11 / 26
第十一話
しおりを挟む
山間の道を抜ける前から、なだらかに下る道の先に町並みが見えていた。
「これが私たちの暮らす町、ベナルタよ」
「わぁ……こんなに沢山の人が暮らしてるのね」
「この辺りは辺境……国境が近いから、隣国との商人の行き来が多いのよ。私たちは仕入れたものを山を超えて帝都方面に売りに行って、そのお金で仕入れをするの。持ち合わせも必要だから、こうして持っていたんだけどね」
金貨の詰まった袋は客車の床に置かれているけれど、ずっしりと重たそうだった。
商会の人がどんなふうに仕事をして、どんなふうに暮らしているのか。そういう話を聞いて想像しているだけでも楽しくなる。
「アリア、お父様も後で改めておっしゃると思うのだけど、助けてもらったことのお礼を……」
「ううん、気にしないで。夕食をご相伴にあずかれるだけでとても助かるわ」
「……あなたっていう人は。きっとあなたみたいな人を、聖女様みたいって言うのね」
「っ……こほっ、こほんっ」
「アリア、大丈夫? 空気が乾いているから、この辺りからは口元を覆わないと」
もちろん咳をしたのは驚いてしまったからだけど、こんな分かりやすい反応をしていてはそのうちぼろが出てしまうので、もっと気をつけて素性を知られてしまわないようにしないと。
私はアリア、山中でペットを連れて修行していた魔法使い。断食をしていたのでお腹が空いています。それは関係ないけど、さすがにお腹が空きすぎて頭が回らない。
ミシェルが口元を覆う布を着けてくれたけれど、確かに空気が乾いている――しばらく全然雨が降っていないみたい。
「ミシェル、このあたりは雨が少なかったりする?」
「ええ、この季節は特に……国境の向こうには砂漠が広がっているから、乾いた風が吹いてくるの。最近は河も干上がってしまうくらいなんだけど、うちは水を溜めてあるから大丈夫よ」
ローラング家にお邪魔して、食事ができるまでにまずお風呂に入るようにと言われたのだけど――立派な石造りの浴室で、なみなみとお湯が張ってあるところを見て、少し気が引けてしまう。すでにお風呂を沸かしてあったので、今さら水を節約しましょうなんて言えないけれど。
「せっかくだから、ありがたく使わせていただきます」
大神殿では法衣を洗って長い間着ていたけれど、さんざん言われていたとおり、ぼろ布を着ているだけにしか見えないのは確かで、新しい服を用意してもらえることになった。
お礼としてお金は受け取れないので、代わりに服や食事、そして当面泊まる場所を提供したいと言われると、こちらとしてもすごく助かるというか、捨てる皇太子様あれば拾う人たちありというか、経緯はひどかったけど出会えて良かったって気持ちになる。
「あ、ナーヴェ。何を逃げようとしてるの? 洗ってあげるからおいで」
てこてこと歩いてナーヴェが出ていこうとしたので、後ろからむんずと捕まえる。ナーヴェは最初はわたわたしていたけれど、そのうちあきらめて大人しくなった。
お風呂場には石鹸も用意されているし、泡立てるための布も貸してもらえたので、大神殿の入浴事情より全然良くなっている。それに、お湯でもない水での沐浴だったからね。お湯を使うのはどうしても必要な時に身体を拭くためくらいだったから、全身で浸かるってどういう感じなのか、ちょっとおっかなびっくりだったりする。
「さて……ペットを綺麗にするのは飼い主の務め。一緒に入っていいってご厚意をいただいたんだから、観念しなさい」
お湯が少し熱いのでどうしよう――と思っていると、ナーヴェが『氷の魔眼』をものすごく弱めて使って温度を下げてくれた。『赤熱の魔眼』で温め直せるから便利だけど、便利って言うと拗ねてしまうので、『ナーヴェすごい』と褒めてあげないと。
「…………」
「私のお世辞なんてお見通しっていうこと? ふふ、ナーヴェはすごいね」
この際なので、石鹸でわしゃわしゃとナーヴェの身体を洗う。
水をいっぱい使ってしまうことになるので、水不足の問題についても、早いうちに解決できたらと思う――お仕事で何度も頼まれてしてきたことなので、今回もうまく行くといいんだけど。
「これが私たちの暮らす町、ベナルタよ」
「わぁ……こんなに沢山の人が暮らしてるのね」
「この辺りは辺境……国境が近いから、隣国との商人の行き来が多いのよ。私たちは仕入れたものを山を超えて帝都方面に売りに行って、そのお金で仕入れをするの。持ち合わせも必要だから、こうして持っていたんだけどね」
金貨の詰まった袋は客車の床に置かれているけれど、ずっしりと重たそうだった。
商会の人がどんなふうに仕事をして、どんなふうに暮らしているのか。そういう話を聞いて想像しているだけでも楽しくなる。
「アリア、お父様も後で改めておっしゃると思うのだけど、助けてもらったことのお礼を……」
「ううん、気にしないで。夕食をご相伴にあずかれるだけでとても助かるわ」
「……あなたっていう人は。きっとあなたみたいな人を、聖女様みたいって言うのね」
「っ……こほっ、こほんっ」
「アリア、大丈夫? 空気が乾いているから、この辺りからは口元を覆わないと」
もちろん咳をしたのは驚いてしまったからだけど、こんな分かりやすい反応をしていてはそのうちぼろが出てしまうので、もっと気をつけて素性を知られてしまわないようにしないと。
私はアリア、山中でペットを連れて修行していた魔法使い。断食をしていたのでお腹が空いています。それは関係ないけど、さすがにお腹が空きすぎて頭が回らない。
ミシェルが口元を覆う布を着けてくれたけれど、確かに空気が乾いている――しばらく全然雨が降っていないみたい。
「ミシェル、このあたりは雨が少なかったりする?」
「ええ、この季節は特に……国境の向こうには砂漠が広がっているから、乾いた風が吹いてくるの。最近は河も干上がってしまうくらいなんだけど、うちは水を溜めてあるから大丈夫よ」
ローラング家にお邪魔して、食事ができるまでにまずお風呂に入るようにと言われたのだけど――立派な石造りの浴室で、なみなみとお湯が張ってあるところを見て、少し気が引けてしまう。すでにお風呂を沸かしてあったので、今さら水を節約しましょうなんて言えないけれど。
「せっかくだから、ありがたく使わせていただきます」
大神殿では法衣を洗って長い間着ていたけれど、さんざん言われていたとおり、ぼろ布を着ているだけにしか見えないのは確かで、新しい服を用意してもらえることになった。
お礼としてお金は受け取れないので、代わりに服や食事、そして当面泊まる場所を提供したいと言われると、こちらとしてもすごく助かるというか、捨てる皇太子様あれば拾う人たちありというか、経緯はひどかったけど出会えて良かったって気持ちになる。
「あ、ナーヴェ。何を逃げようとしてるの? 洗ってあげるからおいで」
てこてこと歩いてナーヴェが出ていこうとしたので、後ろからむんずと捕まえる。ナーヴェは最初はわたわたしていたけれど、そのうちあきらめて大人しくなった。
お風呂場には石鹸も用意されているし、泡立てるための布も貸してもらえたので、大神殿の入浴事情より全然良くなっている。それに、お湯でもない水での沐浴だったからね。お湯を使うのはどうしても必要な時に身体を拭くためくらいだったから、全身で浸かるってどういう感じなのか、ちょっとおっかなびっくりだったりする。
「さて……ペットを綺麗にするのは飼い主の務め。一緒に入っていいってご厚意をいただいたんだから、観念しなさい」
お湯が少し熱いのでどうしよう――と思っていると、ナーヴェが『氷の魔眼』をものすごく弱めて使って温度を下げてくれた。『赤熱の魔眼』で温め直せるから便利だけど、便利って言うと拗ねてしまうので、『ナーヴェすごい』と褒めてあげないと。
「…………」
「私のお世辞なんてお見通しっていうこと? ふふ、ナーヴェはすごいね」
この際なので、石鹸でわしゃわしゃとナーヴェの身体を洗う。
水をいっぱい使ってしまうことになるので、水不足の問題についても、早いうちに解決できたらと思う――お仕事で何度も頼まれてしてきたことなので、今回もうまく行くといいんだけど。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる