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第六十話 動き出した《武力派》

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 ――レオン視点――

 魔法戦技の授業が終わって、オレ達は今自分達の教室にいる。
 だけどちょっと違うのが、今日は他の教室の先生が体調不良で休んでいるから、別の教室の生徒と合同なんだよね。
 その生徒の中に、最近一人に絞った大好きな彼女、リリーナちゃんがオレの隣に座っていた。
 彼女は貴族なんだけど、オレにとても尽くしてくれてるし、苦手な料理だってオレの為に頑張ってくれているし。
 何より、「私の事は貴族と思わないで付き合ってくださいませ」と笑顔で言われた時、この子こそ最高の女の子だって思ったんだよね。
 女の子は大好きさ! 可愛いし一緒にいるだけで心が洗われるし。
 でもね、常に隣にいてほしいのは、リリーナちゃんなんだよね。

 そう言えば、ハルの彼女二人、本当に可愛いんだよね。
 レイちゃんだっけ? 八歳って言われて信じられなかった。
 だってさ、どう見たって十五歳位の大人のお姉さんだよ!? 信じられる訳ないじゃん!
 それにリリルちゃんだって、可愛くて巨乳だし……。
 ハル、一回世の男達から呪われてしまえばいい!
 オレだってあんな二人に囲まれたら――

「レオンさん、鼻の下が伸びてましてよ?」

 あっ、いや、その。
 決してハルの彼女でエッチな妄想をしてた訳じゃない!
 何とか言い訳しよう!

「ごめんごめん、リリーナちゃんの手が柔らかいなってね♪」

 オレとリリーナちゃんは、机の下で手を握っていた。
 ふふ、オレもそこそこ女の子との経験はあるからね、逃げ道は用意してあるのさ!

「そ、そんな。恥ずかしい事言わないでくださいな」

 あぁ、あの二人は確かに別格に可愛いけど、リリーナちゃんはずば抜けて素敵だなぁ。

「そう言えばレオンさん、私があげた剣はどうでしょうか?」

「うん、凄い切れ味だよ! この剣に見合う位剣の腕も磨くよ♪」

 オレは腰に下げている剣は、彼女がくれた名剣だ。
 試しに斬ってみたら、本当に切れ味が抜群で、今ならバイトスパイダー位は手こずる事はないだろうな。
 オレの言葉に満足したのか、リリーナちゃんはオレに笑顔を見せてくれた。オレも笑顔を返す。

 そうだ、今はまだ授業が始まる前の小休憩中なんだ。
 その間にハルはトイレを済ませてくるとか言っておいて、結構長い。
 ……おっきい方かな?
 レイちゃんとリリルちゃんも、ハルの帰りを待っているみたい。

「はぁ」

 そしてオレの反対側では、レイスがため息を付いている。
 暗い、非常に暗い。
 この暗い原因を作っているのは、ミリアなんだよね。
 彼女、ハルの事を好きみたいなんだけど、どうやらほぼ失恋みたいな感じになっちゃって、授業が休みがちなんだよね。
 そしてレイスはミリアが好きだから、どうにか自分に振り向いてもらおうとしているみたいだけど、休みで会う機会が少ないからヤキモキしているみたいだ。
 ……恋愛って上手くいかない事が多いから、怖いよなぁ。
 そしてオレの真後ろでは、オーグがぶつぶつ言いながら何かメモを書いている。
 恐らくハルと共同で作っているという新しい楽器についてなんだろうなぁ。
 この前二人でバイトスパイダーの糸を取りに行った時は、結構大変だったけど、同時にすごい達成感を味わえたんだ。
 そんな出来事を通じて、オレはオーグと結構仲良くなった。それでも新しい楽器については詳しく教えてくれないけどね。

 とりあえずオレは、レイスの肩をぽんぽん叩いて慰める。
 レイスは困ったような笑顔を見せた。
 オレもこれ以上何を言っていいかわからないから、それで終わらせたけどね。

 おっと、鐘が鳴ったな。
 授業が始まる合図だ。
 って、ハルの奴がまだ戻ってきていないぞ?
 どれだけ大便に悪戦苦闘しているんだよ。
 ほら、最近五十歳になった先生が入って来たじゃないか。間に合ってないでやんの!
 ……あれ、何か先生の表情がおかしい。むしろ何かに怯えているような気がする。
 どうしたんだろう?

 だけどすぐにその理由がわかった。
 先生の後に入って来た傭兵風の男が、先生の背中に剣先を向けていたんだ。
 どういう状況なのかわからず、誰もがだまってしまっていた。
 オレだって同じだ、何がどうなってるのか、理解できない!

「はいは~い、注目! 今この学校は俺達、《武力派》が制圧しました~」

 変なテンションで喋るこの傭兵風の男は、ヘラヘラと楽しそうだった。
 しかも、あの度々王都でテロ行為をやっている、あの《武力派》が直接この学校に乗り込んでくるとは思わなかった!
 他の生徒も同じで、《武力派》という名前を聞いた瞬間にざわめき出した。

「はぁ~。あのさぁ……」

 男の額に青筋が浮かび上がる。
 そして――

「うっせぇんだよガキ共がよぉ!! 静かにしねぇとぶっ殺すぞ!!」

 そう叫びながら、先生の背中を縦から斬り下ろした!

「ぎゃぁっ!!」

「あっ、あまりにもイライラしたから斬っちまったじゃねぇか。久々に斬った相手がこんなよぼよぼかよ」

 先生がうつ伏せに倒れ、斬られた痛みに悶えていた。
 この事実に女子生徒達の悲鳴が上がる。
 隣にいるリリーナちゃんなんて、顔面真っ青だ。
 何て事をするんだ、こいつ!

「ん~、斬る感触が足りないから、もう一回」

「ぐはっ!?」

 さらに男は、先生の背中を思いっきり突き刺して、その感触を楽しんでいた。
 何なんだ、この男は!
 何で人を斬ってそんなに幸せそうな表情が出来るんだよ!

「あははははは! この感触だよ、この感触! たまんねぇよなぁ、やっぱり人を斬るって。命を奪うってさ!」

 何度も何度も何度も何度も!
 すでに事切れた先生を滅多刺しする男。
 返り血を浴びても、それすらも嬉しそうに楽しんでいる。
 もう狂ってるとしか言えないぞ、こいつら!

「はぁ~。あれ、もう死んだ? ったく、じじぃはこれだからダメだねぇ。もっともがいて欲しかったのにさ」

 やれやれといった仕草を見せる男に、オレ達は恐怖して怯えるしかなかった。
 ハルとあんなに戦えたレイちゃんやリリルちゃんはどうだ?
 ちょっと見てみたが、彼女達も怯えていて動けなさそうだ。
 無理ないよ、オレより年下だし、さらにはこんな惨い事を平気で出来る狂った男を目の当たりにしてるんだ。きっと立ち向かえるのはハル位じゃないか?

「じゃ、とりあえず君達の現状を伝えるよ! 君達の生殺与奪は、俺達に委ねられています。つまり、俺が好き勝手君達を斬り殺してもいいって訳!」

 男が話す内容を聞いて、オレを含めた皆が震え始めた。
 怖い、この男が異常すぎて怖いんだ。
 一番人生で関わっちゃいけない人種、対峙してはいけない人種なんだってわかったんだ。
 多分、あんなに強いハルの彼女達ですら、それがわかったから怯えて戦えなさそうだ。

「で、とりあえず、定期的に生け贄として死んでもらうわ、一人ずつ! 選定基準は……俺の気分次第♪」

 そんな、何て理不尽な……。
 この男の気分で定期的に一人ずつ殺されるなんて、理不尽すぎて何も言えない。
 そして誰かがすすり泣きをし始めると、皆がついに我慢出来なくなって泣き始めてしまった。
 くそ、オレだって泣きたいけど、リリーナちゃんの不安を少しでも取り除く為に、オレは泣かない!
 オレは、リリーナちゃんの彼氏として、絶対に守り抜いてみせる!

「ん? おうおうそこのチャラい男。お前の目なかなか気に食わなかったぞ。なので、お前の彼女と思われる女が第一号な♪」

「なっ!?」

 オレは別にこの男に視線なんて一度も向けていない。
 ただ、リリーナちゃんを守ると決意しただけなんだ!

「ふ、ふざけるな! だったら、オレを選べばいいじゃないか!」

「はぁ? お前を斬った所でありきたり過ぎてつまんねぇだろ。だったら、お前の絶望した顔が拝めるように、彼女を殺した方がいいだろ?」

 ほ、本当にこいつ、人間なんだろうか!?
 もうオレは、こいつらを理解できない!

「だ、だったら、オレがお前を斬り殺す! リリーナちゃんには何もさせない!!」

 オレはリリーナちゃんから貰った剣を鞘から抜き、剣先を男に向ける。

「おお、威勢が良い奴は嫌いじゃない。でもな、剣が震えてるぜ? あはははは」

「っ!」

 そりゃそうだ、怖いんだからさ。
 でも、ハルが言っていたんだ。
 男はいつかは恐怖を乗り越えて立ち向かわなくちゃいけない時がある、ってさ。
 ハルはそうやって、最愛の彼女の一人を守った事があるそうだ。
 ならその時は、まさに今だよな!

 男はゆっくりとオレに向かって近づいて来る。
 大丈夫、大丈夫だ。
 オレだってあれからハルにたくさん稽古して貰ったんだ。
 強くなってる、オレだって強くなっているんだ。
 初撃は、オレが見舞ってやる!

 そう思った瞬間だった。

「はい、《ブースト》」

 男は詠唱省略でブーストを発動した後、爆発的に増加した身体能力を使ってオレとの距離を一気に縮めた!
 嘘だろ、一瞬過ぎて何が何だかわからない!!
 
「なっ!? 我が身にやど――」

「遅いっての」

 オレも対抗して《ブースト》の詠唱を始めたが、男は待ってくれなかった。
 男の拳はオレの鼻を潰し、そして勢いが乗った攻撃は、部屋の一番後ろまでオレの体を吹っ飛ばした。
 そして壁に叩きつけられたオレは、あまりの激痛に動けなくなる。

「レオン!!」

「レオンさん!?」

 誰かが心配してくれているようだけど、オレの意識は朦朧としてしまって、誰が言ったのかわからない。
 くそ、手も足も出ないじゃないか……。
 あんなにハルと稽古をしたってのに、ダメダメじゃないか!

「さて、邪魔者は観客席まで吹っ飛んだし。とりあえず君、死んでね?」

「ひっ!?」

 やめろ、やめろ!!
 お前、リリーナちゃんに剣を振り下ろそうとしてるんじゃない!
 やめろ、やめてくれ!!

「リリーナちゃんっっ!!」

「あぁぁぁ、助けて、レオンさん!!」

 くそ、くそっ!
 助けてくれ、オレじゃきっと彼女を助けられない!!
 助けてくれ、助けてくれ。

 ――ハル!!







 ――ハル視点――

「やっべぇやっべぇ! ついついトイレで考え事しちまったぜ!!」

 俺は大便を済ませた後、急に作曲のアイディアが頭に降ってきたんだ。
 俺は再度便器に腰掛け、チャイムが鳴るまでひたすら構想を練っていた。
 あぁくそ! トイレにメモ帳持っていけば良かったぜ。
 そうすれば中断されても、絶対にメモ出来て記憶に残ったのにさ。
 変に中断したせいで、作曲のアイディアはぶっ飛んじまったよ。
 絶対にいい曲だったのに、おのれ、チャイムめ!!

 俺は手を洗って廊下に出ると、先生達とは違った声が聞こえた。
 何処からだ?
 とりあえず、その教室に向かって《集音》の指示を与えたサウンドボールを投げてみた。
 さてさて、何の会話をしているんだ?

 え~っと……は?
 今から、生徒を一人ずつ殺していく?
 何寝ぼけた事言ってやがる、中の誰かさんよ!?
 いや、このタイミングでこんなふざけた事をやる奴なんて、クソッタレな《武力派》位しかいねぇよな!
 だけど何で奴等はうちの学校を狙った!?
 第二王子を玉座に座らせたいなら、この学校を狙う必要なんてないだろうに。
 まぁそんな事はお偉い政治家さんに任せるとしてもだ。
 教室の中の状況はどんどん悪化してきている。

 ……は?
 誰か生徒を一人選んで、早速殺そうとしていやがる!
 本当にどの世界でもふざけていやがるよな、《武力派》を含めたテロリスト共はよ!
 自分達の目的こそ至高みたいに思ってんのかね。
 まあどうでもいい。都合良く俺は剣を持ってきている。
 中の生徒が殺される前に、俺が敵を斬り殺す!
 
 俺は両足に《遮音》の指示を与えたサウンドボールを吸着させ、さらに音が漏れないように同様の指示を与えたサウンドボールを教室の入り口に敷き詰めた。
 今から俺は、相手に気付かれないように忍び寄って、暗殺する。
 《遮音》のおかげで全力疾走しても気付かれない。
 さぁ、行くぞ、俺!!

 俺は教室の扉を開け、瞬時に敵が誰かを判断し、まだ俺に気付いていない敵に向かってダッシュで距離を詰めた!
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