5 / 26
第五話
しおりを挟む
「たかが図体のでかい獣だ、矢を放て!」
私を取り押さえた兵士はそのままで、残りの兵士たちがナーヴェと戦おうとする。
「あなたが隊長なら、部下の人たちを止めた方がいいですよ」
「っ……貴様、まだ減らず口を……見ろ、我らは獣などに臆したりは……」
取り押さえられているので後ろを見られない――だけど、放たれた矢がナーヴェに届かなかったことはわかる。
「な、なんだ、矢が……っ、凍って……!」
「っ……グレイズ様、あの獣、魔法を……っ」
「馬鹿な、獣が魔法など使うものか! 矢が効かぬなら剣を、槍を使え!」
私を取り押さえていた兵士も、ナーヴェと戦う要員に駆り出される。投げ出されるようにして解放された私は、振り返ってナーヴェと、五人の兵士が対峙している光景を見た。
魔界の門を守る悪魔、ナーヴェリウス。彼が持つ三つの力のうち一つが『氷の魔眼』。
ナーヴェに弓矢は通じない。その左目で一瞥しただけで矢を凍らせ、砕いて氷の細片に変えてしまう。
「うっ、うぁっ……あぁぁぁぁっ!」
「よ、鎧が……凍りついて……っ、ぐぁぁぁっ……!」
ナーヴェに矢を放った三人の兵士の鎧が、氷の魔眼を浴びたことで凍りつく。凍傷で激痛が走っているだろうけど、彼らのしたことを考えると憐れむ気にはならない。
「お、おのれっ……こんなところで、俺は……っ」
「隊長殿、私にお任せを……っ、うぉぉぉっ!」
背中に背負っていた槍を構えて、兵士が突進していく。
巨大な狼のような姿になったナーヴェは、その美しい銀色の体毛をさらりと揺らして、全く動じずに兵士を一瞥する――今度は、その瞳が赤く輝く。
「――がぁぁぁっ……あ、熱い、熱っ……あぁぁぁぁっ!」
ナーヴェの右目に宿っている、もう一つの力――それが『赤熱の魔眼』。
兵士が持っていた槍の柄は木でできている。それを一瞬で炭に変えて、兵士の鎧もまた赤熱する――その場で苦しんでのたうち回る彼を横目に、ナーヴェは悠然と歩いて、隊長と呼ばれた男の前に進み出る。
ナーヴェは私の傍らに寄り添うようにして立ち止まる。一人残った男は怯えきっていて、それでも剣を手放さなかった。
「そ、そうか……偽聖女というのは、本当のことだったのか……魔獣を手懐け、人間を脅かす魔女……それがお前の正体か、女……っ!」
「……あなたに今回のことを命じたのは、ゾルダート公爵ですか? それとも……」
――男が笑う。その表情の意味が分からない私でもない。
「答える気はないと、そういうことですか。では、あなたには二つの選択があります」
「選択……?」
「ここでみすみす命を投げ出すか、大人しくあの親子にお金を返して、この四人を連れて帝都に帰るか。どちらにしますか?」
「……俺が……選ぶ、答えは……っ」
剣の扱いに自信があるのだろう。私が彼の間合いに入っているなんて、そんなことは大きな勘違いだけど。
「――貴様さえ殺せば、俺はぁぁっ!」
『……よく我慢したね、アリアンナ。でも、もういいだろう』
ナーヴェリウスの魔眼が『二つ同時に』輝きを放つ。
急激に冷凍されたあと、凄まじい熱量を与えられる。すると地上にあるほとんどのものは形を保っていられなくなり、砂のように崩れてしまう。
「……馬鹿な……こ、鋼鉄の、剣が……ぐぁぁぁっ……!」
左手は凍りつき、右手は炎に包まれる。男は前のめりに倒れ込んで、そのまま動かなくなった。
私もナーヴェが戦うところはそう見たことがないけれど、こんなに怒っているのは初めて見たかもしれない。
私を取り押さえた兵士はそのままで、残りの兵士たちがナーヴェと戦おうとする。
「あなたが隊長なら、部下の人たちを止めた方がいいですよ」
「っ……貴様、まだ減らず口を……見ろ、我らは獣などに臆したりは……」
取り押さえられているので後ろを見られない――だけど、放たれた矢がナーヴェに届かなかったことはわかる。
