでいた塔を見つけた。相変わらず孤独に佇んでいる。家というより、ルイにとっては牢獄のような場所だろう。
しばらく眺めてから、もっと奥に進んでみることにした。
「………………?」
奥で、誰かの声がした。女性だ。小鳥のさえずりのように、かろやかで優しい声。
こっそり木陰から覗くと、モデルのようなすらりとした女性が、ワンピースの裾をひらめかせて歌を歌っていた。
人間というより、まるで妖精だ。ハニーブロンドの長い髪が揺れ、木々の若葉も彼女のステージを応援する舞台装置と化していた。
女性には人を吸い込む力があるようで、俺は小幅で彼女の元へ歩いていく。
「だあれ?」
フランス語だ。フランス人なのだから当たり前だろうが、言語を超えた何かを話しそうな気がする。
つい癖で頭を下げると、彼女は不思議そうに首を傾け、もう一度くるりと回った。
「あなた、日本人ね?」
「ええ、そうです」
「フランス語は分かるかしら? 英語の方がいい? 私は息子と違って、日本語が分からないの。日本ってどんなところかしら。和食は好きよ。ヘルシーで美味しいもの」
フランス語での日常会話はそこそこできるようになったと自負していたが、半分ほど理解できなかった。聞き間違いでなければ、息子という「フィス」が聞こえた。
「え? 息子?」
「あらやだ。子供がいるように見えないの? うふふ……成人息子が二人いるわ」
今度こそはっきり聞こえた。息子がいると言っている。
人に年齢を聞くのは失礼だが、この女性は時間が止まっているのではないか。成人の息子がいるのであれば、二十歳で生んでいても四十歳を超えている。
歌うように何か話しかけてくるが、ほとんどが聞き取れなかった。
「あの、できれば英語でお願いします。フランス語はまだ完璧じゃないんです」
「うふふ……そうなの? あなたのフランス語は好きよ。息子が目の前にいるみたい。ねえ、踊りましょう? 歌ってあげるわ。さあ、手を取って」
「ええ?」
「大丈夫よ。ほら、早く」
てっきり、さっきまで歌っていた歌だと思ったら、いきなりオペラが始まった。日本人でも知っている、有名な曲だ。しかもめちゃくちゃな上手さ。上手いなんて褒め言葉自体が失礼なんじゃないかと思う。
触れた腰は細いのに筋肉がしっかりしている。
「ぎこちないのは、女性と触れ合うのが慣れていないから? それともダンス経験がないのかしら?」
「どちらもですよ」
「なら、私が教えてあげる。あのね、一緒に踊ったら、きっと楽しいと思うの」
「息子さんとは踊らないんですか?」
「ダンスパーティーのときくらいしか踊ってくれないわ。とっても悲しい」
大きな目が潤み、涙だけではなく、瞳まで落ちてきてしまいそうだ。
「わ、分かりました……踊りましょう」
「あなたは音感あるから、きっとすぐに上手になるわ。ほら、早く」
年上のはずなのに、親戚の小さな子供を預かった気分だ。妹がいたら、きっと楽しいだろう。
彼女は音に敏感なだけでなく、体力も有り余っている。力を込めて引き寄せても、もたれかかったりせず、軸が一切ぶれなかった。
「あなたのこと、とても気に入ったわ。デートしてあげる。どこがいい? お茶でもしましょうよ」
「あの、なんてお呼びすれば?」
「そうねえ……」
ペラペラとよく喋る口が止まり、彼女は首を傾げて上を向いた。可愛らしい癖だ。
「ナンナ、はどうかしら? 日本人でも発音しやすいんじゃないかしら? 余計な敬称はなしにしてね」
「分かりました、ナンナ。俺はシキです」
「うふふ」
何がおかしいのか、自己紹介すると、彼女は新しいおもちゃを見つけたみたいに、ぴょんぴょん跳ねた。
「でも、十九時までに帰らないといけないんです」
「ま、シンデレラみたい。いいわ。数時間でも嬉しいもの」
今さらだと思うが、見ず知らずの女性と出かけてもいいものか。俺の手を掴んで離そうとしないので、とりあえずついて行くことにした。ドラッグの売人にも詐欺師にも見えない。
森を抜けると、車で来ていたようで運転席には男性が暇を持て余していた。
ナンナはものすごい早さのフランス語で何かつたえると、運転手は怪しげな目でじろじろと俺を見る。彼からすれば、王女様をたぶらかす悪者だ。
「すみません、英語は分かりますか? 彼女とお茶をすることになったんですけど……」
「まあシキったら。許可なんて必要ないわ。私があなたと甘いお菓子をつまみたいだけよ。紅茶とコーヒーはどちらが好き? 私はね、ハーブティーにするわ」
「ええと……お構いなく……」
「もう、はっきり言って」
「じゃあ、ハーブティーで」
「それならハーブティーの美味しいお店に行きましょう。タルトとよく合うのよ」
運転手は諦めたのか、何も言わなかった。
二人で後部座席に乗っている間も、彼女の話は止まらない。質問してきてはこちらが答える前に、納得して次の質問に飛んでいく。けれど、不思議と居心地は悪くなかった。よく喋っていても心地良い声で、歌うように話す彼女は波の音や山のせせらぎに近い。
「シキ、シキ、見て。あの木はすべてミモザなのよ」
「綺麗ですね。見頃は冬なんですよね」
「知っていたの? んもう、私が教えたかったのに」
「日本から来るときに、教えてもらいましたから」
「ふうん。あなたに教えた人は、どんな人? 素敵な人? ハンサム? オシャレな方?」
「ん? 全部当てはまってる人です」
ちょっと気になる質問だが、今は気にせずスルーすることにした。
「あなたにとって、その人はどんな人?」
「尊敬していて、大事な人です。俺の人間関係の中で、一番近い位置にいます。できれば、俺は側にいたい。けど……」
「何かあるの?」
「迷惑なんじゃないかって、思うときがあるんです。よく言われるんですけど、俺には暴走癖があって、それを指摘されます。迷惑をかけている自覚もあります」
「あなたが側にいたくて、相手もそれを望んでいるならいいんじゃないの?」
「相手が望んでいるかは、分からないんですよね。あまり自分の感情を表に出すタイプでもないんで」
「あなたは、その人とどうなりたいの?」
「どう?」
「お付き合いしているの?」
「そういう間柄じゃないんです。でも訳あって婚約を結んでいて、ある意味人質のような関係なんです」
日本に渡った遺産を探してルイの近状を内密に知らせるのが俺の仕事だ。勢いで婚約を結んだのはいいが、時間が経つごとに隠し事をしている事実から目を逸らしきれなくなってきた。ルイとは誠実に向かい合いたいのに、それができない。
車は細道に入り、駐車場に止まった。ナンナは顔の半分を隠すくらいの大きな黒いサングラスをかけ、外に出るよう促した。
人生二度目のフランスのシャルル・ド・ゴール国際空港は、香水の香りがした。フランス人は香水好きで、俺もフランス人からプレゼントをもらったことがある。空港の香りからも、フランス人はいかに香水文化を大切にしているのか伺える。
スーツにサングラスという男性たちがいて、俺を見つけるなりまっすぐに向かってきた。どう見ても怪しい。
「花岡さんですね」
「はい、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「お迎えに上がりました。ディミトリ様がお待ちです」
「ありがとうございます」
いつぞやの会話を彷彿させるような、淡々とした会話である。必要のある台詞だけを選び、余計なものは省く。けれど答えはしてくれるので、マンドリュー・ラ・ナプールまでの数時間も退屈しなそうだ。
縦に長い車に乗ると、料理やワインが用意されていた。モニターでテレビも観られる。退屈しないで済みそうだ。
時間の感覚がおかしくなっているが、今は昼だ。甘めのクロワッサンとバゲットにハムとチーズを挟んだサンドイッチを食べたが、お酒は遠慮した。
黙って座っていただけなのに疲労が溜まっていたのか、しばらく車の中で眠ってしまった。ほどよい揺れも眠気を誘う原因だった。
「着きましたよ」
車から降りると、満開ではなくてもミモザの香りがしっかりと残っている。
優しい香りに向かえられて、お城とも呼べる大きな建築物の中に入った。
「ディミトリさんはいますか?」
