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9話 黒
しおりを挟む「おい」
だれ?―
「俺だよ」
だれだよ―
「俺だって」
名前は?―
「ニック」
は?ニックは俺だ―
「俺はお前だよ」
いい加減なこと言うなよ―
「目を開けて見てみればいいじゃないか」
そこでやっとニックは自分が目を瞑っていた事に気付く。そして、ゆっくりと慎重に瞼を上げてみる。瞬間、強い
光が視界に入り込み世界が真っ白に包まれた。
まぶしい。
「どうだ。少しは俺の言っていることを信じたか?」
目を凝らすと、目の前で自分が自分に向かって手を振っていた。
視界も光に慣れ始め、周囲を見渡してみると辺りには何もなく青空と砂の大地が広がっていた。
ここはどこだ?―
太陽は夏のようにギラギラと輝いているのに、不思議と暑さは感じない。耳に手を当て周囲の音に耳を澄ましてみ
るが、物音は一つもなかった。
「ここはお前の中だよ」
俺の中?―
「そう、お前の心の中だ。そして俺は心の中のお前だ」
そう言って、目の前の自分は胸の辺りを人差し指でトントンと叩く動作をしてみせた。
なんだそれ。そんなの、はい、そうですかで信じられるわけないだろ―
「お前は自分の目で見たものも信じられないのか?なら何を信じるんだよ?」
言われて言葉に詰まる。
目の前の自分がニヤッと笑うとさらに続けた。
「な?そうだろ。自分の目で見たものはそれがどれだけ非現実的であり得なくても信じなきゃいけないんだよ」
だから今のこの現状を信じろとでもいうのか。いやいや、それにしても非現実的すぎだろとニックは思ってしまう。
「まあいいや。お前が信じてようが、信じてなかろうが大したことじゃない」
なんだよそれ。俺はルスと部屋にいたんだ。早く元に戻せよ―
「何勘違いしてんだ?お前」
苛立ちを含んだ声にニックが当惑したようになる。
「俺がお前を此処に連れてきたんじゃない。お前が勝手にやってきたんだよ」
目の前の自分が凄む。
なら俺は何のためにここに来たんだ―
「知らないねえ。現実から逃げたかったんじゃないのか?」
目の前の自分がニヤニヤと笑い、明らかにからかっているようだった。
お前本当は知っているんじゃないのか?
何か隠してるんだろ―
目の前の自分の顔がさらに歪んだ笑みをうかべる。
「しっているさ。俺はお前でお前は俺だからな」
なら教えてくれよ。
俺は何しに此処へ来たんだ―
砂の大地に一陣の風が吹く。風は砂を巻き上げ二人の間を通り過ぎていく。
「この場所はお前の心の中のほんの一部だ。いわば倉庫なんだよ。そしてお前はここに来た」
目の前にいるもう一人の自分が顔の前で指を二本たてる。
「倉庫に来る理由は二つしかない。なんだかわかるか?」
保管場所に来る意味?―
「なんだ分からないのか?さすが俺だな。倉庫に来る意味。それは保管と使用だ。そしてお前は今、取り出しに来たんだよ」
ニックには目の前の自分が何を言っているのか全く理解出来なかった。
もう一人のニックは大きなため息を一つはくと、両掌を空に向け胸の辺りまで上げた。
「まあいいや。要するにお前は俺に助けを求めたんだよ。そして既に俺はお前に応えた。さあ、さっさと行け」
言われた瞬間、視界がぼやけていく。
おいっ、何言ってんのか全然わかんねえよ!
叫ぶがニックの口からは空気しか出てこない。
薄れゆく意識の中で、もう一人のニックが続ける。
「じゃあな。上手くやれよー。トリガーは想いだ―」
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