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7話:条件
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アーベル・フォン・ベーアという人物を探すのは簡単だった。テオバルトと同じくらいの人だかりができていたからだ。その中心でいかにも貴族然と佇む姿は、騎士団員においては細身で流麗。腰まで伸びた長い銀色の髪をなびかせ、うっそりと微笑む姿は、なるほど、「体を差し出す」という噂が流れるのも不思議でない魅力があった。
「おや……あなたは、最終試験でヘンゼルを相手に善戦していた方ではありませんか」
透明感溢れる薄い水色の瞳が、人だかりの中にいるルーカスを捉えた。
「初めまして。ルーカスと言います。最終試験を見ていたんですか。善戦なんてそんな……合格できたのも不思議なくらいの気分です」
「ルーカス……もしやテオバルトと同郷だという?」
「そうです。テオバルトとの約束を果たすため騎士団に入団しました」
「左様ですか……よければ私ともっとお話しませんか」
しめた、とルーカスは喜んでその誘いに乗った。
広間を後にして、寮のある棟へと向かう。
開かれたドアの先は、広くて高価な調度品の揃った一人部屋。ベーアがそれなりの立場にある人物だということが察せられた。
「テオバルトから話を聞いています。しばらくギルドで実戦経験も積んでいるのだとか」
「士官学校に落ちてしまったので、騎士団に入るには経験を積んでおくしか無かったんです」
「なかなか面白いことを考えますね。テオバルトとの約束というのは?」
「アルバスフォーゲルを一緒に倒すという約束です」
「それはそれは……」
アーベルは口元を抑えクスクスと笑った。ルーカスは良い気はしなかった。土台、凡人には無理だと思って笑っているのだろう、と。
「失敬。人の夢を笑うものではありませんね」
「今のままじゃ無理だってことは分かってます。一つでも多くの成果を上げて、テオバルトと共に戦うに相応しくなる。それが俺の目標です」
「上を目指すには、実力だけではなく政治的手腕も必要です。何の後ろ盾もない貴方に、成しえるのは修羅の道ですよ」
唯一、アテのあったテオバルトにはにべもなく「辞めろ」と言われてしまった。
「だから、あなたのもとに来たんです。体を差し出せば、どうやら、昇進の口添えをしてくれるのだとか」
「ふふっ。大して好みでもない見目をしたあなたの昇進を手伝って、私に何の得があるのでしょう。何の見返りもなく、快楽を貪るだけで口添えなんかしませんよ?」
噂は本当だったのだ。ルーカスは腹をくくって、懐から「猫の眼」を取り出した。
「こ、これを代償に……」
「袖の下ですか。こんなもの、どうやって手に入れたんです? まさか盗品では……」
「恩人から授かったものです」
「どういう経緯か知りませんが、なかなか数奇な運命を辿っている……ところで、この石を貰っても対して得にはならないんですよ。非常に残念ですが」
「そんな……」
次の一手をひねり出そうとしたとき、ドアを叩く音が聞こえた。
「俺だ」
「テオ……?」
テオバルトは、アーベルの返事も聞かず部屋に上がり込んできた。
「ルー、なんでこんなところにいるんだ」
「どこかの誰かさんと戦うために、私に昇進の口添えを頼みに来たらしいですよ? 断りましたけど」
「良かったなアーベル。ルーに手を出していたら、俺がただじゃおかなかったぞ。おい、ルー」
怒りをあらわにした目がルーカスを見下ろす。
「今すぐに団長に進言して辞めさせることもできるが……」
「嫌だ。俺は騎士団を辞めない。絶対に」
「いつからそんな頑固になっちまったんだ。わーったよ。条件を設ける。訓練の成績で上位十位以内に入れなければ、俺が辞めさせる」
「上位十位以内……」
そんなの無理だ、と思ってしまった自分の頬を叩いた。本部に入団したのはおよそ二百人。そのなかで上位十位以内など、凡人の自分には無理だと思うほかなかった。でもまだ始まる前から諦めるわけにはいかない。ここで引いてしまえば自分はバウアー家に返されてしまう。
「分かった。やってやる……!」
「おや……あなたは、最終試験でヘンゼルを相手に善戦していた方ではありませんか」
透明感溢れる薄い水色の瞳が、人だかりの中にいるルーカスを捉えた。
「初めまして。ルーカスと言います。最終試験を見ていたんですか。善戦なんてそんな……合格できたのも不思議なくらいの気分です」
「ルーカス……もしやテオバルトと同郷だという?」
「そうです。テオバルトとの約束を果たすため騎士団に入団しました」
「左様ですか……よければ私ともっとお話しませんか」
しめた、とルーカスは喜んでその誘いに乗った。
広間を後にして、寮のある棟へと向かう。
開かれたドアの先は、広くて高価な調度品の揃った一人部屋。ベーアがそれなりの立場にある人物だということが察せられた。
「テオバルトから話を聞いています。しばらくギルドで実戦経験も積んでいるのだとか」
「士官学校に落ちてしまったので、騎士団に入るには経験を積んでおくしか無かったんです」
「なかなか面白いことを考えますね。テオバルトとの約束というのは?」
「アルバスフォーゲルを一緒に倒すという約束です」
「それはそれは……」
アーベルは口元を抑えクスクスと笑った。ルーカスは良い気はしなかった。土台、凡人には無理だと思って笑っているのだろう、と。
「失敬。人の夢を笑うものではありませんね」
「今のままじゃ無理だってことは分かってます。一つでも多くの成果を上げて、テオバルトと共に戦うに相応しくなる。それが俺の目標です」
「上を目指すには、実力だけではなく政治的手腕も必要です。何の後ろ盾もない貴方に、成しえるのは修羅の道ですよ」
唯一、アテのあったテオバルトにはにべもなく「辞めろ」と言われてしまった。
「だから、あなたのもとに来たんです。体を差し出せば、どうやら、昇進の口添えをしてくれるのだとか」
「ふふっ。大して好みでもない見目をしたあなたの昇進を手伝って、私に何の得があるのでしょう。何の見返りもなく、快楽を貪るだけで口添えなんかしませんよ?」
噂は本当だったのだ。ルーカスは腹をくくって、懐から「猫の眼」を取り出した。
「こ、これを代償に……」
「袖の下ですか。こんなもの、どうやって手に入れたんです? まさか盗品では……」
「恩人から授かったものです」
「どういう経緯か知りませんが、なかなか数奇な運命を辿っている……ところで、この石を貰っても対して得にはならないんですよ。非常に残念ですが」
「そんな……」
次の一手をひねり出そうとしたとき、ドアを叩く音が聞こえた。
「俺だ」
「テオ……?」
テオバルトは、アーベルの返事も聞かず部屋に上がり込んできた。
「ルー、なんでこんなところにいるんだ」
「どこかの誰かさんと戦うために、私に昇進の口添えを頼みに来たらしいですよ? 断りましたけど」
「良かったなアーベル。ルーに手を出していたら、俺がただじゃおかなかったぞ。おい、ルー」
怒りをあらわにした目がルーカスを見下ろす。
「今すぐに団長に進言して辞めさせることもできるが……」
「嫌だ。俺は騎士団を辞めない。絶対に」
「いつからそんな頑固になっちまったんだ。わーったよ。条件を設ける。訓練の成績で上位十位以内に入れなければ、俺が辞めさせる」
「上位十位以内……」
そんなの無理だ、と思ってしまった自分の頬を叩いた。本部に入団したのはおよそ二百人。そのなかで上位十位以内など、凡人の自分には無理だと思うほかなかった。でもまだ始まる前から諦めるわけにはいかない。ここで引いてしまえば自分はバウアー家に返されてしまう。
「分かった。やってやる……!」
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