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第六十二話 俺、《武力派》の殲滅を決意する
しおりを挟む――ハル視点――
「ありがとうございます、ハル様! 助けていただいて嬉しく思います!!」
トイレを出た後に真正面の教室から変な会話が聞こえたので、試しに盗み聞きをしたら《武力派》の奴に教室が占拠されていた。
俺は自分から発する音を全て遮音して、全速力で相手の背後に忍び寄って心臓を剣で貫き殺した。
襲われていたのはどうやら貴族の女の子で、今俺の手を握って感謝されまくっている。
「お礼はいいから。どうなってんの、これ」
「く、詳しくはわかりませんわ。でも急にこの男が入ってきて、選定して定期的に一人ずつ殺すと言われましたの」
ますますわからんぞ、このテロリスト達の目的が。
確かに奴等は軟弱な芸術を嫌っていたから、この学校を滅ぼすって事ならわかる。
だけど、何故占拠した?
さっさと皆殺し、若しくはここの最高責任者であるアーバインととっとと殺せばいいだけなのに。
だが、それをせずに定期的に殺すと言っている。あまりにも悠長に時間をかけすぎてる。
何かすっげぇ違和感がある。
くそっ、俺の頭がもうちょっと戦略とかの知識があれば本当の狙いは気付けたかもしれないのに、わからねぇ!
いや、ちょっと待て。
恐らくこの教室だけじゃないだろ、占拠してるの!
つまり、俺の教室も同様に襲われている可能性がある!!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
あそこにはレイスもレオンも、そしてレイとリリルもいる!
「とりあえず、俺は行く! 皆は教室に鍵を閉めて絶対に外に出るなよ!」
俺は足に《遮音》のサウンドボールを付けたまま、全速力で自分の教室に向かった。
途中でいくつか別の教室の前を通ったが、どうやら同じ状況だ。
すでに誰か殺されているらしい。
怒りが込み上げてきた俺は、一瞬立ち止まり、教室の扉の小窓から見えた男の脳内にサウンドボールを吸着させ、ドデカイ音を鳴らしてやった。
音の衝撃波によって脳みそを物理的に破壊する、《ブレインシェイカー》で即死させてやった。
こいつら一人一人を剣で斬っていく時間すら惜しい。
そして、ようやく自分の教室に辿り着いた。
頼む、頼むから、無事でいてくれ!
俺は祈りながら扉を開けた。
俺の眼前に広がった光景は、剣を持って高笑いする男が一人、そしてズタズタに切り裂かれている先生。
さらに――
「あ、あ、あぁぁぁぁぁ……。リリーナちゃん……り、リリーナっ!」
嗚咽を漏らすレオンと、目を開いているが血の海に沈んで事切れているレオンの彼女さんだった。
ああ。
こいつが殺しやがったのか。
あぁ………………。
「……てめぇ、何て事しやがってんだ」
「んあ? 何だこのガキ……赤い髪? このガキが、《猛る炎》の息子か!」
「それがどうした」
「はっはー!! ボスから殺すなって言われてるけど、お前強いんだってな! なぁ、俺と殺し合いしようぜ?」
「……はぁ」
殺し合い?
てめぇは殺し合いがご所望なのか。
そうか、そうか。
「はっ、笑わせるんじゃねぇぞ雑魚」
「……は?」
「今の俺と殺し合い出来るわけねぇよ。やるのは――」
体から込み上げてくる殺意を、体外にありったけ放出してやった。
それは殺気となって、目の前の男に浴びせてやると、一瞬怯んだ。
「俺が、てめぇを、一方的に蹂躙する事だ!」
「は、ははは、ガキが面白い事言うねぇ♪ 流石ボスが見込んだだけあるわ。でもなぁ、ガキが大人に勝てる訳ないんだよっ!!」
男が無謀にも突進して来やがった。
全く、粋がってる割には単調な攻撃をしてくるんだな。
こんなの、父さんの足元にも及ばない。
俺は半身で軽く避けた瞬間に、男の脇腹を切り裂く。
「ぎゃっ! な、何しやがった……」
ちっ、意外に浅かったか。
「何って、見ればわかるだろ? あんまりにも遅い攻撃だったから、すれ違い様に脇腹を斬ったんだ」
「ば、バカな……。俺の攻撃が、遅い?」
「遅すぎだな。父さんより数倍遅い」
いや、こんな雑魚と父さんを比べるのは可哀想だな。
もちろん、父さんが可哀想なんだけどな。
「お前、殺す!」
「いや、俺がてめぇを殺す」
俺は相手の腹部にヤキザキックを見舞って、壁際までよろめかせる。
そして俺は剣を右手に持ち、ひたすら剣を振った。
何度も何度も、相手を斬る、斬る、斬る!
