14 / 26
第十四話
しおりを挟む
「……聖女よ、なぜ人々の声に耳を傾けない? 貴女には失望した」
天使という存在を、ほとんどの人は実際に見たことがないと思う。
天界から地上の人間を見守ってくれる――というのは、少し違っていて。彼らは人間を『父なる神の子』として平等に扱うけれど、自分たちに導かれるしかない存在とも思っている。
「ナーヴェのこと、まだ苦手なんですか? ジブリス様」
「あれを連れているだけでも魔女と見られても無理はないのだ。私に限っての話ではあるまい」
冷たい目をしていて、淡々と話しているように見えるけど、召喚された天使は天界にいるときとは違って、人に近い感情を見せる――と言っていたのは、他ならぬこのジブリス様なんだけど。
「さて……事情を聞かせてもらおう。いつもなら人々が日照りで苦しめば、貴女はすぐに私を呼び出していたはず。それが、一向に天界に声が届かぬ。それどころか、大神殿を離れてこのような場所にいるとは……何があった?」
「新しい聖女から、声は届かなかったんですか?」
ジブリス様は首を振る。あのときは追放されるしか無かったけど、やっぱり日照りで苦しんでる人たちだけは助けたい。
それよりも――聖女として祈りを捧げれば、ジブリス様はある程度願いを聞き届けてくれるはずなのに。
「新しい聖女とは、誰のことだ?」
「ヴェロミア・ゾルダートという人です。私の代わりに、神殿にやってきて……」
ジブリス様は腕組みをして、何かを考えている――その瞳で、遠く離れた場所にいるヴェロミアのことを見ているのかもしれない。千里眼、それがジブリス様が地上を見守るために持つ能力の一つだから。
「……何者かに防がれている。そのヴェロミアという者は魔法を使うのか?」
「わかりません、急に今日大神殿に来て、聖女になると言われただけです」
「聖女の務めを果たすには、相応の能力と、数々の儀礼をこなす必要があるのだが……私に声が届かぬわけだ」
「儀礼を全て終えるには一ヶ月くらいかかると思いますが、その間は神官長が代わりをしてくれると思います」
「……聖女アリアンナ。いや、元聖女というべきか。貴女は聡明だが、時折説教をしたくなるほどに鈍くもある」
「あ……え、ええと、私、今は『アリア』と名乗っているので……」
ジブリス様のお説教モードは、人々を導くことが仕事なだけに、物凄く長くて容赦もない。空返事でわかりましたなんて言ったら、二時間くらい追加されてしまう。
「……今、聡明って言ってくれましたか? 私は無学なので、そんなことは全然ないと思います」
「聞こえていても聞こえぬふりをするところだ。全く……日照りの件は今の聖女次第というところか」
「はい。でも、もし解決できなかったら……そのときは、ジブリス様にお願いしてもいいでしょうか」
「……それは、皇太子ザイオンに対する義理立てか?」
ジブリス様は少し焦れているみたいに見える。本当は、私に起きたことをみんな分かっているのかもしれない。
天使という存在を、ほとんどの人は実際に見たことがないと思う。
天界から地上の人間を見守ってくれる――というのは、少し違っていて。彼らは人間を『父なる神の子』として平等に扱うけれど、自分たちに導かれるしかない存在とも思っている。
「ナーヴェのこと、まだ苦手なんですか? ジブリス様」
「あれを連れているだけでも魔女と見られても無理はないのだ。私に限っての話ではあるまい」
冷たい目をしていて、淡々と話しているように見えるけど、召喚された天使は天界にいるときとは違って、人に近い感情を見せる――と言っていたのは、他ならぬこのジブリス様なんだけど。
「さて……事情を聞かせてもらおう。いつもなら人々が日照りで苦しめば、貴女はすぐに私を呼び出していたはず。それが、一向に天界に声が届かぬ。それどころか、大神殿を離れてこのような場所にいるとは……何があった?」
「新しい聖女から、声は届かなかったんですか?」
ジブリス様は首を振る。あのときは追放されるしか無かったけど、やっぱり日照りで苦しんでる人たちだけは助けたい。
それよりも――聖女として祈りを捧げれば、ジブリス様はある程度願いを聞き届けてくれるはずなのに。
「新しい聖女とは、誰のことだ?」
「ヴェロミア・ゾルダートという人です。私の代わりに、神殿にやってきて……」
ジブリス様は腕組みをして、何かを考えている――その瞳で、遠く離れた場所にいるヴェロミアのことを見ているのかもしれない。千里眼、それがジブリス様が地上を見守るために持つ能力の一つだから。
「……何者かに防がれている。そのヴェロミアという者は魔法を使うのか?」
「わかりません、急に今日大神殿に来て、聖女になると言われただけです」
「聖女の務めを果たすには、相応の能力と、数々の儀礼をこなす必要があるのだが……私に声が届かぬわけだ」
「儀礼を全て終えるには一ヶ月くらいかかると思いますが、その間は神官長が代わりをしてくれると思います」
「……聖女アリアンナ。いや、元聖女というべきか。貴女は聡明だが、時折説教をしたくなるほどに鈍くもある」
「あ……え、ええと、私、今は『アリア』と名乗っているので……」
ジブリス様のお説教モードは、人々を導くことが仕事なだけに、物凄く長くて容赦もない。空返事でわかりましたなんて言ったら、二時間くらい追加されてしまう。
「……今、聡明って言ってくれましたか? 私は無学なので、そんなことは全然ないと思います」
「聞こえていても聞こえぬふりをするところだ。全く……日照りの件は今の聖女次第というところか」
「はい。でも、もし解決できなかったら……そのときは、ジブリス様にお願いしてもいいでしょうか」
「……それは、皇太子ザイオンに対する義理立てか?」
ジブリス様は少し焦れているみたいに見える。本当は、私に起きたことをみんな分かっているのかもしれない。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!
藤野ひま
ファンタジー
わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。
初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!
夫や、かの女性は王城でお元気かしら?
わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!
〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる