愛する仙台娘

AAKI

文字の大きさ
3 / 6

Take2【傍若無人】

しおりを挟む
 回想は終わり、撮影シーンへと戻ってくる。

 記憶を遡っている間に、どうやら状況が動いていたようだ。撮影をしていたむつみが、めぐりに何か注文をつけられているようである。

「なんだか嫌だから、そんなに近づかないでくれかな? それだけの話なんだけれど」

「いや、これは正当な撮影のための行為で、卑しい気持ちなどは……」

「そういうことじゃなくて、えーと」

 なにやら若干揉めているようで、めぐりの顔には嫌悪が浮かんでいた。執拗な撮影に対して気分を害したといったところか。

 そこで立ち上がったのがまこである。

「そろそろ私のシーンでしょ。ずんだ餅とシェイクの紹介だっけ?」

「シェイクは出典元の都合でなくしてます」

 まこの問いにみずやが答え、ついでとばかりに市販のずんだシェイクを片手にカメラの前へと出た。

「そんな食べ方じゃ駄目、ぐりり。そのマナーっていうのが実に良くないの」

 地下強制労働部屋の班長みたいなことを言いながら、シーンの中へと参加していった。セリ鍋の食べ方へのダメ出しの後、自らハフハフとかっこむ自演をしてみせるほどだ。

 めぐりの配役であるぐりり・・・とは違い、女の子らしさなどというものを捨てたのがまこ演じるまこち・・・というキャラの魅力だろうか。胸の話ではない。断じてだ。

 なんとか空気が和らいだところで、商品の宣伝に入る。

「うーんと、こんな感じ?」

 立ち位置を調整して、セリ鍋やずんだ餅を置いた机の前に並んだまこ達。

「じゃあ、ここにゆるキャラの『むすび君』をさり気なく置いてアピールしよう」

 雰囲気が固くならないように、むつみは市のマスコットキャラクターを置いてみた。

 暗い趣のある店内に対して白くて可愛げのあるぬいぐるみがあるものだから、逆に浮いてしまっていた。むつみはそれに気づかずカメラを回し続ける。

「さりげないわけないでしょっ! 十分いずい・・・(東北方言でしっくりこない、居心地が悪いなど)わ!」

 気づいたまこは、そのストレートな性格から歯に衣着せぬ物言いで、その人形をひっつかんでむつみへと投げつけた。

「うぉっ!」

 大した威力ではないが、ゆるキャラ砲弾をむつみは回避した。ポフンッと頭の形に合わせて三角飛びをした後、床に転がった。

 まこは鼻でため息を吐くと、立ち位置に戻って目で指示した。

「……」

 むつみも、女優が少しばかり威張ることなどなれているのか、気持ちを落ち着かせて撮影に戻る。周囲も息を呑んで見守っていたが、問題もなさそうで胸をなでおろした。

 それを除けば、今の所撮影は順調に進む。

「――のセリ鍋をよろしくね」

「仙台市に来た人はぜひお立ち寄りください」

 まことめぐりのセリフでシーンが終わり、緊張感が一気にほぐれた。

「お疲れ様ー。さて、片付けせねばな」

「これ、タオルどうぞ」

「次は青葉山公園だったか。って、もう5時か」

 むつみがカットを入れて、広げられた食べ物の片付けを始めた。みずやがまこ達にタオルを渡して、もりやが次のスケジュールを確認した。

 明日に回すかどうかという時刻である。そんな一段落ついたぐらいの時間な所為か、少し油断が生じたのかもしれない。

「さらにそこから鎌倉山に登る予定だし、今日はこれぐらいに、とっ!」

「あッ」

 食べ終わった食器などを下げようと運んでいたむつみが、振り返った拍子に手をぶつけてしまった。まこの背中に。

 胸だった可能性もあるが、一瞬のことだったのでわからない。

 どちらかはさておき、鍋の汁が多少かかって肩口を濡らした。

 あら大変と、お店の女将さんは慌てて店の奥へと引っ込んでいく。

「……すまない。えっと、タオルを」

「何よ。さっきの当てつけ?」

「えっ、は?」

 むつみも慌てて対応しようとするが、まこは乱暴にタオルを受け取り不機嫌さを顕にした。

 見当違いの指摘にむつみも驚くが、まこもまた直ぐに過ぎた考えだと気づく。

「あ~いえ。良いわ。次、どうするか決めて頂戴」

 ちょうどそこで、女将さんが戻ってきて変えの衣装を持ってきてくれたおかげで悪い空気は払拭された。

 まこは、肩口の汚れが酷い学生服だけを脱いで、シャツの上に借りた服を羽織る。当然、それほど扇情的ではないまでも、めぐりが目隠しに立つ。

 男どもはそれほど興味なく、次の撮影を明日に見送るか相談する。

 結果、山登りの予定もあるため翌日に持ち越される。難航した理由としては、天候がやや怪しいということであった。

「日曜日明けには校内での撮影でいっぱいいっぱいだろうしな」

「編集とかもあるからなぁ」

「ギリギリですね」

 という具合に、三者三様の意見がまとまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...