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第三章 現実
022 性と欲
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「ああ……リンダ……本当に……」
「お母さん……ごめんなさい」
母親の後ろには、男性が二人立っている。車から降りてきてはリンダの背後に立ち、僕を遠ざけた。
「リンダ、警察にしっかり説明するのよ。どんなことがあったにせよ、お母さんはリンダをずっとずっと愛しているわ」
「うん……ごめん……」
消えそうなほど小さな呟きは、彼女なりの抱えてきたものの証だった。
強く抱き合い、離れたタイミングで警察が間に入る。リンダは観念したのか、抵抗は一切しなかった。
車に乗り込む直前、彼女はもう一度母親を見て、僕を見て、ありがとうと漏らした。二年前の最後に見た憎しみを溢れさせた顔とはまるで違った。
遠ざかっていく車が小さくなるまで見つめていると、リンダの母親は僕の手をそっと握った。
「あのときの子ね」
「言わなくてすみません。二年前の事件の関係者です。まさかショッピングモールでお会いするなんて、驚きました」
「リンダがとても迷惑をかけたわ。あなたに怖い思いもさせてしまって……」
「僕の中ではトラウマになっていて、なかったことにはできません。しばらくは怖い映画も観られなくなりましたし、大学ではマスコミにも追いかけられました。本当に本当に、とんでもない事件だった。亡くなった人がいます。悲しんでいる人がいます。それを忘れないで下さい」
リンダが逮捕されて、ようやく肩の荷が下りた気がした。八つ当たりのつもりはなくても、誰かに話を聞いてほしかった。
ぶちまけるように伝えると、少し気分が落ち着いた。名前も名乗らず、僕も警察の車に乗り、彼女の家を後にした。
警察署に行くと、乗せてくれた警察官はにっこりと笑い、
「君の彼氏が心配しているよ」
「あ、ありがとうございます」
ロビーでは、リチャードが端末を握ったまま目を瞑っている。
「リチャード?」
「ナオ」
彼は立ち上がると、僕の元へ駆け寄り強く抱きしめた。
「すまない。途中まで君の側にいたんだが、気が散ると言われてしまってな」
「心配してくれただけで嬉しいです」
「よくやってくれた。君はスーパーヒーローだな」
どこかで聞いたセリフだ。おかしくて笑ってしまう。
「スーパーヒーローはあなたでしょう?」
「俺にとって君もヒーローだ。ああ、君はこの後警察の聴取を受けるんだろう? 離したくないな」
「同じ家に帰るんですから。待っていて下さい」
胸に顔をうずめて、おもいっきり匂いを堪能した。
聴取は難しいことは聞かれず、二年前の話も蒸し返されることもなかった。おそらく配慮だろう。
ずっと待っていてくれたリチャードにお礼を伝え、車に乗った途端に同時にため息をついたものだから、おかしい。
「終わりましたね」
「そうだ。終わったんだ。これからは君は二年前の事件に縛られなくていい」
「あなたに恋したときとセットなんです。忘れたくても忘れられません。良い思い出とトラウマがセットになっていますから」
「ならこれからは、もっと良い思い出を作れるようにどんどん上書きしていこう。まさかあれが最高の思い出だったなんて、俺は今まで何をしていたんだって自分を責めるよ」
「ふふ、コーヒーを作ってくれたり、車でドライブも最高の思い出ですよ」
「今夜も思い出作る?」
唐突のお誘いだ。もちろん僕の答えは一つしかない。
リチャードはセックスをするとき、必ず全裸になってから抱き合う。僕の服も靴下一つ残さず脱がせ、優しくハグしてからベッドに沈む。
あえてなのか深い意味はないのか、それとも性癖なのか。特に聞かないし、こういうものだと受け入れている。
「寒い?」
「あったかいです」
言葉も少なくなって、行為の最中はあまり喋らない。
今日はおもちゃは使わないらしく、見向きもされなくて寂しげだ。
どちらかというと好きなのは僕で、最初リチャードはあまり乗り気じゃなかった。
優しくて暖かくてどこまでもジェントルマンで、それはセックスのときも変わらない。けれどリチャードのものは、凶器に満ちて僕を貫く。大人のおもちゃが可愛く見える。
「う……、んん…………」
「痛い?」
ある程度進めば気持ちよさが勝つが、最初は何度しても慣れない。そういう器官に作られていない。
リチャードの指もたくましい。ローションの力があっても、流れに任せずゆっくりと挿入する。
「へ……き、です……」
リチャードの方が僕の身体を理解していて、すぐにおかしくなる箇所を押す。
「あっ、あっ……だめ……」
小さな笑い声が聞こえた。僕は恥ずかしくなって枕に顔を埋め、なんとかこらえようと意識を集中させた。
「は、……あっ…………!」
小刻みに動かされるのが弱くて、どうしても耐えられない。
つま先から痺れるような感覚と解放される悦びに、身体の力を抜いた。
リチャードは僕の膝裏に手を差し込み、胸につくくらい持ち上げた。この格好は、一番恥ずかしい。僕が恥ずかしいと、リチャードは喜ぶ。じっと見て、しばらく動かなくなる。「ありがとう」。
「お礼言われる理由が分かりません……」
「いろいろと想像できるからね。いくよ」
指で軽くくすぐられ、我慢できず声が漏れる。
大きな熱が当てられ、慣れないのに本能は求めているようで、のみ込んでいく。
「は……、いい……そこ……」
奥の、上側。僕の弱いところ。
僕よりも僕の身体を知っていて、リチャードは的確に少しず突く最初は優しく、段々と緩急をつけて潜り込む。
馴染んでくると、激しくなった。なのに気持ちは穏やかで、ずっと手を握ってくれているからだと思う。
「んん……っ……気持ちいいっ……あっ……」
リチャードは笑った。いつもこうして、喋らず微笑む。僕はそれが嬉しい。
あと少しで果てそうになったのに、リチャードは止めた。
腰ごと持ち上げられ、リチャードの上に乗る。すると深く深く突き刺さり、とろっとした体液を彼の腹部に垂らした。
「奥……そこ……」
相変わらず喋ってくれないけれど、顔を見ると優しい顔で微笑を浮かべていた。
連続で三回果てると、ようやくリチャードは解放した。
まだ体力は有り余っている辺り、さすがとしか言いようがない。
「水飲む?」
「飲みたいです」
べとべとの身体を拭かれ、ミネラルウォーターを受け取った。
「久しぶりに、リチャードの声を聞きました」
「ずっと話してたじゃないか」
きょとん顔を見るに、行為の最中は無口になるのに気づいていないらしい。
「普段の半分以下ですよ」
「そうなのか? それは気づかなかったな。多分、心の声になっていて漏れていないのかもしれない」
「どんなことを話してるんです?」
「ナオが可愛いとか、愛してるとか」
「ああ、もうっ」
「好きとか、可愛いとか」
可愛いと二度も言われた。
「それにとてもセクシー」
「僕が? そんなこと初めて言われました」
「俺にしか分からない魅力があるからね。ギャップも魅力的だから」
飽きもせず、顔中にキスをしてくる。可愛い、好き、可愛いと交互に。
僕もしたかったのに、リチャードがそれを許してくれない。
「お母さん……ごめんなさい」
母親の後ろには、男性が二人立っている。車から降りてきてはリンダの背後に立ち、僕を遠ざけた。
「リンダ、警察にしっかり説明するのよ。どんなことがあったにせよ、お母さんはリンダをずっとずっと愛しているわ」
「うん……ごめん……」
消えそうなほど小さな呟きは、彼女なりの抱えてきたものの証だった。
強く抱き合い、離れたタイミングで警察が間に入る。リンダは観念したのか、抵抗は一切しなかった。
車に乗り込む直前、彼女はもう一度母親を見て、僕を見て、ありがとうと漏らした。二年前の最後に見た憎しみを溢れさせた顔とはまるで違った。
遠ざかっていく車が小さくなるまで見つめていると、リンダの母親は僕の手をそっと握った。
「あのときの子ね」
「言わなくてすみません。二年前の事件の関係者です。まさかショッピングモールでお会いするなんて、驚きました」
「リンダがとても迷惑をかけたわ。あなたに怖い思いもさせてしまって……」
「僕の中ではトラウマになっていて、なかったことにはできません。しばらくは怖い映画も観られなくなりましたし、大学ではマスコミにも追いかけられました。本当に本当に、とんでもない事件だった。亡くなった人がいます。悲しんでいる人がいます。それを忘れないで下さい」
リンダが逮捕されて、ようやく肩の荷が下りた気がした。八つ当たりのつもりはなくても、誰かに話を聞いてほしかった。
ぶちまけるように伝えると、少し気分が落ち着いた。名前も名乗らず、僕も警察の車に乗り、彼女の家を後にした。
警察署に行くと、乗せてくれた警察官はにっこりと笑い、
「君の彼氏が心配しているよ」
「あ、ありがとうございます」
ロビーでは、リチャードが端末を握ったまま目を瞑っている。
「リチャード?」
「ナオ」
彼は立ち上がると、僕の元へ駆け寄り強く抱きしめた。
「すまない。途中まで君の側にいたんだが、気が散ると言われてしまってな」
「心配してくれただけで嬉しいです」
「よくやってくれた。君はスーパーヒーローだな」
どこかで聞いたセリフだ。おかしくて笑ってしまう。
「スーパーヒーローはあなたでしょう?」
「俺にとって君もヒーローだ。ああ、君はこの後警察の聴取を受けるんだろう? 離したくないな」
