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7話 逃走
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男の低い声が地響きのように廊下や壁を震わせる。
「なんで!なんで処刑されなきゃいけないんだよ!」
ルスが叫ぶ。ニックにとってこんなに感情的になるルスの姿を見るのは久しぶりの事だった。
「そう言う定めだからだよ」
男の言葉が刃物のようにニックの体に突き刺さる。心臓の辺りが苦しくなって全身がブルブルと震えはじめる。
俺が処刑される?
そう言う定め?
現実を受け止めきれず、ニックは目をぎゅっと瞑り逃げ出したい思いでいっぱいになった。
「なら、逃げようよ」
えっ……。
心の声に答えるようにルスが小声で言った。ニックが顔を上げるとルスがこちらに向かって微笑んでいた。
「兄さん。二人で逃げよう」
ルスが手を差し出す。真っ暗な廊下にいるはずなのに、なぜかルスが輝いて見える気がした。
そして、ニックはルスの手をぎゅっと掴んで勢いよく立ち上がった。
「ニック!あなたもいたの……」
物陰から出てきたニックを見てカーラが叫ぶ。悲しんでいるような声は演じているのか本心なのか今ではよく分からない。彼女は本当の母さんではないのだ。
物陰から出たことで初めて男の姿がニックの視界に入る。
全身を真黒なコートで包み、頭にはフードを深くかぶっている。身長は少なくとも2メールはあるようだ。
ニックには不思議とそれが人間ではないように思えた。
見ていてこんなにも心が不安になる人間がいるはずがない。
直感でそう悟る。
あいつは『化物』だ。
●
「逃げるって言ったってどこに?」
玄関の前には母さんと男がいる。彼らを突っ切っていくのは現実的とは言えない。例え上手くかわせたとしても、どちらかは確実につかまってしまうだろう。
ニックが頭を抱えているとルスが叫んだ。
「僕らの部屋に行こう!」
と同時にニックの手を引っ張り、自分たちの部屋に向かって走り出す。
「俺らの部屋に行ってどうするんだよ」
「窓を突き破るんだ。そこから森の奥に逃げよう!」
そう言われた瞬間、ニックは不意に母の言葉を思い出した。
「森の奥へは行ってはダメ」
母さんは本当の母さんじゃない。なのに、約束を破ってしまう罪悪感みたいなものが胸を締め付ける。「ルス森の奥へ行くのはやめよう。母さんが前に言ってただろ」そんな言葉が喉元まで上がってきては消える。こんな状況に陥っても母さんは俺らの母さんなのだと思い知らされて悔しかった。
部屋について直ぐに二人は本棚を扉の前に移動させ母たちの侵入を防いだ。これじゃあの大男でも直ぐには入ってこられないだろう。
すると扉の向こうでカーラが大声をあげた。
「ニック、ルス、出てきなさい!」
そんな母の言葉に二人が耳を傾ける筈もなく、ルスは椅子を窓に向かって思いっきり投げつけた。
ガシャーン。
爆音とともに、ガラスが空中に飛び散る。
そして破片はキラキラと月の光を反射させ床に落ちていく……と思っていた。
しかし、二人の常識に反してガラスの破片は一向に床には落ちてこず、あろうことか空中を竜巻のように回転しながら浮遊しているではないか。
呆気にとられた二人はただ口を開けて見つめることしかできなかった。
「どうなってるんだよ……」
「僕にも分からない……」
考えたってどうにもならないことが起こっている。その事だけを理解し、空中で回転を続けるガラスをじっと見つめ続ける。
シャラシャラと言う音が不気味に部屋を埋め、いつこの竜巻がこっちに迫ってきても可笑しくない。そんな危機感を常に抱きながらなす術なく立ち尽くすことは二人に大きな恐怖を与えた。
それに加えて扉を開けられるのも時間の問題なのだ。
二人には時間がない。どちらかが直ぐにでも判断を下さなければ最悪の事態になってしまう。
「俺が突っ込む」
「えっ?」
「だから、俺があのガラスに突っ込む」
ぎゅっとこぶしを握り締めニックが真っすぐにガラスの竜巻を見つめる。
「むちゃだよ。それに兄さんが突っ込んだからと言って竜巻がなくなるとは限らない」
「でも何にもしないで捕まるのはもっと嫌だ!」
確かに何もしないで捕まるのは嫌だ。それはルスにとっても同じ気持ちだった。でも兄を危険な目に合わせたくはない。できることなら二人無傷で逃げ延びたかった。
「兄さん、僕に良い考えがある」
「なんで!なんで処刑されなきゃいけないんだよ!」
ルスが叫ぶ。ニックにとってこんなに感情的になるルスの姿を見るのは久しぶりの事だった。
「そう言う定めだからだよ」
男の言葉が刃物のようにニックの体に突き刺さる。心臓の辺りが苦しくなって全身がブルブルと震えはじめる。
俺が処刑される?
そう言う定め?
現実を受け止めきれず、ニックは目をぎゅっと瞑り逃げ出したい思いでいっぱいになった。
「なら、逃げようよ」
えっ……。
心の声に答えるようにルスが小声で言った。ニックが顔を上げるとルスがこちらに向かって微笑んでいた。
「兄さん。二人で逃げよう」
ルスが手を差し出す。真っ暗な廊下にいるはずなのに、なぜかルスが輝いて見える気がした。
そして、ニックはルスの手をぎゅっと掴んで勢いよく立ち上がった。
「ニック!あなたもいたの……」
物陰から出てきたニックを見てカーラが叫ぶ。悲しんでいるような声は演じているのか本心なのか今ではよく分からない。彼女は本当の母さんではないのだ。
物陰から出たことで初めて男の姿がニックの視界に入る。
全身を真黒なコートで包み、頭にはフードを深くかぶっている。身長は少なくとも2メールはあるようだ。
ニックには不思議とそれが人間ではないように思えた。
見ていてこんなにも心が不安になる人間がいるはずがない。
直感でそう悟る。
あいつは『化物』だ。
●
「逃げるって言ったってどこに?」
玄関の前には母さんと男がいる。彼らを突っ切っていくのは現実的とは言えない。例え上手くかわせたとしても、どちらかは確実につかまってしまうだろう。
ニックが頭を抱えているとルスが叫んだ。
「僕らの部屋に行こう!」
と同時にニックの手を引っ張り、自分たちの部屋に向かって走り出す。
「俺らの部屋に行ってどうするんだよ」
「窓を突き破るんだ。そこから森の奥に逃げよう!」
そう言われた瞬間、ニックは不意に母の言葉を思い出した。
「森の奥へは行ってはダメ」
母さんは本当の母さんじゃない。なのに、約束を破ってしまう罪悪感みたいなものが胸を締め付ける。「ルス森の奥へ行くのはやめよう。母さんが前に言ってただろ」そんな言葉が喉元まで上がってきては消える。こんな状況に陥っても母さんは俺らの母さんなのだと思い知らされて悔しかった。
部屋について直ぐに二人は本棚を扉の前に移動させ母たちの侵入を防いだ。これじゃあの大男でも直ぐには入ってこられないだろう。
すると扉の向こうでカーラが大声をあげた。
「ニック、ルス、出てきなさい!」
そんな母の言葉に二人が耳を傾ける筈もなく、ルスは椅子を窓に向かって思いっきり投げつけた。
ガシャーン。
爆音とともに、ガラスが空中に飛び散る。
そして破片はキラキラと月の光を反射させ床に落ちていく……と思っていた。
しかし、二人の常識に反してガラスの破片は一向に床には落ちてこず、あろうことか空中を竜巻のように回転しながら浮遊しているではないか。
呆気にとられた二人はただ口を開けて見つめることしかできなかった。
「どうなってるんだよ……」
「僕にも分からない……」
考えたってどうにもならないことが起こっている。その事だけを理解し、空中で回転を続けるガラスをじっと見つめ続ける。
シャラシャラと言う音が不気味に部屋を埋め、いつこの竜巻がこっちに迫ってきても可笑しくない。そんな危機感を常に抱きながらなす術なく立ち尽くすことは二人に大きな恐怖を与えた。
それに加えて扉を開けられるのも時間の問題なのだ。
二人には時間がない。どちらかが直ぐにでも判断を下さなければ最悪の事態になってしまう。
「俺が突っ込む」
「えっ?」
「だから、俺があのガラスに突っ込む」
ぎゅっとこぶしを握り締めニックが真っすぐにガラスの竜巻を見つめる。
「むちゃだよ。それに兄さんが突っ込んだからと言って竜巻がなくなるとは限らない」
「でも何にもしないで捕まるのはもっと嫌だ!」
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「兄さん、僕に良い考えがある」
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