水面の星

白詰えめ

文字の大きさ
19 / 37

実家

しおりを挟む
 屋上で話をした後から、翔は普通に話してくれるようになった。吹っ切れたような、そんな顔をしている。夏休み前の最後の登校日だったのに、帰り際もあっさり別れた。寂しい。

 家についてソファに座った。いつも通りのはずなのに、広く感じる。翔が泊まりにきた日を思い出したのだ。
「翔…夏休み中会えるかな」
 でも、そもそも翔は僕と一緒にいて楽しいのかな。僕と違って、友達が沢山いて、好きな人もいて…。ネガティブなことばかり考えてしまう。
「今日は、早く寝よう」
 そう思って、寝る準備を済ませ、ベッドの上に寝転がる。そのまま、スマホを手に取ってメッセージアプリを開いた。もちろん、翔からのメッセージはない。閉じようとしたその時、母さんから連絡が来た。「夏休みは帰ってくるの?」と書いてある。なんか、どうでもよくて「帰るよ」と返した。数分経って、後悔してきた。
「帰りたくないな」
 でも、きっと、両親は喜んで迎えてくれる。僕は愛されてるのだと、そんな感覚はある。だけど、少し苦手だ。
「はぁ」
 憂鬱な気分のまま、眠りについた。

 起きてから、すぐスマホを手に取った。翔から、連絡が来ていないか気になったのだ。
「来てないか…」
 実家に行く用事は早く済ませておこうと、出かける準備を始めた。お土産を買ってくれば、それを口実に翔に会えるかも。楽しみが一つだけできた。やっぱり、翔に助けられてばかりだ。
「よし、これでいいか」
 最低限の荷物をバッグに詰めて家を出た。そして、駅まで歩き出した。

 駅についてから、軽く実家へのお土産を購入した。それから、実家の近くの駅まで行く電車に乗った。ぼんやりと、過ぎていく景色を眺める。一時間ほど経ったところで、外が見慣れた景色に変わってきた。
「そろそろか…」
 覚悟を決めるように深呼吸をしてから、電車を降りた。気持ちとは裏腹に豊かな自然と鳥の声が迎えてくれた。景色は嫌いじゃない。景色だけは、だけど。実家までの足取りが重い。でも、行くしかない。そう思いながら歩き続けると、とうとう家の前に着いてしまった。鍵を開けようと、バッグに手を伸ばしたところで、声をかけられた。
「あすか、おかえり」
 父さんだ。嬉しそうに笑っている。
「うん。ただいま」
 僕は作り笑顔で返した。
「久しぶりだな」
 父さんはそう言いながら玄関の扉を開けた。そのまま、家に入る。靴を脱いでリビングに行くと、母さんと目があった。
「おかえりなさい」
 母さんもそう言って嬉しそうに笑った。
「うん」
 と短く言って、逃げるように自分の部屋に向かった。父さんと母さんが一緒にいる空間にはいたくない。ここにいたらそんな事叶わないけど。今はまだ準備ができてない。そんな言い訳を頭で考えながら、部屋に入った。部屋は、何も変わっていない。壁には、友達と一緒に撮った写真が飾ってある。高校の時の写真が多い、その中にはななもいる。
「懐かしいな」
 写真を見ていると、自然に表情が緩むのがわかる。少し落ち着いた。カバンからお土産だけを取り、リビングへ戻った。

「これ、買ってきたよ」
 お菓子の箱を机の上に置いた。二人が好きなお菓子だ。
「あすか、ありがとう!」
 母さんはすぐにそのお菓子を手に取った。喜んでくれてよかった。父さんも、母さんにお菓子を渡され受け取った。
「よかった」
「うん、ありがとう。あすか」
 父さんも嬉しそうだ。少し安心する。二人とも、美味しそうにお菓子を食べている。そして、そのまま雑談の流れになった。
「最近どうだ」
「楽しいよ」
「何かあったのか?」
「えっと…友達が増えた」
 翔の話題は出さないつもりだったが、聞かれて言ってしまった。でも、このくらいならいいだろう。
「あら、女の子?」
 母さんが、目を輝かせて言ってくる。彼女っていうのを期待しているのだ。
「違うよ」
 あすかは困ったように笑いながら、そう返した。
「残念」
 母さんは、そう言ってまたお菓子を手に取った。
「そろそろ、彼女とか連れてきていいんだよ」
 父さんもそう言って、期待するような表情で見てくる。面倒だ。
「できたら、連れてくるよ」
 とりあえず、社交辞令のようにそう返すと、二人は満足げに頷いた。
「でも、彼氏とかは連れてくるなよ」
 父さんは冗談みたいにそう言った。なぜか、ドキッとした。
「あはは、何それ」
 とりあえず、笑って返す。話に熱中しているのか、返事には興味なさそうだ。
「最近いるんだろう。そんな人が」
 バカにするように笑っている。なんでだろう、聞きたくない。
「変だよね」
 言いたくもない言葉が出る。その人達は悪い事してるわけじゃないのに、無闇に否定するのは嫌いだ。でも、それ以外にも、なぜか引っかかる。
「あすかはそんな事ないわよね!」
 当然という風に母さんも笑っている。一緒に笑ってるフリをした。だけど、気分が悪い。早く、家に帰りたい。翔に会いたい。
「当たり前じゃん」
 望まれてそうな言葉を返した。しょうもないな。それからは二人で話が盛り上がりそうだったので、そっとリビングから出て自分の部屋に行った。
「はぁ」
 小さくため息をついた。ほんの数分でこれだけ疲れるなんて、想像の倍くらいしんどい。一泊したら、大学のレポートがあるからとか言って帰ろうと決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...