幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-12

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 地平線の向こうに山脈が見えている以上、道に迷ったということもないだろうし。まさか、あれ全部が蜃気楼だったり?

 倒れていても解決しないため、私はなんとか立ち上がると、フラフラしながらも先へと進む。

「どこかで休めると良いんだけど……」

 皆を心配したセルシュさんも、汗を拭いつつ周囲を見渡して言った。

 ホントに熱中症とかで死ぬようなことはないまでも、なかなかの地域設定を持ち出してきたと思う。『ナノ・スフィア』の性能的な意味で。

 ここ"ボギ砂漠"を踏破するまでに、一体何人が暑さと喉の乾きで力尽きるでしょう。まぁ。ありがたいことに、モンスターも熱を避けるため地面へ潜っているのか姿をほとんど見せないのよね。

「"サンドワオーム"だ……」

「しかも砂嵐まで来てるね」

 噂をすればなんとやら。グレイザさんとセルシュさんの緊張した声が聞こえた。砂嵐という余計なものまで引き連れて、長い長い何かがこちらへ向かってきた。

 顔面はダックスフンド種の犬なのだけど、胴体は10メートルサイズ。丸々とした瞳は赤い攻撃色なのは良しとして、なぜ多脚?

 ボギ砂漠に入ってから何度か遭遇している。ビジュアルがシュールな分はなんとか耐えられるものの、数匹に囲まれるのは辛い。

「相手にしていても疲弊するだけだ。あっちへ!」

 グレイザさんの指示に従い皆も後を追って、サンドワームや砂嵐の居ない方へと向かった。

 しかし、多分、私も他の何人かもわかっていたと思う。

「お兄さん、これ」

「あぁ、タイミングやらが的確過ぎる」

 誘導されていることにこの兄弟が気づかないはずもなく、それが罠かシナリオの進行に関わることか悩みあぐねていた。

 とりあえず目的地は、砂丘を下った先に見えた三角錐の建造物かしら。こんなものが今まで目に入らなかったあたり、やっぱり山脈の象も幻だったんでしょうね。

 砂嵐で吹き飛ばされる前に、私達はなんとかピラミッドと一般に呼ばれる遺跡へと足を踏み入れた。

「うわぁ……」

「危なかったね」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 若干の声を上げた私に続き、セルシュさんとグレイザさんも口々に言った。

 多分、3人で方向性が食い違っている。

 セルシュさんだけは安堵の意味でしかないのだけど、グレイザさんはピラミッドの内部についての不安である。蛇は出ないで欲しい。

 で、私はピラミッドってこんななんのかって驚嘆かしらね。

「寒い……寒くないです?」

「まぁ、多少冷えるけど。多分、地下に近いからだろうね」

 問いにジョークで答えるセルシュさん。あ、偶然か。

「ホラー的な要素を醸し出そうとしてるのかもな」

 グレイザさんも意見を言った後、石材の通路を歩き始めた。

 聞いていた様相とは違って、人の2人ぐらいは並べる広さの通路になっている。天井も2メートルはあるかしら。

 やっぱり、ゲーム用として作られているのは確かだ。ミイラがいきなり動き出したりするかもしれない。

「鬼や萎びた死体の方がマシです」

 脅かさないでと釘を刺して、私も先頭のセルシュさんを追っていった。グレイザさんと横並びになってだ。

 その間に、いつもの3人とか7人が並ぶ。

 警戒しつつ進むと、二手に枝分かれしているのが見え始めた。途中で一つ部屋とも呼べない広がり方をしたのと、道が下り始めたことを除けば気にすることもない。

「ここで分岐か。セルシュ」

「わかった」

 いつものように以心伝心でチーム分けを始めた。私は、今回はグレイザさんと戦士、拳闘士、銃手の5人で向かうことになった。フェーリーはセルシュさん側。

「一旦3分ほど進んだら、情報を合わせるために戻ってくるってことでどうだ」

「良いよ。どちらかが行き止まるって可能性もあるしね」

 話し合いを終え、2つのチームは進み始めた。のだが……。

「やっぱり、そのまま進ませてはくれないみたいだ」

 警戒を怠っていなかったグレイザさんが真っ先に気づき、呆れたように言った。振り返れば、何かが大きな土球を運んできた。

 私達の進んできた道を塞ぐような大玉で、その向こうに見える巨大甲虫についてはなんとか見える程度。たまに玉の上に乗っかりそうになる。

「ふ、フン」「スカラベだな」

 見えたコガネムシっぽい姿の名前を呼ぼうとするも、グレイザさんが別名を先に答えた。

「……フンコロ」「スカラベ」

 和名の方がしっくりくると思うのだけど。それに、フンでもスカでもクソ虫には違いないじゃない。

「フンコロガ」「スカラベだろ?」

 私もグレイザさんも頑なに譲ろうとしない。まぁ、そんなことで言い合っていても仕方ないのでそこで口をつぐんだ。

 状況だけ見ても、何が起こるのか直ぐにわかったわ。

 坂に狭い通路、転がるものとくれば、後はそれから逃げるだけ。私は賢いから知ってるのよ!

「言ってる場合じゃねぇな! 走れ!」

 グレイザさんが声を上げるよりも早く、皆は走り走り出した。が、私だけは足が硬直してしまって逃げられなかった。

 ハエの一匹でさえ体がこわばってしまうのだから、意識がある今なら当たり前の反応である。

「……」

 直ぐにグレイザさんは気づいて、腕を掴んで引っ張ってくれた。

「まったく!」

 呆れるのもわかるけど、仕方ないじゃない……。

 そんなんだから、またグレイザさんにあのセリフを言わせることになる。

「そんなに嫌なら――」
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