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その15
しおりを挟む「ひょっとして、花摘みか?」
モジモジしているミクロカを見て、ハイドラがぶっきらぼうに言った。
「いや、その、はい……」
ミクロカは赤面し、叱られた犬みたいにうなだれた。
「……はしたない。さっさとすませてくるように」
マギーはドアを指し、冷たく言う。
「ここのトイレって外だし、アレだし……やなんだよねえ……」
ブツブツ言いながら、ミクロカは小走りに出ていった。
(トイレか……)
わたくしはふと前世を思い出し、考えた。
確かにこの世界のトイレ事情は日本のそれと比べると雲泥の差。
そのへんのことはマギーたちに任せきりになってしまっているが――
(せっかくゴーレムのチートを手に入れたのだし、何かできないものかしらん)
と、思う次第だった。
そうなると、やっぱりジッといわれない。
わたくしはすぐ自室に戻り、ランプを頼りに研究ノートを見直す。
ちゃんと読んでるつもりでも、わりと見落としは多いのだ。
また研究資料でもあれこれとネタが転がっている。
そして――
「む」
ある項目でわたくしは手を止めた。
『非生物型ゴーレムについて』
というものだ。
要するに人を始めとする生物の姿を模したゴーレムから、
「目的や作業に最適な形状をした非生物型」
に発展させるというもの。
これなんか地球の工業用ロボットと近いかもしれない。
面白そうなアイデアや研究はたくさんある。
だが、その中で特に注目したのは、
『地下水のくみ上げ、及び浄化装置』
ポンプのようなものを基礎として、ろ過装置を始め浄化装置を組み込む。
あくまで研究段階であり、色々難点も多い。
しかし。
うーむ、とわたくしは考え、手の平を見つめた。
この無生物型のアイデアは良いけど、ゴーレムで考えるとどうだろう。
少しああだこうだと思案してから、わたくしは外に出る。
家の近くにある井戸へと向かい、そこで実験をすことにした。
まずはポンプ型。
これはわたくしの使うカボチャならぬプラントゴーレムと相性が良い。
水分を吸い上げる植物の特性。
それに生き物と近しい長所を持っているから、なお良いのだ。
カボチャの蔓が井戸を降りていき、やがてポンプの形状を取る。
やっぱりカボチャの特徴はあちこちにあるのだが。
いざ動かしてみると、実に具合が良い。
これならマギーたちの負担もかなり減るであろう。
うんうんとうなずいてから、次にろ過装置を生成してみる。
これはかなり面倒でだいぶ失敗した。
とはいえ、やはり元となるアイデアがあったのは嬉しい。
試行錯誤の末に、どうにか完成にこぎつけた。
「できたあ……」
つぶやいてから、わたくしはあくびを漏らす。
何だかんだでけっこう疲れがたまっていたみたいだ。
「井戸に新しいくみ上げゴーレムが置いてあるから、使ってみてね」
マギーにそう言い残し、ベッドへともぐる。
夢の中でもゴーレムの設計図やアイデアがグルグルと回っていた。
これはちょっとしたワーカーホリックだろうか?
そんなことを思いながら遅めの起床。
朝食を食べた後はすぐに実験を再開した。
とりあえず、ポンプゴーレムはできたから良しとして。
<ポンプゴーレム。生成:3MP、稼働3MP>
続いての目標は、水道だった。
水を自由に使えるようなれば、かなり便利で快適となる。
「このくみ上げゴーレムは便利すぎますね……」
使った感想を聞いた結果、マギーたちは大いに驚いていた。
「ポンプ自体は街などでありますが、ここまで自動化されていると……」
ちょっと引いている感じでハイドラが言う。
「この調子で水洗トイレもお願いしますよー」
蠅みたいな手つきでミクロカは懇願してくる。
水洗トイレか。
確かにあれを一度体験したら、この世界の遅れたトイレは悪い意味ですごすぎだろう。
わたくしとしても、都以上に便利で快適な暮らしは望むところ。
お嬢様時代はそりゃあ快適だったが、今となっては――
(まさに落ちぶれた身の上だもの……)
なのである。
さて、研究してみるとやはり水道には水源がいる。
一応井戸があるがそればかりでも心もとない。
そのためにもやることはたくさんあって……。
数日間ほど、着替えや食事もおろそかにしがちな日が続いた。
「これだよ!」
部屋いっぱいに広がるカボチャの蔓を見ながらわたくしは叫んでいた。
蔓というよりは、根っこ。
この植物の特性を生かして、どこまで水源目指して根を張らせるのだ。
「それは結構ですが、服を着替えて体も洗ってください!」
ちょっと引きつった顔でマギーに叱られ、わたくしは一時停止。
落ちぶれたとはいえ、さすがにこれはまずかったか。
マギーの助言もあり、わたしくは一応の設計というか設定をした後――
体をよく洗い、食事をとって一日休んだ。
その翌朝から心身を整え、作業開始。
もはや、これはゴーレムと呼べるのだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、蔓の地下ポンプを張っていった。
…………。
結果だけ言うと、時間は思ったほどかからなかったが、MPを消耗。
およそ1万ほどの魔力を使い、ゴーレムは地下水道完成した。
まあ、家で使う分には井戸からの水で十分だったのだが。
どっちかというと、これは自分の研究熱にかまけた結果だった。
だが、おかげで念願の水洗トイレが完成。
屋内と屋外に、二つずつ作った。
「こんな贅沢なもの、いいんですかねえ……」
完成して、ものを見せた時。
マギーは泣いているのか、困っているのか、よくわからない顔で言った。
「素晴らしいです」
ハイドラは素直に感動し、素直に褒めてくれた。良かった、良かった。
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