ロスト・ワールド

さのさかさ

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6話 謎の男

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 突然の声に驚いたニックは咄嗟に自分の口を両手で押える。大きな声を出せばすぐに母さんに気付かれてしまう。

「ねえ兄さん、そこで何してるの?」

 振り返るとルスが不安そうな顔をしてこちらを見ていた。ニックは内心ほっとし、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「なんだ、お前かよ」

 諭すように小さな声でルスに話しかける。

「いいか。今は何も言い返さずに黙って聞いて欲しい。俺たちの母さんは本当の母さんじゃなかった」

「えっ……それってどういうこと?」
 ルスは目を丸くして動揺している。
 むりもない、突然こんなことを言い出したら誰だってこうなる。

「今は説明している暇は無いんだ。とにかく俺たちの部屋に早く戻ろう」

 それでもルスは何か聞きたそうだったが、渋々納得し、こくりと一度だけ頷くとそれ以上は何も言わなかった。
 それからニックは、ルスの手を取り、ゆっくりとリビングの扉を背にして歩き始めた。
 ルスの手は不安からか驚くほど固くなっている。ニックはなんとか安心させようと、ぎゅっとルスの手を掴んで離さなかった。
 冷たい真っ暗な廊下は、まるで別世界のように森閑としていた。
 誰もいないはずなのに、いたる所から視線を感じる気がした。今すぐにでも逃げ出したい。不安と恐怖と緊張感が体を蝕んで痙攣させる。 
 ニックはいつの間にか、自分の息が荒くなっていることに気付き慌てて呼吸を整える。
 それでも、またすぐに呼吸が荒くなるのでその度、深呼吸をして呼吸を整える。
 気持ちばかりが急いて、周囲に気を配る余裕さへ二人にはほとんど無かった。

「大丈夫?」不安そうなルスの声が微かに耳に届く。

「大丈夫、静かにしてろ」ルスに気づかれないように平静を装いつつ返す。
 二人の息遣いが静かな廊下に反響する。


 
 ガチャ……。
 扉を開く音が廊下に響く。
 ニックとルスは咄嗟に階段裏の物陰に体を忍ばせた。
 二人はできるだけ、息が漏れてしまわないように両手で口を押え互いに見つめ合った。
 

「明日の朝、迎えに来る。その時までに指輪をはめさせておけ」
 
 感情の無い低い声にルスの目がぱっと見開く。
 きっと大人の男がいるなんて思ってもみなかったのだろう。
 ニックは驚くルスに体を寄せ、小さな声で「大丈夫」と人差し指を自分の口の前に立てて言った。
 それからまた二人は一つの塊のように身を寄せ合い、謎の男とカーラの会話に耳を澄ませた。

「どちらでもいいのよね?」

「ああ、どちらでも構わない。お前が邪魔だと思う方に付けさせればいい」
 厭らしい笑いを含んだ声だった。

「ふんっ。それは、あの子たちに任せるわよ」

「お前じゃ決められないってか?まさか、お前あの双子に情でも沸いたんじゃないだろうな?」

「なんとでも言いなさい。無駄な話はしたくないの。あの子たちが起きてしまったらどうするつもり?」

「ふんっ。まあいい。とにかくどちらかに指輪をはめさせろ。はめた方が処刑台行きだ」

 バリンッ、
 棚に飾られていた花瓶が床に落ちて激しく割れる。雷が落ちたように全身に衝撃が走る。

「お……おいっ、何してんだよ、ルス!」
 いつのまにか、ルスが目の前に立っていた。

「処刑場ってなんだよ」
 男の方をするどく睨みつけルスが叫ぶ。普段のルスとは雰囲気が全く違う。こんなルスを見るのは初めてだった。

「処刑場ってどういう意味だよ」

「おいおいおい。起きてるんだが?これはどういうことだ。カーラ」

「ルス、そこで何しているの?どこから聞いていたの?」
 カーラの声に動揺が混じる。
 ニックはさっきの二人の会話を思い出してみた。処刑場いきって一体どういうことだ。しかも、連れていかれるのは指輪をはめた方。  
だとするとそれは自分の事で、ルスはそれが分かって飛び出した。自分の置かれた状況が上手くまとめられない。

「そんなことどうだっていい!処刑場行きってどういう意味だよ!」

「ルス!部屋に戻りなさい!」

 カーラが叫ぶと同時に被せるように男も叫んだ。



「そのままの意味さ。指輪をはめた方が明日死ぬ!」










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