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15話:黒化の森
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ルーカスは次々と異変を見つけ、順調に点を稼いでいた。だが、油断は禁物だ。ユリウスだって同じくらい見つけているに違いない、という思いがあった。目を光らせていると、目の前を黒い影が通り過ぎていった。犬っころのような四足動物、あまりの素早さに、細かい特徴までは捉えることができなかった。
「あれを追いましょう!」
「待て。あれは魔物習性の特徴ではなく、魔物そのものだ。上層部の仕掛けた異変とは違う可能性が高い。本部との連絡を取る」
ヘンゼルがそう言い終えたとき、同じような姿の魔物がまた通り過ぎていった。見渡せば、ほかにも何匹も何匹も何匹も。
「これ、結構やばくない?」
「だいぶね」
「こちら新人最終訓練中の第192小班ヘンゼル! 小型魔物の群れを街中で確認、指示を願う!」
通信スフィアから顔を上げ、ヘンゼルは険しい表情で周囲を確認する。
「この群れはどこから……。まさか 黒化の森からか?」
黒化の森までは、王都ど真ん中の街からは徒歩で一時間以上は優にかかる。そんな場所からここへ流れ着いたのだおすれば、余程のことがあったに違いなかった。
ルーカスは、必死に魔物に関する情報を頭の中で検索した。
「一瞬見えた赤い毛にあの素早さ……おそらくオルトロスだと思います。すばっしこさはありますが、普段は人を襲うような魔物ではありませんし、愛玩動物として飼育している人だっています。野生はまた習性が異なりますが……何か強い魔物が森に出たせいで逃げてきたのかもしれません」
ルーカスの発言を踏まえて、ヘンゼルがまた本部との通信をとる。
「本部からの指令だ。訓練は中断し、実戦に移行。五班で小隊を組み、森に向かう。小隊長は私だ」
それぞれに通信を取った他の班が合流した。その中にはユリウスの班もあった。
「ルーカス、無事でよかった。まさか、こんなことになるなんてね」
「本当に」
どんよりとした空が紫色に覆われる。魔術師たちにより結界が張られたのだ。これで結界の外に魔物が出ることはできなくなる。街中での被害を最小限に抑えるためのものだ。騎士団員たちが対策を講じるに相反して、外に出ていた住人の間には不安が広がっていた。王都の住人は魔物の出現に慣れておらず、不安は連鎖的に伝播していく。
「落ち着いてください、落ち着いてください!」
避難誘導を行っているが、人々の顔には不安と興奮とがないまぜになった表情が浮かんでいた。鳴り響く魔物警報の鐘、紫色の結界に侵蝕された空。突如として訪れた非日常が、人々の心を蝕んでいく。
「落ち着いてられるか! こんな王都ど真ん中の街に魔物が出たんだぞ!」
「お前ら、騎士団の人間だろう! 早く何とかしてくれ!」
「空が紫色に……もうこの街は終わりだわ……!」
結界が張られるほどの緊急事態であることも、結界が張られたものの街が壊滅状態になってしまった例があることも事実ではある。しかし、ルーカスは身をもって知っている。結界が張られる状態は、まだ助かる見込みのあることを。ルーカスの故郷は騎士団の地方支部からも離れた場所で、結界を張る間もなく村を焼かれてしまった。今回の場合は、十を超える騎士団の班が街中にいる。終わらせてなるものか、とルーカスは息巻いた。
ヘンゼル率いる班を含む五班が到着した森の周辺には、異様な雰囲気が漂っていた。鳥の鳴き声一つなく、聞こえてくるのは草木が風に揺れて擦れる音だけ。生き物という生き物の気配が無いのだった。
「静かすぎるな」
トウヒの木が生い茂る森は暗い。広大な森の中には、千メートルを超える山がいくつもあり、観光業も盛んだ。ひとたび魔物による被害が出れば、一大事である。
「魔術師は索敵魔術を展開!」
ヘンゼルの指示を受け、それぞれに構える。ルーカスは、視神経を凝らすことに集中した。
「こちら緊急小隊隊長ヘンゼル。計二十名揃って黒化の森に到着。魔物の姿はなし。他の生物の気配が薄く、上位種が奥に潜んでいる可能性あり」
その後も本部との通信で指示を仰いだヘンゼルは、神妙な顔で三人を見渡した。
「黒化の森が観光業で使われているほかに、純度の高い良質な魔石が埋まっている資源の宝庫であることは知っているな?」
隊員は頷いた。
「で、この黒化の森は国境となっている部分もある」
「うわ、嫌な予感しかないんだけど」
「参謀によれば、上位の魔物を召喚することで森に棲んでいた魔物を街に放ち、混乱を招く。その間に森を制圧してしまおうという隣国の企みではないかということだ。アインツカイト様率いる隊が、調査のために派遣されている。我々は森を進んで合流を図る」
テオバルトの一週間にも及ぶ長い遠征は、このためだったのかとルーカスは合点がいった。
「気配は薄いが、上位の魔物は逃げずに残っている可能性が高い。心して任務に当たれ!」
「あれを追いましょう!」
「待て。あれは魔物習性の特徴ではなく、魔物そのものだ。上層部の仕掛けた異変とは違う可能性が高い。本部との連絡を取る」
ヘンゼルがそう言い終えたとき、同じような姿の魔物がまた通り過ぎていった。見渡せば、ほかにも何匹も何匹も何匹も。
「これ、結構やばくない?」
「だいぶね」
「こちら新人最終訓練中の第192小班ヘンゼル! 小型魔物の群れを街中で確認、指示を願う!」
通信スフィアから顔を上げ、ヘンゼルは険しい表情で周囲を確認する。
「この群れはどこから……。まさか 黒化の森からか?」
黒化の森までは、王都ど真ん中の街からは徒歩で一時間以上は優にかかる。そんな場所からここへ流れ着いたのだおすれば、余程のことがあったに違いなかった。
ルーカスは、必死に魔物に関する情報を頭の中で検索した。
「一瞬見えた赤い毛にあの素早さ……おそらくオルトロスだと思います。すばっしこさはありますが、普段は人を襲うような魔物ではありませんし、愛玩動物として飼育している人だっています。野生はまた習性が異なりますが……何か強い魔物が森に出たせいで逃げてきたのかもしれません」
ルーカスの発言を踏まえて、ヘンゼルがまた本部との通信をとる。
「本部からの指令だ。訓練は中断し、実戦に移行。五班で小隊を組み、森に向かう。小隊長は私だ」
それぞれに通信を取った他の班が合流した。その中にはユリウスの班もあった。
「ルーカス、無事でよかった。まさか、こんなことになるなんてね」
「本当に」
どんよりとした空が紫色に覆われる。魔術師たちにより結界が張られたのだ。これで結界の外に魔物が出ることはできなくなる。街中での被害を最小限に抑えるためのものだ。騎士団員たちが対策を講じるに相反して、外に出ていた住人の間には不安が広がっていた。王都の住人は魔物の出現に慣れておらず、不安は連鎖的に伝播していく。
「落ち着いてください、落ち着いてください!」
避難誘導を行っているが、人々の顔には不安と興奮とがないまぜになった表情が浮かんでいた。鳴り響く魔物警報の鐘、紫色の結界に侵蝕された空。突如として訪れた非日常が、人々の心を蝕んでいく。
「落ち着いてられるか! こんな王都ど真ん中の街に魔物が出たんだぞ!」
「お前ら、騎士団の人間だろう! 早く何とかしてくれ!」
「空が紫色に……もうこの街は終わりだわ……!」
結界が張られるほどの緊急事態であることも、結界が張られたものの街が壊滅状態になってしまった例があることも事実ではある。しかし、ルーカスは身をもって知っている。結界が張られる状態は、まだ助かる見込みのあることを。ルーカスの故郷は騎士団の地方支部からも離れた場所で、結界を張る間もなく村を焼かれてしまった。今回の場合は、十を超える騎士団の班が街中にいる。終わらせてなるものか、とルーカスは息巻いた。
ヘンゼル率いる班を含む五班が到着した森の周辺には、異様な雰囲気が漂っていた。鳥の鳴き声一つなく、聞こえてくるのは草木が風に揺れて擦れる音だけ。生き物という生き物の気配が無いのだった。
「静かすぎるな」
トウヒの木が生い茂る森は暗い。広大な森の中には、千メートルを超える山がいくつもあり、観光業も盛んだ。ひとたび魔物による被害が出れば、一大事である。
「魔術師は索敵魔術を展開!」
ヘンゼルの指示を受け、それぞれに構える。ルーカスは、視神経を凝らすことに集中した。
「こちら緊急小隊隊長ヘンゼル。計二十名揃って黒化の森に到着。魔物の姿はなし。他の生物の気配が薄く、上位種が奥に潜んでいる可能性あり」
その後も本部との通信で指示を仰いだヘンゼルは、神妙な顔で三人を見渡した。
「黒化の森が観光業で使われているほかに、純度の高い良質な魔石が埋まっている資源の宝庫であることは知っているな?」
隊員は頷いた。
「で、この黒化の森は国境となっている部分もある」
「うわ、嫌な予感しかないんだけど」
「参謀によれば、上位の魔物を召喚することで森に棲んでいた魔物を街に放ち、混乱を招く。その間に森を制圧してしまおうという隣国の企みではないかということだ。アインツカイト様率いる隊が、調査のために派遣されている。我々は森を進んで合流を図る」
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