偽聖女の濡れ衣を着せられて追放だそうですが、本当にいいんですね?

とーわ

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第二十話

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 ベナルタの町に来て、一週間目。

 ミシェルに町を案内してもらったり、商会の仕事を手伝ったりして過ごして、段々神殿の外の暮らしが分かってきた。

 このまま当面はここで生活できたら――と思っていたのだけど。ミシェルと一緒に買物に出た私は、昨日までとは町の空気が違うことに気づいた。

「……ミシェル、町の人たちが慌ただしいみたいだけど、どうしたの?」

 ミシェルは少し怯えたような表情で、北東の方向に視線を送る。

「まだ、確かなことは伝わってきていないのだけど……アランテラ王国が、国境壁の向こうに兵を集めてるっていうの」
「それは……戦が起こるかもしれないっていうこと?」

 ミシェルは少し震えながら頷く。誰だって戦が起こるかもしれないと言われたら、落ち着いてなんていられない。

 私が神殿にいたときは、この地方が戦火にさらされているということは伝わってこなかった。

 神殿の役割として、戦いに赴く兵士たちのために勝利の祈祷をするというものがある。

 私が聖女になる前は、勝利の祈祷は兵士の士気を上げるためのものだった。それでは多くの人が命を落として、戦場となった土地は荒れ果ててしまう。

 けれど召喚術の使い方次第では、『戦自体を防ぐ』ことができる。

 相手の戦意をなくさせたり、自然の力を利用して侵攻を止めたり。方法はその都度違っているけれど、結果としてこれまでは多くの戦いを止められた。

 この町がもし戦場になる可能性があるなら、未然に防がないといけない。

「っ……アリア、領主様がいらっしゃったみたい。道の端に寄りましょう」

 市場通りを、馬に乗った兵士たちが隊列を組んで通っていく。

 その中心で、白い馬に乗っている、黒い鋼鉄の鎧をまとった男性――彼が目の前を通り過ぎたとき、私は目の前の光景とは違うものを見ていた。

(これが……この人に起こる未来の出来事だっていうの……?)

 目の前を通っている部隊の兵士たちは全滅し、白馬に乗っている男性は額から血を流しながら、槍を振りかざして敵の騎馬兵たちの中に向かっていく。

「――だめっ……!」
「ア、アリアッ……!?」

 ミシェルがいるから抑えなければいけないと分かっていたのに、大きな声を出してしまった。

 兵士たちに何か号令をかけたあと、白い馬に乗った男性が隊列を離れて――私たちから少し離れた場所で馬を降りると、こちらにやってくる。

「……今、我々を制したのはどちらだ?」
「あ……あぁ……お、お許しください、領主様……」

 ミシェルが領主と呼ぶ男性は見上げるくらいの長身で、黒髪が一条だけ白くなっている。頬が少し痩せていて、瞳に宿る光が鋭い。年齢は私と同じか少し上くらいなのに、深い気苦労があるのか、身体から発する生気が濁ってしまっている。

 私の傍についてきていたナーヴェは、唸ったりはせずに、いつでも動けるように身構えている。ここで選択を間違えば、ナーヴェに危害が及ぶかもしれない。それに、ミシェルに迷惑はかけられない。

「声を出したのは私です。申し訳ありません」
「……我々は、これから国境壁に向かう。女子供は一時町を離れるか、そうできなければ家の中に入っていることだ」

 このまま領主様たちが国境壁に向かったら、そのままアランテラ軍との戦いが始まってしまうかもしれない。それくらい事態が良くないことは、彼らの様子を見ればわかる。

 ――戦いを避ける方法は、必ずある。一度戦が始まってしまえば、終わるまでどれだけの時間がかかるのか分からない。

 賑やかで平和なベナルタの町。この町の人々が、これからも穏やかに暮らしていけるように、私にできることをしたい。

 領主様は白馬に乗り、兵士たちが再び進み始める。国境壁に彼らがたどり着くまでの間に、召喚術を使う――戦が始まる前に防ぐために。

「ミシェル、先に戻っていて。私は少しやることがあるから」
「っ……駄目よ、アリア。私と一緒に家に戻りましょう、領主様もそうおっしゃっていたでしょう」
「ええ、分かってるわ。危ないことはしないから、安心して」
「……アリア……本当に、すぐ帰ってくるのよ。無茶なことはしちゃだめ……約束よ」

 心配してくれるミシェルに感謝しながら、彼女に嘘をついてしまったことを内心で謝る。

「……ナーヴェ、私と一緒に来てくれる?」

 ナーヴェは尻尾をぱたぱたと振る。私はナーヴェを抱え上げると、国境壁に向かう道が見通せる高台を目指して駆けていった。
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