ロスト・ワールド

さのさかさ

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3話 処刑場

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「ねえ兄さん。あそこに行ってみない?」
 明るい声に強がりは一切なく、懐かしむようにルスが提案する。しかし、その一方でニックは眉間に皺を寄せじっと遠くの空を睨んでいた。
「兄さん?」
 あまりにも反応がないのでルスはしびれを切らしもう一度呼び掛ける。
「あっ、わるい。そうだな、行ってみるか。せっかくの命日だもんな」

 目的の場所に辿り着くのに十分もかからなかった。
「何度来てもここは寂びそうだ」
 ニックが漏らすように呟く。悲しさとノスタルジーが混ざり合った声は不自然なくらい大人びていてルスは一人取り残されたような気分になる。

 父アランが自殺した場所。
 自らの身を放り投げたその崖は、まるで此処から世界が二つに切り離されているように
ぱっくりと割れている。
 恐る恐る真っ暗な底を覗くと、足元から寒気が這い上がり、ぶるぶるっと二人の体を震わせた。
「処刑場」
 ルスが勝手にそう呼んだ訳ではなく、この場所は本当に処刑場として扱われていた。
 街で大きな罪を犯した者は此処に連れてこられ強制的に突き落とされる。
 普段から真面目な父のアランとは無縁の場所だと二人は思っていた。
「どうして此処なんだよ」
 吐き捨てるようにニックが言うと、崖の底めがけて小さな石を投げた。
 石は崖の闇に吸い込まれ、物音一つ立てずニックの視界から消えて無くなった。父もまたこの石と同じように物音一つ立てず消えたのかと思うと悔しくて胸の辺りが熱くなった。
 
 処刑場には石で作られた柱が六本、円を描くように設置されており、ニックとルスは互いに別々の柱を背もたれにして地面に座った。
「兄さん、この柱は何で作られたんだろう」
「俺に聞かれても分かるわけないだろ。お前の方が頭良いんだし」
「こういうのは考えるよりも直感だよ。野性的な直感なら兄さんの方が上だと僕は思うよ」
「なんだよそれ。俺は動物か」
 こんな他愛もない兄弟の会話が二人には心地よく自然と笑みが零れた。
 
 さっきまで天高くにあった太陽もいつの間にか傾き始め次第にその赤を濃くしていた。
「そろそろ帰るか」
 ニックは立ち上がると、お尻についた土をぱんぱんと手で払った。
「そうだね」
 ルスもそれに続く。
 二人は崖に向かって跪き数秒の間、きつく目を閉じて祈りを捧げ、名残惜し気に処刑場を後にした。

「おかえりなさい。遅かったわねー」
 二人が家に着くと、夕食の支度をしているらしいカーラが台所から声を張り上げた。
 それと同時に、濃厚で優しい香りが二人の鼻孔とお腹を刺激する。
「今日はシチューだ!やったな!」
 処刑場での大人びた様子が嘘かのようにニックが無邪気にはしゃぐ。
「兄さん喜びすぎ」
「お前、これが喜ばずにいられるか!シチューは神の食べ物だぞ!」
「はいはい」
「よし、早く手洗って飯だあ!」
「こらー!ニック家の中で走らないっ!」
 カーラの声に触発されるように家の外では大きな風がびゅうびゅうと吹き、風もまたニックを叱っているような気がした。ルスはそんな家の中と外の音に耳を澄まし控えめな笑い声を漏らした。



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