「同じ家に帰るんですから。待っていて下さい」
胸に顔をうずめて、おもいっきり匂いを堪能した。
聴取は難しいことは聞かれず、二年前の話も蒸し返されることもなかった。おそらく配慮だろう。
ずっと待っていてくれたリチャードにお礼を伝え、車に乗った途端に同時にため息をついたものだから、おかしい。
「終わりましたね」
「そうだ。終わったんだ。これからは君は二年前の事件に縛られなくていい」
「あなたに恋したときとセットなんです。忘れたくても忘れられません。良い思い出とトラウマがセットになっていますから」
「ならこれからは、もっと良い思い出を作れるようにどんどん上書きしていこう。まさかあれが最高の思い出だったなんて、俺は今まで何をしていたんだって自分を責めるよ」
「ふふ、コーヒーを作ってくれたり、車でドライブも最高の思い出ですよ」
「今夜も思い出作る?」
唐突のお誘いだ。もちろん僕の答えは一つしかない。
リチャードはセックスをするとき、必ず全裸になってから抱き合う。僕の服も靴下一つ残さず脱がせ、優しくハグしてからベッドに沈む。
あえてなのか深い意味はないのか、それとも性癖なのか。特に聞かないし、こういうものだと受け入れている。
「寒い?」
「あったかいです」
言葉も少なくなって、行為の最中はあまり喋らない。
今日はおもちゃは使わないらしく、見向きもされなくて寂しげだ。
どちらかというと好きなのは僕で、最初リチャードはあまり乗り気じゃなかった。
優しくて暖かくてどこまでもジェントルマンで、それはセックスのときも変わらない。けれどリチャードのものは、凶器に満ちて僕を貫く。大人のおもちゃが可愛く見える。
「う……、んん…………」
「痛い?」
ある程度進めば気持ちよさが勝つが、最初は何度しても慣れない。そういう器官に作られていない。
リチャードの指もたくましい。ローションの力があっても、流れに任せずゆっくりと挿入する。
「へ……き、です……」
リチャードの方が僕の身体を理解していて、すぐにおかしくなる箇所を押す。
「あっ、あっ……だめ……」
小さな笑い声が聞こえた。僕は恥ずかしくなって枕に顔を埋め、なんとかこらえようと意識を集中させた。
「は、……あっ…………!」
小刻みに動かされるのが弱くて、どうしても耐えられない。
つま先から痺れるような感覚と解放される悦びに、身体の力を抜いた。
リチャードは僕の膝裏に手を差し込み、胸につくくらい持ち上げた。この格好は、一番恥ずかしい。僕が恥ずかしいと、リチャードは喜ぶ。じっと見て、しばらく動かなくなる。「ありがとう」。
「お礼言われる理由が分かりません……」
「いろいろと想像できるからね。いくよ」
指で軽くくすぐられ、我慢できず声が漏れる。
大きな熱が当てられ、慣れないのに本能は求めているようで、のみ込んでいく。
「は……、いい……そこ……」
奥の、上側。僕の弱いところ。
僕よりも僕の身体を知っていて、リチャードは的確に少しず突く最初は優しく、段々と緩急をつけて潜り込む。
馴染んでくると、激しくなった。なのに気持ちは穏やかで、ずっと手を握ってくれているからだと思う。
「んん……っ……気持ちいいっ……あっ……」
リチャードは笑った。いつもこうして、喋らず微笑む。僕はそれが嬉しい。
あと少しで果てそうになったのに、リチャードは止めた。
腰ごと持ち上げられ、リチャードの上に乗る。すると深く深く突き刺さり、とろっとした体液を彼の腹部に垂らした。
「奥……そこ……」
相変わらず喋ってくれないけれど、顔を見ると優しい顔で微笑を浮かべていた。
連続で三回果てると、ようやくリチャードは解放した。
まだ体力は有り余っている辺り、さすがとしか言いようがない。
「水飲む?」
「飲みたいです」
べとべとの身体を拭かれ、ミネラルウォーターを受け取った。
「久しぶりに、リチャードの声を聞きました」
「ずっと話してたじゃないか」
きょとん顔を見るに、行為の最中は無口になるのに気づいていないらしい。
「普段の半分以下ですよ」
「そうなのか? それは気づかなかったな。多分、心の声になっていて漏れていないのかもしれない」
「どんなことを話してるんです?」
「ナオが可愛いとか、愛してるとか」
「ああ、もうっ」
「好きとか、可愛いとか」
可愛いと二度も言われた。
「それにとてもセクシー」
「僕が? そんなこと初めて言われました」
「俺にしか分からない魅力があるからね。ギャップも魅力的だから」
飽きもせず、顔中にキスをしてくる。可愛い、好き、可愛いと交互に。
僕もしたかったのに、リチャードがそれを許してくれない。
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