黄泉がえり令嬢は許さない

波湖 真

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犯人捜査

32(クラウスサイド)

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「おい」
バタンと閉まった扉に向かって手を伸ばしたまま固まっていたクラウスに声をかけたのはベルナンドだった。
クラウスはハッとして手を下げるとそのまま顔を覆う。自分でも情けないがアーデルハイドに冷たくしている自責の念が一気に押し寄せてきた。
「……何も言わないでくれ」
「そうは言っても一体全体どうしたんだ? つい一週間前まではべったりだったよな?」
「……」
ベンナンドは執務机の前に立つとバンっと机に手を置いた。
「ちゃっちゃと話せ」
「……出来ない」
「クラウス!!!」
クラウスは立ち上がると窓際に向かう。そこからは王太子宮につながる渡り廊下が見えるのだ。
「おい! ……全く」
ベルナンドがブツブツ言いながら執務室を後にする。自分でもわかっているのだ。クラウスはグッと窓枠を握りしめた。その時渡り廊下を足早に通るアーデルハイドが見える。目元に光るものが見えるのは気のせいだろうか?
「……すまない」
今のクラウスにはそれしか言えなかった。
自分の心に気づいた今アーデルハイドとはこれ以上親密になる訳にはいかない。陛下の命令には逆らえないのだ。
彼女の復讐の手伝いは今まで通りきっちりとやろう。そして、復讐を果たしたら能力を返却してもらい婚約を破棄する。
簡単なことだ。たとえ、その衝撃でアーデルハイドが再び長い眠りについたとしても……
「私はそれに耐えられるのか?」
クラウスが自問自答しても答えは出ない。目の前に浮かぶのは先程叫んでいたアーデルハイドの顔だけだ。
泣かせてしまったかもしれない。あれだけ一緒にいたのだ。自分のために無理もさせた。それでも、彼女は健気に協力してくれた。怒った顔、笑った顔、泣いた顔……そして、力強く空を見上げる強い瞳。
「はぁ、何をしているのだ。私は」
クラウスの頭の中で再び自問自答が始まる。
逆らったことのない父親とこれ以上近づくと取り返しのつかない感情が生まれそうなアーデルハイド。二人の間で揺れ動く自分。雁字搦めになり一歩も動けない。
クラウスはもう一度ため息を吐いて窓から離れる。
自分の為すべきことが決まるまでは国王陛下ともアーデルハイドとも距離を取ることにしたのだ。
それでも、アーデルハイドの光る目元を思うとどうしようもない気持ちが湧き上がる。
ギュッと拳を握りしめて執務机をバンっと叩く。
「くそ!」
クラウスは椅子にもたれかかると瞳を閉じた。
今まで国王陛下に本当の意味で逆らったことはない。いや逆らおうと思ったことがないのだ。
常に国のこと、民ことを考えている国王陛下に対して尊敬の念を抱いている。それは父親に対するものではないがクラウスにとっては十分だった。
だから今回の判断に対する反発心を自分自身どうすればいいのかわからない。
怒ればいいのか、暴れればいいのか、それとも全てを飲み込んで今まで通り大人しく従えばいいのか。
そんな悶々とした気持ちのままアーデルハイドには会えないと一歩身を引いたら今度はどう接すればいいのかがわからなくなってしまった。
そうクラウスは今混乱していた。誰も気づかないが生まれて初めて機能停止状態に陥っていたのだ。
アーデルハイドには目さえ合わせられず、国王陛下に文句を言いに行くでもなく。ただ、自分の気持ちを持て余すこと既に一週間だ。
「何をやっているのだ。私は」
自嘲気味に笑うと机に突っ伏したのだった。


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