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第二十二話 ハル、乱入!
しおりを挟む――レイ視点――
「あはははは、とっても綺麗だよレイ! すっごく壊しがいがある格好で、ボクはそそられるよ」
今僕は、屋敷の玄関でゲーニックと距離を取って向かい合っている。
屋敷の玄関は結構広く、人が恐らく五十人は余裕で入れると思う。
そこで、僕の目の前でいやらしい顔になっているゲーニックがいる。
もう気持ち悪いを通り越して、寒気しかしない。
僕によくしてくれた使用人達は、皆泣いていた。
父上と母上は、唇を噛んで堪えている。
僕は、膝が震えているけど、スカートが隠してくれている。
僕は出来る限り、こいつには気丈にいようと思う。
死ぬ直前まで、屈しない。
でもやっぱり、とっても怖いし、ずっと心の中でハルを呼んでいる。
ハル、助けて。
ハル、来ないで。来たら殺されちゃう。
ハル、大好きだよ。
もう色んな気持ちがごっちゃごちゃになってて、僕もよくわからなくなってる。
助けて欲しいのか、来て欲しくないのかよくわからない。
多分、どっちも本心だと思う。
そして、ハルに対する想いが最後に必ず来ているな。
本当、僕はとってもハルの事が好きだったんだね。
自分でもびっくりしているよ。
ハル、別に来なくても恨まない。
だって相手が悪いんだもの。
だからハル、君は自由に生きていて欲しいんだ。
だって、ハルは自由に生きているのが、すっごく眩しくて、すっごく格好良いんだから。
さて、時間が来ちゃったようだね。
ゲーニックがにやりとしながら、僕に手を差し伸べてきた。
ゲーニックの見た目は、一言で言うなら肥えた豚だね。
金色の短髪はワックスでベトベトな感じになっている。額真ん中で左右に前髪を分けてある。
目は白目が多い。三白眼って言うんだっけ、こういう目。
頬は垂れていて、常に口角は斜めに上がっている。
後はもう語るのも面倒だから、肥えたお腹がズボンのベルトの上に乗っかっても垂れているような感じと言えば、こいつがどんな体型かわかると思う。
うん、僕は形だけであっても、こいつのお嫁さんになるんだね。
――お嫁さんになるなら、ハルがよかったよ。
涙が溢れてきそうになっている。
女の子だって知ってから、色々想像したんだ。
僕がハルと結婚する所。
僕がハルに料理をしてあげて、美味しいって言ってくれる所。
僕とハルが、生まれた子供を育てている所。
これは夢、全て夢となって消えちゃうんだな。
僕はゆっくりとゲーニックの所に歩いていき、その手を取ろうとする。
「はははは、君が初めてだよ! ボクの前でそこまで強がっていられるの。大抵は泣き叫んで絶望するのになぁ!! 君は本当に最高過ぎて興奮するよ!!」
本気で気持ち悪い。
でも、これで村の皆が救われるなら、いいや。
『ま、お前は貴族の前に七歳のガキなんだ。ワガママ言えよ』
あれ、何でここでハルと会った時の言葉が出てくるんだろう。
あぁ、ダメだ。今僕の心は相当弱っている。
僕はつい、呟いてしまった。
「ハル、会いたいよ……」
すると、ゲーニックが誰かに側頭部を蹴られてぶっ飛んでいた。
えっ、えっ!?
誰だい、こいつにそんな事をする奴は!?
って、一人しかいないか。
「よっ、俺に会いたかったんだろ?」
燃える炎のような、ちゃんと整えられている赤い髪。
自信に満ち溢れていそうな強い眼。
綺麗な青い瞳。
そして、背筋が伸びている体。
あぁ、今一番会いたかった人だ。
「……ハル!」
僕は飛び出すようにハルに抱き付いた。
そして、思いっきり泣いちゃった。
だって、怖かったし会えて嬉しかったんだ。
ハルはまるで赤ちゃんをあやすかのように、僕の背中をトントンと軽く叩いている。
僕は赤ちゃんじゃないよ!
でも、なんか落ち着くな。
「さって、この豚がゲーニックってアホか?」
うっわ、貴族に敬意とか払う気一切ないね!
豚って言っちゃったし、アホとも言っちゃってる。
本当、ハルは度胸があるというか何というか……。
ゲーニックはむくりと起き上がり、相当ご立腹な顔をハルに向けた。
「き、君ぃ……。ボクが誰だか知っているのかい?」
「あ? 超絶ハードSM大好きな頭のネジが百本飛んじまってる救いようがないガキだろ? 貴族だか何だか知らねぇけど、人間としちゃ最底辺にいる屑だな」
本当、ハルは度胸があるを通り越して、ただ凄いとしか言えないよ。
その証拠に、僕の両親と使用人は皆、顎が外れそうな位にあんぐりと開けて驚いている。
ゲーニックが連れている傭兵っぽい従者に関しては、あまりの事に動けていない。
「そういやそこの豚さんよ」
「豚ってボクの事かい?」
「てめぇ以外何処に豚がいるんだよ」
「き、君……街を納める大貴族に対して、豚って言える立場なのかな?」
「はっ! 豚が貴族面してるのが超ウケるんですけど! 豚と他の貴族に失礼だから、てめぇ謝ってこい!」
もう煽りまくりだね……。
でも、何か活き活きしてるんだよね、ハル。
「あぁ……あぁぁぁぁぁぁ!! もう君は許さない!! 男を苛めるのはボクの趣味じゃないけど、簡単に死ねると思うなよ!?」
ゲーニックは従者に視線を送ると、従者が「集合!」と声を張る。
すると屋敷の外で待機していた傭兵にしか見えない従者がぞろぞろ入ってきて、ハルの前に二十人位の従者が、剣を抜いて構えていた。
これは……流石にハルでも無理なんじゃないかい?
でもハルの顔を見ると、口角が上がっていて、自信に溢れている。
「話の続きだ、豚さん。てめぇは俺の大好きな女に手を出しやがったんだ……」
大好きな女って……。
あぁ、恥ずかしいな。でも嬉しいな。
こんな状況でも喜んでいる僕もおかしいかな。
「……てめぇにはそれ相応の地獄を見てもらう。覚悟しな」
急にハルの声が低くなる。
ぞくりと背中に寒気が走る。
「俺はロナウド・ウィードの息子、ハル・ウィードだ! 全員成敗してくれる!」
ロナウド・ウィード!?
とても聞き覚えがある名前だ。
いや、知らない人の方が少ないよ!
彼は単独でドラゴンを剣一本で撃破出来る程の腕前で、片手で剣を構えて相手の急所を的確に攻撃してくる。
その時の彼の眼光はまさに狼そのもの。獰猛に笑って赤い髪はまるで炎のようだと知れ渡っている。
着いた二つ名は、《猛る炎》。
まさか、そんな有名人の息子だったなんて……。
ゲーニックの従者達も、動揺している。
「ま、まさか《猛る炎》の息子……?」
「俺、あの人に憧れているんだ!」
「そ、そんな凄い人の息子さんを斬るのか?」
うん、半端なく動揺している。
動揺どころか、おろおろしている。
それだけ、ロナウド・ウィードという名前は、影響力がある。
なるほど、ハルはそれを知って、敢えて彼の息子だと名乗って戦況を有利にしようとしたんだね。
「えっ、うちの父さんってそんなに有名だったのか?」
違ったみたい!
一番ハルが驚いてるよ!!
「まぁ俺には都合が良いな。さて、てめぇら、俺に剣を構えているな?」
ハルは一歩前へ出る。
「俺の剣は、父さんよりまだ弱いけどてめぇら如きなら、大層驚異だろうよ」
さらに一歩前へ出た。
「さぁ、死にたい奴から前に出な!!」
ハルは、獰猛な笑みを浮かべて、剣先を従者に向けた。
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