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王子のプロポーズ
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ルキウスが案内されたのは、カイエルが所持する応接間の一つである。ルキウスがこの部屋に入るのは初めての事だった。こぢんまりしているが、王宮内にあるので調度品は一級品ばかりであった。よほど、外部に漏らしたくない話なのか、カイエルは自分でお茶を淹れてルキウスに差し出した。メイドすら部屋の中に入れない徹底ぶりに驚きながらもお茶をいただく。
「うん……とても良い香りだね。カイエル殿下がお茶を淹れるのが得意とは知らなかった」
「野営の時には自炊が必須だからな」
「なるほど……軍仕込みか」
(王子でも、野営中は自分で料理するのか……ふむ。こういうおよそ貴族らしくないところも民に人気な理由の一つなのだろうな……)
とは思いつつも、自分で真似しようとは思わなかった。そもそも武力とは無縁であったし、ヴァレンタイン家の悪名が高すぎて同じことをしたとしても焼け石に水なことはわかりきっていた。
(おっと……そんなことよりも、カイエル王子の相談を聞かないとね)
「それで、私に話したい事ってなんだい?」
ルキウスの方から本題を切り出すと、カイエルはわかりやすく身体を強張らせた。カップをそっとソーサーの上に下ろした後、徐に立ち上がり、物陰から『ガサゴソ』と音を立ててあるものを取り出した。
それは、100本はあろうかという薔薇の花束だった。持つのさえ大変そうな大きな花束だが、そこは流石に現役の軍人であるカイエルは楽々持ち運んでいた。
この期に及んで、ルキウスは(おやおやまぁまぁ……随分と情熱的だねぇ。カイエル王子は復縁に本気と見た。それとも別にお目当ての令嬢がいて、その娘に渡すものなのかな?)とその立派な花束を眺めていた。それがルキウスの目の前に差し出されるまでは。
「うん? 随分と素敵な花束だね」
「き、気に入ったか!? なるほど……まずは王道からと思い安易に選んだ花だったが、貴殿はこういうストレートなのが案外好きなのだな……」
「美しいものは見ていて心が洗われるからねぇ……世間では『悪の貴族』なんて呼ばれているが、私にも花を愛でる心ぐらいはあるんだよ」
「ああ。とても似合っている。綺麗だ……可愛い」
(…………うん???)
おかしい。さっきからカイエルとの話がかみ合っていない気がする。ルキウスがそう気づいた時には逃げられないところまで来てしまっていた。
「子どもの頃に一目見てからずっとずっと恋い焦がれていた……。今までは自分の立場を気にして言い出せなかったのだが……成人してもこの思いを消し去ることは出来なかった。そんな未熟な俺の姿に、セリアは喝を入れて、自ら婚約を解消する事を提案してくれたのだ……自分の婚約を解消してまで、背中を押してくれた彼女の為にも、俺は貴方に伝えなくてはならないことがある!」
物凄く嫌な予感がしたルキウスは立ち上がろうとしたが、それよりも先に王子が口を開く方が早かった。
「好きだ! ルキウス・ヴァレンタイン!! 俺と結婚してくれ!」
「…………は?」
今、自分は貴族にあるまじき間抜け面をしている自信がルキウスにはあった。それくらい衝撃的なことを言われた気がする。
「ちょっと待ってくれ……今、結婚したいと言ったかい?」
「ああ」
「カイエル王子と……私が??」
「そうだ」
「…………いや無理だろ。君、私が女に見えるかい?」
「どう見ても男だ」
「君もね。それでどうやって結婚するんだい? この国では同性婚は法律上出来ないんだが……」
「ああ。でも、世間的に同性愛も、事実婚も、認められているだろう?」
「庶民の間ではね! でも世継ぎを作らなきゃいけない貴族は別だよ」
「でも、ルキウスの家は世襲できないから関係ないだろう?」
(うっ……!)
痛いところ突く王子である。ヴァレンタイン侯爵家は、建国時から続く名家であったが、色々あり、その家名はルキウスの代までと決まっている。
だから、ルキウスは30を過ぎても結婚していなかったし、これからもするつもりはないのである。世襲できない家にわざわざ娘を嫁がせたい親もいないので当然の結果である。
「いや、私はそうだが、君は違うだろう? 王位継承権を持つ者が子孫を作らないなど……」
「来年には兄にも子どもが出来るし、寧ろ第二王子の私が子どもを作らないことは余計な火種を生むことがなくて、兄も賛成してくれると思うのだが?」
「いやそれ国家機密情報だから!」
「ルキウス殿なら、兄から直接聞いていると思って……」
(聞いているけど! でもそんな簡単に言っていい情報じゃないから!!)
セレウスの妃が懐妊したのは三か月前である。腹もまだあまり出ていないし、まだ安定期にも入っていないので、彼女が身籠もったことは数人しか知らない極秘情報である。
ルキウスはセレウスの側近であったから知らされていただけで、世間話で言っていい内容ではないのである。
「とにかくだね……私の家のことはその通りだとしても、カイエル、君はそんな簡単に結婚というカードを放り出していい立場ではないだろう?……結婚って言うのは王族にとっては、大事な切り札の一つだ」
「当然、簡単に手放した訳ではない。全てを覚悟の上で……それでも、俺はルキウス、貴方と結ばれたい」
とても情熱的で真っ直ぐな告白だった。カイエルの気迫に押されて言葉を失うルキウスを見て、彼は花束を渡して告げる。
「……すぐに承諾してもらえるとは思っていない。また明日貴殿に会いに行く」
「え」
「何度でも、貴方を手に入れるまであきらめない」
(ええぇー……)
それが始まりであった。それから毎日、毎日、ルキウスは彼に告白され続け、その度に丁重にお断りしている。
(まったく……本当に、どうしてこうなった……???)
