パブリック・スクール─薔薇の階級と精の儀式─

不来方しい

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第一章

017 疑心暗鬼

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「それで、揃いも揃って何の用件だ」
 クリスは腕を組み、苛立ちを隠さず表へ出した。
「良いのです。私をお許しになられないのはごもっともです。それより、教祖様は神よりお告げを受けました。最も、夢の中の出来事なのかはっきりせず、それを確かめるために私がここへ参りました」
 アメデオは意味深に予粘りつくような視線で予備生たちを見つめ、目を細めた。
「実はすでに神の御子が誕生していて、それを隠している予備生がいる……と」
 予備生たちはざわついた。クリスはリチャードに助けを求めたかったが、それは一番してはならない。従者たちの視線が自分へ集中している。リチャードもこちらを向かない。
 今は何も言わず、次の言葉を待った。
「永れ御子は教団において、重罪となります。御神託を授かったのなら、一刻も早く確かめるべきだと助言をしたのです。教祖様は明暗だと、大変お喜びになられていました」
「その前に私から異議を申し立てます。我々は確かな目を持ちながら、すべからく審判を下してきました。猜疑心を向けられる言動には看過できません」
 リチャードの声に迷いはない。手には汗が浮かぶが、焦ってはいけない。間違ってもいけない。一蓮托生だと手を組み、信じて守ってくれる人たちを裏切れない。ばれたらリチャードが死刑になる。それにリチャードの横で黙ったままのサイラスもだ。
 クリスは予備生たちの様子を伺う。驚愕し声が出ない者、あ然としている者、様々だ。
 小さな肩が震えている予備生がいる。三組のターヴィで、思い出すのも苦労したほど、クリスは話した記憶がない。
「許可を出すつもりは毛頭ございませんが、確かめるとは一体どのような方法を用いるつもりですか?」
「簡単です。儀式の際、我々が様子を拝見し、神が宿ったかどうか確認をするのです」
 絶句するのはこちらの番だ。クリスは拳を握り全身を奮い立たせ、
「ふざけるなよ。趣味が悪い。吐き気がする。要は程度の低い品性に欠ける行いで愉もうとしているだけじゃないか」
 クリスは軽蔑の眼差しを向けた。
「アメデオ様の御前だぞ! 口を慎め!」
「だから僕にとってはただの犯罪者だ。敬称をつけるつもりもない」
「失礼。ちなみにそれは教祖様の御命令ですか」
 今まで傍観者に徹していたサイラスが、ここで口を挟んだ。
「教祖様の御命令ではございません。しかし、教祖様はなんとしてでも永れ御子をあぶり出したいお気持ちでいらっしゃいます」
「では、方法に関しての御命令は下されていらっしゃらない、ということですね」
「そのように言い換えることもできます」
「なら話は簡単です。お断りします。予備生の身体も心も傷つける行為はそう簡単に認められるものではありません」
「七月に入っても神の御子が誕生していない理由は、どのような説明ができるでしょうか」
「そんなの神の気まぐれとしか言いようがないね」
「そもそも、本当に儀式をしているのでしょうか」
「証明しろと? 物理的に? 無理でしょ」
「儀式を見たいと話しているわけではありません。壁に映る影を見せて下されば良いのです」
 サイラスと従者の攻防は続く。埒があかないと、クリスは一歩前に出た。
「禁忌を犯したんじゃないのか。アメデオの前でなぜ儀式の話をする」
「彼はもうここの生徒ではありません。なんの問題もないかと」
「部外者だし彼は予備生に選ばれなかった。問題は大ありだ」
「あの、リチャード様」
 外で見張りをしていた守衛がやってきて、申し訳なさそうな顔をする。
「取り込み中だ」
「ですが、ウィリアムがどうしてもリチャード様へお会いしたいと。緊急のご様子であります」
「ウィリアムが?」
「ウィルが来ているのか?」
 クリスはリチャードとほぼ同時に彼の名前を呼んだ。
「すみません、リチャードさん。どうしても話があって来てしまいました」
 ウィルは歩みよると、アメデオや従者の前で一礼する。
「ここは私の顔を立てて、引き下がっては下さいませんか」
 顔を立てる、の意味がクリスにはよく判らなかった。
「よく言えたものですね。それはあなた自身も禁忌を犯しているのでは? 学園にいる間は血筋や系統を知ってはならないと掟があったはずです」
 アメデオはそう言い、頭を振った。
「それはお互い様ですね。あなたも私も掟を破った。与えられる罰則は受けるつもりでいますが、私が自分の血筋を知ったのは父本人から聞きました」
 クリスも含め、判っていないのは予備生だけだった。
 リチャードもサイラスも驚いていない。むしろ知っていた、と言わんばかりの顔である。
「十二月で神の御子が生まれた年もあります。七月とはいえ、まだ早急すぎると本部にいる父へお伝え下さい。愛する父を裏切っているわけではないと。神の御子になり得る生徒を、傷つけるのは反対です。神の御子が呪えば、神は従う。不思議な力を宿る御子を大事に思うのなら、どうか本部へお帰り下さい」
 脅しの込めたお願いだ。従者たちは納得した顔ではないが、アメデオを連れて引き下がった。
「……どういうこと?」
 黙って見守っていたアーサーは、怪訝な顔のままウィルと向き合う。クリスも同じ気持ちだ。
「ここにいる予備生たちよ、今の話は他言無用だ。今日は疲れたであろう。夕食をとった後、早めに就寝するように。過度な心配もする必要はない」
 リチャードは話すつもりはなさそうだ。
 それならばと、クリスはアーサーの腕を掴む。
「アーサー、部屋に戻ろう」
「クリス……」
「聞いてもどうせ教えてもらえない。僕らはいろいろ考えなければならない」
「いろいろ?」
「主に人間関係。誰か敵かどうかだ。神の御子が生まれることは教団にとって繁栄を意味する。けれど、どんな手を使ってでもってところはあり得ない。少なくとも、アメデオは敵だ。考えろ。僕らは万全でいることが最優先だ」
「そうだな。戻ろう」
「ウィリアム、それとターヴィも守衛所へ来い。顔色が悪い」
 ターヴィは顔が真っ青だった。一人で立っていられず、サイラスが肩を支えている。



 アメデオを見た瞬間、血の気が引いた。
 目的はノアかクリスか、それとも予備生全員か。
 彼は教祖の愛人になったと聞いたが、意外性はなかった。
 罪人といえど、教祖である父に危害が及んだわけではない。
 アメデオたちは東区にある予備生専用の寄宿舎で、何かをしようとしている。可愛い弟であるクリスが危険だとすると、いても立ってもいられなかった。
 結果、正体をほぼ明かすことになってしまったが、悔いはない。
 守衛所へ着くとリチャードは的確に指示を出し、ウィルを部屋へ来るように促す。
「リチャードさん、すみません」
 部屋に入るなり謝罪をするが、 リチャードはソファーへ座り目元を解している。
「お前もそこへ座れ」
「はい。失礼します。怒られるのも罰も覚悟の上でついてきました」
「怒りがあるとすれば自分自身に対してだ」
「自分自身?」
 リチャードは間を置いて、静かに口を開いた。
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