11人の贄と最後の1日─幽閉された学園の謎─

不来方しい

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第一章 贄と学園の謎

045 本部の禁秘

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「……なんだこれは」
「手紙だろ」
「手紙ではなく、遺書だろう」
「もし医者に見られでもしたらまずいじゃん」
 理解していても、不服そうだ。
 愛のある手紙を期待しただろうに、がっかりさせてしまった。  
 紫影宛ではあるが、内容は白蛇への祈りと、巫覡になれず毒蛇に噛まれたことで神の愛に恵まれなかったことへの謝罪だ。
「お前が正しい。誰かが開けた形跡がある。手紙の折り目が深くなっていて、シールがはがされた跡もあった。医師が勝手に開けて読んだんだろう」
「『紫影へ』って書いてあるのにひどいことする人もいるんだな」
 と口を尖らせるも、怒っているわけではなかった。
 引き出しに入れつつも、誰かに読んでもらいたい、こんなに信仰心があるのだと知らしめたかっただけだ。
「本当は渡すつもりはなかったけど。成り行きっていうか」
「なんだ、もっと別の手紙を俺に渡したかったのか?」
「まあ……そんな感じ。……っ、意地悪だな。言わせるなよそんなこと」
「楽しみにしている」
 もう一度額にキスが降ってきた。ふたりきりの愛情の印。
「お母さんは大丈夫?」
「お前の口からお母さんなんて聞くとはな」
「嫌だった? 梅愛さんとかがいい?」
「いや……そういう意味じゃない。あの女はお前を殺そうとしたからな」
「俺を?」
「まだ幼く、何もわからないお前を、だ。俺の愛情が梅愛ではなく、子供のお前に向くのが気にくわなかった。……今は梅愛の話は止めよう。食事はしっかりとっているか? 少しやつれた」
 首を撫でられ、咲紅は熱い息を吐く。
 ここで一番の望みを伝えれば、紫影は叶えようとするだろう。病院という危険な場所では、止めるべきだ。
「食べてるとは言い難いかな。食欲はあるけど、紫影が戻ってくるまでないふりをしてる」
「食べられないのは辛いしストレスになるな。食べるか?」
 紫影は懐から小さな箱を取り出した。
「なにこれ?」
「外の世界で売られているチョコレートだ。中にフルーツソースが入っている」
「食べていい?」
「ああ」
 フルーツソースが口いっぱいに広がる。ストロベリーやオレンジ、よくわからない味もあった。
「すごい……こんなの初めて。外の世界ってすごいんだな」
「大学部を卒業できたら、もっと美味しいものが食べられる。辛抱してくれ」
「大きなケーキも?」
「ああ。プロのパティシエに依頼して、咲紅が好きなケーキを作ってもらおう」
「それもいいけど、外で普通に売ってるんだろ? ふたりで買いにいきたい」
「ああ、それもいいな」
「もっと食べていい?」
「お前のために持ち込んだものだ。全部食べていい」
 結局、箱の中を空にしてしまった。
 紫影のために一つくらい残しておこうと思っても、理性がきかなかった。
 紫影はずっと優しい目で見つめてきて、チョコレートが食べたかったのかもしれないと思い、咲紅は自ら唇を重ねた。