「うん……とても良い香りだね。カイエル殿下がお茶を淹れるのが得意とは知らなかった」
「野営の時には自炊が必須だからな」
「なるほど……軍仕込みか」
(王子でも、野営中は自分で料理するのか……ふむ。こういうおよそ貴族らしくないところも民に人気な理由の一つなのだろうな……)
とは思いつつも、自分で真似しようとは思わなかった。そもそも武力とは無縁であったし、ヴァレンタイン家の悪名が高すぎて同じことをしたとしても焼け石に水なことはわかりきっていた。
(おっと……そんなことよりも、カイエル王子の相談を聞かないとね)
「それで、私に話したい事ってなんだい?」
ルキウスの方から本題を切り出すと、カイエルはわかりやすく身体を強張らせた。カップをそっとソーサーの上に下ろした後、徐に立ち上がり、物陰から『ガサゴソ』と音を立ててあるものを取り出した。
それは、100本はあろうかという薔薇の花束だった。持つのさえ大変そうな大きな花束だが、そこは流石に現役の軍人であるカイエルは楽々持ち運んでいた。
この期に及んで、ルキウスは(おやおやまぁまぁ……随分と情熱的だねぇ。カイエル王子は復縁に本気と見た。それとも別にお目当ての令嬢がいて、その娘に渡すものなのかな?)とその立派な花束を眺めていた。それがルキウスの目の前に差し出されるまでは。
「うん? 随分と素敵な花束だね」
「き、気に入ったか!? なるほど……まずは王道からと思い安易に選んだ花だったが、貴殿はこういうストレートなのが案外好きなのだな……」
「美しいものは見ていて心が洗われるからねぇ……世間では『悪の貴族』なんて呼ばれているが、私にも花を愛でる心ぐらいはあるんだよ」
「ああ。とても似合っている。綺麗だ……可愛い」
(…………うん???)
おかしい。さっきからカイエルとの話がかみ合っていない気がする。ルキウスがそう気づいた時には逃げられないところまで来てしまっていた。
「子どもの頃に一目見てからずっとずっと恋い焦がれていた……。今までは自分の立場を気にして言い出せなかったのだが……成人してもこの思いを消し去ることは出来なかった。そんな未熟な俺の姿に、セリアは喝を入れて、自ら婚約を解消する事を提案してくれたのだ……自分の婚約を解消してまで、背中を押してくれた彼女の為にも、俺は貴方に伝えなくてはならないことがある!」
物凄く嫌な予感がしたルキウスは立ち上がろうとしたが、それよりも先に王子が口を開く方が早かった。
「好きだ! ルキウス・ヴァレンタイン!! 俺と結婚してくれ!」
「…………は?」
今、自分は貴族にあるまじき間抜け面をしている自信がルキウスにはあった。それくらい衝撃的なことを言われた気がする。
「ちょっと待ってくれ……今、結婚したいと言ったかい?」
「ああ」
「カイエル王子と……私が??」
「そうだ」
「…………いや無理だろ。君、私が女に見えるかい?」
「どう見ても男だ」
「君もね。それでどうやって結婚するんだい? この国では同性婚は法律上出来ないんだが……」
「ああ。でも、世間的に同性愛も、事実婚も、認められているだろう?」
「庶民の間ではね! でも世継ぎを作らなきゃいけない貴族は別だよ」
「でも、ルキウスの家は世襲できないから関係ないだろう?」
(うっ……!)
痛いところ突く王子である。ヴァレンタイン侯爵家は、建国時から続く名家であったが、色々あり、その家名はルキウスの代までと決まっている。
だから、ルキウスは30を過ぎても結婚していなかったし、これからもするつもりはないのである。世襲できない家にわざわざ娘を嫁がせたい親もいないので当然の結果である。
「いや、私はそうだが、君は違うだろう? 王位継承権を持つ者が子孫を作らないなど……」
「来年には兄にも子どもが出来るし、寧ろ第二王子の私が子どもを作らないことは余計な火種を生むことがなくて、兄も賛成してくれると思うのだが?」
「いやそれ国家機密情報だから!」
「ルキウス殿なら、兄から直接聞いていると思って……」
(聞いているけど! でもそんな簡単に言っていい情報じゃないから!!)
セレウスの妃が懐妊したのは三か月前である。腹もまだあまり出ていないし、まだ安定期にも入っていないので、彼女が身籠もったことは数人しか知らない極秘情報である。
ルキウスはセレウスの側近であったから知らされていただけで、世間話で言っていい内容ではないのである。
「とにかくだね……私の家のことはその通りだとしても、カイエル、君はそんな簡単に結婚というカードを放り出していい立場ではないだろう?……結婚って言うのは王族にとっては、大事な切り札の一つだ」
「当然、簡単に手放した訳ではない。全てを覚悟の上で……それでも、俺はルキウス、貴方と結ばれたい」
とても情熱的で真っ直ぐな告白だった。カイエルの気迫に押されて言葉を失うルキウスを見て、彼は花束を渡して告げる。
「……すぐに承諾してもらえるとは思っていない。また明日貴殿に会いに行く」
「え」
「何度でも、貴方を手に入れるまであきらめない」
(ええぇー……)
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