7 / 15
6話 謎の男
しおりを挟む突然の声に驚いたニックは咄嗟に自分の口を両手で押える。大きな声を出せばすぐに母さんに気付かれてしまう。
「ねえ兄さん、そこで何してるの?」
振り返るとルスが不安そうな顔をしてこちらを見ていた。ニックは内心ほっとし、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「なんだ、お前かよ」
諭すように小さな声でルスに話しかける。
「いいか。今は何も言い返さずに黙って聞いて欲しい。俺たちの母さんは本当の母さんじゃなかった」
「えっ……それってどういうこと?」
ルスは目を丸くして動揺している。
むりもない、突然こんなことを言い出したら誰だってこうなる。
「今は説明している暇は無いんだ。とにかく俺たちの部屋に早く戻ろう」
それでもルスは何か聞きたそうだったが、渋々納得し、こくりと一度だけ頷くとそれ以上は何も言わなかった。
それからニックは、ルスの手を取り、ゆっくりとリビングの扉を背にして歩き始めた。
ルスの手は不安からか驚くほど固くなっている。ニックはなんとか安心させようと、ぎゅっとルスの手を掴んで離さなかった。
冷たい真っ暗な廊下は、まるで別世界のように森閑としていた。
誰もいないはずなのに、いたる所から視線を感じる気がした。今すぐにでも逃げ出したい。不安と恐怖と緊張感が体を蝕んで痙攣させる。
ニックはいつの間にか、自分の息が荒くなっていることに気付き慌てて呼吸を整える。
それでも、またすぐに呼吸が荒くなるのでその度、深呼吸をして呼吸を整える。
気持ちばかりが急いて、周囲に気を配る余裕さへ二人にはほとんど無かった。
「大丈夫?」不安そうなルスの声が微かに耳に届く。
「大丈夫、静かにしてろ」ルスに気づかれないように平静を装いつつ返す。
二人の息遣いが静かな廊下に反響する。
ガチャ……。
扉を開く音が廊下に響く。
ニックとルスは咄嗟に階段裏の物陰に体を忍ばせた。
二人はできるだけ、息が漏れてしまわないように両手で口を押え互いに見つめ合った。
「明日の朝、迎えに来る。その時までに指輪をはめさせておけ」
感情の無い低い声にルスの目がぱっと見開く。
きっと大人の男がいるなんて思ってもみなかったのだろう。
ニックは驚くルスに体を寄せ、小さな声で「大丈夫」と人差し指を自分の口の前に立てて言った。
それからまた二人は一つの塊のように身を寄せ合い、謎の男とカーラの会話に耳を澄ませた。
「どちらでもいいのよね?」
「ああ、どちらでも構わない。お前が邪魔だと思う方に付けさせればいい」
厭らしい笑いを含んだ声だった。
「ふんっ。それは、あの子たちに任せるわよ」
「お前じゃ決められないってか?まさか、お前あの双子に情でも沸いたんじゃないだろうな?」
「なんとでも言いなさい。無駄な話はしたくないの。あの子たちが起きてしまったらどうするつもり?」
「ふんっ。まあいい。とにかくどちらかに指輪をはめさせろ。はめた方が処刑台行きだ」
バリンッ、
棚に飾られていた花瓶が床に落ちて激しく割れる。雷が落ちたように全身に衝撃が走る。
「お……おいっ、何してんだよ、ルス!」
いつのまにか、ルスが目の前に立っていた。
「処刑場ってなんだよ」
男の方をするどく睨みつけルスが叫ぶ。普段のルスとは雰囲気が全く違う。こんなルスを見るのは初めてだった。
「処刑場ってどういう意味だよ」
「おいおいおい。起きてるんだが?これはどういうことだ。カーラ」
「ルス、そこで何しているの?どこから聞いていたの?」
カーラの声に動揺が混じる。
ニックはさっきの二人の会話を思い出してみた。処刑場いきって一体どういうことだ。しかも、連れていかれるのは指輪をはめた方。
だとするとそれは自分の事で、ルスはそれが分かって飛び出した。自分の置かれた状況が上手くまとめられない。
「そんなことどうだっていい!処刑場行きってどういう意味だよ!」
「ルス!部屋に戻りなさい!」
カーラが叫ぶと同時に被せるように男も叫んだ。
「そのままの意味さ。指輪をはめた方が明日死ぬ!」
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる