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第六十一話 芸術学校、襲撃される

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 ――ロナウド視点――

 はぁ、早く家に帰りたい……。
 この一週間、俺は城に仕える兵士達の訓練を行っていた。
 流石に平和ボケしていたので結構鈍っていたのだが、俺が一から叩き直したおかげか、随分と兵士一人一人の練度が上がった。
 兵士は最低限の練度があればいい。彼らの本領発揮は一対一より複数による連携攻撃だ。
 まぁこの国の兵士達はちょっと論外で、王都周辺はあまりにも平和すぎて特に戦闘の機会がなく、最近ようやくダンジョンの間引きで実戦経験が出来た位だ。
 そのせいで《武力派》の活動が活発化してしまってるんだと思う。
 
 さて、とりあえず実入りが良い仕事だったから引き受けた訳なんだが……。
 順調にいけば約四ヶ月後に、待望の二人目が産まれるんだ!
 この仕事の報酬で俺は助産婦を雇う事が出来るし、尚且つしばらく生活も潤うんだ!
 あぁ、早くリリーの元へ帰りたい!
 今ご近所さんに面倒を見てもらっているけど、不安で仕方ない。
 大丈夫かな、リリー……。
 とにかく、今日は休暇を貰っているんだが、さて、どうしようか?
 久々の一人での行動だ、今まで家族がずっと一緒にいたから、いざ一人になると何をしていいかよくわからん。
 まぁ何となくぷらぷら歩いていたら、芸術学校の近くまで来ていた。
 ……何で俺はここに来てしまったのだろう?

 この芸術学校は、この世界で初めて出来た芸術の技術を教え込む学校だ。
 現在の生徒数は約千人と言われ、芸術の腕によって貴族に成り上がる為に子供を送り出していたり、単純に技術を学ぼうとしている子供が在籍している。今のところ貴族の子供と平民の子供が半々といったところらしい。
 何故こんなに生徒数が多いのか。それはこの学校の実績によるところが大きい。
 この芸術学校から、世界で活躍している芸術家が多数世に繰り出されている。授業内容の質も高く、技術が入学前よりかなり向上する事から、外国の有力者の子供が留学してくる程だ。
 だがあまりにも入学希望者が多い為、仕方なく入試を実施しているのだとか。倍率は六十倍と途方もない確率になっていて、世界の有名な学校の中でトップクラスの入学難関学校で且つ名門校でもある。
 そして何よりこの学校は実力主義。ここでは貴族とか平民とかは一切関係ない。
 全ての生徒が技術だけで見られており、どんな身分の生徒であったとしても下手だったら切り捨てられ、有望な生徒は学校から手厚い後押しがあるのだそうだ。つまり入学したとしても、待っているのは戦争とも言って良い位の競争が待っている。

「はえ~、相変わらずバカでっかい学校だよなぁ、ここ。前回来た時よりさらに大きくなってないか?」

 相当儲かっているのだろう、校舎が前回より二つ程増えている気がする。
 流石芸術王国といったところかな。

 すると、目の前を白いローブを頭まで被り、半分が白と黒で分かれている不気味な仮面を被った集団が通った。
 あぁ、今王都で流行っている宗教で、確か《月光教》だっけか?
 俺はあまり神様を信じるタチじゃないからよくわからんが、月を神様として崇めているのだとか。
 俺は信仰心皆無だが、そういった偶像で心が救われているのであれば、意外と宗教もいいものかもしれないな。

 と思った時、嫌な臭いがした。
 この独特の臭い、覚えがある。
 間違いない、ゴブリンだ!
 何処だ、何処からゴブリンの臭いがした!?
 俺は目を閉じて嗅覚を鋭くし、臭いがする方向を確認した。
 臭いは――――風が吹いてくる方向からだ。そちらを向いてみると、さっきの《月光教》の集団達がいた。
 しかも理由は不明だが、芸術学校の校門をくぐったぞ。
 ……どういう事だ?

「いや、まさか。それは――」

 あり得ないと思ったが、ハルとの病室での会話を思い出し、俺の憶測は半ば確信に変わってくる。
 恐らく、養殖したゴブリンを学校に解き放って襲わせるつもりだ、と。
 ゴブリンは強くはないものの、集団戦においてとてつもない強さを発揮する。
 知能は高くないから混乱させればいいんだが、目先の欲に釘付けの状態だとそれも難しい。
 もしあの集団が全てゴブリンだったとしたら、学校はまさに阿鼻叫喚の地獄と化すぞ!
 男は皆殺され、女は強姦されてはゴブリンなしじゃ生きられない身体になるんだ!

「ちっ、休暇でなんちゅう場面に遭遇したんだ、俺は!!」

 ん?
 ちょっと待て、こんな偽装をしてまで学校を襲撃するとしたら、俺の中では《武力派》しか思い浮かばない。
 となると、襲撃するのは芸術学校だけか?
 あいつらは芸術を酷く嫌っているからな、だからきっと、ここだけじゃなくて音楽学校も襲撃するはずだ。
 ……ハルが、ハルが危ない!!

 俺は周囲を見渡す。
 すると巡回している兵士を見つけた!
 よしっ、運がいいな!!
 俺はその兵士を捕まえて話しかけた。

「そこの兵士!」

「なんだね……これは! ロナウド様! いつもお世話になっておりま――」

「そんな挨拶は今はいい! 今、《武力派》と思われる連中と遭遇した。奴等はもしかしたら芸術学校と音楽学校を同時に襲撃するかもしれない! 俺は芸術学校の方を抑えるから、君は出てこれる兵士達をかき集めて音楽学校へ向かってくれ!」

「な、何ですと! それは本当ですか?」

「今はそんなのを実証している暇はない! もし音楽学校に何もなかったら、遠慮なく俺の首を跳ねろ! さぁ、早く!!」

「はっ、はい!!」

 兵士は全速力で城へ走っていった。
 くそ、恐らく音楽学校の方は多少被害が出るかもしれないが、ハルの剣の腕だったら早々遅れは取らないだろう。
 あいつはあの歳で、剣技だけの腕だけでも俺に追い付きつつある。そこにあの厄介なユニーク魔法が加わったら、俺も対処出来なくなってきた。
 それ位強いんだから、自分の身とレイちゃんとリリルちゃんはしっかり守れるだろう。

 さて、と。
 問題はこっちのゴブリン達だな。
 見た感じ、五十以上はいたよな……。
 はぁ、俺一人で対処出来ない訳じゃないが、なかなか骨が折れそうだぜ。
 でもまぁ、迷っている暇はないな!

 俺は愛剣を抜刀し、全速力で芸術学校の門を通り過ぎた。
 奴等はローブと仮面を取った。ほら、案の定ゴブリン達だ。
 この将来有望な子供が集まっている学校を、阿鼻叫喚の地獄に変えてたまるか!
 地獄に堕ちるのは、貴様らゴブリンだ!
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