悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第三章 王子改造計画

26、王子がいない……なの?

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「え? シモン王子がいないの?」
わたくしは今帰って行ったシモン王子が城に戻っていないと言う報告を受けておりました。
「はい、アリアドネ様。シモン王子が公爵家を出立してからの行方が分からなくなっております」
「ご、護衛は? 護衛はどうしたのですか?」
「それが、今日はいつものハーモン殿が体調を崩されて別の者が付いていたはずなんですが王子と一緒に行方不明です」
わたくしの頭の中は前世の物語の内容を懸命に思い出しておりました。
でも、いくら考えても誘拐のイベントはありませんでした。
なんと言ってもまだ物語は始まっていないのです。
「一体どういうことなの?」
「シモン王子は誘拐されたと思われます。現時点で考えらるのは前王派だけです。アリアドネ様もお気をつけください。現王家は公爵家を疑っているようです」
「そ、そんな……。レオポルト様は……」
「公爵は現在捜索の最前線に出ていらっしゃいます」
「そ、そうなのね」
わたくしは報告してきた衛兵の話を聞いてから、エントランスホールにあるソファに腰を下ろしました。
そこにアルバートが帯剣してやって来ました。
「母上、私も父上を手伝いに行って来ます」
「わかったわ。気をつけてね。アルバート」
わたくしはアルバートを送り出すと再びソファに腰を下ろしました。
立っている事が出来なかったのです。
前世の物語には一切の記述がなかった事が起こっている。
しかも、わたくし達公爵家が犯人と疑われている。
現王派も前王派もない世界だったのよ。
それが、何故……。
わたくしは気を取り直してコーデリアの部屋に急ぎました。
もしかしたら、コーデリアは、真理子さんは何かを知っているかもしれないのです。
「コーデリア!!」
「え? 何? どうしたの?」
「シモン王子が行方不明なのです!!」
「行方不明?! なんで! どうして?」
「貴女にもわからないの? 何か覚えている事はないの?」
わたくしは驚いているコーデリアの肩を揺らして問いかけました。
「王子が……行方…………不明? 誘拐?」
コーデリアは目を閉じてブツブツと独り言を言って部屋の中を歩き回っております。
わたくしはそれを見ながらもハラハラとコーデリアの答えを待ちました。
「コーデリア?」
コーデリアはふと立ち止まると、机からノートを取り出してパラパラとめくり始めました。
そして、あるページを開くと叫んだのです。
「あああああああ!!」
「え?」
「失敗よ! 失敗だわ! すっかり忘れていたわ!!」
「なんなのです?」
「お母様は覚えていない? ほら、学校でミアと王子があった時に王子がミアに対して『何処かであった事があるような気がする』って言ったじゃない?」
「そうだったかしら? でも、それは社交辞令じゃないの?」
「私もそう思っていたの。でも、もし、この騒ぎの最中でシモン王子とミアが出会ったら、あの言葉は本当だったということよ! そうなったら、シモン王子はきっと、ううん、絶対学校に行くわ! 王族が平民と知り合うなんて学校しかないもの!!」
わたくしはその言葉にふと思いついた事を声に出してしまった。
「王族……推薦……?」
「え? 何?」
コーデリアが驚いた声を出しました。
「学校には王族推薦枠があるのです。元々は護衛の者は実力主義の為身分の低いものや勉学が苦手な者も多く、その者達に学校への入学を許可して王族の警護を固めるものです。ですが、特に制限もないのでシモン王子がミアを推薦してもおかしくないのですわ!」
「ええぇぇ!? そんな制度聞いたことないわよーー」
「兎に角今はシモン王子の無事を祈りましょう。万が一お怪我でもされて、その犯人が前王派だとしたら、学校所ではなくなりますわ」
「ええ、そうね。わかったわ……」
わたくし達は漫然と報告を待ちました。
宵闇迫る時刻になると漸くアルバートが帰宅いたしました。
「アルバート!!」
「お兄様!!」
わたくしとコーデリアは急いでエントランスホールにやって来るとアルバートに詰め寄りました。
「母上、コーデリア、ちょっと待って下さい。水をくれ!」
「大丈夫? シモン王子は?」
「フー、はい。今から話しますのでリビングに行きましょう」
「そうね。わかったわ」
そうしてわたくし達はゾロゾロとリビングに移動しました。
アルバートはかなり疲れたようで少し顔色が悪くなっておりましたが、今は話が聞きたいので頑張ってもらいますわ。
わたくし達は居間に落ち着くと侍女にお茶を用意してもらいました。
アルバートが一口お茶を飲んだのを確認してから、わたくしは話しかけました。
「アルバート、疲れているとは思うけれど、話してもらえるかしら?」
「はい、母上」
「まず、シモン王子は無事でした」
「よかったわ!!」
「ですが、誘拐された事は事実の様です」
「誘拐?」
「はい。犯人等についてはよくわかっていませんが、我々が突き止める前にシモン王子は自力で脱出した様なんです。ですから、犯人は捕まっておりません」
「自力で脱出されたの?」
「ええ、我々がシモン王子を見つけた時は城下町を歩いていたと報告がありました」
「えっと、お一人で?」
コーデリアが心配そうに尋ねました。
「流石にコーデリアも心配だったのか? でも、大丈夫だ。シモン王子は町の子供達に囲まれていたらしく、逆に目立たなかったようだよ。だから、誘拐犯も見つけられなかったようだ」
「では、シモン王子は今は?」
「今は無事城にお戻りになって休んでいるはずです」
「そう……なの……ですね」
アーノルドがわたくしの方を見つめました。
「父上は今晩は城で警護に着くそうです。あと、シモン王子は暫く当家には来ずに城にて勉強する事になりました」
「わかりました」
「ああ、それで父上に私には学校に行くよう仰っていました。シモン王子が来ないのなら学校で見聞を広めよとの事です」
「そう……なのですね」
「では、私も疲れましたので、先に休みます。失礼します。母上」
「ええ、ゆっくりおやすみなさい」
わたくしは何とかアーノルドに返事を返すとそのままソファに沈み込んでコーデリアに目を向けるとガックリと肩を落としました。
「コーデリア……やっぱり、これが強制力なのかしら……」
コーデリアも肩を落としてゲンナリとした顔をしました。
「そうみたいね……」
その日を境にシモン王子は公爵家に来なくなり、アーノルドは学校に通い始めました。
当然、シモン王子も来年から学校に通う事が決まり、婚約者であるコーデリアも一緒にという事になりました。
町でシモン王子を助けた子供達には特別に奨学生として学校に通う権利が与えられたようです。
その中にミアがいるのかはわかりませんが、きっと、いるのでしょう。
そうして、舞台は学校になったのでした。
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