先生を、よくも先生をあんな風にしやがって!!
「ぎゃっ、あひっ、た、助けぎひっ!!」
助けてだぁ?
あの二人だってきっとてめぇに助けを乞うただろうさ。
でも、てめぇは聞き入れたか?
むしろ殺した事実に悦を感じていただろうが。
そんなてめぇに、慈悲は与えねぇ!!
俺は自分に返り血が付かないように考えながら、相手を斬りまくった。
結果、相手は涙を流しながら崩れ落ち、そして動かなくなった。
俺は一度剣を振って血糊を落とし、剣を鞘に収めた。
そして恐らく事切れているだろう先生の元に向かった。
「あぁ、先生……」
この先生は、音楽の歴史を担当している人だった。
こんな俺にも優しく接してくれて、本当に優しいおじいさんだった。
俺は手を合わせ、先生へ祈りを捧げた。
「ごめんなさい、先生……。そして、今までありがとう……」
俺は立ち上がり、レオンの元へ向かった。
レオンはずっと俯いたままだった。
彼女さんは殺されて、悲しみのどん底にいるだろう。
「レオン――」
俺は、レオンに声をかけた。
「……んでだよ」
「レオン?」
「何でトイレなんかに行ってたんだよ! 何でもっと早く来てくれなかったんだよ!!」
俺は胸ぐらを掴まれて、殺気がこもった視線を俺に向けている。
俺は黙ってレオンの罵声を浴びる。
「お前だったら、あんな男楽勝だったろ! だったら、何で早く来てくれないんだよ! 来てくれなかったせいで、リリーナがっ!!」
「レオン、そろそろいい加減に!」
レオンの罵声が八つ当たりも同然だった事に、レイスが注意しようと立ち上がった。
だけど俺は手でそれを止めた。
レオンが言っている事は理不尽でも何でもない、俺がトイレで考えていたせいで先生も、彼女さんも殺されちまったんだ。
俺が早く戻ってきていたら、きっと二人を救えていたかもしれないのに。
「何でだよ、何でだよ! 何でだよ、何でだよ!!」
レオンは俺の胸を力なく叩く。
何度も、何度も。
だけど、徐々にその回数も減っていき、最後にはその場に崩れ落ちた。
「何で、オレに、ハルみたいな強さがないんだよ……」
「……レオン」
「わかってるよ、ハルが悪いんじゃないって……。でもさ、それでもハルが早く戻ってきてくれたらって思うと、最低だけどお前に八つ当たりしちゃったんだ」
俺は崩れ落ちているレオンと同じ目線になり、レオンの肩を叩いた。
お前の言う通りだ、俺がこの場にいたら、誰も死んでなかった。
これは傲りでも何でもない、あの程度の相手だったら、簡単に対処できた。
「ごめんな、レオン」
「いや、オレこそごめん。……だけど、一つお願いしていいか?」
「ああ、何でも言ってくれ」
「この剣で、このリリーナとオレの想いが入っているこの剣で! 《武力派》の連中に復讐してくれ!! 悔しいけど、オレにはそれをする力もないし、この剣に見合った技量すらないんだよっ!」
レオンは俺に剣を差し出してきた。
見た感じでわかる、これは俺が持っている剣よりも遥かに素晴らしい、まさしく名剣だ。
本当にこんなのを借りてもいいのか躊躇したが、レオンの顔は本気だった。
「――わかった、この剣に一人でも多くの《武力派》の血を吸わせてくる」
俺はレオンから剣を受け取り、腰に帯剣した。
俺の剣とレオンの剣、この二本を腰に着けている。
さぁ、レオンの彼女さんの敵討ちしに行こう。
そう思って立ち上がった時、レイとリリルから声がかかった。
「ぼ、僕も連れてってくれ!」
「わ、私も!!」
ああ、どんな事でも俺の隣にいようとしてくれてる、最愛の女の子達。
でも、今回はダメだ。
俺がいない間でも、あの程度の男だったら二人で片付けられたはずだ。
しかし怯えて結局動けなかったんだろう。
となると、今回ばかりは一緒に連れていけない。
何故なら、《武力派》は恐らく快楽殺人者の集まりか、バトルジャンキー集団だ。
一瞬でも怯えていたら殺されちまうだろう。
俺も、今回ばかりは守りきる自信は全くない。
だから、二人にはここを守ってもらおう。
「いや、今回は俺が一人で動くよ。レイとリリルはこの教室を守っててくれ。じゃ、行ってくる!」
「ハル!!」
「ハル君!!」
俺は勢い良く教室を出ていった。
レオン、お前が託してくれた剣に、一人でも多くの《武力派》の血を吸わせてやる。
さぁ、マジでぶち切れたからな、覚悟しておけよ、《武力派》のクソッタレ共が!!
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