「な、なんだ、矢が……っ、凍って……!」
「っ……グレイズ様、あの獣、魔法を……っ」
「馬鹿な、獣が魔法など使うものか! 矢が効かぬなら剣を、槍を使え!」
私を取り押さえていた兵士も、ナーヴェと戦う要員に駆り出される。投げ出されるようにして解放された私は、振り返ってナーヴェと、五人の兵士が対峙している光景を見た。
魔界の門を守る悪魔、ナーヴェリウス。彼が持つ三つの力のうち一つが『氷の魔眼』。
ナーヴェに弓矢は通じない。その左目で一瞥しただけで矢を凍らせ、砕いて氷の細片に変えてしまう。
「うっ、うぁっ……あぁぁぁぁっ!」
「よ、鎧が……凍りついて……っ、ぐぁぁぁっ……!」
ナーヴェに矢を放った三人の兵士の鎧が、氷の魔眼を浴びたことで凍りつく。凍傷で激痛が走っているだろうけど、彼らのしたことを考えると憐れむ気にはならない。
「お、おのれっ……こんなところで、俺は……っ」
「隊長殿、私にお任せを……っ、うぉぉぉっ!」
背中に背負っていた槍を構えて、兵士が突進していく。
巨大な狼のような姿になったナーヴェは、その美しい銀色の体毛をさらりと揺らして、全く動じずに兵士を一瞥する――今度は、その瞳が赤く輝く。
「――がぁぁぁっ……あ、熱い、熱っ……あぁぁぁぁっ!」
ナーヴェの右目に宿っている、もう一つの力――それが『赤熱の魔眼』。
兵士が持っていた槍の柄は木でできている。それを一瞬で炭に変えて、兵士の鎧もまた赤熱する――その場で苦しんでのたうち回る彼を横目に、ナーヴェは悠然と歩いて、隊長と呼ばれた男の前に進み出る。
ナーヴェは私の傍らに寄り添うようにして立ち止まる。一人残った男は怯えきっていて、それでも剣を手放さなかった。
「そ、そうか……偽聖女というのは、本当のことだったのか……魔獣を手懐け、人間を脅かす魔女……それがお前の正体か、女……っ!」
「……あなたに今回のことを命じたのは、ゾルダート公爵ですか? それとも……」
――男が笑う。その表情の意味が分からない私でもない。
「答える気はないと、そういうことですか。では、あなたには二つの選択があります」
「選択……?」
「ここでみすみす命を投げ出すか、大人しくあの親子にお金を返して、この四人を連れて帝都に帰るか。どちらにしますか?」
「……俺が……選ぶ、答えは……っ」
剣の扱いに自信があるのだろう。私が彼の間合いに入っているなんて、そんなことは大きな勘違いだけど。
「――貴様さえ殺せば、俺はぁぁっ!」
『……よく我慢したね、アリアンナ。でも、もういいだろう』
ナーヴェリウスの魔眼が『二つ同時に』輝きを放つ。
急激に冷凍されたあと、凄まじい熱量を与えられる。すると地上にあるほとんどのものは形を保っていられなくなり、砂のように崩れてしまう。
「……馬鹿な……こ、鋼鉄の、剣が……ぐぁぁぁっ……!」
左手は凍りつき、右手は炎に包まれる。男は前のめりに倒れ込んで、そのまま動かなくなった。
私もナーヴェが戦うところはそう見たことがないけれど、こんなに怒っているのは初めて見たかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!
藤野ひま
ファンタジー
わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。
初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!
夫や、かの女性は王城でお元気かしら?
わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!
〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる