いつかの光、彼方の光

ゆきりんご

文字の大きさ
14 / 16

14話:新人訓練の最終日

しおりを挟む
 テオバルトへの気持ちを自覚してアピールしていこうとしていたルーカスだったが、忙しいテオバルトと接触できる機械的が得られていなかった。特になにも行動を起こせないまま時間が過ぎ、訓練期間は三か月目に突入し、空気はすっかり冷え込む時期になっていた。時折ちらちらと雪の降る日もある。喘息持ちの身には辛い季節がやってきていた。
 寮棟から騎士団本部本館への渡り廊下は、屋根のついているものの壁はなく、ほとんど外である。身を縮こませながら腕で体を覆い、白い息を吐きながら歩く。
 今日はいよいよ訓練の最終段階。与えられる最後の試練は、上層部が街に仕掛けた異変を見抜くというものだ。新人の配属された班が街に繰り出し、異変を見つけられた新人には加点が入る。ルーカスとしては、何としても加点を狙いたいところだ。

「冷えこんでるな。これを羽織っておけ」

 ヘンゼルが冬生地のローブをルーカスにかける。

「ありがとうございます」

 ルーカスは渡り廊下の欄干に手をのせ、空を見上げた。テオバルトを乗せた竜の影はどこにもなく、どんよりと灰汁を煮詰めたような空が広がるばかりだ。

「テオバルトは、いつ帰ってくるんでしょうか」
「そればっかりは私にも分からん。アインツカイト様のことだ。きっと無事に成果をあげて帰ってくるだろう」

 テオバルトは一週間前に遠征に出てから、ずっと帰ってきていない。どういう指令を受けて、どういう戦況にいるのか。下っ端であるルーカスにはもちろん、それなりの立場にいるらしいヘンゼルにも知らされておらず、気をもむことしかできない。

「心配なのは分かるが、今は自分にできることをやるしかない。今日のことに集中しろ。十位以内に入るという約束をしたのだろう?」
「そうですけど……」

 実のところ、自身はなかった。トップレベルのユリウスとともに自主訓練をしたが、魔術に関しては本来ならば士官学校で教わるものをようやく習得したという具合なのだ。成長ではあるが、ようやっと士官学校出の人と横並びになれた、という感覚の方が強かった。売り言葉に買い言葉で啖呵を切ってしまったが、目指すもののレベルの高さに焦りだけが募っていく。

「ユリウスと五分五分の剣技なんだ。堂々としてろ」

 ルーカスは深呼吸をした。白い息が吐き出される。

「あ、おはよう、二人とも!」
「おはようございます。グラウンさん、ホルムさん」
「なにもこんな寒いところで待ってなくても良かったのに。ルーカス君が羽織ってるのってもしかしてアンテスさんのローブ?」
「そうです」
「わぁ、だいぶ打ち解けたねぇ。ねぇ、ヨハン」
「打ち解けたっていより、もっと厄介なことになってない?」
「何をぐだぐだ言っている。ほら、さっさと行くぞ」

 街はうっすらとした雪化粧に覆われていた。
 ルーカスが街に出るのは久々だった。休暇には申請すれば街へ出ることもできるが、新人の訓練期間はそれすらもできない制限があった。二百もの班が一度に街に出るのは、住民の迷惑になることを鑑みて、およそ一か月をかけて行われる。ルーカスが挑む今日は、その最終日である。

「おっ、ルーカス。お互い頑張ろう」
「ユリウスも今日だって言ってたね。うん、頑張ろう」

 二人は拳をこつん、と合わせた。
 街に仕掛けられた異変は、魔物の特性を模したものである。どれだけそれらに注意を向けられるかが問われることになる。互いが魔物に詳しいことを知っている二人は、手強い相手になるだろうことを感じ取っていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

冒険者の幼馴染と、ずっとその隣にいたい男の話

くろねこや
BL
お前の隣で、一緒に歳をとって生きていくんだと思ってた。 例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。 ◇ 15歳になると神様から魔法が与えられる世界で、たった一人魔法が使えないイスト。 火魔法と氷魔法を授かった幼馴染は冒険者になった。 オレにあるのは畑や動物たちをちょこっと元気にする力だけ…。 ところが、そこへ謎の老婆が現れて…。 え? オレも冒険者になれるの? “古代種様”って何?! ※『横書き』方向に設定してお読みください。 ※『設定 こぼれ話』は情報を追加・修正することがあります。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...