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11 異世界召喚勇者でチートで…(以下略)…後日談その4

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 私はバーーン!!と両開きの扉を開けた。
 中には立派な玉座に顔立ちの整った人間サイズの魔族がくつろいだ状態で腰かけている。
 顔が青白く、頭の二本の角は日本の鬼のものよりさらに長く鋭くとがっている。
 大きさは人間と同じくらいだが、内部に秘めた力は魔王はもとより、大魔王を遥かに凌駕する危険極まりないものだ。

 特大魔王は私に口を開こうとして、ぎょっとした。
 扉から入ってきたはずの私の姿が見えなくなっていたからだ。

 「魔界の特大魔王!!そのほう、地上を凶悪な大魔王や魔族に侵略させた上、その所業を恥じず、特大魔王城で轟然と待ち受けるとは不届き千万せんばん!!」
 天井近くの巨大な照明に立っていた私はふわりと特大魔王の眼前に舞い降りる。
 「シードラゴンマスク!!ただいま推参!!この世に悪の栄えたためしなし!!」

 臨戦態勢に入った私を見て、特大魔王は半ば呆然としている。
 「この世に…て、ここは魔界だが…。」
 「ふ、勝てば官軍なのだわ!」
 「それ、正義のセリフじゃねえよ!!」

 三分経過しました。
 「どうやら、正義は勝ったようね!」
 保有エネルギーが五倍と言うから、もう少し手こずると思いましたが、思ったより骨がありませんでした。
 おそらく実力の近い訓練相手がいなかったのでしょう。
 潜在能力はともかく、私の動きに全く体が付いて来れていないのです。

 「そろそろ降参したらどないや?」
 後ろで『電脳マジシャン』が投降を促します。

 それを見て特大魔王の目がきらっと光ります。
 「はっはー!油断したな!!こいつを人質に取れば!!」
 特大魔王が素早く電脳マジシャンを抱え込むと、電脳マジシャンは……閃光と共に大爆発しました。

 「うわー、アルテアはんの『自爆用そっくりゴーレム』はよう出来てはるなあ。さすが世界最高の魔法使いが作りはっただけのことはあるんやね。」
 爆発で悶絶している特大魔王を確認すると光ちゃんが中に入ってくる。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 「は、俺はどうしたのだ?!」
 特製ロープでぐるぐる巻きになった特大魔王が目を覚ました。
 『事情聴取』のために私の気でかなり回復してもらっている。

 「さあ、今から尋問タイムです♪あなたの『上司の◎◎魔神』についてお話してくれると嬉しいな♪」
 「き、貴様!なぜそれを知っている?!!」
 「蛇の道は蛇と言うでしょ。こちらもプロだからいろいろ知っているのよ!」
 私は『悪い顔』でにやりと笑う。
 「く、俺はどうなってもいい!!だが、あの方は……。」
 ん?鑑定とは少し予想される結果がちがうような…。

 「待つのじゃーー!!わらわはどうなってもいいから、特大魔王を助けてほしいのじゃ!」
 色黒の頭から二本の角が生え、背中に蝙蝠のような翼のある8歳くらいの見た目の可愛い女の子が駆けこんできた。

 「ロリ魔神さま!!危険です!!お逃げください!!」
 「「ロリ魔神ですか??!!」」
 私と光ちゃんのセリフがかぶる。

 そしてロリ魔神は私からかばうようにぐるぐる巻きの特大魔王にしがみついた。

 「…特大魔王。可能な限りロリ魔神ちゃんは助けるようにするから事情を話してもらえるかしら?」


 特大魔王はとつとつと話し始めた。
 魔界は本来は今ほど危険な場所ではなく、悪魔も本来は『悪』と付くほどの存在ではなかったのだそうだ。
 ところが、魔界に住む種族が自らの力に思い上がって人間界と魔界の両方を支配しようとして神々や人間、その他の種族に負けてしまった。
 そして、自ら『悪魔族』と名乗り、魔界に逃げ戻っていたわけなのだが、狭い魔界に封じ込められて鬱屈した暮らしを何百年としていたのだそうだ。

 特大魔王はそんな魔界の主として何百年も君臨してきたのだが、希望の見えない魔界は時間を追うごとにどんどん鬱屈した世界になってきたのだという。

 そんな折、何かの間違いで、赤ん坊の『ロリ魔神』が異世界から魔界に漂流してきたのだ。
 人生?に退屈していた特大魔王は気まぐれにこのロリ魔神の世話を始めた。
 そして、ロリ魔神が潜在的に大きな力を持っているのに気付くと、ロリ魔神に成長してもらえれば魔界に救いをもたらしてくれるではないかと希望を持ち始めたのだった。

 最初は気まぐれに、後に希望を託してロリ魔神を育てていくうちに特大魔王はだんだんロリ魔神に対して情が移ってきた。
 育つにしたがってどんどん可愛く感じるようになってきた。
 だが、魔界に暮らすうちに白かった肌が段々黒くなってきて、頭に角が生えだし、背中に蝙蝠のような翼が生えてくるにしたがって、特大魔王は焦り始めた。
 本来は神だったのが、だんだん『魔神』いや『邪神』にすらなりだしているのではないかと…。
 そして、人間界の城を乗っ取ってその城でロリ魔神を育てれば、少なくとも『魔神化』は止まるのではないかと思い、部下の大魔王に侵攻させた…今回の事件の顛末だった。

 「なるほどね…。そういう事情なら『ロリ魔神ちゃん』はガルーダ王国で育ててもらうという手がありそうだけど、特大魔王をどうするかという問題が残るわね。」
 「いやじゃ!いやじゃ!特大魔王はわらわのとうさまなのじゃ!!離れたり、ましてや殺されるのは絶対に嫌じゃ!!」
 私の言葉にロリ魔神が泣き出す。
 「しかし、人間界のこともわからず、ましてや今回の侵攻を企てた私がガルーダ王城にいけるはずもありません。」
 特大魔王はうなだれている。
 うーむ、どうしたものか…。


 その時、閉まっていた扉がバーーン!と音を立てて開いた。
 「瀬利亜ちゃん、光一君。助けに来たよ♪」
 歯をキラッと光らせながらカイザスさんが颯爽と入ってくる。
 それを見て光ちゃんが無意識に私の後ろに隠れるように動く。
 ……うーむ、普通なら論外の行動なのですが…カイザスさんと光ちゃんの絡みを考えると…仕方のないことなのですよね…。

 「おや、事件は解決したのかな?その子とそのお兄さんは?」
 カイザスさんが首をかしげている。
 うーーーーーむ。非常に悩ましいところなのですが、『仕事には誠実』で、機転も利くカイザスさんは意外とアイデアマンでもあるのです。と言うことで…。
 「実は…。」
 現在の状況を説明すると、カイザスさんは一生懸命聞いてくれる。

 「わかった!まずは私が特大魔王と『みっちりお話』しようではないか!
 その間に瀬利亜ちゃんと光一君はロリ魔神ちゃんと大切なお話をしてくれればいいから♪」
 一かけらの邪心もない笑顔に……私たちはうなずかざるを得なかった。
 そして……。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 翌日、私たち五人はガルーダ王城に戻ってきた。
 ロリ魔神ちゃんはニコニコしながら私の手の中収まっている。
 カイザスさんの『一晩に渡る心からの説得』で特大魔王はスッキリ…神々しいくらいにさわやかな顔に変貌していた。
 カイザスさんと並んでニコニコして立っている。
 そして、光ちゃんは…ひどく疲れた顔をしている。

 出迎えてくれたアリス姫たちはそんな私たちを呆然と見つめている。

 「あのう…何があったのでしょうか?」
 アリス姫がおずおずと私に話しかける。

 「まず、特大魔王は『私の説得』を受けて、侵略をあきらめ、私たちへ謝罪してくれるそうです。そして、この『ロリ魔神ちゃん』は魔界で暮らすと『魔神化・邪神化』が進行するので、できれば人間界で安心して暮らしたいのだそうです。
 ロリ魔神ちゃんは親代わりだった特大魔王からは離れたくないそうで、できれば『親子で暮らせる場所』を探しているの。
 幸いなことに特大魔王はカイザスさんの『全力での説得』で心を入れ替えて、人間に危害を加えることはなくなったわ。また、ロリ魔神ちゃんは成長するとおそらく女神になって、今いる場所を守護してくれることになりそうだわ。
 そうそう、特大魔王はロリ魔神ちゃんと保護者を外敵から守ってくれるそうだから。」

 「それは、もしかして、私たちにロリ魔神さんと特大魔王さんと保護してほしいということでしょうか?」
 「ええ、それが一番無難だと思うの。あるいはグリフォン国でもかまわないけど。」
 「はっはっは、特大魔王に関してならご安心を。『私の思いを心から受け取ってくれた』特大魔王さんは以前とは全く別人なのさ♪」
 「ええ、私も『真の愛』を知ることができて、変わりました。これからは『愛に生きよう』と心から誓います!」
 一昨日見た『禍々しい特大魔王』が今はカイザスさんと共にキラキラする笑顔で話しているのを見て、アリス姫たちは唖然としている。

 「一体何があったのでしょうか?」
 「ええ、『ナニ』があったのよ…。いえ、忘れてもらって結構よ…。」



 その後の話です。

 事件そのものは解決したのでチャラ男…もとい、岩清水くんと大山くんには帰ってもらいました。今回はがんばったので記念品をお城と私たちから贈呈しました。

 ロリ魔神ちゃんはだんだん背中の羽根も引っ込んで、人間ぽくなったので、『ロリ女神ちゃん』と呼ばれて、城中のみんなから可愛がられるようになりました。
 特大魔王さんも『執事さん』と呼ばれ、かいがいしく女神ちゃんに仕えると同時に、お城の防衛任務も果たしてくれるようになりました。
 その間執事さんとカイザスさんは『いちゃいちゃ』…ええ、カイザスさんは『男女を問わず』美形を愛するお兄さんだったのです。
 とても幸いなことに勇者ズやラシャール王子はその『毒牙』にかかることなく…いえ、カイザスさんは『生きる目的の八〇%は恋愛』で『致命的に空気が読めない』ですが、善良で愛すべき人なので、『無理やり』はないのです。ないのですが…。
 光ちゃんがカイザスさんを避けていたのは『何度も愛を囁かれた』からで、今回は『執事さんといちゃラブ』してくれることで、その『犠牲者』が出なかったのは幸いでした。

 ちなみに例の侍女さんカイザスさんたちに最初はひいてましたが、そのうち『昨夜はお楽しみでしたね♪』と言うようになったとか…。ええと、『私たち』にも毎日伝えてくれてます。だから、そんなテンプレはいらないから!!

 約二週間後迎えが来てくれた際には『一波乱』ありましたが、その話はまたの機会に。
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