 本部へ戻ると従者が忙しなく動き回っていて、その中には銀郭もいた。
 銀郭は紫影を見つけると、小走りで駆け寄ってくる。
「何があった?」
「鍵が行方不明です」
 銀郭は紫影の耳元で呟く。
 教祖の嫡男としても知らされていなかった事実を、今まさに理解した。
 本部のどこかに白蛇へ捧げる『供物』が眠っていることは知っているが、紫影は詳しい入り口までは知らなかった。
 本部の地下には、『供物』が永遠の眠りについている。そこへ続く『鍵』だとは、教祖と一部の従者しか知らされていない。しかも『鍵』は、教祖が隠し通すことも仕事の一つだ。
「誰かが盗んだのか?」
「教祖様のお部屋には、鍵がかかっていなかったそうです。壊されていたわけではなく……」
 言いづらいのか、銀郭の視線が泳いだ。
「自ら開けていたそうです。昨日はお酒を摂取していらっしゃったようで……目を覚まされたときには、鍵がなくなっていたと」
「判った。銀郭はこのまま探していてくれ」
「紫影さんは?」
「見当がつく」
 頭に浮かんだ人物は二人いる。一人は梅愛だ。だが教祖がわざわざプライベートルームへ、しかも鍵を置いている部屋にわざわざ呼んでまで性行為をするとは考えられない。ましてや梅愛は精神的に脆くなっている。人目につかないところに呼ぶなど、考えられなかった。
 となると、もう一つの可能性だ。
 紫影はロビーにあるエレベーターではなく、外へ出て草むらをかき分けながら裏側へ進んでいく。建物内部からも行けるだろうが、厳重に警備されている中をかいくぐる時間はなかった。
 誰かが通った形跡がある。下生えはねじ曲がり、足跡が残っている。
 紫影自身も来たのは初めてだった。幼少の頃、数人の従者が通るのを目撃して途中までついていったが、見つかってうんと激怒された経験がある。苦々しい思い出であり、二度と来ないと思った反面、大人の秘密基地があるのだと心が弾んだ。
 一見するとただの壁の一部だが、隙間が空いている。指を引っかけて強く引っ張ると、重厚な扉が開いた。
 携帯端末の明かりを頼りに、地下への階段を下りていく。
 進めば進むほど、黴や生臭さが鼻につく。
 深くまで潜ると、誰かの息が聞こえた。
 あちらも気配に気づいたのか、こちらを伺っている。
「紫影です。私ひとりですので、そちらに行っても構いませんか?」
 警戒心は解かず、相手の出方を待った。
 おおよその見当はついていても、犯人であると確証はあった。
「……私です」
「ええ、存じております」
「なぜ、判ったのですか?」
「失礼致します」
 紫影は質問に答えず、端末の明かりを声のする方向へ向けた。
 巫覡である茉白だ。やはり彼だった。いつも美しい着物に身を包んでいる彼は、頭に蜘蛛の巣をつけ、神とは言い難いほどみすぼらしい。
「質問に答えなさい。なぜここだと判ったのです?」
「憚りながらお答え致します。教祖様の部屋へある程度自由に行き来できる人物は限られています。最初は私の母である梅愛ではないかと思いました。しかし、彼女は今、療養のため、上の階へ上がることは困難です。となりますと、教祖様に近しい茉白様ではないかと考えました」
「ここには何があるのですか?」
「下役の私では判りかねます。今度は私からの質問にお答え頂きたいです。なぜ鍵を盗んだのですか?」
「別に。単なる好奇心です。いつも厳重に鍵をかけている部屋が気になりまして、入らせて頂きました」
「ピッキングですか。随分と器用な方ですね」
 茉白は決まり悪そうに、そっぽを向いた。
「この建物……というより、我が宗教団体では、とても不思議な現象が起こります。腹部に出る淫紋は、神の証だと教えられてきました。私は特別な人間だと。ですが、私は外の世界を知りません。コンビニとやらも、ドラッグストアも。どちらが普通でどちらが異常なのか、確かめたくなったのです。教祖様の部屋に厳重に保管されている部屋に、秘密が隠されているのではないかと」
「好奇心旺盛なのは結構なことです」
「そしてあなたは、この建物の秘密を知っている……そうでしょう? 誰よりも先に此処を見つけたのだから、見当がついていたのでは?」
「なぜ私が判ったのかと申しますと、草です」
「草?」
「誰かが通った跡がありました。痕跡を追ってきたまでです。このような地下があったなど、私も驚愕しております。さあ、他の者に見つかる前に、部屋へ戻りましょう」
「どのみち見つかります」
「非常階段から上がります。茉白様の部屋は何十階も上ですが、もし精も根も尽き果てましたら、私がおぶって差し上げましょう」
 最初からおぶれ、と我儘は言わなかった。いつもなら言ったであろうが、今回は完全に茉白の分が悪い。
 茉白は不機嫌にも頷き、差し出された紫影の手を取った。
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