「今は仕事で外出しております。夕食の時間帯には戻られますので、それまでは部屋でおくつろぎ下さい」
「なら、外に探検しに行ってもいいですか?」
「構いません。十九時までにはお戻り下さい」
「はーい」
てっきりついてくるかと思ったが、彼らは部屋を案内するだけでいなくなってしまった。
日本のアパートは小さめにできているというが、差がありすぎてため息しか出てこない。客室だろうが、ホテルのスイートルームを思わせるような、至れり尽くせりの部屋だ。テレビ、大きなベッド、テーブル。隣の部屋は風呂場とトイレ。トイレなんて、大人数名入れるんじゃないかという広さだ。十条のアパートと比べると差があるが、こんなに広いと落ち着かない。
荷物を置いて廊下に出ると、メイドとはち合わせた。決して愛想が良いわけではないが、歓迎されていないわけではないらしい。必要なものはあるか、夕食は午後七時、ベルを鳴らせば部屋まで行くと、彼女は必要事項を述べる。
ご親切にありがとうと、メルシーよりも最上級のフランス語を口にすると、彼女はとても驚いて笑顔を見せた。
探検したいのは、ルイの住んでいた塔の近くだ。あそこならば、土地勘はあるし、迷わないだろう。多分。
上着を持ってきて良かった。東京よりも肌寒く、気温は二十度を下回っている。天気が良いのは幸いで、寒くても外でじっとしていられないほどではない。
ルイの住んでいた塔を見つけた。相変わらず孤独に佇んでいる。家というより、ルイにとっては牢獄のような場所だろう。
しばらく眺めてから、もっと奥に進んでみることにした。
「………………?」
奥で、誰かの声がした。女性だ。小鳥のさえずりのように、かろやかで優しい声。
こっそり木陰から覗くと、モデルのようなすらりとした女性が、ワンピースの裾をひらめかせて歌を歌っていた。
人間というより、まるで妖精だ。ハニーブロンドの長い髪が揺れ、木々の若葉も彼女のステージを応援する舞台装置と化していた。
女性には人を吸い込む力があるようで、俺は小幅で彼女の元へ歩いていく。
「だあれ?」
フランス語だ。フランス人なのだから当たり前だろうが、言語を超えた何かを話しそうな気がする。
つい癖で頭を下げると、彼女は不思議そうに首を傾け、もう一度くるりと回った。
「あなた、日本人ね?」
「ええ、そうです」
「フランス語は分かるかしら? 英語の方がいい? 私は息子と違って、日本語が分からないの。日本ってどんなところかしら。和食は好きよ。ヘルシーで美味しいもの」
フランス語での日常会話はそこそこできるようになったと自負していたが、半分ほど理解できなかった。聞き間違いでなければ、息子という「フィス」が聞こえた。
「え? 息子?」
「あらやだ。子供がいるように見えないの? うふふ……成人息子が二人いるわ」
今度こそはっきり聞こえた。息子がいると言っている。
人に年齢を聞くのは失礼だが、この女性は時間が止まっているのではないか。成人の息子がいるのであれば、二十歳で生んでいても四十歳を超えている。
歌うように何か話しかけてくるが、ほとんどが聞き取れなかった。
「あの、できれば英語でお願いします。フランス語はまだ完璧じゃないんです」
「うふふ……そうなの? あなたのフランス語は好きよ。息子が目の前にいるみたい。ねえ、踊りましょう? 歌ってあげるわ。さあ、手を取って」
「ええ?」
「大丈夫よ。ほら、早く」
てっきり、さっきまで歌っていた歌だと思ったら、いきなりオペラが始まった。日本人でも知っている、有名な曲だ。しかもめちゃくちゃな上手さ。上手いなんて褒め言葉自体が失礼なんじゃないかと思う。
触れた腰は細いのに筋肉がしっかりしている。
「ぎこちないのは、女性と触れ合うのが慣れていないから? それともダンス経験がないのかしら?」
「どちらもですよ」
「なら、私が教えてあげる。あのね、一緒に踊ったら、きっと楽しいと思うの」
「息子さんとは踊らないんですか?」
「ダンスパーティーのときくらいしか踊ってくれないわ。とっても悲しい」
大きな目が潤み、涙だけではなく、瞳まで落ちてきてしまいそうだ。
