文字の大きさ
大
中
小
36 / 65
番外編SS
書籍化お礼SS マクスター先生の日常(アリシア入学前の小話)
閑話 マクスター先生の弱み
学校の魔法教師であるハロルド・マクスターの通信が、何度も呼び出されていた。
魔道具を製作中だったマクスターは、既に五回は無視しているのだが、とうとう六回目の呼び出しに渋々と応答した。
「……はい」
「やあ! 久しぶりだね。ハロルド」
「……先輩?!」
「おっ! よくわかったね。何年振りだい? 元気かい?」
通信の相手が、学校時代の先輩であるホースタイン公爵だとわかると、マクスターは制作の手を止めて通信に向かって話しかけた。
もう既に何度も経験しているが、この優しげな外見の先輩のお願いに、簡単なものなど何一つもないのだ。
「先輩、今度は何のお願いですか? もうそろそろ僕の恩返しも時効なんじゃないかと思うんですがね」
すると通信の向こうから軽快な笑い声が響く。
「時効? なんの冗談だい? お前が王立魔法研究所に捕まる所を、学校にねじ込んでやったのは、もう忘れたのかい?」
「……」
「ハロルドがそんなに薄情だとは思わなかったよ。私が学校にねじ込んでなかったら、今頃お前は堅苦しい王宮で、得意分野の防御魔法ばかりを、毎日何人もの要人に掛け続ける仕事だっただろうねぇ。いや、今からそんな生活がしたいのなら、いつでも推薦するよ」
「ああああ、そんなことないですね。時効なんてまだまだです」
「だろう? 初めからそう言えばいいんだよ」
「コホン。先輩。その……お話は……」
「今度、娘が学校に行くんだよ。お前も知っているだろうが、あの子は目が見えない。なのに、学校にいって、探偵の真似事をしたいと言うんだよ。あんなに、可愛くて、可愛くて、可愛いのに。心配なんだよ」
「はあ、それで?」
「防御魔法を教えてやってほしい」
「まあ、それなら授業で教えますよ?」
「何言っているんだい? 私の娘だよ。ちゃんとマンツーマンで教えてくれ。未だに生活魔法さえ使えないんだ。そうだな、ゴールは私の防御魔法レベルだな」
「え? 先輩レベルって……無理じゃないですか?」
「だって、しょうがないじゃないか。今あの子に防御魔法をかけているのは、王子か侍女なんだ。侍女は兎も角、王子はなぁ。前例もあるし不安なんだ」
「王子ってカイル殿下ですよね? カイル殿下の魔法なら、かなりいい線いっているんじゃないですか? 去年の授業でも、成績はトップクラスでしたよ」
「それでも! 私の可愛い可愛いアリシアが、その優秀な王子様の防御魔法がかかっていたにも関わらず怪我をしたんだ!! 安心は出来ない!」
「え? そうなんですか?」
「ああ。とにかくアリシアに防御魔法を教えてほしい」
「はぁ、わかりました。ただ、私の一存ではなんとも……。一応、学校長に聞いてみます」
「……わかった。学校長だな」
そう言ってホースタイン公爵からの通信は突然切れた。静かになった通信を見て、マクスターは、はぁとため息を吐く。
あの先輩は、今頃きっと学校長にも連絡して根回しするんだろうなと想像出来る。
なんと言っても、そういうことが得意な上に、公爵位なのだ。
根回しがうまくいかないわけがない。
斯くいう自分も魔法研究所に無理矢理入れられそうになった時に、頼ったのも先輩だった。
あの時もありとあらゆるコネを使って、魔法研究所に入れられる前に、この学校に教師として、ねじ込んでもらったのだ。
王宮にある魔法研究所は、研究とは名ばかりで、要人警護などの危険な仕事が多い。
更に新しい魔法ではなく、得意な魔法ばかりを使わされるらしい。
そんな所よりも、授業さえこなしていれば自分の興味が向くまま、好きな事を研究出来る今の職場は最高だった。
「まぁ、しょうがないかな」
そう言ってマクスターは盲目の公爵令嬢に魔法を教えるというミッションについて、数通りの方法を思い浮かべた。
「確かに、盲目が理由で魔法が発動できないなんて面白いかもしれないな。今までの論文も生まれつき盲目の人間が使える魔法について書かれたものはなかった筈だし、これは大発見が潜んでいるもかもれない」
ブツブツと独り言を言いながら考えていたハロルド・マクスターはふと顔を上げてニンマリと微笑んだのだった。
「先輩のお願いは面倒な事ばかりだけど、やっぱり面白いんだよなぁ」
制作中の魔導具はそのままに新しいおもちゃでも手にしたようにマクスターはサラサラとノートにアリシアについての仮説を書き込んでいったのだった。
アリシアが、入学する数日前の出来事だった。
********
皆様のおかげで、無事書籍を刊行することができました。
本当にありがとうございました。
学校の魔法教師であるハロルド・マクスターの通信が、何度も呼び出されていた。
魔道具を製作中だったマクスターは、既に五回は無視しているのだが、とうとう六回目の呼び出しに渋々と応答した。
「……はい」
「やあ! 久しぶりだね。ハロルド」
「……先輩?!」
「おっ! よくわかったね。何年振りだい? 元気かい?」
通信の相手が、学校時代の先輩であるホースタイン公爵だとわかると、マクスターは制作の手を止めて通信に向かって話しかけた。
もう既に何度も経験しているが、この優しげな外見の先輩のお願いに、簡単なものなど何一つもないのだ。
