水面の星

白詰えめ

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距離

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 何もする事がないので、とりあえず口寂しさに冷蔵庫を開けた。そこには、コーヒー牛乳と、エッグタルトが入っている。どちらもあすかの好物だ。
「いつ買ってたんだろう」
 これを買う翔の姿を思い浮かべると、口元が緩んだ。少し、気持ちが落ち着いた。たぶん、この事を伝えると「流石だろ?」とか言って得意げに笑うんだろうなと安易に想像がつく。
 翔は、恋人が出来ても、僕とも遊んでくれる。一緒にいてくれる。そう信じるしか、今の僕にできることはない。だから、今ある翔の優しさだけでも逃さないようにしたい。
 冷蔵庫からエッグタルトを取った。たぶん、帰ってきたら「一緒に食べたかったのに~」と言われる。ほんの少しだけ意地悪をさせてほしい。あすかはエッグタルトをお皿に乗せてソファに戻った。エッグタルトを口に入れるとサクッと、優しい甘さが口全体に広がった。
「美味しいな」
 目頭が熱くなる。泣きそうだ。でも、泣くのは今じゃない気がする。グッと涙を堪え、空になった皿を台所へと運んだ。再びソファに戻り、ぼーっと部屋を眺めた。その時、微かに鍵の音がした。翔だ。翔が帰ってきたんだ。あすかはチラッと玄関の方を見たが、扉が開きそうだったので急いで目を逸らした。
「ただいま~」
 翔は、心底嬉しそうな声そう言った。気になってそちらを向くと、翔の顔は、なんというか、ニヤけている。
「おかえりなさい?」
 あすかが不思議そうに返すと、翔は自分の顔を手で触った。
「やば!超ニヤけてる」
 もしかして、何かいい事あった…?いや、もう考えるのはやめたんだ。でも…。
「どうしたの?」
「あすかがおかえりって言ってくれるのが嬉しくて~」
 可愛い。この顔を独り占めしていたい。今だけは、きっと、僕のものだ。
「僕も、翔のただいま嬉しかったよ」
 あすかがそう言うと、翔はバッと顔を逸らした。耳が赤くなっている。そのまま、逃げるように台所へ向かった。
「あ!!あすか!!」
 買ってきたものを入れようと冷蔵庫を開けたらしく、エッグタルトが一つ減っているのを見つけたようだ。
「あ」
 思っていたよりも早くバレた。
「家にあるものなんでも好きにしてっては言ったけど!!一緒に食べようと思ってたのに!」
 大人気なく拗ねている。思わず吹き出してしまう。
「おい!笑い事じゃないぞ」
 翔は眉をハの字にしている。何を言ってもかわいいと思ってしまう。
「ごめんごめん。美味しそうだなって思うとつい」
 頭を掻きながらそう答えた。
「美味しかったか?」
 翔はため息をつき、首を傾げた。
「凄く、ね」
 あすかがそう言うと、翔は満足げに笑った。ころころ表情が変わって面白い。
「じゃあいいぜ」
 翔は、そう言うとこっちに歩いてきてあすかの隣に座った。
「なあ、明日さ。連れて行きたいとこある」
 翔は頭をあすかの肩に乗せて言った。鼓動が早くなる。この距離だと聞こえているんじゃないかと錯覚する。唾を飲み込み、一度深呼吸をした。
「いいよ」
 あすかがそう言うと翔は嬉しそうに顔を上げ、あすかをじっと見た。
「やった!」
 何をそんなに喜んでいるのかはわからないが、楽しそうな翔を見るだけで心が温かくなる。やっぱり僕は、この関係のまま側にいよう。心でそう誓った。
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