3 / 5
3
しおりを挟む
生い茂る木々の暗い闇の中、俺は筋力の限界のスピードで先ほど進んできた逆の方向に風のごとく疾駆する。
やがて、森を抜け、街の入り口にある大扉が出現するはずだったが―。
巨大な影は、俺の傍を猛烈な速度で通り過ぎ、もうもうと土煙を二本足からまき散らしながら森の入り口付近で停止した。
くそったれ……。
あと少しだったのに。
俺は心の中で叫び声を上げながら、腰に身に着けていた片手剣の柄に手を置いた。
状況は最悪であった。
森の入り口にまばらに生えている低木は、魔物が呼気から吹き出す赤い炎に包まれ燃え盛っている。そして道の中央で起立する、褐色と黄金色の巨体。
魔獣、グレートウルフだ。
禍々しいオオカミの頭部から灼熱の炎を絶え間なく吐き出しながら、魔獣は右手の巨大な大剣をゆっくりと上段に構える。
気合十分といったところか。
それに比べ、片手剣一本のあまりに小さい影。咄嗟に何かこの場を凌げるいい方法は―と考えるが……。
そう思う間にも、ブーンと切り裂き音を立てて、大剣が俺に向かって突き出される。
地面に転がって何とか回避。
うまく避けたと思ったが、わき腹から赤い液体が滲み出てきた。
もう、撤退も戦術もなかった。
街の入り口と俺との間に魔獣が陣取っている限り、街の中に逃げ込むこともできない。
「何をしている!早く転移アイテムを使え!!」
街にいるハンターたちが俺に向かって大声を上げる。
馬鹿野郎。
そんな高価なアイテム、ハンター初心者が持っているわけないだろう。
戦うしかないのだ。
炎で周りを囲まれた明らかに絶望的な状況で覚悟を決めた。
俺は片手剣を抜刀し、ゆっくりとオオカミ男との距離を詰めていく。
無謀な攻撃と思われるかもしれない。
防御主体の体勢で、耐えるという手段もあった。
しかし、盾を持っていないので相手の攻撃を防ぐ方法がないのだ。
魔獣は、仁王立ちになると地響きを伴う雄叫びと共に口から眩い噴気をまき散らした。
熱い。
グレートウルフ特有の特殊能力、『ブレスフレーム』。
ひりひりと俺の肌を焼いていく。
直接、炎の噴気にあたらなくても、俺の動きを止めるには十分だった。
そこに、すかさずオオカミ男の大剣が突き立てられる。一本の木がすくい上げられるように切り飛ばされ、俺の眼前に激しく落下した。
―死ぬ。
本能的にそう思った直後、神経を逆撫でするような効果音と共に無数の矢が魔獣の背中に突き刺さる。
「ぐうおおおおっ……」
オオカミ男は、短い悲鳴を上げた。
「逃げろ!」
街にいたハンターたちが、火炎弾や弓矢で援護してくれたのだ。だが―もはや手遅れだった。
ターゲットを決めていたグレートウルフは、怒りの叫びを上げて、雨のようにそそぐ矢を左腕で薙ぎ払うと、猛烈なスピードで大剣を俺に振り下ろす。
「……っ!!」
俺は身も凍るような恐怖を味わいながら大剣を片手剣で受け止める。ギリギリのタイミングで俺の剣が、魔獣の攻撃の軌道をわずかに逸らした。途方もない衝撃。
擦れ合う刀身から火花を散らして振り下ろされた巨剣が俺から少し離れた地面に激突し、爆発音とともに深い穴を穿った。
やがて、森を抜け、街の入り口にある大扉が出現するはずだったが―。
巨大な影は、俺の傍を猛烈な速度で通り過ぎ、もうもうと土煙を二本足からまき散らしながら森の入り口付近で停止した。
くそったれ……。
あと少しだったのに。
俺は心の中で叫び声を上げながら、腰に身に着けていた片手剣の柄に手を置いた。
状況は最悪であった。
森の入り口にまばらに生えている低木は、魔物が呼気から吹き出す赤い炎に包まれ燃え盛っている。そして道の中央で起立する、褐色と黄金色の巨体。
魔獣、グレートウルフだ。
禍々しいオオカミの頭部から灼熱の炎を絶え間なく吐き出しながら、魔獣は右手の巨大な大剣をゆっくりと上段に構える。
気合十分といったところか。
それに比べ、片手剣一本のあまりに小さい影。咄嗟に何かこの場を凌げるいい方法は―と考えるが……。
そう思う間にも、ブーンと切り裂き音を立てて、大剣が俺に向かって突き出される。
地面に転がって何とか回避。
うまく避けたと思ったが、わき腹から赤い液体が滲み出てきた。
もう、撤退も戦術もなかった。
街の入り口と俺との間に魔獣が陣取っている限り、街の中に逃げ込むこともできない。
「何をしている!早く転移アイテムを使え!!」
街にいるハンターたちが俺に向かって大声を上げる。
馬鹿野郎。
そんな高価なアイテム、ハンター初心者が持っているわけないだろう。
戦うしかないのだ。
炎で周りを囲まれた明らかに絶望的な状況で覚悟を決めた。
俺は片手剣を抜刀し、ゆっくりとオオカミ男との距離を詰めていく。
無謀な攻撃と思われるかもしれない。
防御主体の体勢で、耐えるという手段もあった。
しかし、盾を持っていないので相手の攻撃を防ぐ方法がないのだ。
魔獣は、仁王立ちになると地響きを伴う雄叫びと共に口から眩い噴気をまき散らした。
熱い。
グレートウルフ特有の特殊能力、『ブレスフレーム』。
ひりひりと俺の肌を焼いていく。
直接、炎の噴気にあたらなくても、俺の動きを止めるには十分だった。
そこに、すかさずオオカミ男の大剣が突き立てられる。一本の木がすくい上げられるように切り飛ばされ、俺の眼前に激しく落下した。
―死ぬ。
本能的にそう思った直後、神経を逆撫でするような効果音と共に無数の矢が魔獣の背中に突き刺さる。
「ぐうおおおおっ……」
オオカミ男は、短い悲鳴を上げた。
「逃げろ!」
街にいたハンターたちが、火炎弾や弓矢で援護してくれたのだ。だが―もはや手遅れだった。
ターゲットを決めていたグレートウルフは、怒りの叫びを上げて、雨のようにそそぐ矢を左腕で薙ぎ払うと、猛烈なスピードで大剣を俺に振り下ろす。
「……っ!!」
俺は身も凍るような恐怖を味わいながら大剣を片手剣で受け止める。ギリギリのタイミングで俺の剣が、魔獣の攻撃の軌道をわずかに逸らした。途方もない衝撃。
擦れ合う刀身から火花を散らして振り下ろされた巨剣が俺から少し離れた地面に激突し、爆発音とともに深い穴を穿った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる