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13話:テオバルトとのこと
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すぐさま追いかけてきたヘンゼルに肩を掴まれるのと、出会い頭に人とぶつかったのはほぼ同時だった。
「わっ!」
顔を上げると、そこにいたのはユリウスだった。
「誰かと思ったらルーカスじゃん。なに、泣いてるの? その後ろにいるやつのせい?」
ユリウスは、ヘンゼルを指さした。
「冤罪だ」
「でも何かあったんでしょ。こんな慌てて廊下に出てくるような何かが」
「おい、ルーカスも何か言え」
「アンテスさんは俺の泣いているところを見ると情欲を煽られるんだってさ。それで部屋を飛び出してきちゃった」
「うわ……。え、わざと泣かせたってこと? ドン引きなんだけど」
ユリウスはルーカスの肩にそっと手を添えて、ヘンゼルから見えないよう自身の陰に移動させた。
「断じて違う。こやつは失恋したんだ」
「もしかして、さっきの会話が関係ある?」
ヘンゼルは頷いた。
「へぇ、ルーカスはやっぱりアインツカイト様のことが好きだったんだ」
「や、やっぱりって何」
「何となくそんな気がしてたから。さっきの『大切な人』っていうのを聞いて泣いちゃったんだ。で、今からどこに行こうとしてたの」
「さっぱりしたくて大浴場に行こうかと」
「一人で? 人の少ない朝に?」
黙ってこくこくと頷くルーカス。ユリウスは顔をしかめた。
「な、ダメだろう? その顔で行くのは危険だということを伝えたくて先ほどの発言につながるんだが……」
「ようやく合点がいった。ヘンゼルは黙って部屋にいて。俺がついてく」
「そんな、悪いよ」
「いいから。すぐ準備してくるから、ちょっと待ってて」
言葉通り、ユリウスは本当にすぐ戻ってきた。
「さあ、根掘り葉掘り聞かせてもらおうか」
「根掘り葉掘りも何も、テオバルトとのことで話すことはそんなにないよ」
「出会いとか、好きになったきっかけとか」
「出会いは……」
魔物に故郷の村を焼かれる前。小さな村はみんな顔見知りだった。その村に生まれ落ちたときからの知り合いで、お互いの何もかもを知っていた。各学年に一クラスしかない小さな学校に通っているときに、あの魔物が現れて何もかもを焼きつくした。両親も魔物にやられて立ち尽くしているところにテオバルトは颯爽とやってきた。走ればすぐにせき込んでしまう「のろま」であることをテオバルトは知っているのにも関わらず、一緒に逃げようとしてくれた。
「へえ、ヒーローだ」
「そうなんだ。走り始めて、すぐにせき込んでしまった俺を負ぶってくれて、それで生き延びることができたんだ」
「そりゃあ、好きになるね」
「恋愛的な意味で好きだって気づいたのは、ついさっきなんだ。かっこいい、憧れるって気持ちはずっとあったけど、それは恩人だからだと思ってた。でもさっきの『大切な人』って言葉を聞いた時、苦しかったんだ。それで俺は、テオバルトのことがそういう意味で好きなんだって気づいちゃったんだよ。気づきたくなかったな……」
「もしかしたらアインツカイト様の言う相手がルーカスかもしれないよ」
「それはない。離れてた期間が長いし。ヘンゼルによれば、ベーア様じゃないかって」
話している間に、涙は引っ込んでいた。それでもテオバルトのことを思うと、胸が苦しくなる。ずっと大変な場所で頑張っているテオバルトのことを考えれば、一日でも早く仇討ちを終わらせて、穏やかな場所で過ごしてほしいと思う。
「それで諦めてしまえる程度の気持ちなんだ」
ルーカスはその言葉にハッとした。バルナバスにも同じことを言われたことがあった。
「ごめん、ちょっと言葉が厳しかったかな」
「ううん。そんなことない。俺、まだ何もしてない」
ただ遠くから眺めて指をくわえているだけでは、成果は得られない。ユリウスに言われなければ、ルーカスはまた同じ過ちをするところだった。凡人だから。顔が普通だから。テオバルトの隣に立つにふさわしい強さでないから。そう言って諦めてしまうのは簡単だ。簡単で、苦しくない道を選んで後悔するのだけは御免だ。
「ルーカスって案外、負けず嫌いだよね」
「そういう風にしつけてくれた人がいるんだ」
気持ちを新たにしたルーカスの顔には、先ほどまで泣いていたとは思えない凛々しい表情が浮かんでいた。
「わっ!」
顔を上げると、そこにいたのはユリウスだった。
「誰かと思ったらルーカスじゃん。なに、泣いてるの? その後ろにいるやつのせい?」
ユリウスは、ヘンゼルを指さした。
「冤罪だ」
「でも何かあったんでしょ。こんな慌てて廊下に出てくるような何かが」
「おい、ルーカスも何か言え」
「アンテスさんは俺の泣いているところを見ると情欲を煽られるんだってさ。それで部屋を飛び出してきちゃった」
「うわ……。え、わざと泣かせたってこと? ドン引きなんだけど」
ユリウスはルーカスの肩にそっと手を添えて、ヘンゼルから見えないよう自身の陰に移動させた。
「断じて違う。こやつは失恋したんだ」
「もしかして、さっきの会話が関係ある?」
ヘンゼルは頷いた。
「へぇ、ルーカスはやっぱりアインツカイト様のことが好きだったんだ」
「や、やっぱりって何」
「何となくそんな気がしてたから。さっきの『大切な人』っていうのを聞いて泣いちゃったんだ。で、今からどこに行こうとしてたの」
「さっぱりしたくて大浴場に行こうかと」
「一人で? 人の少ない朝に?」
黙ってこくこくと頷くルーカス。ユリウスは顔をしかめた。
「な、ダメだろう? その顔で行くのは危険だということを伝えたくて先ほどの発言につながるんだが……」
「ようやく合点がいった。ヘンゼルは黙って部屋にいて。俺がついてく」
「そんな、悪いよ」
「いいから。すぐ準備してくるから、ちょっと待ってて」
言葉通り、ユリウスは本当にすぐ戻ってきた。
「さあ、根掘り葉掘り聞かせてもらおうか」
「根掘り葉掘りも何も、テオバルトとのことで話すことはそんなにないよ」
「出会いとか、好きになったきっかけとか」
「出会いは……」
魔物に故郷の村を焼かれる前。小さな村はみんな顔見知りだった。その村に生まれ落ちたときからの知り合いで、お互いの何もかもを知っていた。各学年に一クラスしかない小さな学校に通っているときに、あの魔物が現れて何もかもを焼きつくした。両親も魔物にやられて立ち尽くしているところにテオバルトは颯爽とやってきた。走ればすぐにせき込んでしまう「のろま」であることをテオバルトは知っているのにも関わらず、一緒に逃げようとしてくれた。
「へえ、ヒーローだ」
「そうなんだ。走り始めて、すぐにせき込んでしまった俺を負ぶってくれて、それで生き延びることができたんだ」
「そりゃあ、好きになるね」
「恋愛的な意味で好きだって気づいたのは、ついさっきなんだ。かっこいい、憧れるって気持ちはずっとあったけど、それは恩人だからだと思ってた。でもさっきの『大切な人』って言葉を聞いた時、苦しかったんだ。それで俺は、テオバルトのことがそういう意味で好きなんだって気づいちゃったんだよ。気づきたくなかったな……」
「もしかしたらアインツカイト様の言う相手がルーカスかもしれないよ」
「それはない。離れてた期間が長いし。ヘンゼルによれば、ベーア様じゃないかって」
話している間に、涙は引っ込んでいた。それでもテオバルトのことを思うと、胸が苦しくなる。ずっと大変な場所で頑張っているテオバルトのことを考えれば、一日でも早く仇討ちを終わらせて、穏やかな場所で過ごしてほしいと思う。
「それで諦めてしまえる程度の気持ちなんだ」
ルーカスはその言葉にハッとした。バルナバスにも同じことを言われたことがあった。
「ごめん、ちょっと言葉が厳しかったかな」
「ううん。そんなことない。俺、まだ何もしてない」
ただ遠くから眺めて指をくわえているだけでは、成果は得られない。ユリウスに言われなければ、ルーカスはまた同じ過ちをするところだった。凡人だから。顔が普通だから。テオバルトの隣に立つにふさわしい強さでないから。そう言って諦めてしまうのは簡単だ。簡単で、苦しくない道を選んで後悔するのだけは御免だ。
「ルーカスって案外、負けず嫌いだよね」
「そういう風にしつけてくれた人がいるんだ」
気持ちを新たにしたルーカスの顔には、先ほどまで泣いていたとは思えない凛々しい表情が浮かんでいた。
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