「先輩、今度は何のお願いですか? もうそろそろ僕の恩返しも時効なんじゃないかと思うんですがね」
すると通信の向こうから軽快な笑い声が響く。
「時効? なんの冗談だい? お前が王立魔法研究所に捕まる所を、学校にねじ込んでやったのは、もう忘れたのかい?」
「……」
「ハロルドがそんなに薄情だとは思わなかったよ。私が学校にねじ込んでなかったら、今頃お前は堅苦しい王宮で、得意分野の防御魔法ばかりを、毎日何人もの要人に掛け続ける仕事だっただろうねぇ。いや、今からそんな生活がしたいのなら、いつでも推薦するよ」
「ああああ、そんなことないですね。時効なんてまだまだです」
「だろう? 初めからそう言えばいいんだよ」
「コホン。先輩。その……お話は……」
「今度、娘が学校に行くんだよ。お前も知っているだろうが、あの子は目が見えない。なのに、学校にいって、探偵の真似事をしたいと言うんだよ。あんなに、可愛くて、可愛くて、可愛いのに。心配なんだよ」
「はあ、それで?」
「防御魔法を教えてやってほしい」
「まあ、それなら授業で教えますよ?」
「何言っているんだい? 私の娘だよ。ちゃんとマンツーマンで教えてくれ。未だに生活魔法さえ使えないんだ。そうだな、ゴールは私の防御魔法レベルだな」
「え? 先輩レベルって……無理じゃないですか?」
「だって、しょうがないじゃないか。今あの子に防御魔法をかけているのは、王子か侍女なんだ。侍女は兎も角、王子はなぁ。前例もあるし不安なんだ」
「王子ってカイル殿下ですよね? カイル殿下の魔法なら、かなりいい線いっているんじゃないですか? 去年の授業でも、成績はトップクラスでしたよ」
「それでも! 私の可愛い可愛いアリシアが、その優秀な王子様の防御魔法がかかっていたにも関わらず怪我をしたんだ!! 安心は出来ない!」
「え? そうなんですか?」
「ああ。とにかくアリシアに防御魔法を教えてほしい」
「はぁ、わかりました。ただ、私の一存ではなんとも……。一応、学校長に聞いてみます」
「……わかった。学校長だな」
そう言ってホースタイン公爵からの通信は突然切れた。静かになった通信を見て、マクスターは、はぁとため息を吐く。
あの先輩は、今頃きっと学校長にも連絡して根回しするんだろうなと想像出来る。
なんと言っても、そういうことが得意な上に、公爵位なのだ。
根回しがうまくいかないわけがない。
斯くいう自分も魔法研究所に無理矢理入れられそうになった時に、頼ったのも先輩だった。
あの時もありとあらゆるコネを使って、魔法研究所に入れられる前に、この学校に教師として、ねじ込んでもらったのだ。
王宮にある魔法研究所は、研究とは名ばかりで、要人警護などの危険な仕事が多い。
更に新しい魔法ではなく、得意な魔法ばかりを使わされるらしい。
そんな所よりも、授業さえこなしていれば自分の興味が向くまま、好きな事を研究出来る今の職場は最高だった。
「まぁ、しょうがないかな」
そう言ってマクスターは盲目の公爵令嬢に魔法を教えるというミッションについて、数通りの方法を思い浮かべた。
「確かに、盲目が理由で魔法が発動できないなんて面白いかもしれないな。今までの論文も生まれつき盲目の人間が使える魔法について書かれたものはなかった筈だし、これは大発見が潜んでいるもかもれない」
ブツブツと独り言を言いながら考えていたハロルド・マクスターはふと顔を上げてニンマリと微笑んだのだった。
「先輩のお願いは面倒な事ばかりだけど、やっぱり面白いんだよなぁ」
制作中の魔導具はそのままに新しいおもちゃでも手にしたようにマクスターはサラサラとノートにアリシアについての仮説を書き込んでいったのだった。
アリシアが、入学する数日前の出来事だった。
********
皆様のおかげで、無事書籍を刊行することができました。
本当にありがとうございました。
感想 320
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
『嘘の病気で同情を買うな』と私を死に追いやった婚約者、私の墓標の前で額を叩きつけ、血の涙を流して号泣する大破滅!
婚姻届を出す前日、久世景人はようやく、十年遅れの婚約指輪を私の指にはめた。
銀色の輪が薬指に滑り込んだ瞬間、私は照明の下で光るダイヤをぼんやり見つめた。長く続いた待ち時間が、やっと終わったような気がした。けれど次の瞬間、彼は私の手を見下ろし、まるで似合わない品物を評するように静かな声で言った。
「正直、澪の手ってあまりきれいじゃないよな」
私は言葉を失った。
景人はそのまま私の指先を取ると、さっきはめたばかりの指輪を抜き取った。十年待ち続けた指輪は、彼の手のひらの上で冷たく光っていた。
「この指輪、瑠奈の手にあったほうが似合うと思う」
私は手を引き戻し、信じられない思いで彼を見た。
「どういう意味? 瑠奈と結婚するつもりなの?」
景人は目を伏せ、指輪の縁を指先でなぞった。まるで、たいしたことではない問いを少し考えているだけのようだった。
「そこまでじゃない。ただ、会えない時間が長くなると、どうしても瑠奈のことを考えるんだ」
その瞬間、私は自分がどうやってあのタワーマンションを出たのかさえ覚えていない。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。