いつかの光、彼方の光

ゆきりんご

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16話:ヘンゼル、快刀乱麻

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 森の奥へと進むたび、ルーカスは不安が募っていった。まだ訓練中の身である自分に、突如として始まった任務を遂行できるのか。それぞれの班の先輩たちが強いことは百も承知しているが、それ故に新人である自分が足を引っ張り、致命的な被害を与えることにならないか。この暗い森の奥には一体何がいるのか。意識して気を強く持たねば、不安と恐怖とに押しつぶされてしまいそうだった。

「百メートル先、魔物の気配を察知。魔力量からして、ヌシではなさそう」

 ヨハンの報告に、空気が張り詰める。ルーカスは、剣を強く握りしめ、深呼吸を繰り返した。
 果たして敵は、姿を現した。狼と似た風貌に、黒々とした排煙のような毛並みが風に揺れる。

「ガルムだな、アレは。だろう、魔物マニアの新人よ」
「何ですか、魔物マニアって……必要に応じて覚えただけです」

 胸元には真っ赤な魔石が埋め込まれている。討伐してあの魔石をギルドで売れば一か月は生活に困らないな、とギルド生活で染みついた考えがルーカスの頭をかすめた。

「アンテスさんの言う通り、中々の強敵が残っているようですね」
「ああ。新人は下がっていろ。私ならば、一撃で仕留められる」
「え……?」

 ヘンゼルに手中には、いつの間にか大剣があった。呼び寄せ魔術を使ったのだとルーカスが思い至った時には、一陣の風が吹き、断末魔が響いていた。

「な……」

 ルーカスは二の句が継げず、だた驚嘆の声だけをあげた。
 あまりにあっけない戦いだった。ガルムは頽れ霧散し、地面には真っ赤な魔石だけが転がっている。

「アンテスってば、いっつもこう。強いのは良いんだけどさ、班員との連携を全然取らないから嫌われるし、出世もできないんだよ」
「僕は楽でいいけどさ。手柄をあげたい人からすればやっかみたくもなるってもんだよ。ギルドで勇者業でもしてれば人気が出たろうにね。なんで騎士団なんかに入ったのか本当に謎」

 ブルーノとヨハンが口々に言う。

「勝手に言ってろ」

 他の班の面々も驚いているのは新人のみで、本当にいつものことのようだった。ルーカスの同期ではトップと言われるユリウスさえも驚きを隠せない。こんな強さではユリウスとの自主訓練もままごとのように見えて当然だ、とルーカスは感じた。入団試験では容赦ないと思っていた戦いぶりは、あれでも手加減をされていたのだ。
 ヘンゼルは何の感慨もなく、魔石を拾い上げて懐へとしまった。
 その後も魔物が出たが、ヘンゼルが一薙ぎするだけで事は済んでしまった。
 街での騒ぎの大きさとは裏腹にさくさくと歩が進んでいた矢先、ルーカスの足がぴたりと止まった。ルーカスの目があるものを捉えたのだ。瞬間、全身の毛穴が開いたような鳥肌がたった。

「あれ……」

 指さしたのは、人の上腕ほども長さのある白い鳥の羽根だった。

「見たことない大きさだな」
「どう見ても梟とかじゃないね」

 
 気づけばルーカスは、羽根を短剣でめった刺しにしていた。気が触れたとしか思えない行動に、ブルーノとヨハンは距離を置いた。ヘンゼルだけが、意にも介さない様子で、ルーカスの肩を軽く叩いた。

「これがお前の仇か」

 柄まで深く地中に刺さった剣を両手でつかんで俯いたルーカスは、息を荒くしていた。

「もう一度聞く。これがお前の仇か?」

 ルーカスは無言で首を横に振った。

「そうだ。その怒りはまだ取っておけ。拙い技術の足しにはなるだろう」

 ルーカスは立ち上がり、背筋を正した。

「取り乱して、隊の動きを止めてしまい、申し訳ありません」
「全くだ。さっさと行くぞ。そろそろアインツカイト様との合流地点のはずだ」

 一行がまた進もうとしたとき。矢庭に周囲が熱波に覆われ、切り裂くような炎の雨が降り注いだ。木々が倒れる。みなが空を見上げた。視線の先には、優雅に飛び回る、白く巨大な鳥の姿があった。
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