「わ、分かりました……踊りましょう」
「あなたは音感あるから、きっとすぐに上手になるわ。ほら、早く」
年上のはずなのに、親戚の小さな子供を預かった気分だ。妹がいたら、きっと楽しいだろう。
彼女は音に敏感なだけでなく、体力も有り余っている。力を込めて引き寄せても、もたれかかったりせず、軸が一切ぶれなかった。
「あなたのこと、とても気に入ったわ。デートしてあげる。どこがいい? お茶でもしましょうよ」
「あの、なんてお呼びすれば?」
「そうねえ……」
ペラペラとよく喋る口が止まり、彼女は首を傾げて上を向いた。可愛らしい癖だ。
「ナンナ、はどうかしら? 日本人でも発音しやすいんじゃないかしら? 余計な敬称はなしにしてね」
「分かりました、ナンナ。俺はシキです」
「うふふ」
何がおかしいのか、自己紹介すると、彼女は新しいおもちゃを見つけたみたいに、ぴょんぴょん跳ねた。
「でも、十九時までに帰らないといけないんです」
「ま、シンデレラみたい。いいわ。数時間でも嬉しいもの」
今さらだと思うが、見ず知らずの女性と出かけてもいいものか。俺の手を掴んで離そうとしないので、とりあえずついて行くことにした。ドラッグの売人にも詐欺師にも見えない。
森を抜けると、車で来ていたようで運転席には男性が暇を持て余していた。
ナンナはものすごい早さのフランス語で何かつたえると、運転手は怪しげな目でじろじろと俺を見る。彼からすれば、王女様をたぶらかす悪者だ。
「すみません、英語は分かりますか? 彼女とお茶をすることになったんですけど……」
「まあシキったら。許可なんて必要ないわ。私があなたと甘いお菓子をつまみたいだけよ。紅茶とコーヒーはどちらが好き? 私はね、ハーブティーにするわ」
「ええと……お構いなく……」
「もう、はっきり言って」
「じゃあ、ハーブティーで」
「それならハーブティーの美味しいお店に行きましょう。タルトとよく合うのよ」
運転手は諦めたのか、何も言わなかった。
二人で後部座席に乗っている間も、彼女の話は止まらない。質問してきてはこちらが答える前に、納得して次の質問に飛んでいく。けれど、不思議と居心地は悪くなかった。よく喋っていても心地良い声で、歌うように話す彼女は波の音や山のせせらぎに近い。
「シキ、シキ、見て。あの木はすべてミモザなのよ」
「綺麗ですね。見頃は冬なんですよね」
「知っていたの? んもう、私が教えたかったのに」
「日本から来るときに、教えてもらいましたから」
「ふうん。あなたに教えた人は、どんな人? 素敵な人? ハンサム? オシャレな方?」
「ん? 全部当てはまってる人です」
ちょっと気になる質問だが、今は気にせずスルーすることにした。
「あなたにとって、その人はどんな人?」
「尊敬していて、大事な人です。俺の人間関係の中で、一番近い位置にいます。できれば、俺は側にいたい。けど……」
「何かあるの?」
「迷惑なんじゃないかって、思うときがあるんです。よく言われるんですけど、俺には暴走癖があって、それを指摘されます。迷惑をかけている自覚もあります」
「あなたが側にいたくて、相手もそれを望んでいるならいいんじゃないの?」
「相手が望んでいるかは、分からないんですよね。あまり自分の感情を表に出すタイプでもないんで」
「あなたは、その人とどうなりたいの?」
「どう?」
「お付き合いしているの?」
「そういう間柄じゃないんです。でも訳あって婚約を結んでいて、ある意味人質のような関係なんです」
日本に渡った遺産を探してルイの近状を内密に知らせるのが俺の仕事だ。勢いで婚約を結んだのはいいが、時間が経つごとに隠し事をしている事実から目を逸らしきれなくなってきた。ルイとは誠実に向かい合いたいのに、それができない。
車は細道に入り、駐車場に止まった。ナンナは顔の半分を隠すくらいの大きな黒いサングラスをかけ、外に出るよう促した。
1
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる