ノイズの都市

久遠 司

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第4章「赤い部屋」

第1話 選択肢は、すでに用意されている

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最初は、ポップアップ広告だった。

「……まだ、こんなの生き残ってるんだな」
鷹宮は端末の画面を見て、短く言った。

久遠が覗き込む。「懐かしいな。“赤い部屋”系か」

画面いっぱいに、赤一色の背景。
中央に、白い文字。

《あなたは、好きですか?》

選択肢は二つ。

《はい》
《いいえ》

「……クリックした覚えは?」
鷹宮が問う。

「ない」
久遠は即答した。「広告ブロッカーも全部有効だ」

それでも、画面は閉じない。
戻るボタンも効かない。

「……出たな」
鷹宮はため息をついた。「“赤い部屋”」



依頼は、警察経由だった。
ただし、正式な事件としては扱われていない。

「被害届は出ていません」
担当刑事は言った。「ただ……妙な問い合わせが増えている」

内容は、どれも似ている。
• PCやスマホに突然現れる赤い画面
• 簡単な質問
• 選択肢を選んだ直後、画面が消える
• その後、身近な誰かが不幸になる

「……因果関係は?」
鷹宮が問う。

刑事は首を振る。「証明できません。ただ——」

「ただ?」

「“選んだ”という感覚だけが、異様に強く残るそうです」

久遠が、静かに言った。

「……自己責任を植え付けてる」



事務所に戻り、久遠は過去ログを洗い出していた。

「古い都市伝説では、
“質問に答えると殺される”って話だった」
彼は言う。「でも今は——」

「進化してる」
鷹宮が言葉を継ぐ。「直接的じゃない」

「うん」
久遠は頷く。「“選んだ結果”を、現実に結びつける」

画面が、また赤く染まった。

《あなたは、後悔していますか?》

選択肢。

《はい》
《いいえ》

「……久遠」

「触らない」
彼は即答した。「これは——」

言葉を切る。

「——選ばせること自体が目的だ」



解析を進めるうちに、共通点が浮かび上がった。
• 表示される端末は、個人所有
• 公共端末では発生しない
• 履歴やキャッシュは残らない
• サーバー経路が追えない

「……外部からの通信じゃない」
久遠が言う。

「内部生成か」

「正確には」
久遠は画面を見つめた。「利用者自身の行動履歴を使ってる」

鷹宮の眉が動く。「嗜好分析か」

「もっと深い」
久遠は、低く言った。「後悔のパターン」

沈黙。

「……だから、質問が刺さる」
鷹宮は理解した。「誰にでも答えがある」



その夜、事件が起きた。

赤い画面が表示された直後、
一人の男性が、自宅で急死した。

死因は、心不全。
持病あり。偶然とされる。

だが、家族の証言が残っている。

「……パソコンを見て、
“俺が選んだからだ”って、
ずっと呟いていたそうです」

久遠は、目を閉じた。

「……これ、八尺様より厄介だ」

「なぜだ」

「逃げ道がない」
久遠は答えた。「選ばなければいい、が通用しない」

赤い画面が、再び現れる。

《あなたは、
あの時の選択を
やり直したいですか?》

選択肢は、二つ。

《はい》
《いいえ》

「……最悪だな」
鷹宮は呟いた。

「うん」
久遠は頷く。「“選ばない”という選択肢が、存在しない」

画面が、ゆっくりと点滅する。
まるで、答えを待っているかのように。

「久遠」

「分かってる」

彼は、端末を閉じた。

「……これは、噂じゃない」

鷹宮は、低く言う。

「意志そのものを、ノイズ化している」

赤い部屋は、
すでに都市の中に入り込んでいた。

そしてそれは、
“あなたが選ぶのを”
静かに待っている。
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