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12話:泣き虫ルー
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戻った部屋のソファでごろごろとしていると、ヘンゼルが睨んできたが、ルーカスはそんな視線も気にならないほど先ほどの会話を引きずっていた。ヘンゼルの「大切な人」。それが胸の深くまで刺さったようで苦しかった。
「……喘息があるなど初耳なんだが」
「言ってませんでしたからね」
「なぜ、健康状態の報告にあげなかった」
「試験で不利になる以外の何があるって言うんですか」
「そこまでして騎士団に入団したかったのか」
「約束なので」
「アインツカイト様は望んでいなかったようだが」
ルーカスは答えず、ぐでぐでとうつ伏せになって顔を腕にうずめた。ヘンゼルが喘息のことについて気になることは理解できるが、それどころではなかった。どうして自分がヘンゼルの「大切な人」という言葉にこんなにも苦しむことになっているのか分からない。分からないものがルーカスには怖かった。
「俺は本当に身のほど知らずなのかもしれません」
テオバルトの傍にいたいという思いが、一緒に仇討ちをしたいというもの以外の感情を含んでいることをルーカスは自覚しつつあった。テオバルトが誰かの隣で幸せにしているのを想像すると、胸が締め付けられる思いがした。離れている六年の間に、共に災厄を生き残った仲である以上に大きな存在ができたことが悔しい。
「アンテスさんは、テオバルトの大切な人に心当たりはありますか」
「ないこともないが、知ってどうする」
「傷つきたい気分です」
傷ついて、感傷に浸って。それで何が変わるわけもないのだが、とにもかくにもそういう気分なのだ。
「ベーア様と一緒いるところをよくお見かけする。アインツカイト様はあまり誰かと親しくしているところを見ないが、ベーア様とだけはよく共に行動しているように見えるな」
昇進の口添えを願いに行った人だ。体を差し出そうとしたところ、「好みでない」と一蹴されたことがよみがえる。あんなに綺麗な人が相手では、勝ち目がない。気持ちはどんどん沈み込んでいく。腕に冷たいものを感じた。雫が落ちていたせいだ。一度それをみとめると、雫は両の目からとめどなく溢れてくる。ルーカスは気分からくるおもだるさを感じながらも体を起こした。
「大浴場に行ってきます」
「おい待て。また泣いてるのか。その顔で行くのはまずいだろう」
「みっともないかもしれませんけど、そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
ずびずびと鼻を啜りながらルーカスは答えた。
泣き虫である自覚はあった。テオバルトにですら「泣き虫ルー」とあだ名される始末である。泣きたいと思ってるわけでもないのに、感情が揺れて勝手に涙が流れてくる。喘息とともに面倒な体を持ったものだ、とルーカスはひとりごちた。
「みっともないとかじゃなくてだな……」
「じゃあ、なんだって言うんですか」
ヘンゼルはばつが悪そうに顔を逸らし、何も答えない。
「否定するぐらいなら、何か言ってくださいよ」
「セクハラ発言になるぞ」
「へ……」
「お前の泣いた顔は……なんというか……情欲を煽られてる気分になる」
いつも堂々としているヘンゼルが震えた声で言った。最後の方なんかは、消え入りそうな声だった。
「な、アンテスさんは俺のことそんな目で見てたんですか……!?」
ルーカスはバスタオルをひっつかむと顔を覆った。
「まだ大浴場に行った方が、アンテスさんといるよりマシです!」
そう言いおいて、ルーカスは部屋を飛び出した。
「……喘息があるなど初耳なんだが」
「言ってませんでしたからね」
「なぜ、健康状態の報告にあげなかった」
「試験で不利になる以外の何があるって言うんですか」
「そこまでして騎士団に入団したかったのか」
「約束なので」
「アインツカイト様は望んでいなかったようだが」
ルーカスは答えず、ぐでぐでとうつ伏せになって顔を腕にうずめた。ヘンゼルが喘息のことについて気になることは理解できるが、それどころではなかった。どうして自分がヘンゼルの「大切な人」という言葉にこんなにも苦しむことになっているのか分からない。分からないものがルーカスには怖かった。
「俺は本当に身のほど知らずなのかもしれません」
テオバルトの傍にいたいという思いが、一緒に仇討ちをしたいというもの以外の感情を含んでいることをルーカスは自覚しつつあった。テオバルトが誰かの隣で幸せにしているのを想像すると、胸が締め付けられる思いがした。離れている六年の間に、共に災厄を生き残った仲である以上に大きな存在ができたことが悔しい。
「アンテスさんは、テオバルトの大切な人に心当たりはありますか」
「ないこともないが、知ってどうする」
「傷つきたい気分です」
傷ついて、感傷に浸って。それで何が変わるわけもないのだが、とにもかくにもそういう気分なのだ。
「ベーア様と一緒いるところをよくお見かけする。アインツカイト様はあまり誰かと親しくしているところを見ないが、ベーア様とだけはよく共に行動しているように見えるな」
昇進の口添えを願いに行った人だ。体を差し出そうとしたところ、「好みでない」と一蹴されたことがよみがえる。あんなに綺麗な人が相手では、勝ち目がない。気持ちはどんどん沈み込んでいく。腕に冷たいものを感じた。雫が落ちていたせいだ。一度それをみとめると、雫は両の目からとめどなく溢れてくる。ルーカスは気分からくるおもだるさを感じながらも体を起こした。
「大浴場に行ってきます」
「おい待て。また泣いてるのか。その顔で行くのはまずいだろう」
「みっともないかもしれませんけど、そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
ずびずびと鼻を啜りながらルーカスは答えた。
泣き虫である自覚はあった。テオバルトにですら「泣き虫ルー」とあだ名される始末である。泣きたいと思ってるわけでもないのに、感情が揺れて勝手に涙が流れてくる。喘息とともに面倒な体を持ったものだ、とルーカスはひとりごちた。
「みっともないとかじゃなくてだな……」
「じゃあ、なんだって言うんですか」
ヘンゼルはばつが悪そうに顔を逸らし、何も答えない。
「否定するぐらいなら、何か言ってくださいよ」
「セクハラ発言になるぞ」
「へ……」
「お前の泣いた顔は……なんというか……情欲を煽られてる気分になる」
いつも堂々としているヘンゼルが震えた声で言った。最後の方なんかは、消え入りそうな声だった。
「な、アンテスさんは俺のことそんな目で見てたんですか……!?」
ルーカスはバスタオルをひっつかむと顔を覆った。
「まだ大浴場に行った方が、アンテスさんといるよりマシです!」
そう言いおいて、ルーカスは部屋を飛び出した。
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