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4話 父の形見
しおりを挟む「今日はどこに行ってたの?」
一口サイズに千切ったロールパンをシチューに浸しながらカーラが尋ねる。
「しょ……」
ルスが言いかけた瞬間、ニックが割り込む。
「ルスと秘密基地に行ってたんだ!」
「秘密基地?」
「そう!秘密基地。ここよりももう少し森の奥へ入った場所に俺たちの秘密基地を作ってあるんだ」
パンを口に運ぶカーラの手が一瞬止まる。
ニックはあまり気にしていないようだったが、ルスはその一瞬の間に少しの違和感を覚えた。しかし、口に出すことはせずニックの嘘に合わせる。
「僕ら二人で頑張って作ったんだよ。いつか母さんも招待するよ」
「ほんとう?ありがとう。楽しみにしてるわね」
その後も、ニックとルスは父アランの話題を意識的にしないよう努めた。アランの話をすると決まってカーラの表情は重くなり、数秒後には泣いてしまうからだ。
だからこの時、ニックとルスは後頭部を大きな棒で、おもいっきり殴られたような衝撃を受ける。
あの日以来ずっと避けてきたアランの話をカーラ自身が話し始めたのである。
「ニックとルスは今日、何の日か分かる?」
優しい目だった。なにもかも見透かしたようなカーラの目は涙に潤むことなく透き通っていて吸い込まれそうな感じがした。
二人は突然の事に驚き上手く言葉が出てこず黙り込む。
「分からないかしら?三年前……」
先に口を開いたのはニックだった。
「分かるよ。父さんだろ……」
カーラの前だと心が弱くなって泣きそうになるのをニックは必死に堪える。
隣に座るルスはそんな兄の姿を見ただけで涙が溢れた。
「ニック、ルス。ありがとう。あなたたちは本当にいい子ね。アランもきっと喜んでいるわ」
カーラが両手でポンポンと二人の頭を優しく撫でるものだから、しまいには二人とも水道の蛇口を捻ったみたいに目から大粒の涙を流してしまった。
涙も落ち着いた頃、突然カーラが二人の前に小さな箱を突き出した。
深い青色をした正方形の小さな箱はカーラの手の平にちょこんと乗っかっていて、側面には幾本かの細い線と何かの動物のようなシルエットがデザインされている。
「この箱は何?」
ルスがカーラに尋ねる。
「お父さんの形見よ」
「かたみってなんだ?」
「父さんの遺した物だよ」
「そうルスの言う通り、これはお父さんが貴方たちに残した物よ」
「何が入ってんの?」
『何が入ってるの?』
二人の声がピッタリと重なる。
「中身は貴方たちで確かめなさい」
カーラは小さな箱をニックに手渡した。
箱は見た目通り軽く、重さだけでは中身が何なのか判別できない。むしろ、空ではないのかとさえ思える程だった。
「開けていい?」
ニックにしては慎重だなとルスは思った。
それほど、ニックにとって父の事はデリケートな部分なのだと改めて実感する。
「ええ、もちろん」
「開けるぞ、ルス」
ルスはこくりと頷き、固唾をのんでニックを見守る。
「指輪?」
ニックは食い入るように箱の中身を見て言った。不思議と鼓動が早くなっていく。
銀色の指輪は装飾品など無く、とてもシンプルなデザインだった。
「父さんこんな、指輪してたっけ?」
隣から箱を覗き込みながらルスは不思議そうな顔をしている。ニックもまたアランが指輪をはめている姿を想像してみるが、うまく想像できなかった。
「いや、してないと思う」
「それは貴方たちの為にアランが作ったもの。そして貴方たちを守るためにアランが不思議な力をこめた指輪よ」
「俺たちのために?」
「でも指輪は一つしかないじゃないか。僕らは双子なのに」
「誰が持つかは貴方たちで決めていいのよ」
「なら俺だなあ!」
ニックは自信満々に鼻の穴を大きくした。
「なんでさ!僕だって持つ資格はあるよ」
「お前は弟だろ!」
「双子なんだから、変わらないよ!」
討論は続き、結局誰が指輪を持つのかは決められなかった。
「父さんは何で指輪を一つにしたのかな?」
自分たちの部屋に戻ったニックとルスはそれぞれのベッドに入って、ぼーっと薄暗い天井を見つめていた。
「ん?さあな。わかんねー」
ニックは父の形見の指輪を呑気に上へ投げては取ってを繰り返している。指輪は投げられる度に月の光に反射してキラキラと輝いた。
「ちょっと兄さん。扱いが雑だよ」
「そうだ!」
急に叫ぶものだから、ルスはビクンっと驚きベッドから勢いよく体を起こした。
「なっ……なに急に?」
状況がつかめず、戸惑いを隠しきれないルスの顔を見てニックが笑った。
「いやあさ、これは指輪だろ?」
「そうだね。誰が見たって指輪だ」
「指輪ははめるものだろ?」
「指輪は……」
そう言いかけて、ルスはニックの言いたいことが分かった。
「ぴったりの方が持つってこと?」
「そのとーり!どうだ、名案だろ?」
大発明でもしたみたいに目を輝かせるニックに否定の言葉を投げる気にはなれず、ルスも「そうだね」と肯定する。
「俺たちの指は、幸い双子にも関わらず太さが違う」
いつの間にか体を起こし、ルスの方を向いたニックが右手の平を突き出していた。ルスは答えるように右手の平を合わせる。
「なっ?違うだろ」
見た目の体格差はあまり無いにもかかわらず、確かに二人の指は太さが違っていた。ニックはルスよりも指が太く、ルスはニックよりも指が短かった。
「確かにこれなら、どっちが持ち主に相応しいか決められそうだね」
「よし、そうと決まれば恨みっこなしだからな。俺からいくぞ」
ニックはゆっくりと右手の中指に指輪を滑らせるようにしてはめていく。ルスは生唾を飲み込み緊張した様子でニックの指を見つめていた。
「どう?」
すぐに返事はこず、少しの間沈黙が続く。
「焦らさないでよお!」
俯いていたニックが顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「悪い、指輪抜けなくなっちゃった」
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