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13話 進
しおりを挟むカーラはルスとニックに背を向け、自分たちの家がある方へと戻っていく。
ルスはカーラからニックへと視線を移す。抱きかかえるニックの呼吸はさっきよりも、安定しているようだ。
「よかった」
安堵から吐息が漏れる。だが、まだ安心はできない。さっきのカーラの顔と言葉が蘇る。母さんはきっとまだ兄さんを殺そうとしている。その事だけは自信を持って言える。母さんの目がそう語っていた。
ルスの目の前で蹲る男は、さっきから小さく呻いてはいるが動く気配はなかった。きっと痛みで動けないのだろう。
「兄さん大丈夫?」
眠るニックの体を優しく揺すってみる。とりあえず早くここから逃げないと頭が変になりそうだった。
「んっんん……」
ゆっくりとニックの目が開く。
良かった。ルスは胸を撫でおろしニックを見つめる。ニックの左目は鮮やかな黄色に変化し、その事が少しだけルスの心を不安にさせた。
「痛いところはない?」
「大丈夫。俺一体どうしてたんだ?」
「覚えてないの?光る鎌みたいなの出してたんだけど?」
「かま?……悪い、全然思い出せない。ただ……」
左手で頭をおさえるニックは誰が見ても苦しそうだった。整理できずにパニックになっているのか、それとも頭が痛むのかルスが心配そうなニックを見つめる。
「あたま、痛むの?」
「いや、大丈夫。整理してただけ……」
「ならよかった。兄さんさっき、ただ……って言ってたけど何か思い出せたの?」
「ルスの言ってた鎌の事はよく分かんねえけど、ただルスの事だけは絶対に助けてやるって思ってたことは覚えてる……」
ニックが少しだけ照れ笑いを浮かべる。
「こんな時に、なに照れてんだよおー」
ルスも照れ笑いを浮かべ、ニックの体を左右にぶんぶんと揺する。
「お、おい。や、やめろ。い、いた、痛いっ……」
「ああっ、ごめん!」
やりすぎたと思ったのか、ルスはニックの体から両手をばっと離した。補助がなくなったニックの体はそのままバタンと地面に打ち付けられた。
「わあっ!に、兄さん、ごめん!」
「ダ、ダイジョウ……ブ……」
〇
ルスが心配するほど、ニックの体は傷ついてはいなかった。かすり傷や痣はあるものの、骨が折れたりなどはしていないようだ。目を覚ましてから10分もしない内に、ニックは一人で起き上がり歩けるようにまでなっていた。
「大した怪我はしてなくて、本当に良かったよ」
「この程度で俺が動けなくなるわけないだろ?俺を誰だと思ってるんだ、お前の兄ちゃんだぞ」
「調子いいなあ。ほんと……」
呆れるルスの隣で、ニックはずっと男の方を見ている。何をそんなに熱心に見ているんだろう。疑問に思い、ルスもまた男に視線を移した。薄暗くてよく見えないが、男の蹲っている場所だけ明らかに地面が黒い。
「おい」
ニックが怒気を含んだ声を男にぶつける。
男は小さく呻くばかりで返事は返ってこない。
「近づいてみよう」
「えっ兄さん、ちょ、ちょっと待ってよ。そんな男ほっておいて、逃げればいいんじゃない?」
男に近づいていたニックの足がピタリと止まる。
「なるほどそうだな。早くここから逃げよう。てか母さんはどこに行ったんだ?」
男に背を向け、ニックがこちらに向き直る。
「母さんは僕らを置いて先に帰った。たぶん……」
「帰った?なんだそれ?見逃してくれたってことなのか?」
「わからない。でもきっと、まだ何か企んでる」
行きましょうと笑ったカーラの顔が蘇る。
「僕らにできることは、とにかく逃げるってことだけだよ」
「そうとは限らねえかもよ?」
「えっ?」
自信に満ちたニックの声に、ルスが勢いよく顔を上げる。
「何か良い考えでもあるの?」
「ん?ああ。確信は無いけど……」
言いかけたその時だった。ニックの背後に真黒な影が突然現れた。影は最低でも2メート以上はある。ルスはそれが何なのかすぐに分かった。
「兄さん、後ろ!あの男だ!」
瞬間、高く鋭い音が森に響き渡る。
音に驚いたルスは、反射的に目をきゅっと閉じてしまった。世界が一瞬にして真っ暗に包まれる。
少しして、どさっという鈍い音が耳に届いた。
ルスは恐る恐る瞼を持ち上げ、何が起こったのか確認をすると、小さな声で言った。
「にい……さん……?」
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